第602話 闘技場の中央で家族の再会を喜び合う件
どうやら香多奈達が飛び込んだゲートは、前の層の闘技場の中央に繋がっていたようだ。そこには倒されないままスタン張っている、屈強なエリア番モンスター達が手ぐすね引いて待っていた。
そこにまんまと飛び行った、夏の虫ならぬ香多奈チームの面々である。大慌てで、周囲の状況を把握に掛かるが敵はもうすぐそこ。ダンジョン逆行の弊害が、まさかこんな形でチームを襲うとは。
まぁ、ちょっと考えたら分かるのだが、残念ながら香多奈チームには熟考タイプの知恵者はおらず。そんな訳で、いきなりボス級門番タイプのモンスター達と、鉢合わせからの戦闘開始である。
敵は
香多奈チームが幸運だったのは、連中が輿を地面に降ろしたりと戦闘準備に時間が掛かっている事。その隙に、こちらも態勢を整えて後衛の末妹はオークたちと距離を取る事に成功。
もちろん前衛陣には、敵の準備を待つ義務も何も無い。堂々と先制で『牙突』スキルを放つコロ助と、容赦なく炎のブレスを放つ萌である。
萌の広範囲スキルは、太ったオークの王様まで巻き込んで良い調子。このまま楽勝で、こちらのペースに持ち込めると思った香多奈だが目論見はかなり甘かった。
怒れるオークの担ぎ手たちは、ダメージに怯む事なくマッスルパワーでタックルを仕掛けて来た。それに巻き込まれたのは、慣れない甲冑を操るムームーちゃんのみだけとは言え。
それは予想内なので、香多奈チームに何の
「頑張れみんなっ、ムームーちゃんも倒れてないでちょっとは反撃しなきゃダメだよっ! コロ助に萌っ、あの太っちょが戦いに参加する前に部下を全部やっつけて!」
「オークキングとその部下たちだナ……今のこちらノ戦力だト、ギリギリ倒せるかどうかッテ感じカ。仕方なイ、私も限界まデ魔力を出し切るカラ意地で押し切るゾ!」
妖精ちゃんの喝は体が小っちゃ過ぎて、戦闘中の前衛陣には届かなかったけれど。香多奈の『応援』を貰ったコロ助と萌は、スキルに続いて接近戦で敵のオーク兵へと挑みかかる。
それに続いて、綺麗に仰向けに倒れている甲冑から、突然水の槍が3本ほど飛んで行ってマッチョオークへと着弾。ほぼ不意打ちで集中砲火を浴びた敵の1体は、反撃の暇もなくお亡くなりに。
そしてコロ助と萌のペアも、華麗なコンビネーションで2体目を撃破。敵の装備は革製で、役職は高いかもだが防御力はそれ程に高くはないみたい。
これは順調とか思っていたら、不意に向こうの反撃が襲い掛かって来た。オークキングの咆哮からの、オーラの波のような衝撃波が前衛陣に襲い掛かって来て。
敵どころか味方すら巻き込んで、倒れていた甲冑ムームーちゃんまで数メートル向こうに転がされる始末。かなりの大技に、慌てまくるコロ助たちである。
それに乗っかる形で、残った2体のオーク兵士がハイパー化に至った。筋肉ムキムキで、上半身の装備は吹っ飛ぶ勢い。そのラッシュを受けて、再び吹っ飛ぶコロ助と萌。
いや、コロ助は途中から《防御の陣》を張り巡らして、その攻撃をブロックしてたけど。敵のハイパー化は物凄くて、自らの防御を無視して全ステータスを攻撃に回したような勢い。
そして吹っ飛んで行った両者を追いかけて、かなりの勢いでのタックルをかまそうと向かって来る。その迫力にビビる末妹だったけど、転がってたムームーちゃんは違った様子。
自分のタゲが外れているのを良い事に、すくっと立ち上がって再度の《水柱》スキルでの援護射撃。ハイパー化のせいで視界の狭まっていたオーク兵は、避ける事も出来ずに背後からモロに被弾する。
そして見事、キル数2個目をゲットしたムームーちゃんである。残った1匹は、勢いのまま突進してコロ助の《防御の陣》を破れないでいる。
その隙に、何とか体勢を立て直そうとする香多奈達だったのだが。
近付いて来たオークキングが、たった一撃で甲冑ムームーちゃんの頭部を跳ね飛ばしてしまった。もちろん飛んで行ったのは甲冑部分だけだが、見た目だけだと物凄く心臓に悪い。
その後に蹴り飛ばされて、再びスッ転がされる哀れなムームーちゃんの甲冑である。後衛から上がる悲鳴の中、甲冑から秘かに脱出するムームーちゃんだったり。
荒ぶるオークキングの標的は、そんな訳で
その間に、香多奈と光の精霊は吹き飛ばされた萌の治療活動を行う。派手に吹き飛ばされた割には、上手く受け身を取ったのか萌のダメージは幸いにも軽症で済んでいる。
それよりも、問題なのは残ったオーク兵と怒れるオークキングのセットである。巨大化を維持したコロ助は、その両者のヘイトを取って見事に盾役を務めているけど。
反撃の切っ掛けを掴めずに、珍しく防戦一方でジリ貧模様。それを見兼ねた妖精ちゃんが、攻撃は自分に任せろと兎の戦闘ドールに全魔力を注ぎ込んでの戦闘指令。
その瞬間、縫いぐるみに劇的な変化が訪れた。
いつもの倍以上の体積に膨れ上がったかと思ったら、背中には妖精のような透明な羽根が。体型も女性のようにスリムで、これは妖精ちゃんの思念の投入の成果かも。
そしていつものように手首から飛び出す2本の鋭利な刃が、攻撃に夢中なオーク兵をあっという間に斬り刻む。それを見たオークキングも、体型に似合わぬ素早い攻撃を繰り出すけど。
流麗な動きでそれらの攻撃を全て
敵の大将も負けておらず、深手を負ってもその動きに遅延は無い。どうやらタフネス系のスキルでも持っているのか、仕舞いにはお得意のハイパー化がやって来た。
これには、ようやく出番の回って来たコロ助も加勢しての壮絶なド突き合いに発展。一歩も引かないコロ助と、素早い動きで傷を増やしていく兎の戦闘ドールは即興にしては良いペア振りではある。
その瞬間が訪れたのは、殴りド突かれの争いが数分続いた後の事だった。ようやく兎の戦闘ドールが、敵の急所の首筋へとその刃を食いこませる事に成功して。
派手に倒れて魔石化して行く、闘技場の主のオークキングであった。それを見届けて、さすがのコロ助もその場へとへたり込む有り様。ついでに兎の戦闘ドールも、魔力切れて元のサイズへと変わっていった。
時間にして、実に10分以上の熱戦だったけど、体感では30分以上は戦っていた気分。とにかく頑張ったコロ助を治療してあげたいが、何と香多奈も魔力切れを迎えており。
頼みの光の精霊も、召喚切れでバイバイされてしまうと言う顛末である。
「ああっ、コロ助……ごめんね、魔力も薬品ももう底を突いて治療出来ないよ。あっ、そうだっ……そこの宝箱に、回復ポーションくらいは入ってるかもっ!?」
「そうだナ、ついでニ私にもエーテルヲ持って来てくレ」
完全にグロッキーな妖精ちゃんは、珍しく地面にへたり込んで一歩も動けないのポーズ。香多奈もかなり苦しいけど、頑張ったみんなのためにここは何とかしないと。
そんな責任感に突き動かされて、転がってる魔石もついでに回収して宝箱の前へ。何とか動ける萌が、ムームーちゃんを回収してそれに付き従ってくれている。
闘技場の隅っこに置かれた宝箱は、割と豪華な
そうして開けた箱の中身は、なかなかに豪華で思わず末妹の表情にも笑みが浮かびそうに。それを我慢して、目的の薬品を手にしてガッツポーズの香多奈。
これで何とか一息つけそう、取り敢えずは休憩して全員の回復が先だけど。ひょっとしたら、すぐそこまで救助隊が来てるかもだし、希望は捨てなくて良さそうだ。
エーテルも見付かったし、これで香多奈と妖精ちゃんのMPも回復出来る。さすがの香多奈も、これ以上無茶をして上層を目指そうとは思わなかった。
助けが来るまで、どこかに身を潜めておくのが得策だ。
第3層に潜ると、一行の前に立ち塞がるモンスターの質が明らかに1ランク強くなった。サソリ獣人もそうだが、コウモリ獣人なんて見慣れない奴らも出現し始め。
それを相手取るザジは、とっても楽しそうでキル数を順調に伸ばしている。土屋女史も堅実な戦いで、その相方をサポートしている。
レイジーも相変わらずの先行探査全振りモードで、戦いはそっちのけで火の鳥連合の視界共有を行っている。その情報の共有はかなり疲れるようだが、何とも頑張り屋さんには違いない。
見守る護人としては、励ますのみで手助け出来ないのがもどかしい限り。さすがに《心眼》の視界は、そんな遠くまで見渡す事は不可能なのだ。
それでも20分後に到達した闘技場フロアでは、ミケと共にそこの門番と対峙する事に。ようやく順番が回って来たみたいだけど、そんなのに時間を掛けている場合ではない。
護人だけでも相当な戦力なのに、ミケも加わるとなると相手としては大変だ。門番ボスは巨大な食虫植物タイプ2体だったのだけど、何と2分も持たずに魔石に変わって行ってしまった。
お供として、大きなサイズの蜂が数匹出現したけど関係無し。ミケの『雷槌』で一瞬にして消し炭にされて、足止め役もさせて貰えず。
護人もそんな相棒に負けないように、本体の食虫植物に斬り掛かって行く。ついでに“四腕”を発動させての、予備の武器のシャベルで『掘削』スキルで敵に大穴を開けての止め刺し。
護人としては格段に張り切った感じは無かったのだが、結果として戦いは短く済んで何より。猫娘が宝箱の中身を回収するのを待って、レイジーにエーテル補給をさせてすぐに次の層へ。
そんな感じでほぼ間を置かず始まった、第4層の探索である。ここもレイジーの火の鳥10連からの、ルート選定から始まる流れに。
ところが、この層はそこから勝手が違って一同驚きの展開に。火の鳥を操っていたレイジーが、突然に遠吠えを始めたと思ったら。
先頭に立って、ダッシュでダンジョンの奥へと進み始めたのだ。それに仰天する残りの面々だが、何かを発見したのは間違いないと同じく駆け足で追随する。
そこからの駆け足での殲滅戦は、なかなかに派手で凄かった。それでも足を止めないレイジーに、全力で出現する邪魔な敵を
特にミケなど、《昇龍》を発動させての先導で珍しく大張り切り。迷子の末妹達が気掛かりなのは、どうやら彼女も一緒らしい。
結果、信じられないスピードで、一向は闘技場を見下ろす観客席エリアに到着。
「……香多奈っ、無事だったか!?」
「叔父さんっ、良かった……みんな無事だよっ! 私を追って来た悪者達は、全員がこの下の層でダンジョンの養分になっちゃったけど」
「カナ、無事で良かったニャ……あれっ、この層の番人はどこニャ?」
そんなのとっくに倒しちゃったよと、大威張りの香多奈と妖精ちゃんである。土屋は迷子の発見を地上にすべく、護人から巻貝の通信機を奪い取っての報告を行っている所。
何しろ救護チームのリーダーは、末妹発見の安堵感でしばらくは使い物にならなそうなので。まぁ、闘技場の中央で抱き合う護人と香多奈の姿には、土屋も思わずウルッと来そうになったけど。
地上にも同じく、心配して報告を待っている者達が大勢いるのだ。それにしても、こんなテロ行為をしでかした連中は証拠も残さず消え去ってしまったらしい。
ダンジョンの特性は、こんな時には厄介だ……連中の目的や背後に潜む者、それらが全て闇の中ならぬダンジョンの腹の中である。改めて探そうにも、手掛かりが少な過ぎる。
A級探索者チームにちょっかいを掛けるなんて、命知らずもあったモノだが。それでも荒事に及んだ、手引きした者達の真意が分からず不気味である。
それでも、今後に関してはこっちだって警戒するし、逆襲だって可能かもしれない。その時は、当然ながら『日馬割』ギルド総出で戦争である。
そんな物騒な事を考えてる土屋だが、他のメンバーも同じ思いに違いない。
――悪い奴らは、その時になって後悔しても既に遅いのだ。
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