第591話 少数での鍛錬間引きに良い感触を得る件
「なるほど、鍛錬と思えば少数で探索する方が、負荷が掛かっていいかもな。レイジー、戦闘以外は今のペースで進んでみようか。
ムームーちゃんは萌の肩で良いかな、落っこちないようにな」
萌も鍛錬と聞いて、気合いを入れ直している模様である。半人半竜形態で、尻尾を揺らして午前中の疲れも無いようだ。ムームーちゃんに関しては、少人数での狩りに少し緊張気味かも。
彼の特性では、大家族の一員の方が安心度は増すのだろう。それでも頑張るとテレパスで主張する姿は、いじましくて可愛い存在には違いない。
一方のレイジーは、既に焔の魔剣を咥えてバリバリ戦闘モードである。剣から吹き出る炎が、相乗効果でレイジーのオーラと混ざり合って凄い事に。
そうして探索開始を告げての進行は、いつになくハイペースで凄かった。護人も移動を薔薇のマントに任せて、常時《奥の手》を発動させての鬼モード。
それに軽々とついて来る萌は、かなりのステータスお化けになりかけているのかも。レイジーに関しては、《狼帝》でお供の炎の狼を2体従えての女王モードとも言うべきか。
いや、手下がたった2体なので、実はそうでも無いのだけれど。3と言う数字は、彼女にとっても一番落ち着く数字なのかも知れない。
とにかく狩りのペースは、レイジーの本気モードによって自然とハイペースに。6層からはフィールド型となったエリアだが、そんなの関係なくそこを疾走する護人達である。
護人も自分から言い出した探索方法なので、やっぱり無理でしたなどとは恥ずかしくて言い出せない。《心眼》を発動させての戦闘補佐は、訓練では試してみたけど高速戦闘には持って来いだ。
結果、道を阻むように出て来た猿やアナグマ、大アメンボや大トンボなどの敵はほぼ一撃で
萌がやや遅れて到着したのは、落ちていた魔石を拾っていたから。その辺は末妹に叩き込まれた勿体無い根性で、まぁ稼ぎにもなるので問題は無いとも。
問題は、その後に萌と一緒に跳ねるように訪れた存在だった。
「茶々丸っ、お前1人でついて来ちゃったのか!?」
慌てて香多奈に巻貝の通信機で確認する護人に、末妹は
ジトっとした目でレイジーに睨まれる茶々丸は、とってもバツ悪げでシュンとしている。それでも今更追い返す訳には行かないし、ガッツだけは認めてあげないと。
どの道、強く叱れない性格の護人はこれ以上の追及も出来ないので。仕方ないなと言う表情で取り繕って、茶々丸の同行に許可を与えるのだった。
まぁ、キッズ側にしてもヤン茶々丸の面倒を見るのは大変だろうし。それをこちらで預かると思えば、不思議と腹は立たない。レイジーだけは、命令違反した仔ヤギに対して当たりは強いけど。
それは仕方が無いので、戦闘中は指示には従うように言い含める護人である。そして命令権をレイジーに与えて、この件はお終いで丸く収める事に。
そうして始めた7層の攻略も、ペースはさっきと同じ程度には熾烈だった。スキルの複数常用はかなりキツいが、なるほど鍛錬には持って来いだ。
《奥の手》に関しては、“喰らうモノ”戦で華麗にブレイクスルーを果たしたモノの。あれをもう一度やれと言われても、正直なかなか難しいと言う問題が。
それでも自分の3本目の腕って自然な感覚が、芽生え始めたのも確かである。このまま行けば、本当の意味での《奥の手》の活用が可能となる日が来るかも。
問題は、薔薇のマントが飛行モードと4本目の腕モードを同時に操れない点だろうか。まぁ、それは仕方が無い事だしどちらも便利な機能なので、今ではなくてはならない存在である。
それより心配された茶々丸だが、一行のスピードには余裕でついて来れていた。ただし、同時に戦闘となるとなかなか大変でスキルの《飛天槍角》も外しがち。
その辺は、要練習で今後の成長に期待である。
そうして順調に7層を踏破して、8層の階段前へ無事に到着。かなりの高速戦闘を行ったけど、護人がほぼ息切れしていないのは薔薇のマントのサポートのお陰だろう。
そしてやっぱり、萌が魔石拾いの結果やや遅れて最後に到着して一行に合流。そこで小休憩からの、ペット達の体調チェックを行う。
いつもは紗良の仕事だが、長女とペット達の言葉が分かる末妹がいないと大変である。それからやっぱり、元気者の姫香の不在は寂しくて仕方が無い。
探索業を完全にお仕事としてこなすのは、護人的には精神衛生上あまり宜しくないみたいである。やはり少々騒がしくて大変でも、家族と一緒の方が何倍も気が楽だ。
その事に気付けたのは、この少数ダンジョン攻略の唯一の恩恵かも。そして8層の攻略も、沢に沿ってのほぼ立ち止まらない速度での行進振り。
レイジーの戦闘方法は近接は咥えた魔剣を振るって、そして遠隔は『針衝撃』と完全に使い分けていた。その『針衝撃』だが、何故か細い針に貫かれたモンスターは内側から燃え上がる始末。
たゆまぬ鍛錬で、どうやら彼女は『針衝撃』にも炎の属性を持たせてしまった模様。今までの『針衝撃』だと、敵にチクッと刺さる程度の嫌がらせの威力しか無かった筈なのに。
今では小さなモンスター相手なら、皮膚を貫通する程の威力までに成長させている。これによって、近接も遠隔も益々隙が無くなって行く来栖家のエースである。
護人も見習わなければと、弓矢で遠隔の対応をまずこなしながら。近接では《奥の手》での殴り攻撃で、相手を
これならレイジーには負けないが、ダブルタスクはやっぱり大変である。弓矢の攻撃も、結局は『射撃』スキルに頼っているので、疲労が大きいのかも知れない。
それに関しては、レベルの上昇と共に緩和はされて行ったのだけど。最初の頃は3~4層潜るだけで、疲労
やはりレベルアップの恩恵は素晴らしい、最近は農作業を丸1日やってもバテない身体になってしまった。“変質”に過剰反応する者も多いけど、護人からすれば良い変化だと思う。
そしてこの層も、10分と掛からずに踏破してしまう剛腕チーム振り。段々と楽しくなって来た護人だが、この層は大蟹や大鹿もいてさすがに少し
それでも予期せぬ茶々丸の加入で、萌も騎乗してのアタックが可能になったのが幸いして。その両者の合体パワーは、大蟹の硬い甲羅も一撃で大穴を開ける程。
なんだかんだ言って、このコンビは息もピッタリだ。
「おっと、この景色は見覚えがあるな……確か、前回の探索ではそこの滝の後ろに、宝箱が置かれてあったんじゃなかったっけ?
他にも、大き目の木の
その辺の変化があるのかないのか、良く分からないけど確認する時間くらいはある。護人はペット達を休憩させている間に、その辺の確認作業をこなす。
やはり少人数だと、1人に対する負担が増えて大変である。ペット達の体調管理だとか、宝箱の確認だとか。こんな時こそ、家族のありがたみが良く分かると言うモノだ。
レイジーは何も言わないが、召喚した2体の炎の狼はそのまま維持している。やはりツグミとコロ助の不在は、いつもと違って物足りないのかも。
それよりムームーちゃんだが、今まで際立った活躍は無しと言う結果に。やはり初のスピード攻略に面食らっているのと、奥ゆかしい性格のせいだろうか。
何しろ彼の性分は、敵と争う位なら隠れてやり過ごせなのだ。ハスキー達の深夜のノリに、やっと最近慣れて来たみたいではあるけど。
その成果は、現状はまだ出ていないよう……護人も一緒なので、その安心感もあるせいかも。それでも末妹からは、しっかり鍛えてあげてと送り出された事でもあるし。
せっかくなので、少しくらいは活躍させてやりたい気も。
「それじゃあムームーちゃんも、俺の肩に乗ったまま攻撃してみるかい? せっかくだから、この間覚えたスキルとかも使ってみたらいいよ。
《水柱》だったかな、妖精ちゃんの融通で新しいスキルを覚えたんだろう?」
その護人の問いに、返って来るのはムームーと言う意味不明の鳴き声だけである。それでも《心話》スキルのお陰で、肯定的な返事があったのだと理解して。
ガンガン使っていいぞと言うと、心得まちたと肩の上のムームーちゃんの返答が。軽いノリの返事だったが、スキルの使用は割とえげつなかった。
特殊スキルなので、それなりに強いかなと護人も推測はしていたけど。どうやらムームーちゃんは、炎よりも水属性の方が相性は良かったみたいで。
彼の創り出す水の槍は、雑魚モンスター程度なら一撃で滅ぼす力を備えていた。それを一度に最大3本、操るムームーちゃんはかなりのハンターなのかも?
お陰で次の9層も、10分を切る好タイムを叩き出す事に成功した。ちなみに滝の後ろには、しっかりと宝箱が設置されてあってそちらは回収済み。
その中身だけど、今回も腐葉土やら正体不明の苗などが一緒に入っていた。後は薬品類やら魔玉(土)やら、木の実やらが一緒に出て来た。
それを回収する護人と、お手伝いを頑張る萌は何ともいじましい性格である。ムームーちゃんと言う新入りが入って来たと言うのに、末っ子気質が抜けないと言うか。
そんなペット達の性格は、護人は全て把握済みである。そうして、なるべく褒めて長所を伸ばして、この家族チームを破綻しないように運営するのがベスト。
それをレイジーも手伝ってくれるし、子供達にしてもそうである。末妹の香多奈でさえ、我儘三昧に見えてペット達には案外と接し方が優しいのだ。
来栖家チームの1年でA級昇格は、ひとえにそんなチーム運営の手腕によるモノだと護人は思っている。半分以上はペット達のお陰であり、自分達はその恩恵を受けたに過ぎないと。
今回の探索もそうで、鍛錬の方法をレイジーに教わっている感じ。
このスピード探索のメリットは、色々あるけど時間短縮とスキルの鍛錬に他ならないだろう。咄嗟の戦闘が続くので、スキル2~3つ以上の併用が当然の事となっているのだ。
それに慣れれば、もちろん探索者としての地力もアップする。判断力の訓練にもなるし、まぁ魔石の取りこぼしが増えるのがデメリットではあるけど。
萌がそこをフォローしてくれて、まずは満足の行く訓練結果だろうか。そうして10層も、中ボス部屋を含めて何と15分でクリアに至ってしまった。
前回は、10層がコアのある大ボスの間だったけど、このダンジョンも成長を遂げている模様。護人は宝箱の中身を回収して、ついでにとコアを求めて次のフロアへ。
スピード探索だと言うのに、お供のペット達に疲れは全く見えない様子。むしろ活き活きとして、ご主人と一緒の攻略を楽しんでいるみたいだ。
結局その少人数チームでのダンジョン攻略は、コアのある12層まで終わる事は無かった。そしてボスである大猿の群れを撃破して、コアを破壊してようやくの区切りに。
残念ながら目ぼしいお宝はゲット出来なかったけど、まずまず鍛錬にはなったし、とにかく刺激的だった。
こうして、キッズチームの鍛錬の筈の“山間ダンジョン”探索は、思わぬ形の終焉を迎えるのだった。いや、お互い鍛錬になったので良かったのだろう。
巻貝の通信機で帰りを告げると、向こうは素直に入り口で待ってくれていた。それに安心した護人は、大急ぎで戻ると末妹に告げて。
薔薇のマントに、覚えたばかりの飛行走りをお願いするのだった。
――それに負けじと駆けるペット達も、超楽しそうで何より。
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