第589話 キッズチームの“山間ダンジョン”探索が始まる件
そうして“山間ダンジョン”の入り口で、強力なユニットであるルルンバちゃんとズブガジと別れを告げ。心細さを
いや、そんな事を思っている者はいないのかも知れない。子供達の表情はどれもヤル気に満ちており、今日の主役は自分達だってその瞳が語っている。
実際、レイジーとコロ助は今回は後衛へ回る配置を言い渡されており。取り敢えずの前衛は、茶々丸と萌が担う事になりそうだ。
それから中衛は、『遠見』と『感知』で探索をサポートする和香と、鶏頭パペットを操る穂積が担う事になりそう。香多奈は後衛のいつもの場所だが、『炎の召喚杖』を手にヤル気はいつも以上に持っている様子。
そして期待の新人のムームーちゃんと、妖精ちゃんの操る白兎の戦闘ドールだけど。こちらは臨機応変に、出番を見付けてあげて出動して貰う形に。
まだまだ戦闘経験の浅い両者には、無理はさせられないってのが建前ではあるけど。どの程度が適量かなどは、やってみない事には分からないので。
その辺は、護人が見極めながら探索を進める予定。
「それじゃあ今から、この“山間ダンジョン”に入る訳だけど。動画で予習してるからって、必ずしも同じ敵や仕掛けがある訳じゃないからね。
ダンジョンは日々形を変えると言われてるし、魔素の濃度によって強い敵が湧く可能性も上がる訳だ。それじゃあ和香と穂積で、魔素鑑定装置を使ってみてくれ」
「「は~いっ」」
早速のお仕事に、多少舞い上がりつつ装置を扱い始める子供たち。この仕事は、来栖家チームも探索前に毎回行う大事な作業には違いないのだけれど。
魔素濃度でどれだけダンジョン内に異変が起こりそうか、その辺の見極め感覚は実地で養うしかない。これも経験なので、護人は手出しせず子供達の作業を見守るのみ。
そして案の定の濃度の高さに、背中に汗を掻きながら何でもないよの表情を崩さない努力の護人である。そしてやや高いから気を付けて進むよと、注意喚起からの突入の指示出しを行う。
前に行きたそうなハスキー達を
それを受けて、訓練なら仕方ないわねって表情のレイジー。仲間のスキルアップは、群れを従える彼女にとっても大事な事には違いないので。
ムームーちゃんの夜中の特訓も、まさにそんな感じで週に何度か行われていたり。同時に家族の絆の形成も担うので、決してお遊びなどでは無いのだけれど。
今回の探索も、お遊び気分なら後ろからレイジーのキツイ喝入れが飛んで来そう。もちろん子供達は、本気で自分達の力で探索する気満々である。
茶々丸や萌は、滅多に出来ないポジションにちょっと浮かれている様子。特にハスキー達のサポートが無いなんて、通常では有り得ない事である。
舞い上がってるそんなチーム員たちを、護人は手を叩いてゆっくりでいいから探索を進めるよと鼓舞する。そうして“山間ダンジョン”の間引き依頼を、このチームで始める事に。
そうして階段を降りた先の洞窟エリア、魔法の灯りをともして用心しながら進む一行の前に。さっそく飛び出して来たのは、雑魚の代名詞のゴブリンたちだった。
そいつ等は3匹いて、まずは茶々丸と萌で1匹ずつ相手をする。残った1匹は、穂積が鶏頭パペットを操って抑え込む流れに。和香も自前のボウガンで攻撃して、見事に初撃をヒットさせている。
心配しながら見守る護人&ハスキー達だが、どうやら問題は無かった模様だ。茶々丸も萌も、ゴブリン程度なら一撃で倒してしまえる実力の持ち主だ。
心配すべきキッズ達も、そこまで初陣の硬さはない模様。
キッズチームでの探索も、何度かこなして場数はそれなりに体験しているお陰かも。そう言う意味では、この探索も決して初陣とは呼べないのかも知れない。
とは言え、和香にはボウガンでの攻撃の他にも、最近覚えた『感知』での罠や敵の発見を頼んであるし。穂積にしても、最初から『念干渉』でのパペット操作をお願いしてある。
これらの集中力が、どれだけ続くかは試してみないと本人たちにも分からない。そこは護人の判断で、今回はギリギリまで追い込んでみる腹積もりではある。
何しろ、これだけサポートがしっかりしている探索業なんて、傍から見たら贅沢以外の何物でもない。それならなるべく経験値を蓄えさせて、次の糧にして貰った方が良い。
その後に和香と穂積が、凛香チームに混じる実力がつくかどうかはまた別の話だ。取り敢えずは探索の醍醐味やら苦労、それから命懸けの戦闘を体験させるのが今回のテーマである。
香多奈については、まぁ友達の活躍に刺激は受けているみたいではあるけど。元々が後衛スキルしか持ってないので、中衛に出すのもおっかない。
今日は紗良とミケがお休みなので、無理は出来ないし護人のカバー可能な範囲で子供達には頑張って貰う所存である。レイジーやコロ助もフォローはしてくれる筈だが、基本がスパルタなので限界まで放っておく可能性もある。
そこが怖くて、必要以上に気を張って戦闘の流れを注視してしまう護人だったり。初戦を見る限り、茶々萌の前線は優秀で後ろに敵を逸らす事は無さそうだ。
それでも敵が集団で出て来たら、慌ててしまうって場合はありそうで怖いかも。
「今のは良い感じだったね、その調子で慌てずに1匹ずつ処理して行こうか。敵が多い場合は、慌てず茶々萌に任せていいから。
いざとなれば、後ろからも応援が出動するし」
「は~い、僕のパペットもゴブリン1匹が相手なら何とかなりそう。でもやっぱり、操作し続けるって大変かも……問題は、どの位スキルが持続できるかかなぁ?」
「私の『感知』もスゴク疲れるよっ……ずっと進む先に気を遣うって、思ってたより大変なんだねぇ」
そう口にする和香と穂積だけど、探索の中心にいる充実感は感じている様子。行ける所まではこの調子で進もうと、探索の再開を前衛陣に告げて。
魔石も拾い終わってるし、その辺の仕事もとっても真面目な和香と穂積である。ただしちょっと前のめり過ぎて、途中でのエネルギー切れがとっても心配。
それでも1層は、ほぼ先ほどのパターンで出て来る敵を始末して行って良い調子。敵はゴブリンに大ネズミがメインで、集団でも最大4匹程度だった。
それから支道の小部屋にいる敵も、泥人形やスライムと情報通り。それらの始末は、新戦力の兎の戦闘ドールとムームーちゃんで担う流れに。
張り切る妖精ちゃんだが、手際は思ったよりも良かった。
白兎の戦闘ドールだが、普段は子供が抱いて持ち運べるのに適した大きさだ。それが稼働した途端に、みるみる3倍程度の大きさに膨らんで行くのだ。
顔付きもやや凶悪になって、ただしそれでも子供の腰くらいの大きさしか無いのだけれど。これで敵と戦おうと思ったら、体格的に不利な感じは否めない。
それをカバーするのが、自前で生成した鋭利な武器だろうか。それがフワフワの縫いぐるみの布地を破って、両手首から飛び出して来るのだ。
まさにヤル気満々、鋭利な刃の長さは30センチ程度で、戦闘ドールの大きさからすればバランスは取れているだろうか。そして獣の速度で敵に飛びついて、敵をズタズタに切り裂くと言う。
それを見学していたキッズ達からは、思わず悲鳴が上がる有り様。あんな可愛かった縫いぐるみが、凄惨な行為に及んじゃったととっても残念そう。
妖精ちゃんの方は、飛翔しながら喜色満面な様子である。何しろ自身の野望に、1歩近付いたとの確信が目の前にあるのだから。
ただし、やはりその稼働時間はあまり長くは無い様子でちょっと残念。MPだか理力だかを相当に消費するのか、1層が終わった時点で妖精ちゃんは既にヘロヘロ状態。
香多奈の肩に乗っかって、しばらく休ませてまくれと全身で意思表示を行っている。一緒に支道の小部屋で、真面目にスライム退治していたムームーちゃんはまだ全然余裕な表情なのに。
この好対照な新人2人だが、今後来栖家チームの戦力に数えられるかは不明である。まぁ、ムームーちゃんに関しては、より安定感は増している感じはしている。
恐らく夜のハスキー軍団の特訓に、懲りずに参加しているのだろう。順調にレベルアップを遂げている感はあって、期待の新人だねと香多奈も喜んでいる。
ただまぁ、彼の軟体ボディでは迅速な移動が今後の課題だろうか。
普段のハスキー達との特訓では、どうやら彼はコロ助の首にしがみ付いて移動しているらしい。その辺は情報通りで、ネビィ種は隠れるのは上手だが移動は下手な種族との事である。
種族の継続には、それで何とか釣り合いは取れていたのかも知れない。ただし繁栄に関しては、トンと不明で不安の感情しか湧いてこない。
果たして彼らの種族は、異世界で平穏な暮らしが出来ていたのだろうか。そんな事を考える護人は、この世界でムームーちゃんの健やかな成長を祈るのみ。
とにかくキッズチームは、何とか2層への階段を降りる事に成功する。そして態勢を整え直して、同じ陣形で次の層の探索へと挑み始める。
この層から、敵に大コウモリが混ざり初めて、上方にも注意を払う必要も出て来た。和香も大変そうだけど、前衛で戦う茶々萌コンビはそんな敵の対応も慣れたモノ。
武器やスキルを駆使して、近付いた敵にしっかりと対応してチームの安全を確保している。和香と穂積の、余裕の無さを上手くフォローしてあげてる感じだ。
そんな感じで、2層の攻略もまずは順調に進んで20分程度で終了の運びに。支道の小部屋は相変わらず、妖精ちゃんの戦闘ドールとムームーちゃんに担当して貰ってのクリア。
1~2層の支道の先には、残念ながら宝箱は発見出来ず。今日はミケさんがいないからねぇと、何となく悟った表情の香多奈の呟きは本心なのかは不明である。
とにかく、それ以外は順調に3層エリアへと到達出来た。
「まずまず順調だな、時間もそんなに掛かってないし良いペースだよ。中衛の2人は疲れてるだろうけど、その疲労がどの程度かを自分でしっかり把握しておくんだよ。
限界が来たと思ったら、無理せずに報告するように」
「そうだねっ、今日はルルンバちゃんが同行してないから、運んでは貰えないけど。本当に疲れて動けないなら、茶々丸に乗ってもいいからね!
代わりの前衛は、レイジーとコロ助がいるんだし」
雑な扱われ方の来栖家のペット勢だけど、優秀である事には変わりはない。護人はもちろん信頼しているし、茶々丸を運搬に使うのはなる程良い案かも。
逆にハスキー達は、ようやく出番が回って来たのとテンションが上がっている。和香と穂積はもう少し頑張れるよと、それに待ったを掛けている。
結局はそれが通って、3層の探索もさっきと同じ隊列で頑張る流れに。和香と穂積は、自分達の限界を見極めようと必死にスキルを操っている。
そんな友達を応援する香多奈は、マイペースでいつもとまるで変わらない様子である。護人としても、この末妹まで暴走されたらチーム管理が大変過ぎる。
ハラハラしている護人を尻目に、茶々丸と萌のコンビは順調に探索をこなして行く。いつもと違う陣形に、最初こそ戸惑っていたけど今は順応して良いペース。
出て来る敵も茶々萌からすれば弱いし、慌てる事は無いと気付いたのかも。ただし、後ろから感じるプレッシャーは、充分過ぎて下手は出来ない。
それを発しているのは、もちろん鬼監督のレイジーである。ヒヨッ子ばかりの陣形に、程良い緊張感を与えているかは定かでは無いけど。
或いは重圧を与え過ぎかもだが、それはご愛敬と言うモノだ。これはレイジーの群れでもあるのだから、仲間を鍛える権利はもちろん彼女にもある。
その点は、護人も信頼を寄せてる大きな部分に違いない。
――来栖家チームの将来は、そう意味では安泰かも?
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