第627話 お盆も終わっていよいよ尾道旅行へと出掛ける件



 山の上のメンバーでのキャンプ旅行や、それから小規模ながらも結婚式など、イベントに追われた8月前半だけれど。お盆が過ぎると、ずっと前から計画していた家族での尾道旅行が待っている。

 これは子供たちに言わせると、れっきとしたギルド『日馬割』の恒例行事であるらしい。強化合宿みたいなモノで、つまりは陽菜やみっちゃんは立派なギルドの一員だと。


 そんな理屈で、尾道旅行と称しているけどしっかり探索もスケジュールに組み込まれており。旅行先で、恐らく3つ位はダンジョン探索に回るとの話である。

 その計画は、陽菜とみっちゃんがしっかりと立ててくれていると姫香のお墨付き。もちろん遊びの計画も、向こうに丸投げでこちらは楽しむだけと言う。


 怜央奈を含めて、こっちは向こうにお邪魔すれば良いだけの良心プラン。何だか私の誕生日会も、計画してるみたいと姫香はとっても楽しそう。

 向こうはドッキリ企画で驚かそうと思っているかもだが、何故か全て筒抜けなのが面白い。それを含めて、良い友達が出来たなぁと感慨深い護人である。


「それじゃあ、3泊4日の尾道旅行に出発するぞ~! 植松の爺婆の所に寄って挨拶したら、すぐ吉和インターから高速に乗るからね。

 上手く行けば、お昼ごろには尾道につくかな?」

「あっ、その前に広島で怜央奈を拾うのを忘れてるよ、護人さんっ。面倒だけど、広島インターで一度降りてね……ちゃんとそこで待ってるように、電話で連絡取り合っておくから」

「高速道路で旅行するのも、随分久し振りだねぇ……今回は探索も入ってるけど、家族旅行なんだから楽しまないとねっ!」


 そんな事を言い合って、早朝の出発に盛り上がっている子供たち。留守の間はお隣さんが家畜の面倒を見てくれるし、植松の爺婆にも田畑の世話を頼む予定だ。

 そこは来栖家が家を空ける際の、定番のパターンでもあるので。心配する必要もないし、爺婆からも楽しんでおいでと言われて送り出される事に。


 実際は、山の上の結婚式で先を越されたなぁと、護人は婆から小言を貰って逃げるようにその場を後に。本当にねぇとお婆の肩を持つ香多奈は、叔父をおちょくる口実を見付けられて楽しそう。

 そしてすぐさま、姉の姫香から拳骨を貰っての姉妹喧嘩の始まりである。それを取り成す紗良は、姫香の気持ちを知ってるだけに心中複雑な思い。


 それにしても、今回の家族旅行だがちゃんと日程通りに進んでくれるのか心配である。末妹みたいな予知能力が芽生えた訳ではないけど、何となく不吉な暗雲が胸中に垂れこめているような気分はどうしたモノか。

 その気持ちを反映するように、今日は朝から空は曇り模様で台風が来るのかもってな雰囲気である。予報では九州をかすめて本州には来ないそうだが、台風の進行方向ほど当てにならない物は無い。

 いつ気分を変えてコッチに来るか、気掛かりな天候具合は心配の種の1つ。


 それでもキャンピングカーが再出発を果たして、吉和のインターに辿り着く頃には子供達も旅行気分に盛り上がっており。お気に入りの音楽を掛けながら、車内で熱唱している有り様である。

 ミケは相変わらず、助手席に避難して来てうるさいなってスタンスを崩さない。ムームーちゃんも何故か一緒に避難して来て、最近はこの2ショットはよく見る気が。


 この軟体生物も、まだまだ子供なので母性溢れるミケとは相性が良いのかも。ミケもその気になれば、ハスキー達以上にスパルタになるのだが子供には甘い一面も。

 それはともかく、今度もやっぱりインターの料金所でステッカーの貼り付けを要請される来栖家チームである。今回のは、ステッカーと言うよりポスターサイズでかなり大きい。


 まぁ、この位のサイズじゃないと、走行中のトラックから視認出来ないのだろう。ここにA級探索者がいますよとのお知らせは、運送業の運ちゃん達にはこれ以上ない天啓てんけいなのは間違いない。

 そう言われると、格好悪いから嫌だと言えないお人好しの護人である。サービスで高速料金は必要無いのは、A級ランクの恩恵としては悪くない。

 ただまぁ、それ以上の労働が待ち構えているのかもだけど。


「うわぁ、目立つポスターだねぇ……まぁ、高速道路の保安の為なら仕方ないか。ルルンバちゃん、何なら本体降ろして走ってついて来る?」

「それはそれで物々しいんじゃないの、あの魔導ボディは威圧感あるもん。まぁ、今更ワイバーンやガーゴイルでオタつく私達じゃないからね。

 のんびり進もうよ……さっ、次はパフューム歌おうっ♪」


 そんな訳で、車内はもうひと盛り上がりする気配。そんな中。来栖家のキャンピングカーの周辺にもすぐに異変が。走行中のトラックが目敏く車に張られたポスターを見付け、すぐに密集態勢に突入したのだ。

 その列はすぐに伸びて行き、北ジャンクションに辿り着く頃には20台以上が連なる事態に。そしてそのジャンクション周辺で、見せ場を作るかのような襲撃が。


 それを迎え撃つ、飛行ドローン形態のルルンバちゃんである。トラックの警戒のクラクションが鳴る中、勇ましく宙に飛び立つその姿。

 来栖家の子供達も、頑張れ~と呑気に声援を飛ばしている。護人だけは、援護でもしようかと薔薇のマントを纏って、運転席から道路へと降りている。


 そんなの無用ですよと言わんばかりに、張り切るルルンバちゃんはアームの魔銃で敵を撃ち落として行く。機動性の高いインプが混じっているのが厄介だが、鈍重なガーゴイルは良い的でしかない。

 派手な空中戦に、高速道路に停車して見学を決め込むトラックの運ちゃん達。やんやの喝采は、しかし不用意にモンスターのタゲを取らないようおしとやかである。


 来栖家チームの子供達は、逆に騒がしい程の応援で盛り上がっている。今回は大物のワイバーンは登場しないようで、周囲を警戒していた護人はやや肩透かしの表情。

 それでも10分に及ぶ空中戦の勝者は、やってやりましたよと勇ましくベースのキャンピングカーへと戻って来る。それを頑張ったねとお迎えする子供たち、運ちゃん達からも惜しみない声援が。


 そんな微笑ましいシーンを含みつつ、来栖家の愛車はやがて広島北ジャンクションを南下して広島の市内方面へ。途中でいったん怜央奈を拾って、もう一度山陽自動車道へと乗り直す予定である。

 安佐南区に在住の怜央奈を拾うには、西風新都インターで降りる必要があるようだ。細かいナビを助手席で行う姫香と、後ろに連なるトラックの群れにお別れを告げる香多奈。

 トラックの運ちゃん達も、護衛役の退場には寂しそう。



「えっと、インター降りたら割とすぐの所に怜央奈が待ってるみたいだね。だから彼女を拾ったら、同じインターからまた高速に乗っちゃうのが楽かな?

 ただちょっと、市内の協会が緊急事態警報出してるみたいって怜央奈が言ってる」

「緊急事態警報って、何の警報……? 何か事件でもあったのかな、そう言えば怜央奈ちゃんは市内の協会の所属だったよね」

「ふむっ、ひょっとしてオーバーフロー騒動とかかな? 今は甲斐谷チームやらが県北に出張してて、市内は人手不足だって話じゃなかったっけ。

 だとしたら、ちょっと大変かもな」


 それは大変だねと、香多奈も興味津々で運転席に身を乗り出して来る。姫香は地図を取り出しながら、どこのエリアかなと思案気な表情。

 家族旅行の途中とは言え、ダンジョン攻略も計画に入っているので探索準備もバッチリだ。ハスキー達も、暴れる機会があれば張り切ってくれるだろう。


 最近は、暑い敷地内よりも涼しいダンジョンを好む傾向すらあるハスキー達である。経験値よりも涼を好む、ダンジョンにそんな副産物を望むのは正しいのかはこの際置いておくとして。

 詳しい話は怜央奈に聞こうよと、姫香は道の端を指し示す。そこには両手を大きく振っている、旅行の支度のバッチリの怜央奈の姿が。


 今までラインで会話していたので、合流しても今更感はあるけれども。それでも久し振りとの挨拶から、キャンピングカーに乗り込んだ少女を歓迎する子供たち。

 それから、話題はすぐさま緊急事態の内容についてに。


「ああっ、オーバーフロー騒動が江田島の方面で、ついさっき発生したって警報かなぁ? どうやら新造ダンジョンが生えて来たらしいけど、“姫巫女”八神さんの予知にもあったから順当なのかな。

 とは言っても、実は市内には今B級チームも少ないからねぇ。県北に間引きに行った甲斐谷チームのお手伝いで、大半が出払っちゃってるから」

「ああ、やっぱりそうなんだ……そうじゃないかって話してたんだけど、江田島って微妙な場所だなぁ。えっと、地図によると呉から車で行けるんだ?」

「地図見せて、お姉ちゃんっ……へえっ、宮島とも近いんだ? 宇品港からも近いかな、ってか変な形で島がいっぱいあるね。

 ダンジョンが出来たのはどの辺りなのかな?」


 そんな事を話し合う、怜央奈と来栖家の面々である。車内は一気に騒がしくなったけど、護人はこの話の流れが不安で仕方が無い。

 再び高速道路に乗ろうとするのを、姫香が押し留めて怜央奈に協会に確認の催促を促す。仕方なく護人は車道の端に車を寄せて、協会と怜央奈の遣り取りを見守る事に。


 その間に姫香は、“巫女姫”八神の詳しい予知内容について紗良に質問するのだけれど。公式発表によると、海の2つはとんでもないビックリ箱だとの記述を発見したのみ。

 どうやら詳しい予知内容に関しては、ネットには書かれていなくて残念な限りである。まぁ、予知も万能ではないのでその辺は仕方無いとも。


 それより怜央奈の、『今、A級ランクの来栖家チームと、安佐南の路上にいますけど?』の協会へのメールには。すぐさま返信で『宇品港まで、探索準備をして来れますか!?』と送り返されて来たそうな。

 これはモロに、探索願いと言うかオーバーフロー騒動に当たって欲しいと言う依頼だろう。メールではらちが明かないと思ったのか、姫香は怜央奈に協会に電話してよと催促する。


 そうして短いやり取りの末、呆気無く来栖家チームの江田島渡りが決定する事に。つまりはオーバーフロー騒動を鎮めて下さいとの、正式な依頼が協会本部からあった訳だ。

 それを受けて、やったねとはしゃぎ始める末妹である。怜央奈も興奮した様子で、これは仕方ないよねと同行に意欲的な表情。


 つまりは、尾道に到着するのが遅れてしまうのは、これはもう不可抗力だと。陽菜やみっちゃんを待たせてしまうけど、困っている人たちを助けるのは正義である。

 そんなラインを、尾道で待つ2人に送る怜央奈はチョー楽しそう。そして返って来た言葉に、やっぱり向こうは怒ってるよと悪魔の笑み。


 それは怒るよねぇと、他人事の末妹もちょっと笑っている。そんなカオスの車内だが、キャンピングカーは安佐南区から順調に南下して市内へと到達した。

 姫香はナビに忙しく、紗良は何とか現地の情報確認にスマホを弄って情報収集を行っている。そして以前にも“アビス”案件で立ち寄った事のある、宇品港へと車は無事に到着した。

 そこですぐさま、出迎えの協会職員を発見する一同だったり。


「あっ、出迎えの人かな……今回借りられる船は、どの位の大きさだろうね? 小さい奴なら、ルルンバちゃんに操縦して貰えば私達だけで行けちゃうね」

「まぁ、そうだな……ただまぁ、こっちも詳しい場所を知らないからなぁ」

「そうだね、海の上で迷子になるのは悲しいよね」


 香多奈の言葉に、確かにそうだねと納得顔の面々である。案内役は欲しいけど、何となくペット達のパワーで辿り着けちゃえそうな気もする不思議。

 その勘を信じるなら、別に来栖家チームだけで出発も可だろう。





 ――さて、この後のオーバーフロー案件にどう立ち向かうべき?






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