第630話 “ペンギン村ダンジョン”もいよいよ佳境に突入する件



 新造の“ペンギン村ダンジョン”も、既に4層へと到達した来栖家チーム&ゲストの怜央奈である。一見攻略は順調だけど、何となく癖の強さが垣間見えて護人はドキドキ気分。

 それでもさすがに新造ダンジョン、ドロップの気前は良くて4層の浮遊クラゲから2枚目のスキル書をゲット。ついでにペンギン獣人からも、魔法アイテムがポロリ。


 それを妖精ちゃんが反応してくれて、水属性の魔法アイテムじゃないかなとお墨付きを頂いた。紗良も《鑑定》して、なかなか良い品なのは確定っぽい。

 そんな4層の敵の密度も、結構濃くてハスキー達だけで捌くのが段々と大変になって来た。それを察して、嬉々として前衛に出て行く姫香である。


 怜央奈も、そんな友達をフォローすべく魔法で戦闘に参加する。4層に入って初戦闘など、彼女の探索の歴史でも経験はない。

 大抵はMP回復ポーションが足りなくなろうが、最大戦力で1層から敵と対峙するのがいつものチームのやり方である。でないと、そもそも前衛が持たない。


 それをこのチームと来たら、まるで後衛陣をエスコートするようにハスキー達が頑張ってくれるのだ。事情を知らぬ者が見たら、まるでペット達を酷使しているように思うかも。

 ところがペット達は、嬉々としてご主人の為に道を切り開いてくれているのだ。或いは自分自身が強くなるために、経験値稼ぎの面もあるかも知れないけど。


 怜央奈が見る限り、そこには確固たる絆が存在しているように思う。信頼感と忠誠心と、お仕事を遂行する喜びと敵を倒して強くなる満足感。

 ただしその絆は、時として危うくもあるように怜央奈には感じられてしまう。例えば来栖家の誰かが、敵対する悪意ある人間に傷付けられたとした場合。

 ペット達の理性のタガは、簡単に外れてしまわないだろうか?


 そんな時が来て欲しくはないけど、万一そうなってしまったら人類にとって物凄く不幸な事だと思う。人間を害するとは何事かと、問題を分かっていない世間が殺処分を叫んだりしたら。

 A級に上り詰めた来栖家は、果たしてどんな反応を示すだろうか。



 そんな空想を、来栖家チームの後衛について行きながら考える怜央奈である。ハスキー達前衛陣は、相変わらずノリノリで出て来る敵をほふっている。

 大フナ虫は、既に完全に雑魚扱いで茶々丸が踏み潰して回っている始末。多少手強いペンギン獣人も、どうやら姫香が出るまでもなくハスキー達で平らげている。


 たまに空を飛んで来る大カモメは、護人とルルンバちゃんで撃ち落としてこちらも問題なし。第4層もあらかた敵は倒し尽くして、後は隠された階段を探し出すのみ。

 ここで末妹に変なスイッチが入って、毎度のパターンを先読みして。次こそは、ウロチョロする影を掴まえるんだよとハスキー達をけしかけている。


 さっきの討伐でまたもやスキル書がドロップして、お宝の回収率は決して悪くは無いのだけれど。宝箱に関しては、小さいのが1個だけと不満が募るのも分からなくはない。

 ハスキー達にしても、逃げる影を追いかけて毎回捕まえられないのはストレスなのだろう。次こそは名誉挽回と、3頭とも燃えまくっている模様。


 そしてやっぱり、一行の死角を突くように建物の陰から陰へと移動する人影が。ソイツは研究者のような格好で、左手はマジックハンドと物凄く怪しそう。

 発見したのも香多奈が一番最初で、それに反応してコロ助が《韋駄天》スキルまで使用して襲い掛かって行った。その瞬間、追いつかれた影は爆発したように煙を上げ始め。

 驚いた一同は、どうなったのと事態の把握に忙しく推測を述べる。


「コロ助がやらかしちゃったの、ひょっとして? ってか、アレに追いつくのはダンジョン的にはルール違反とかじゃないの、香多奈のアンポンタン!」

「何で私が怒られるのよっ、やらかしたのはコロ助じゃんかっ! 私は追いついてって言っただけで、襲い掛かれとは言ってないよっ!」

「おっと、コロ助は無事だったようだな……それから、ダンジョン的にはやっぱりマナー違反だったみたいだ。ペナルティで、何だか強そうな敵が出て来ちゃったな。

 みんな、迎撃準備を敷いてくれ」


 素直に命令に従った末に罪を着せられたコロ助は、何とか煙から出て来て無事をアピール。それを追うように出て来たのは、まずは巨大な茶色の恐竜が1体。

 それから何故か、服を着た大エリマキトカゲっぽい連中が半ダース近く。コイツ等は精々が2メートル級で、そこまで強敵では無さそう。


 そして最後に煙を割って出て来たのは、ジープ車に機械の手足をつけたような妙チクリンな兵器だった。車体の下に砲塔もくっ付いていて、明らかに戦闘用のロボみたいだ。

 それを見た護人は、ソイツの相手を自ら買って出るよとチームに報告。それなら私は恐竜を相手するねと、軽いノリで姫香は巨大な敵の前へ陣取って行く。


 叔父が心配な香多奈は、ルルンバちゃんに護人のフォローを頼み込む。末妹からすれば、魔導ゴーレム系でルルンバちゃんより強い奴など存在しないとの信頼感は強い。

 その意気を汲み取って、張り切って兵器の方へ向かう素直なルルンバちゃんである。そちらでは、近付いた護人に向けて派手に銃弾が飛び交って凄まじい状況に。


 一方の姫香は、相棒のツグミを従えて巨大な恐竜へと対峙する。その隣では、レイジー達が従者らしき大エリマキトカゲ軍団と戦いを繰り広げている。

 コイツ等も、一丁前に炎や氷のブレスを吐いて来て、意外と侮れない集団だと言う事が判明した。小癪こしゃくな奴らめと、レイジーが従えるペット勢がそれを押さえに掛かっており。


 そんな反撃も、しかし思わぬ跳躍力でかわされる事態も何度か。どうやらダンジョンの罰則ペナルティは、かなり重い仕様となっているらしい。

 或いはせっかく親切心で、案内役を各フロアに配置してあげてたのにと。怒りの思いの方が強いのかも、ダンジョンの心情なんて誰にも分からないけど。


 それを引き起こしたコロ助も、全く懲りた風もなく襟巻トカゲの脚に咬み付いて振り回している。そのパワープレイは、連中の統制された動きに一瞬だけ風穴を開けた。

 そこに思い切りよく突っ込んで行く、茶々萌コンビはいつも通りとも。それでも角と黒槍のチャージ力は本物で、その威力に大柄な敵も思わず引っくり返る破目に。


 リーダ犬のレイジーも、もちろん黙ってはいない。敵のブレスをブレスで押し返して、コロ助以上に強引な戦法で主導権を奪い返すその手腕と来たら。

 何とも破天荒で、雑魚なんかに時間を掛けてられないってプライドも垣間見える。そんなリーダ犬の覇気に押される形で、大エリマキトカゲ戦はこちらの有利に進んでいる。


 その隣で巨大恐竜と戦う姫香は、コイツもブレスを吐くかなぁと後衛を気遣っての位置取りに忙しい。村の建物の屋根に飛び移って、敵を刺激しつつ好ポジションに誘導して行く。

 ところがこの巨大恐竜、かなりのパワーで破壊不能なダンジョン内の建物を壊しながらの接近戦を挑んで来る始末。呆れた演出だが、恐らく次のチームの突入時には、れっと全て修繕されているのだろう。


 巨大恐竜は、尻尾の振り回しやら噛み付きやらの技を次々と繰り出して行くパワーファイター振り。それを蝶のように華麗に避けて、姫香は反撃を繰り出して行く。

 もちろんツグミのフォローも優秀で、闇を使って敵への目晦ましなど朝飯前だ。そして案の定やって来た火炎のブレスも、ある程度予測していて『圧縮』防御でノーダメージ。

 各種耐性スキルも作用して、その炎を割って反撃開始の姫香である。



 一方の護人&ルルンバちゃんのコンビは、妙な巨大ロボ相手に最初は防戦一方だった。敵の砲塔は最初1つだけに見えたのだが、何故か機体の上部から生えたりとやりたい放題。

 それらの攻撃を、護人は盾を構えて『硬化』スキルでやり過ごす。そこに後から援護に来たルルンバちゃんが、魔銃やレーザー砲での反撃を開始。


 ド派手なマシン同士の撃ち合いだが、なかなかどうして敵の装甲も強靭だ。或いはバリア的なモノがあるのかも、とにかくレーザー砲も何のそので稼働を続ける敵ロボである。

 ただし、ルルンバちゃんが途中参加したお陰で、護人への圧力は半分へと減ってくれた。しかも薔薇のマントがあまりの敵のご無体に腹を立てたのか、“砲塔”に変化して反撃に出た。


 思わぬ攻撃に思わずよろける敵ロボに、これは好機と前進して詰め寄りに掛かるルルンバちゃん。普段は指示待ちのおっとりタイプなのに、やはり来栖家の血は争えないのか。

 いや、そんな大仰な問題ではないとは思うけど、遠距離が駄目なら直接殴りでしょの解答はズバリ良かった模様。しょせん敵は二足歩行の不安定さ、ルルンパンチで思いっ切り横倒しになる巨大ロボである。


 いつの間に接近戦もノリノリでこなすようになったのと、護人もビックリしている中。転んだせいで照準も上手く合わせられない敵ロボは、引っくり返った亀のように暴れるのみ。

 砲撃が来なくなったのを幸いに、護人も近付いて《奥の手》の殴り攻撃を加えて行く。隣のルルンバちゃんも容赦なく、敵をスクラップへと変える作業を楽しんでいる様子。


 そして程無く、ロボの本体から上がって行く白い煙。まるで負けを認めて白旗を振るように、それは宙へと拡散して最後にはロボは魔石へと変わって行った。

 それを見たルルンバちゃんは、ガッツポーズを作って喜んでいる。それよりもう一方の戦いが気になる護人は、勝利の確定と同時に視線を姫香たちの戦いの場へ。

 そこでは、熾烈な戦いが未だに繰り広げられていた。



 姫香の反撃に横槍を入れて来たのは、生き残った大エリマキトカゲのウチの1匹だった。驚くべき跳躍力で、ハスキー達を飛び越えて隣のボス戦へとちょっかいを掛ける。

 それを慌てて避ける姫香は、ハッキリ言って運動神経の塊である。後方からの末妹の悲鳴も、こんなの全然へっちゃらよと余裕で手を振って対応している。


 恥をかかされたレイジー達は、その大エリマキトカゲの跳躍に一気にヒートアップ。ワレ何しとんじゃあと、喉に咬み付き次々に生き残りをほふって行く。

 それに急かされるように、茶々萌コンビも生き残り連中が悪さを働く前に倒そうと必死。ある意味死に掛けた敵よりも、味方の圧の方が怖い茶々萌コンビである。


 そんな彼らの活躍もあり、巨大恐竜を残して先に全滅となった大エリマキトカゲの群れ。なかなか奇抜な戦い振りで、雑魚とは言えかなり強かった印象だけど。

 それよりも強い巨大恐竜は、まだまだ元気で今も尻尾をブン回して破壊不可能な筈の村の建物を破壊している。そんな中、後衛の香多奈が叔父さんの方は終わったよとの報告が。


 どうやら護人&ルルンバちゃんのコンビは、見事敵の巨大ロボを破壊し終えたみたい。それは良かったけど、殲滅競争に負けたみたいで悔しい姫香だったり。

 末妹の香多奈も、遠慮なくその辺を弄って来てうっとうしい限り。腹が立った姫香が睨んでやったら、そっぽを向いて知らん顔されてしまった。


 2人とも集中してと、長女の紗良の叱咤はごもっとも。同時に彼女の《氷雪》が飛んで来て、巨大恐竜の動きが途端に鈍くなってくれた。

 同時に、バカ~とかカス野郎との汚い言葉は、恐らく末妹の『叱責』スキルだろう。敵に向けられたと思いたい姫香だが、思わず末妹を睨んでしまうのは習慣なのだから仕方が無い。


 そんな感じで気を抜いていたら、ツグミが新スキルの『毒蕾』を試しに仕掛けた模様。凍りかけた上で弱体スキルまで浴びてた巨大恐竜は、この毒攻撃に悶絶して引っくり返る始末。

 相棒の新スキルの威力に驚く姫香、特殊スキルでもないのに巨大な敵が既に虫の息である。どうやら相当、ツグミと相性の良い系統だったみたい。

 そんな訳で、手柄を譲られた形で姫香が最後の止め刺し。


「おおっ、今のはツグミの新スキルだったんだ? スゴイね、なんか紫色の花みたいなのがブワッと咲いたと思ったら、急に大きな恐竜が苦しみ出しちゃったよ。

 ツグミもアレだねぇ、ご主人が不注意だと大変だねぇ」

「……ご苦労様、ツグミ」


 色々と言いたい事はあるが、迷惑をかけた上に手柄まで譲られてしまった感は否めない。それは諸々反省すべきだと、姫香は素直に相棒をいたわって心の中で謝罪して。

 ついでに生意気な末妹に、加減しながらのおでこデコピン。





 ――そこからの姉妹喧嘩は、まぁいつもの日常ではあった。





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