第588話 キッズチームの探索計画が着々と進んで行く件



 姉の姫香が広島市に旅行に出掛けて、来栖家は確実に1トーンは静かになった気が。その分、末妹の香多奈が騒がしいのだけど、やはり喧嘩相手がいないのが効いていて。

 どこか本調子ではない感じの香多奈だけど、それでも子供達でのダンジョン探索の計画は譲る気はない様子。昨日も和香と穂積と一緒に、その計画について煮詰めていたみたい。


 それでもやはり、メイン戦力の双子がいないのは寂しい現状である。その分、香多奈は新戦力のムームーちゃんを鍛える方針に舵を切る予定ではいたりして。

 そのためのダンジョンをどこにするか、それがまずは最初の問題だ。子供でチームを組むのなら、遠征なんてさせて貰えないのは分かり切ってるし。


 来栖家の敷地には“ダンジョン内ダンジョン”も数多く存在するけど、難易度は総じて高めである。香多奈や来栖家のペットはともかくとして、和香と穂積には少し荷が重いかも。

 それからチーム構成も、ちょっと弄る必要があるかも知れない。レイジーやミケは確かに強いけど、強過ぎて子供達の出番が回って来ない可能性がとっても大きい。


 それだと子供達は、単に探索について行くだけのお荷物と化してしまう。確かに前回のキッズチームの探索では、ミケの超スキルの行使に助けられた記憶はあるけれど。

 ここはひとつ、もう少しチームをコンパクトにすべきだろう。


 その分、叔父の護人の負担は増えるかも知れないけど。子供チームと新入りペットが、大きく経験値を稼ぐには仕方の無い事だと諦めて貰って。

 和香や穂積とそんな計画を話す楽しさと言ったら、これぞ夏休み! って感じでたまらない。これを家庭の花火大会とかでお茶を濁そうとする大人は、間違っていると香多奈は思う。


「えっ、でも花火大会も楽しみじゃない、香多奈ちゃん? さすがに大きい打ち上げ花火はないけど、護人の叔父さんが町でたくさん買い込んで来てくれたんでしょう?

 そこは嬉しいって言ってあげなきゃ、さすがに可愛そうだよっ」

「そんなので、探索計画を有耶無耶うやむやにされたら堪ったもんじゃ無いからねっ! そんな訳で、紗良姉さんとミケさんはお留守番を頼むでいいかなっ?

 いざと言う時の回復役と、エースがいない布陣だけど」


 エースと言うより、ミケはジョーカーだよねと和香は心の中でちょっと思ったけれど。仔ドラゴンの姿の萌を抱っこしながら、それでいいよと追従の構え。

 穂積はちょっと心配そうだけど、新入りのムームーちゃんの出番も作ってあげなきゃと力説する香多奈に。結局は押される形で、それで良いと頷くしか無く。


 その隣で奇妙なダンスを踊っている、白兎の縫いぐるみには敢えて子供の誰も触れず。つまりは妖精ちゃんも、この秘密の子供会議には参加しているのだけれど。

 香多奈しか、この小さな淑女と意思の疎通が出来ないのでお隣さん的には微妙な相手である。やたらと偉そうだし、凄い能力を持ってるとは説明されているのだけど。


 やっている事は意味不明で、ある意味大蚊ガガンボと一緒にしか見えない和香と穂積である。そんな事を口にしたら、恐ろしい反撃がありそうで間違っても口に出来ないけど。

 とにかく、成長のためのダンジョン探索は和香と穂積にも有り難い計画だ。それが夏休みのイベントの1つと、楽しみだと盛りあげる香多奈も仲間として頼りになる。

 問題は、探索すべきダンジョンがまだ決まっていない事だろう。


「そう言う時は協会に訊ねれば良いんじゃないかな、香多奈ちゃん? ウチのお姉ちゃんは大抵そうしてるし、町ではそれが普通だよ?

 間引きが長い事されてないダンジョンは、依頼料が高くなるみたいだし」

「あっ、そっか……和香ちゃんてば、頭いいっ! それじゃあ今から、麓に降りてみる?」

「自転車で行くのは大変そうだけど、誰かに車に乗せて貰うの? 隼人兄ちゃん、何か麓に用事あるって言ってたかな?」


 ポツンと山の上の不便さと言えば、この交通手段の無さに尽きる。麓に降りるにも、足が無いと難儀するのでリンカやキヨ達ともなかなか気楽に遊べないのだ。

 それでも思い立ったら即行動の香多奈は、その辺の大人を取っ捕まえて麓に行きたいと強請ねだって回る。何しろ姉の姫香がいないのは、たった2日なのだ。


 その間にこっちも、華々しい業績を上げないと釣り合いが取れない。そんな焦りも含みつつ、何とかゼミ生の美登利に車を出して貰える渡りをつける事に成功する。

 子供達と護衛のコロ助とで、何とか小さな軽自動車へ乗り込んでいざレッツゴー。ついて来ようとする茶々丸を強引に引き留めて、麓に遊びに行って来るねと姉の紗良に言付けて。


 夏の日差しは今日も強烈で、蝉の合唱は容赦のないレベル。車のボンネットは暑さに目玉焼きでも作れそうな程、それを含めて夏休みって楽しいと香多奈は思う。

 美登利の用事は隣町への買い物だったらしく、帰りに拾うねと協会前集合を約束して貰った。それから勇んで乗り込む協会の建物、あらいらっしゃいと能見さんの挨拶に。

 依頼を下さいと、元気な声がこだまする。


「えっ、ええと……護人さんや凛香さん、チームのみんなは一緒じゃないのかな? 姫香ちゃんと双子は確か、今は広島市で教習を受けてる筈よね。

 子供だけじゃダンジョンには……ああっ、去年もあった子供チームの探索かな?」

「その言われ方は心外だけど、双子だけに経験を積まれたら差が開いちゃうからね! 私たちも叔父さん同伴だけど、ダンジョンに潜って経験値を稼ぐ事に決まったの。

 だからどのダンジョンに潜れば良いか、ちょっと相談に来ましたっ」


 流暢な香多奈の言葉に、あらそうなのと温和な笑顔の能見さんである。仁志支部長に至っては、その言葉が本当か確かめるために、こっそり護人に電話を掛けに席を外す仕草。

 それも当然、万一協会が子供達に依頼を出して、大ゴトに至って間違ってましたでは済まされない。能見さんも子供達に席を勧めつつ、お茶を出したりと時間稼ぎに余念がない。


 そして数分後には確認は取れて、離れた場所からの仁志のサインに笑顔で頷く能見さん。それからおもむろに、子供達に間引きが必要なダンジョンを説明し始める。

 いつもの業務なので、その口調に淀みは全く無い。とは言え、小学生を相手にするのは滅多にない事である。多少その笑みが固まりかけていても、仕方が無いとも。

 そんな能見さんが提示した依頼は、“ゴミ処理場ダンジョン”と“山間ダンジョン”の2つだった。ゴミ処理場は臭いが酷かった記憶がある香多奈は、山間の方の記憶を辿るのだが。


 アレは確か、野良モンスターの山狩りを遂行中に、偶然見つけた新造ダンジョンだった筈。そこから来栖家チームが突入して、見事コア破壊に至ったのだが。

 それも去年の秋の事、今年の春には活動を再開していたのを凛香チームが確認して間引きを行って。そこから再び、1シーズン放置状態となっているらしい。

 つまりはそろそろ、間引きの必要性が出てくる頃合いだとの事。


「あそこは山の中だから、子供達の足で行くのは大変でしょう? 他に良い場所見付けてあげるから、ちょっと待ってて貰えるかな?」

「えっ、私達は山の中の移動は平気だよ? 家のキャンピングカーは使えないけど、ルルンバちゃんに乗って行けば問題無いし。

 和香ちゃんと穂積ちゃんも、この依頼で良いかなっ?」

「えっ、お姉ちゃん達が春に行った所なんだ……いいよっ、そこにしよう」


 そんな訳で、呆気無く決まってしまったキッズチームの探索先である。後は準備を行って、明日の朝に家を出て探索へと向かうだけ。

 既に保護者の護人の協力は取り付けてあるし、後は姉の姫香に負けない体験をするだけだ。キッズ達は協会で依頼を受けてから、家に戻って動画で予習しようねと超前向き。

 こうして、夏休みの自由研究の内容は決定されたのだった。





 次の日の朝、人数分のお弁当を作った紗良は心配そうな表情で子供達を送り出す。もちろん護人が保護者枠でいるのだが、今回はミケもお留守番で良いとの話だし。

 しかも姫香とツグミもいないって事は、強力な前衛とトラップを見破る者がいないって事である。ダンジョンへの送迎は、ルルンバちゃんとズブガジが特別に協力してくれる事になって安泰ではあるけど。


 この協力の申し出も、お隣の皆さんの精一杯の心配の証とも取れる。ただし、異世界チームも星羅チームも、危ないから止めときなさいとは誰も言い出さず。

 家族である凛香や隼人も、毎度の事ながら心配しつつの送り出し。結局は、どこかの段階で経験を積んで独り立ちするしかないとの思いなのだろう。


 何より子供達は超ヤル気だし、水を差すのが一番やってはいけない事だとの認識である。後は護人を信頼して、探索成功の報告が上がるのを信じて待つだけ。

 保護者ってやっぱり大変だ、それは随伴する護人にしてもそうなのだけど。今回もサポート役のレイジーとコロ助に、頼むぞとの視線を向けての気合い入れ。


 重役を仰せつかった護人としては、出来る事はそれ位である。ルルンバちゃんとズブガジの送迎に関しては、本当に有り難くってこれで行きと帰りのスタミナ消費が抑えられる。

 後はダンジョン内での探索の方法だけど、新造ダンジョンだった“山間ダンジョン”は敵のレベルもそんなに高くなかった覚えが。つまりは、子供達やムームーちゃんの経験値稼ぎには確かりピッタリな場所には違いなさそう。


 罠や待ち伏せ系の仕掛けについては、今回はルルンバちゃんに頼る事になりそうだ。凛香チームの和香が、『遠見』に続いて『感知』と言うスキルを覚えたそうなのだけど。

 果たしてどこまで信用して良いやら、慎重にならざるを得ない護人である。


 そしてルルンバちゃんとズブガジに搭乗して、ギルドの皆に見送られて家を出発しての30分後。大まかな位置を覚えていた護人は、迷う事無く指示出しをして目的のダンジョン前へと到着を果たす。

 そして暫し悩んで、苦肉の決断……ズブガジに乗って山の間を進む際に、2度も野良モンスターらしき影を見掛けたのだ。これを放置したら、町に被害が及ぶ可能性が出て来る。


「そんな訳で、悪いけどルルンバちゃんとズブガジで、山の中を徘徊する野良モンスターを狩っておいてくれないかい? このダンジョンを中心に、主に町の方角に向けて重点的に。

 或いは、またどこかに新造ダンジョンが生えて来ているのかも知れないな。それを含めて、俺たちがここの探索をしている間だけで良いから頼むよ。

 指揮する者がいないけど、大丈夫かな?」

「えっ、ルルンバちゃんは中までついて来てくれないの? でもまぁ、そう言う事情じゃ仕方ないよね。

 確かにゴブリンっぽい奴が、山の中を移動してるの2度ほど見掛けたし」


 目敏い香多奈も、やはりそんな野良モンスターの影を見掛けていたようだ。和香は経験不足なのか、せっかく『遠見』なんてそっち用に便利なスキルを持っているのに確認には至れず。

 本人は、使う機会を逃してしまった事に気付いて悔しそう。まぁ、和香と穂積はルルンバちゃんに乗っていて、護人と香多奈はズブガジに騎乗していたので。


 情報の交換が儘ならなかったって事情もあるので、その点は仕方が無い。そう言った失点も含めて経験である、探索も町の警護もそう言う意味では奥は深いのだ。

 そんな事を話している内にも、ルルンバちゃんとズブガジの間でも話し合いは行われていたようで。任せておいてと、両者一斉に挙手しての依頼を受けたとのサイン。


 頼もしい限りだが、果たして上手く行くかどうかは全くの未知数である。今や敷地内の管理は、護人や家の者が何も言わなくても一流のルルンバちゃんではあるけど。

 山に侵入した野良モンスターの排除となると、果たして無事に遂行出来るかどうか。ズブガジも一緒となると、何故か不安が2倍になってしまう感は否めないけど。

 これも試練だ、経験で成長するのは子供もAIロボも一緒の筈。


「頼んだよ、ルルンバちゃんとズブガジちゃんっ……こっちも無事に探索して、お宝をたくさんゲットして来るからねっ! それから、ちゃんと帰りは迎えに来てね。

 あの山道を、暑い中えっちらおっちら歩いて帰れないよっ!」

「そうだな、一応ルルンバちゃんに撮影用具と巻貝の通信機を取り付けておこうか」


 そんな訳で、急遽の作戦変更にはあれこれと戸惑いもあるモノの。和香と穂積は特に心配もしていないようで、頑張ってねと2台の魔導ゴーレムを送り出す構え。

 護人も同じく、どうせ5層までは洞窟タイプのダンジョンだし、それだとルルンバちゃんは活躍出来ない可能性が高いので。苦渋の決断だけど、それで良かったとも。

 最悪でも、野良モンスターの駆除はやっておくべきだ。





 ――間引きにしても、戦力不足と感じたら途中で引き返せば良いだけの話。








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