第605話 8月の青空市が夏祭りのように盛り上がった件



 香多奈たちキッズ連合も、もちろん川魚の屋台には気付いていた。リンカとキヨちゃん達と合流を果たし、これをお小遣いで購入すべきかとの議論が熱く交わされている。

 結果、コロ助も萌も食べたそうだったので、思い切って人数分を購入する事に。売り子のお姉さんにサービスして貰って、揃ってお礼を言う子供達である。


 ちなみに、少年少女たちの真上には、ドローン形態のルルンバちゃんが飛んでいる。怪しく思われないように、『青空市場偵察中』の垂れ幕を掲げているのがちょっとお洒落。

 その姿はそれなりにキュートだが、目立つことこの上ない。道行く人も振り向いたり撮影をしたり、この装備持ちドローンの存在を気に掛けている様子。


「香多奈ちゃんの護衛役が増えるのは良いけど、ルルンバちゃんは目立っちゃうなぁ。でもあんな事があった後だし、仕方が無いよねぇ。

 私たちも、悪者が近くにいないか気を付けて見ておこうよ」

「そうだね、前の騒ぎの時は役に立てなかったし……町の警備は、私達で頑張らなきゃね!」


 無駄に張り切るキッズ達だけど、今回は香多奈とリンカとキヨちゃんと太一に加えて。和香と穂積の山の上組と、熊爺家の双子もその輪に加わっている。

 賑やかなのはいつもの事で、仲良し友達チームはこの後の町内パトロールに気合充分。今度こそ悪漢たちの企みに先んじて、町の平和を守るぞとヤル気に満ちている。


 だからその前の食事はとっても大事、今回もお好み焼きや焼きそばで元気を回復するぞと、屋台で色々買い込んで行く子供たち。香多奈はついでに、紗良に持たされたお弁当箱も持参している。

 その中にはお握りがわんさか入っていて、みんなで分けて食べるのに充分な量である。双子も熊爺家のおばさんに、茹で卵や漬物の詰め込まれたパックを持たされており。

 期せずして、子供達の昼食会はとっても豪華になる予感。


 そして買い込みの終わった一同は、町の中央へと続く道へと抜け出す。そこにはルルンバちゃんの本体が控えており、その存在感は確かに頼り甲斐はあるかも。

 学校の方に行こうと、自然と話は纏まって移動を始める子供たち。皆で食事をする場所は田舎と言えど限られており、小学生だとやっぱり学校方面が真っ先に思い付く。


 お昼の日差しの中を歩くコロ助は大変そう、子供達は元気に日陰を捜して右往左往しているけど。結局はいつもの学校の裏山へ登って、そこに設置されてるベンチを占領する事に。

 そして子供チームで、本気で町の警護をする為の作戦会議をしながらの昼食会。コロ助と萌も焼き魚やおかずを分けて貰って、ご機嫌に食欲を満たしている。


 そして肝心の会議の結果だけど、今回はペット達の装備も魔法の鞄に持参しているし。ルルンバちゃんもいる事だし、逃げ回らなくても平気だとの結論に。

 無論、双子も今回は探索着を魔法の鞄に詰め込んで持って来ている。前回の事件で逃げるしか無かった情けなさを、今回こそは拭い去るとの決心の元に。


 そうは言っても、そんな立て続けに重大事件なと起こる筈も無いのだけれど。知らない余所者がたくさん訪れる青空市の日には、何が起こっても不思議ではない。

 そんな信念のもと、午後はやっぱり町のパトロールを行うつもりの子供達である。そして悪漢たちを見付けたら、今度こそ先手を取ってやっつけてやるのだ。

 その決意も勇ましく、町の臨時パトロール隊たちは食事を進めるのだった。




 岩国チームの面々、と言っても全員がこの青空市に遊びに来たわけではないけど。彼等は食事は既に屋台で済ませて来たそうで、エーテル薬やダンジョン産の高級酒を購入すると、他も見て回ると去って行った。

 ただしレニィだけは別で、紗良と一緒にブース内で遊んで過ごす予定。幼女はこの間の妖精ちゃんがいない事に、最初はガッカリしていたのだけれど。


 猫を触らせて貰って、この上なく幸せそうな表情に。逆にミケはやや迷惑そう、とは言え子供には甘い彼女は無碍むげにも出来ずに大人しくされるままである。

 それに安心して、とろけた笑顔で見守る紗良だったり。


「お姉ちゃん、どうしてこのネコちゃんはしっぽが2つあるの?」

「ミケちゃんはね、頑張ってレベルを上げてネコを超える力を身につけたんだよ」


 そんな感じの娘の会話を聞きながら、ヘンリーは護人との定例会議を始める。今月は甲斐谷チームは県北ダンジョンの間引きに忙しくて、参加は出来ないみたい。

 その代わり、ギルド『羅漢』のギルド長と雨宮が青空市に足を伸ばして来た模様。先ほども魔法の杖やら魔法の指輪を購入していて、どうやら新入りの探索者チーム用に装備を充実させたいようだ。


 今回は車内ではなく、子供達の様子を見ながらのキャンプ机での会議ではあるけど。夏の日差しの中での話し合いも、人目さえ気にしなければ割とオツかも。

 唯一、会合の内容が外部に漏れるのが心配だけど、三笠が『遮断』系のスキルを持っていて問題無し。何気に便利な、チーム『シャドウ』のリーダーである。


「それで、今回はどんな議題を共有すべきかな? つい先日のこの日馬桜町の襲撃については、岩国チームが裏を探ってくれるんだっけ?

 まぁ、ダンジョンコアがテロに使われるなんて、怖い情報は覚えていて損は無いかな」

「そうだな、協会はコアの持ち出し禁止の規制をしてるけど、ペナルティは無いもんな。コアの状況を調べる術もないし、微妙ではあるよな。

 それより2度目の襲来が無いか、チェックは厳しくすべきじゃないか?」

「市内は現在、県北の山の中のダンジョン間引きで、高ランクチームが出払っているそうだよ。探索者の手薄は、今に始まった事じゃないけどね。

 吉和もようやく、広域ダンジョンの管理が何とかって段階だね」


 それは誇っていい事だけど、全ての地域がそこまで地元のダンジョンを管理出来ていないのが現状だ。広域ダンジョンとなれば尚更で、半年に1度の間引きも大変な程。

 護人も現状は岩国チームからの情報を待ちながら、町と子供達の警護に重点を置くくらいしか手が無い。襲撃が怖いからと子供の自由を奪うのは、護人は下策だと思っている。


 田舎の子供が好きに遊び回る自由を手放したら、それこそ何にも残らないではないか。子供の頃の思い出が安全な家に閉じ込められてましたでは、それは不幸な歴史でしかない。

 とは言えやっぱり心配性な護人は、定期連絡の度に2コール以内で電話に出る始末。そして末妹の元気な声を聞いて、ホッと胸を撫で下ろすの繰り返しである。


 それでも今回の会合で、岩国チームが警護に協力してくれると聞けたのは大いなる収穫だった。そのお礼を考えながら、やっぱり探索者チームの横の繋がりも大事だなと改めて思ってみたり。

 時刻は昼を過ぎて、この山の上の町ももう少し気温は上がりそう――。




 一方の店舗ブースを預かる面々も、交替でお昼を食べて昼食休憩に。それからもうひと頑張りするぞと、意気高く決意表明からの売り子作業の再開である。

 ブースの一角にヘルメット&キャンプ用具コーナーを作っていた土屋女史は、商品が思うように売れなくて不満そう。一方の買い出しに行った姫香は、今月の屋台は一際お祭り染みてて凄かったと興奮している。


「紗良姉さんも、休憩取ってちょっと歩き回ってみると良いよ。川魚の屋台とかバーベキューの屋台とか、後はお遊びの屋台もいつもより増えてたかな?

 水風船とか金魚すくいとか、どこの屋台も凄く張り切ってたね!」

「そうなんだ、それじゃウチも負けてられないねっ! 私は休憩よりも、1品でも多く商品を売りたいかなっ?

 売上低いと、家に戻って後悔しちゃうからね」


 そんな事を口にする長女は、いつになく活き活きしていて普段とはまるで別人だ。そして今日は遅れてやって来た『ジャミラ』の連中を発見して、にこやかに接客を始めている。

 そして定番のエーテルと共に、“鉄橋下ダンジョン”で入手した車掌の帽子や切符はさみを見事佐久間に売りつけて。本人も嬉しそうなので、まぁお互い良い結果だったと思いたい。


 その後も、解毒ポーションや日用品は安定して売れて行ってくれて問題はないレベル。その合間に、ホームジム筋トレ器具やら鉄アレイや腹筋ローラー、それから調理器具や食器類もぼちぼち買い手がついてくれた。

 高級バッグや化粧品は、安い設定とは言え精々が1時間に1個売れるかどうか。反対に、売れ残りのオセロ版や花札、万華鏡の類いの方が売れて行く有り様である。


 土屋の作ったコーナーは、辛うじてハンモックが売れたくらいで後は見向きもされず。蚊帳かやとか大物はともかく、テントくらいは売れると思っていたが現実は厳しい様子である。

 それから宮島がホームの探索者チームも、今月も遊びに来てくれてMP回復ポーションを買って行ってくれた。世間話も少々、向こうは相変わらず好調に稼げているようだ。


 4人チームらしいけど、今日は青空市で思いっ切り羽を伸ばすよと楽しそう。向こうもお祭り騒ぎに参加するみたいな気分で、はるばる列車に乗って来てくれたみたいだ。

 他にも探索者チームがチラホラ、これを機会にA級チームと渡りをつけたいとの目論見の者も多いのかも。もしくは、美人の紗良を拝みに来た不埒ふらちな者も混ざっているかもだけど。


 落としてくれるお金には変わりはなく、紗良は笑顔の接客で商品をどんどん売りつけて行く。隣の姫香や土屋は、それを感心しながら眺めるのみ。

 午後に入って、ようやく高価な食器類やワイングラスが売れてくれた。土屋のコーナーも、若い男が迷彩服を買って行ってくれてようやく流れがやって来たかも。


 自転車の部品も少々売れたけど、高級品に関してはこれ以上は買い手は現れなさそう。代わりに高級サングラスが2個、その内の1つはムッターシャが購入。

 今月から初参加の異世界チームだが、これは地域にようやく馴染み始めたと言う感触があっての事。リリアラやザジも、目立たないのを条件に参加はしている筈。


 柊木や星羅が、初回となる今月は一応護衛について回っているそうだ。ついこの前あんな悪漢騒ぎがあったので、この警備体制は当然とも取れる。

 異世界チームの面々は、各々が自己防衛戦力を備えていると言え重鎮扱いである。ホイホイその辺を歩き回って、変な輩に襲撃されたら大変だ。

 例え異世界チームが、独自に返り討ちにする戦力を有していると言えどだ。


「面白いな、この青空市と言うのは……活気があって楽しいね、ザジも色々買い込んで本部の詰め所で食べまくっていたよ。

 それより、カナがいないのは遊びに出ているためかい?」

「香多奈はいつも、この時間は屋台の食料を買い込んで友達と遊びに出ちゃうよ。定期的に連絡入れるように言ってあるから、まぁ大丈夫だとは思うけど。

 護衛もコロ助や、ルルンバちゃんやら萌がついてるからね」

「危ない目に遭ったからって、閉じ込めておくのも可哀想だもんねぇ……護人さんも、子供の自由を奪うような真似はしたくないって方針みたいだし。

 こればっかりは、自衛の強化で対処する位かな?」


 確かにそうだなと、ムッターシャも奥の机の護人をチラッと確認して頷く構え。それから自分たちのチームも、その自衛になるだけ協力するよと請け負って。

 今後は町の治安についても、積極的に参加するつもりのムッターシャである。今までは異世界からのゲストとして、勝手に出歩いたりも自粛していたのだけれど。


 子供をさらおうとしたり、ダンジョンコアを使ってテロを起こすような連中がこっちの世界にもいるのならば。こちらも遠慮せず、そんな奴らをやっつける手助けに参入するつもり。

 それには当然、ザジもリリアラも賛同して今後は積極的に町の行事にも参加するとの事。その手始めに、この青空市へと出向いてみたのだが。


 人の多いお祭り騒ぎに、やや舞い上がりながらも3人とも楽しめたみたい。町には知り合いも増えて来たし、今後の手助けもその人たちを介して取っ掛かりも出来て来た。

 後は腕がなまらないように、探索も程々にこなす感じで。





 ――そんな訳で、8月の青空市も夏祭りのような盛り上がりに。





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