第585話 双子の所属する即席チームが何とか決定する件



 今は全員揃っての立食パーティーの会場に移動しての、雑談しながらの食事中。姫香とツグミも、一応はその群れに混じっているけど受ける視線は腫れ物に近いかも。

 それはまぁ仕方が無いと、姫香は悟った表情で双子と合流を果たしてみたり。双子は何とも思っていないようで、その周囲にはしっかりとさっきの兄妹が控えていた。


 それから、姫香が前衛にと目をつけた体格の良い男の子もしっかりといるようだ。考えてみれば、姫香も本来なら高校2年生なので年齢的には差はないのだけれど。

 感覚的には、すっかり保護者気分が身に沁みついている姫香である。そんな訳で、双子にパーティ結成の進捗しんちょく状況を訊ねてみる。


 明日の用意がすっかり出来ていれば、後は食事を楽しんで部屋に戻って寝るだけだ。今年のビュッフェも割と豪華で、ホテルも頑張って食材を揃えてくれたみたい。

 周囲では、若い子たちが賑やかにそれぞれ食欲を満たしている。双子は自分達の食事より、ツグミに何か食べさせてあげようとそっちで盛り上がっているけど。


 姫香にしても、適当に腹を満たしたらすぐに引き上げる気満々である。ヤンキーたち2つの集団から、また不必要に絡まれでもしたら厄介だし。

 相手にそこまでガッツがあるとは思えないが、警戒が必要なのは確かである。


「えっと、こっちの兄妹が三原出身で、探索歴は半年の吉川すぐる君と瞳ちゃん。年上だけど、探索では荷物持ちくらいしかした事が無いんだって。

 一応はスキルも1個ずつ持ってるから、鍛えれば戦力にはなると思う」

「そんでこっちの男の子も年上で、庄原出身の向井しおりちゃん。高校生で、探索歴もそんなにないけど、一応『頑強』スキルだけ持ってるって。

 名前が可愛いよね、男の子なのにしおりちゃんって」

「やめてくれ、子供の頃からそれで揶揄からかわれてるんだ……それより、パーティに空きがあるならもう1人知り合いを誘ってもいいか?

 ギルドを通じての知り合いで、世羅の子なんだけど」


 そう言う向井の視線の先には、どことなく浮世離れした1人の美少女の姿が。黒衣のゴスロリ少女は、この立食パーティー場でも目立っていたが声を掛ける者は皆無の模様。

 残念美女みたいな女の子が存在するのは、姫香も何となく聞き及んでいたけれど。彼女もどうやらその類いらしく、同郷では無いけど知り合いの向井は気に留めていたようだ。


 世羅も庄原も、広島県の東に位置していて西広島在住の姫香にはあまり馴染みがない。世羅は高原や花の植物園があったり、後は高校マラソンが強いイメージ程度の知識で。

 庄原に至っては、昔は比婆山のヒバゴンでニュースになったなぁって感想しか無かったり。辛うじて芸備線が通っていて、向井は列車でここまで来たそうだけど。


 世羅から来た彼女は、市内まで来るのに苦労しただろう。それを言えば、復興問題でドタバタしている三原の兄妹も大変には違いない。

 急に声を掛けられた少女は、最初キョトンとしていたけどこちらに寄って来て真相に気付いた模様だ。つまりはパーティに誘われたのだと知って、とっても嬉しそうである。


 それにしても、ヤンキーにすら絡まれないボッチスキルは相当に凄いかも。今も双子に話し掛けられて、独特の返しをしている少女は名前を徳之島歩夢あゆと言うらしい。

 向井少年の言う通り、彼女は世羅の『疾風連合』ギルドに所属しているとの話である。三原奪還作戦の時に、そう言えば知り合ったかもとの姫香の言葉に。

 薄く笑うゴスロリ少女は、やっぱりちょっと不気味かも。


「まぁ、龍星と向井君が前衛やって、天馬と他の子がサポートすれば、明日の実習探索は何とかなるかな? 初心者の集まりチームだから、スキルの並びはそんなに期待してはないけど。

 双子が引っ張れば、恐らくは“スタジアムダンジョン”の5層くらいまでは楽勝でしょ。私とツグミがサポートにつくから、変な事故も起きないと思うし。

 そんな訳で、みんな安心して明日の探索には臨んで良いからねっ!」

「知り合いのA級探索者の同行なんて、物凄く心強いよねっ! ラッキーだなぁ、こんなチームに入れて貰えて……ほぼ素人だけど、明日は宜しくお願いします」


 そう言う吉川兄妹のお兄ちゃんは、体型からして痩せていて確かに頼りにはなりそうもない。一応スキルは『刃切』と言う、攻撃系のを持っているみたいだけど。

 妹のひとみは、『献身』と言う自身のステを他人に貸す変わった強化系スキルを持っているそうな。ただまぁ、現状は本人が弱っちいので、貸せるステータスも貧弱で役に立たないみたいだけど。


 姫香の見込んだ向井少年が『頑強』と言う前衛向けのスキルを持っているので、何とかなりそうな雰囲気だ。後は最後に参加した徳之島歩夢あゆだが、話し掛けるのが怖くて結局はスキルの並びを誰も聞き出せなかった。

 そんなオチを含みつつも、立食パーティーはいつの間にかお開きの時間に。テーブルの上に並べられていた料理は、終了時間には見事な程に全て消え去っていた。


 姫香は一応、年長者の責任もあってお腹が空いている者がいないか確認の声掛けをして。もしいたら、家から持って来たおやつや非常食を分け与えるつもりだったけど。

 幸いにも、皆が満腹だと口を揃えてその場は解散の流れに。双子もこの後集まろうぜなんて、声を掛ける性格でもないしその辺は仕方が無い。


 去年は知り合ったばかりの、陽菜ひなやみっちゃんと夜通し話してとっても楽しかった記憶がある。今年はそんな相手もいないので、姫香はツグミと一緒にさっさと就寝する予定。

 ただまぁ、寝る前に家の者に電話を掛ける位はしても良いだろう。香多奈が気を利かせて、グループ通話にしてくれれば家族全員の声が聞けるし。

 そんな事を考えながら、研修旅行初日の夜は更けて行くのだった――。




 そして2日目は、研修参加者の若者達に朝から多少の緊張が拡がっていた。実習訓練が控えているので当然だけど、思った感じにチームが組めなかった者もいるのだろう。

 そこも探索者の腕の見せ所……とまでは言わないが、コミュ力はどんな仕事でもある程度は必要である。敵を倒してお終いなんて、さすがに探索者業でも有り得ない。


 ソロの力なんてたかが知れてるし、探索者はギルドまたはチームを作って上手く運営をして行かないといけない。それには人を集める力だとか、コミュ力が必要なのも確かである。

 双子のチームは、何とかバランス良く6人チームを結成する事が出来て、第一関門は突破と言った所。頼りないメンバーも中に入るけど、要所は押さえているし問題はない筈。


 姫香に関しては、上手く双子チームのサポート役に収まる事には成功して一安心。ただし、今年は要注意チームが2つあるから目を離さないでくれとは言われたけど。

 例の不良2チームは、協会も何とか探索者デビューさせて、改善の余地をと願っている連中らしい。所得さえ安定すれば、おのずと乱暴する理由も減るだろうと。


 それは性根の問題で、無理なんじゃないかなとは姫香の個人の感想である。そんなチームに、サポートに入らされるベテラン探索者も大変である。

 是非とも頑張って、他のチームに迷惑を掛けないで欲しい。


 他人事ながらもそう思いつつ、新人たちの群れは市内を歩いて移動中である。午前中は朝食は各自でとの事で、その後軽く武器講習などが行われたのだった。

 前年度には無かった講習もあって、一般受けは前日の基礎講習よりずっと良かったようだ。その内容だけど、武器を色々と使用する事によってスキル習得の幅も上がって行くみたいなデータがあるようで。


 要するに、スキル書やオーブ珠の相性チェックの確率を上げるために、探索に関わる色んな分野の熟練度を上げておこう的な教訓らしい。その事実は最近少しずつ、ネット関係を中心に広まっているそうな。

 本当かどうかは、実はまだ充分なデータは取れていないそうなのだが。例えば毎日走り込みをしていた探索者が、スタミナ系のスキルを取得したとか。剣術を訓練していた者が『長剣』スキルをゲットしただとか。


 その手の話は幾らでも確認が可能で、多分そうなんじゃないかなとの研究者の話みたいである。姫香もそう言われれば、何となくそうかなと納得してしまいそう。

 新人探索者にとっては、スキルのある無しはとっても大事なポイントである。最近はスキル書も値崩れして来て、1枚15~40万円程度で買えるとは言え。


 やはり初心者にとってはお高い買い物には違いなく、ギルドに所属していないと新人が所有するのも難しい。そう言う面では、双子のチームは全員がスキル持ちの事実は立派である。

 まぁ、講習を受ける最低条件が、スキルを所有している探索者って事なのだろう。そんな優秀な人材を、基本を知らない事故で亡くすのは確かに協会にとっても不本意だ。


 各ギルドで教えてくれって話ではあるけど、ギルド加入は必ずしも強制ではない。そんな訳で、協会は毎年苦労してこんな研修会を開いてるって訳である。

 旅費やらホテルの宿泊代を考えると、相当な出費だろうに。


 その費用の中には、もちろん姫香の研修サポート代も含まれている訳だ。最初は渋っていたこの研修会への参加だけど、なかなか新鮮で研修内容も面白い。

 姫香はそんな風に考えを改めつつ、『トパーズ』の島谷姉妹と世間話をしながら集団の後に続いていた。こんな場所でも、ギルドの情報交換はとっても大事である。


 西広島の田舎に在住の姫香は、市内で活動している姉妹と較べると、やはり情報に接する機会は減る訳だ。今はネット時代とか人は言うけど、新鮮な情報が集まるのはやはり協会本部をおいて他にはないのだ。

 何しろダンジョン情報に対する、熱意が他とは段違いである。お抱えのスタッフや探索者の数も同じく、曖昧な情報の裏取りも素早く行えるし。


 そんな訳で、姫香はそんな情報を島谷姉妹から幾つかゲット。どうやら甲斐谷チームの、県北レイドは夏を迎えてなかなかに難航しているとの話。

 冬までには要所を全て終わらせたいと、協会本部は画策しているようなのだけれど。何しろ広島の県北と言っても、相当広いしたった数チームでは全てのカバーは無理!


 『ヘリオン』や『麒麟』ギルドも、全チーム出動の勢いでサポートをしているそうなのだけれど。B級ランク以上のダンジョンだけでも、数え上げても十以上は軽くあるそうだ。

 移動距離も半端ではないし、恐ろしく大変なのは想像しただけで分かる。


「去年は確か、海岸地域に不穏な動きがあるって、市内のチームは半分以上が警戒に当たっていたのにね。あれは確か、“アビス”の予兆を感じてたんだっけ?

 名が売れるって大変だよ、来栖家チームにもその内お呼びが掛かるかもねぇ?」

「予兆と言えば、“巫女姫”の予知が更新されたんだっけ? 今回は確か、海と山の両方あるって話じゃなかったっけ?

 姫香ちゃんは、探索に行くとしたら海と山どっちが好き?」

「まぁ、私は山育ちだから山の方が慣れてるけどね。海のダンジョンは、確か装備が無いと大変だって話じゃ無かったっけ?

 “アビス”もそうだったよね、移動に制限掛かるエリアとか」


 “巫女姫”八神の予知の更新の話は、姫香にとっては初耳だった。これは来栖家の末妹のナンチャッテ予言と違って、協会も信用を置いているみたいで。

 それによって、恐らくは有名ギルドにも依頼が行くのではないかとの島谷姉妹の読みである。そしてそのカードに、来栖家チームもしっかり混じっているだろうと。


 それは別に構わないけど、尾道旅行のある8月のバッティングは勘弁して欲しい。陽菜やみっちゃんとはなかなか会えないのだし、今からとっても楽しみにしている姫香である。

 家族旅行にしても、家畜を飼っているとなかなか気軽には計画が出来ない。先月と先々月に遠征はしたけど、アレは思い切り探索メインのお仕事上の話なのだ。


 確かに家族で旅行はしたけど、現地では困っている人がたくさんいて楽しむどころでは無かった。8月の旅行は、それとは違って心の底から楽しむつもり。

 それより、この研修旅行はどうだろう……双子が良い友達を作って、無事に実習訓練が終えられたら一応は成功なのだろうか。それとも、もっと成果を期待するべき?

 そもそも、サポート役の姫香の目的も曖昧あいまいだし。。





 ――去年の自分と比較して、そんな事を悶々と思ってしまう姫香だった。







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