第590話 キッズチームの頑張りで5層に到達する件



 キッズ達メインの探索も、無事に3層の探索を終えて今は4層へと辿り着いた所。前衛を張る茶々萌コンビも、後ろからの重圧にめげず頑張ってくれている。

 護人も同じく、子供達の面倒を見ながら影からのサポートはとっても大変だ。特に神経をすり減らす役割を、文句も言わずこなしているのは称賛に値する。


 ダンジョンのランクが低いので、恐ろしい敵や仕掛けが出て来ないのが大きい。それから1度探索済みで、その時の情報もしっかり把握しているし。

 そんな“山間ダンジョン”に、変に尖った成長が見られないのも探索が順調な要因かも。たまにダンジョンの中には、新リニューアルで大きく変化する奴もあるらしい。


 探索者仲間からそんな話を聞いて、コア破壊後の探索なので一応は気を配っていたけれど。取り敢えずは今の所、リニューアルの気配も見付からず良い調子。

 和香と穂積も、同じ事の繰り返しにも段々と慣れて来て、ゴブリンのあしらいも形になって来た。茶々萌コンビもそれ程出しゃばらず、キッズ達にも獲物を残して戦っている。


 ただし、4層の弓持ちゴブリンの討伐は真っ先に行ってくれて大助かりの護人。萌はまだ子供とは言え、その辺をしっかり考えてくれてるのはとっても偉い。

 茶々丸に関しては、あまり大きな進歩は見れないけれど。それでも戦いに関しては、失敗も無く頑張ってくれている。彼にとっては、大コウモリもゴブも雑魚扱いってのもあるけど。


「ふうっ、順調だから少しだけベースアップしたいけど……穂積ちゃん、まだ鶏頭パペットの操作を続けていけそう?

 駄目なら少し休憩するか、コロ助に交代して貰っていいよ」

「大丈夫、この層が終わるまでは頑張る……5層に到着したら、僕は下がるね」

「偉いぞ、自分の限界を見極めれるのもちゃんとした進歩だからね。それじゃあ、あと少しだけ頑張ろうか。

 和香は5層の中ボス部屋攻略も、その位置で頑張るつもりかい?」


 護人の問い掛けに、お姉ちゃんの和香はもう少し頑張るとの返事である。穂積が思ったより頑張ったので、負けられないとの思いが芽生えたのかも。

 それもまぁ勉強だと、護人は脳内で中ボスの間のフォーメーションの変更を模索中。ペット達だけで活躍しても、キッズ達の戦闘経験値は得られない。


 その辺を考慮に入れつつ、全員が満足する程度に活躍させるのはやっぱり大変だ。ちなみにさっきの3層の支道の小部屋では、この探索で初の宝箱とご対面が出来た。

 宝箱と言っても、廃棄されたペット用のキャリーケースだったけど。ひょっとしたら、ペットを山に捨てに来た飼い主が、犬猫と一緒に放棄した物なのかも。


 ペット遺棄に際して、山で自然に戻って生き延びてくれなど、ただの都合の良い幻想でしかない。子犬や子猫だと、まず間違いなくカラスや狐に頂かれてしまう。

 大人の犬猫でも、山の中で獲物を取って生き延びるなどまず無理な話には違いなく。結局は命の不法投棄でしか無いのだが、実際にはたまに見かける風景である。


 そんな話をキッズ達にしたくない護人は、さっさと中身を回収してケースはそのままに。宝の中身にしても、鑑定の書や魔玉(土)や薬品類と定番の品ばかり。

 金品の類いも、獣人たちが使っていた貨幣かなって奴が少量とショボ過ぎである。毛皮素材が少量混じってたけど、犬猫のモノで無いのを願うばかりの護人である。


 そして支道の小部屋の戦闘では、兎の戦闘ドールとムームーちゃんの無双が続いていた。ムームーちゃんに関しては、探索でゲットした虹色の果実を香多奈が食べさせたりと、過保護が酷いので。

 力と言うか、レベルの上昇に関しては仲間に負けていない筈。それにしても、妖精ちゃんの操作レベルも侮れない程に上達している気が。

 これには、同じく『念干渉』で鶏頭パペットを操ってた穂積もビックリ。


「さっきヘバってた癖に、妖精ちゃん頑張ってるねぇ……MP量が多いのかな、錬金スキルでも魔力使って、アイテム強化とかしてくれてるもんね。

 ナリは小さいけど、やっぱり妖精ちゃんはスーパーなんだよっ。紗良お姉ちゃんも、師匠って呼んでるくらいだもん」

「そうなんだ、敵わなくて当たり前だったんだね……でもやっぱり、最初よりバテて来てる感じがしないかな、妖精ちゃん?」

「まぁ、所詮は小っちゃいからね、妖精ちゃんは」


 言ってる事がチグハグだが、妖精ちゃんの評価は悪くはない様子。そうこうしながら、多少チーム編成を弄りつつ4層も無事にクリアして。

 5層も同じく、撮影役に回った穂積は後衛から香多奈と一緒に頑張れを連呼する。まぁ、香多奈のそれはスキル効果が乗っかってるので、実は非常に疲れるのだが。


 そんな子供達の賑やかチームは、頑張った甲斐あって何とか5層の中ボスの間へと到達した。ここはさすがに手は抜けないけど、今までの陣形でも悪い事は無さそうな気も。

 何しろ、茶々丸はともかく萌の前衛振りは、意外と侮れない鉄壁さなのだ。腰にうごめく鎖の防御は、下手したらそれだけで2人分の働きは果たしているかも?


 その上での、『紫雲竜の鎧』と『紫雲竜の盾』持ちは、相手取るゴブリンにとってはどこを殴れば良いのって感じ。今日は安全を考慮しての盾と片手剣スタイルだが、それも無難に使いこなしている。

 とは言え香多奈は、将来的には萌には完全な竜のスタイルで探索に同行して欲しいみたいだ。その方が断然格好良いし、周囲から羨望の眼差しを浴びるに違いないので。


 そんな成長した竜形態の萌に乗っかって、ダンジョンを練り歩くのはとっても楽しいに違いない! そう思う香多奈だけど、果たしてそこまで成長するのは何年後になる事やら。

 それは恐らく、萌自身にも分からない問題なのだろう。現状では、子供達に身体のサイズが大きくなったと指摘されて、戸惑いしか無い萌だったり。

 何しろ大きくなり過ぎると、邸宅から追い出されて外飼いと宣告されているのだ。



 そんな仔ドラゴンの悩みはさて置いて、5層の中ボスの間の攻略はコロ助も参加して良い事になった。大事を取っての作戦だけど、結果を言うとこれは護人からしたら大失敗だった。

 ようやくの出番に張り切り過ぎたコロ助が、何と中ボスの大クマを瞬殺してしまったのだ。これでは中ボス戦に参加したなど、とっても言えないキッズ達である。ご主人の香多奈はおカンムリ、これには尻尾を丸めて反省ポーズのコロ助だったり。


「まぁ、仕方が無いよ……コロ助ちゃんも、出番が貰えて嬉しかったんだよね? 取り敢えず、中ボスの間は前にも入った事はあるし、いい経験になったかな?」

「そうだね、キッズチームで5層に来れた事に意義があるよ」


 前向きな発言をする和香と穂積だが、香多奈は今一つ物足りない様子だ。それでも約束なので、今日はこれにて帰宅の途につくのは決定済みである。

 そこだけは譲れない護人は、早く気苦労から解放してくれと子供達を急かして元来た道へ。既に宝物の回収も、昼食休憩も終わっている。


 ちなみに紗良に用意して貰ったお弁当は、しっかりみんなで美味しく頂いた。ダンジョン内での昼食はすっかり定番化してしまったけど、ハスキー達もおこぼれを貰って満足気である。

 思い切り叱られていたコロ助も、和香にちゃっかり分け前を貰って気分は全回復したみたい。後は帰るだけなのだが、ここに来て香多奈からクレームが。


「ねえ、叔父さん……このダンジョンは町からも離れてるし、しっかり間引きしておいた方が良いんじゃない? 私達はちゃんと地上に戻るけどさ、叔父さんとレイジーだけでも10層くらいまでなら行けるんじゃないかな?」

「いやいや、ここから別行動なんて絶対にダメだよ」


 しかも問題児の香多奈である、ちゃんと地上に戻ると言う約束を守らない可能性もある。戻るにしても、帰路が完全に安全だと言う保証も無い訳で。

 コロ助と萌がいれば、安全度はかなり高まるだろうけど。この両者は、ハッキリ言って香多奈の言う事に従い過ぎて、全く信用出来ないと言うデメリットも。


 それでも香多奈は、ダンジョンコアは破壊すべきだとの考えを譲らない。せっかくここまで来たのだし、護人とレイジーの実力ならそれ程手間ではないだろうと。

 確かにそうだけど、その間の子供達のお守りは誰がするのか問題はかなり大きい。保護者としての責任感は、大人として間違っても放り出せない。


 そんな言い合いの中、珍しく香多奈は折衷案を述べて来た。つまりはルルンバちゃんとズブガジを呼び戻して、彼等に地上までのガードを頼むのだ。

 確かにそれなら安全度は増すかも知れないが、地上までの道のりはやはり心配である。そんな訳で、最終的には護人も1度子供達と一緒に地上に戻る事に。


 戦闘も無い一直線の本道ルートなら、地上まで30分程度だろうか。それから地上でルルンバちゃんとズブガジと合流して、護人とレイジーで再突入するのなら悪くはない。

 お供には、萌とムームーちゃんだけでも連れて行ってあげてと、こちらは割と必死な末妹の推薦に。それ位は仕方ないかと、ようやく最終的な流れは決定を見せた。


 和香と穂積も、それで良いと地上で数時間待つ事を承知してくれて。護衛にルルンバちゃんとズブガジがいれば、ほぼ無敵に近いよねと頼もしいセリフも。

 まぁ、コロ助と茶々丸もいるのだが、そこはご愛敬と言う事で。そんな訳で、仲良く隊列を組んで地上を目指す一行であった。香多奈はその間に、ルルンバちゃんを巻貝の通信機で呼び戻している。

 もちろん向こうは喋れないので、一方的な通知ではあるけど。


 それでも返信を、雰囲気でしっかり受け取った香多奈は何気に凄いかも。すぐにダンジョン前に集合してくれるだってと、彼の代弁は少女にしか出来ない特技だろう。

 その言葉はしっかり合っていて、無事に“山間ダンジョン”の前で集合を果たすキッズチーム&魔導ゴーレム2台。ルルンバちゃんは、役割を果たせてとっても嬉しそう。


「ふうっ、やっぱりダンジョン出ると疲れが一気に押し寄せて来るねぇ。この間の“落合川ダンジョン”とは別の疲れかも、真ん中の位置って初めてだったから。

 でもいい勉強になったね、穂積」

「うん、僕も疲れた……」


 和香と穂積は、探索の緊張感から解放されて一気に気が抜けた状態になった模様。香多奈はそんな友達に飲み物と甘味を用意しながら、僕にも何か頂戴と寄って来るコロ助を邪険に扱っている。

 護人の方はと言えば、香多奈の言い出した案を脳内で考慮中。確かにこんな山の中に、ダンジョン間引きだけを目的に何度も通うのは不経済だ。


 農家の仕事はのんびりしているようで、実はやる事も多いので二度手間を嫌う傾向がある。護人もまさにそうで、その手間を他のチームや自警団に押し付けるのも気の毒だ。

 結局は、相棒のレイジーや萌の具合をチェックして、全く疲れてないのを感じ取って。何しろ今日は付き添いだけで、全く戦闘の機会は無かったのだ。


 そんな彼女は、この後の探索の気配に無言の圧を主に掛けて来る始末。ようやく巡って来た暴れる機会に、テンション高く護人に早く行こうと誘っている。

 子供達は一仕事終わらせた満足感で、ほわほわした空気の中お喋りに興じている。ダンジョンの前とは言え、この場はそんな危険では無いのを確認して。


 それじゃあ香多奈の案を遂行して来るよと、休憩中の子供達に告げると。こっちは大人しくしてるから頑張ってと、励まされて送り出されてしまった。

 それから、ついて来ようとする茶々丸を何とか宥めすかして、萌とムームーちゃんに声掛けしての再チーム編成。この少人数での探索は護人も初だが、まぁ何とかなるだろう。


 逆に、ハスキー軍団を率いて夜中にダンジョンで経験値稼ぎをしているレイジーは、完璧に慣れっこなのかも。今も先頭に立って、まあまあのペースで駆けて行っている。

 そしてその駆け足は、5層の中ボスの間まで続く事に。お陰でたった10分で到着したけど、護人は途中から薔薇のマントの力を借りる破目に。


 この走法はかなり便利で、なるほど護人にしてはリミッターが外れた感覚である。今までチームの事だけ考えていて、自分の限界を知らなかったような気分。

 その限界の先には、果たしてどんな景色が待っているのだろうか。





 ――少人数でのダンジョン攻略、意外と楽しいかも?







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