第631話 何とか江田島の新造ダンジョンのコア破壊に至る件



 戻って来た護人と紗良の取り成しで、何とか姉妹喧嘩も終わってくれた。そしてドロップ拾いと見付かった宝箱で、末妹の機嫌もあっという間に回復すると言う。

 ドロップは大判振る舞いで、魔石(中)が2個に魔石(小)がエリマキトカゲから6個。強かっただけあるねと、姫香もそのドロップには納得している模様である。


 それからスキル書が1枚に、オーブ珠が1個とこちらも順当だった。巨大恐竜は鱗も落としたし、巨大ロボはバルカン砲のような武器も落としてくれた。

 お金にはなったけど、間違っても推奨されるような敵の湧かし方法じゃ無いねと子供たち。敵のランクはレア種レベルだったし、もっともな意見ではある。


 ついでに発見された宝箱は、破壊された村の建物内からツグミが見付けてくれた。さすがにその辺は抜かりの無い忍犬である、『探知』スキルを得て益々活躍振りが凄い。

 そして宝箱の中身だが、恒例の鑑定の書や魔玉(水)や木の実、薬品はポーションやMP回復ポーションと当たりは入っていなくてちょっと残念。


 それから一緒に梅干しの入った瓶や、漫画家のイラスト集やフィギアが割とたくさん。よく出来てるねぇと、子供達も感心する程クオリティは高くはあった。

 ただし、一緒に入っていた有名なRPGゲームには、首を傾げて何でこんなモノがと不思議顔に。しかもカセット型とCDタイプと、色々な機種に応じている。


「あぁ、そのゲームのイラストを手掛けたのが、さっきの漫画の原作者さんなんだよ。この頃はRPGゲームはタイトルが少なくてね、社会現象になったゲームだね。

 それに貢献したのが、音楽とイラストのクオリティの高さだった訳だ」

「あれっ、叔父さんのコレクションの中にもあったっけ……1人用だから、RPGゲームはプレイしてないかも知れないね。

 夏休みだし、家に戻ったらちょっとやってみようかな?」

「アンタはどうせ、外に飛び出してゲームやってた事も忘れちゃうんじゃないの? ウチは夜寝るの早いし、全くゲームをやる環境じゃないよね。

 その手のゲームって、確かクリアするまでに結構時間掛かるわよ」


 そうなんだとちょっと残念そうな末妹は、それじゃあ青空市行きかなと途端に現実的に。そんな感じで宝箱の中身を回収して、一行は休憩後に5層の探索へ。

 感覚的にはここが最深層っぽいけど、妙な仕掛けが点在するダンジョンだけあって決めつけは不味い。そんな訳で、慎重に周囲を見回す来栖家チームである。


 敵の分布はそこまで大きく変わらず、敵の密度も同じく普通である。先導するハスキー達を中心に、そいつ等を撃破しながら進む事10分余り。

 村は相変わらず、見た目だけは長閑のどかで敵さえ出没しなければ住み心地は至って良さそう。ペンギン村の人口は定かでないけど、島の生活も悪くないかも。


 何しろ来栖家は山の上で、海とは全く無縁の生活振りなのだ。朝から釣りをしたり、潮騒の音を聞いて子守唄代わりにしたりとか少しだけ羨ましい。

 山の上では、山菜取りや山の果実を採るのが精々である。それから子守唄の代わりとなるのは、田んぼのカエルの大合唱である。秋にはそれが鈴虫に代わって、まぁ都会の人からすればオツではあるのかも知れない。


 そんな島暮らしの憧れを口にするも、実際には島暮らしにも大変な面はあるのだろう。みっちゃんもいつもラインで、そんな愚痴をこぼしていたような気が。

 とにかくそんな海から来た大フナ虫や、サハギン獣人を軽く退けるハスキー達前衛陣。大カモメも護人とルルンバちゃんで軽く撃破して、5層の探索も良い調子。


 これも観光かなぁと、海の方向を眺めながらの香多奈の呟きに。アンタは本当にポジティブなお調子者だねと、呆れた口調の姫香の返しである。

 そこから始まる口喧嘩を制して、周囲を見渡す護人はやや警戒した様子。それに釣られて、敵をほぼ倒し終わって静寂の訪れたダンジョンの村の中を見渡す面々である。


 そして案の定、遥か向こうの田舎道を爆走する小さな影を皆は揃って発見に至った。思わずコロ助に、アレを掴まえてと命令しそうになった末妹は、隣の叔父に口を塞がれる始末。

 それは恐らく少女の姿で、両手を真横につき出してキ~ンとかご機嫌に叫んでいた。上がる土煙は、誇張では無くそれだけスピードが出ている証拠なのだろう。

 それを無事に見送って、護人は香多奈を抱えたままホッと一息。


「もう、酷いじゃんか、叔父さんってば! 別に羽交い絞めにしなくても良いじゃん、何にもするつもりなかったのにっ!」

「それは嘘だね……アンタの行動パターンは、家族みんな知ってるからね、香多奈。面白いとか稼げると思ったら、懲りずに何べんもやるのがアンタのいつものやり方だよっ!」


 姉の姫香にそう決めつけられ、二の句の継げない香多奈である。その間にもハスキー達は、土煙の主が向かった方向へと進み始めている。

 恐らくそちらに、中ボスまたは大ボスの間があるのだろう。なおもブツブツ呟く少女を引き連れて、後衛陣もハスキーの後を追ってダンジョン内の村の外れの方向へ。



 そこはどうやら小学校が建っているようで、何やら校庭から賑やかな音楽が聞こえて来ていた。ちなみに校舎は木造1階建て、日馬桜町の小学校に似ていなくもない造りである。

 そして鳴っている音楽だが、どうやら盆踊りの曲らしい。アラレ音頭がどうとかって歌詞が聞こえて来て、アレは何と不思議がる子供達である。


 そう言えばそんなのもあったなと、昔を思い出しながら説明を始める護人である。つまりはアニメのエンディング曲で、一時期流行った歌なのだと。

 それは良いのだが、何故か校庭にはやぐらが組まれて、その周囲をペンギン獣人達が楽しそうに盆踊っている。奴らは中ボスモンスターらしく、中にはボスの中型ゴーレムの姿も。


 それから警察官のコスプレのパペット兵士も2体いて、中央のやぐらにはダンジョンコアが置かれていた。やっぱりこのダンジョンは5層で終わりらしく、その点は良かった。

 しかし、こんな賑やかなボスの間は初めてかも。


「凄いね、何か楽しそうにみんな踊ってるよ……お盆シーズンだったからかな、私達がここに寄らずに戻ったらどうなるんだろう?」

「そりゃあ、ずっと踊り続けるんじゃない、分かんないけど。そう思ったらちょっと可哀想だね、さっさと倒してあげよう、行くよハスキー達!」


 そんな同情心から始まる大ボス戦も珍しい、それでも姫香が校門を開け放つと敵も見事に反応して来た。そして当然の如く、ハスキー達も校庭へとなだれ込んで行く。

 ペンギン獣人や警察官パペットたちは、踊り疲れが原因かその勢いに抗し切れない。大ボスの筈のゴーレムも、何と1分も持たずにコロ助に撲殺されてしまった。


 後衛陣に至っては、校門を通り過ぎてもいない内のバトルの終焉である。呆れ模様の姫香だけど、まぁこのランクのダンジョンならこんなモノかと冷めた表情。

 そして全ての敵が倒されたのを確認して、末妹が宝箱へと近付いて行く。紗良も今回は怪我人もいないようなので、素直に回収品のチェックに回っている。


 姫香はコアの破壊をするよと、皆を集めて武器を振り上げる仕草。これの破壊によって、近くにいるモノは経験値を得る事が出来ると言われているのだ。

 本当かどうかは怪しいけど、まぁその手の縁起担ぎを無視するのも気持ち悪いので。来栖家では、姫香が音頭を取って皆がその近くで見守るのは習慣と化している次第である。


 そして無事にコア破壊の行事は終わって、後は回収品を確定して来た道を戻って行くだけ。大ボスは魔石(小)とスキル書1枚とショボかったけど、そこは仕方が無い。

 宝箱の中身も、鑑定の書や各種薬品類に木の実などなど定番品で占められており。その他に目ぼしい品と言えば、相変わらずアニメ系のグッズや翼の生えた帽子、かわいいデザインのシューズ位のモノだろうか。


 その内の何点かは魔法の品だなと、紗良と妖精ちゃんは悪くはない感触を口にしている。特に大振りの装置に関しては、どうやら高性能の魔素鑑定装置みたい。

 買えば百万円以上はするだろうか、さすが発明家が出て来る設定は拾ってくれていたみたい。そんな事を考える護人だが、真相は定かではない。




 それから来栖家チーム&ゲストの怜央奈は、無事に地上へと帰還を果たして。朗報を待ちびていた、協会の職員とフェリーの港で再会する事に。

 時刻は夕方前で、探索時間はほんの3時間足らずで済んだ模様。まぁ、たった5層の新造ダンジョンだったので、その結果は当然ともいえる。


 そして依頼の完璧な遂行を耳にして、協会職員はホッと安堵の吐息をつく。その間にも一行はフェリーに乗り込んで、早く元来た港へ向かってくれとの催促。

 何しろ来栖家は、ずっと楽しみにしていた夏の家族旅行の途中なのだ。妙なタイミングで水を差されたけれど、今日中に目的地には着きたい所。


 そう言われては、協会職員も強く引き留める事も出来ない。取り敢えず末妹に差しだされた撮影器具を受け取って、確認のために動画チェックに勤しむのみ。

 ハスキー達は探索着を脱ぎ去って、再び戻って来た夏の暑さに耐え忍んでいる。海の上は良い風が吹いてるけど、ミケに関しては潮の匂いはお好きでは無い様子。


 怜央奈を含めた子供達は、それなりに船の旅を楽しんでいるようだ。一仕事終えたテンションで、探索であった出来事を楽しそうに話し合っている。

 香多奈もたった5層の探索で、回収品もそれほど多くは無かったけど収穫には満足そう。寝る前に回収したコミックを読もうと、姉達と共に楽しそう。


 フェリー船での移動は快適で、幸いにも襲って来る野良モンスターは皆無の模様。協会職員は、このまま広島市の協会本部に寄ってくれるように護人へと頼んで来るけど。

 これ以上旅の日程が押しては敵わない護人は、それをやんわりと断って旅行を続けると口にする。依頼の報酬は別ルートでと、とにかくこれ以上の足止めを拒否の構え。


 そんな訳で、ようやく宇品港へと戻って来た来栖家のキャンピングカーは、その場から逃げるように東を目指す。市内のインターから高速に乗って、大急ぎで尾道方面へ。

 姫香はラインで向かっているむねを報告するが、その相手の陽菜とみっちゃんはとっても怒っている様子。本来は今頃、向こうで再会して観光なりなんなりしていた筈なので当然だ。


 姫香はラインで仕切りに謝りながら、夕方には到着すると返信する。それから隣で運転する護人に、今夜の宴会はかなり派手になりそうとそっと忠告。

 つまりは、今夜の宿は去年泊まった因島の旅館で、歓迎準備は完璧に整っているそうな。みっちゃんの父親は、地元でかなり顔の利く漁師なので当然とも言える。

 それを聞いた護人は、顔を引きらせてお手柔らかにの表情。


「まぁ、お酒を何とかセーブして食べる事に専念すれば、何とか乗り切れるんじゃないかな? 海の幸をお腹いっぱい食べられる機会なんて、なかなかないんだしさ。

 護人さん、そんな訳で頑張ってね!」

「ははっ、そうだな……みんながお酒を飲める年齢になるまで、何とか頑張ってみるよ。歓迎会を断る訳にも行かないしな、精々明日の探索に支障が出ない程度にダメージを抑えるよ」

「何っ、今夜の宴会の話をしてるのっ? 楽しみだよねっ、去年泊まった旅館にお呼ばれしに行くんでしょ?」


 末妹の楽しそうな言葉に、チビッ子はお気軽でいいわねと姫香の呟き。何か悪口言ったでしょと、すぐさま敏感に反応する香多奈はさすがに鋭い。

 いつもは制止役の紗良だが、今は装備品の鑑定で大忙し。





 ――そんな感じで、車内はいつも通りの騒がしさ。





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