第582話 協会の報告と“喰らうモノ”の後処理が完全に終わる件



 麓から上がって来た広島市の協会職員は、今回の“喰らうモノ”ダンジョンの完全封鎖にはどうやら懐疑的な考えのようで。本当にそんな事が、人間の手で可能なのかってスタンスらしい。

 それは護人も同様だが、持参した『魔素鑑定装置』は嘘をつけようもなく。昨日の討伐終了からの、ダンジョン脱出後の計測では劇的な数値が。


 そこまでは全国に知らしめるつもりは無いけど、とにかくその場の魔素はほぼゼロに近い数値に。コアを破壊されたダンジョンでも、決してそんな事は起こり得ない事をかんがみるに。

 どうやら鬼から貰った魔法アイテムは、上手く作用してくれた模様である。だからと言って、それで全国に数千~数万もあるダンジョンを、全て封鎖とはならないのは分かり切っている。


 何しろ、その魔法アイテムが何から作られていて、どう作用したかがサッパリ分かって無いのだ。複製が可能かも分からないし、ひょっとしたら副作用があるかも知れない。

 そんな訳で、協会のスタッフに詰め寄られても喋れる事はごくわずかである。そんな事より、護人の頭の中は柊木と三杉の結婚話でいっぱいと言う。


 この敷地の主として情けないが、2人の仲はかなり進展しており誰もが知る事実っぽい。少なくとも姫香や子供達は知ってたし、柊木の相方の土屋女史は新築の家を建てる気満々らしい。

 もちろん、彼女1人では無理だし専門職の手助けは必要である。ただしこちらには、ルルンバちゃんとズブガジと言う、疲れを知らぬ魔導ゴーレムが2体もいる。

 それを頼りに、彼女は敷地を切り開く計画を立てているみたい。


「あっちの敷地の奥側は、日当たりも良くないしあんまり適した土地じゃないよねぇ? ずっと空き地で、畑にするのも躊躇ちゅうちょしてた感じだもんね」

「敷地の奥は、ダンジョンの入り口も近いからねぇ……それならまだ、思い切って山を切り開いちゃって、お隣4軒の奥の方がいいんじゃない?」


 勝手気ままにそんな事を話し合う子供たち、そこは本人の希望もあるだろうに。まぁ、2人とも山の上で仕事を持っているので、ここを離れて麓にってのは得策ではないだろう。

 護人としても、本人たちからしっかり事情聴取をして、それから今後の決定を下すつもり。出し抜かれた感は強いが、まぁ本人たちが幸せなら良い事だと思いつつ。


 何とか、広島市から出向して来た協会スタッフの追及をかわして、ダンジョン完全封鎖の件は有耶無耶うやむやに。向こうとしても、今後の動向を確認しつつ、本当にそれが叶ったのかを確認するとの意見である。

 来栖家としては、どうぞドウゾと言うしかなく、鬼から貰ったアイテムその他についても公表する事に。それによって、鬼の中にも良い奴はいるよと世間にも知れ渡るだろう。


 変に鬼が敵対視されて、探索者や自警団に犠牲が出るのは望ましくないので。もちろん鬼の中には、今回追われていた鬼のように悪い奴もいるのも分かっている。

 何事も表と裏はあるし、まぁそれでも異世界の人たちとの交流は今後も必要だろう。“大変動”以降の世界の在りようは、既に異界と繋がって両者の交流は回避不可なのだ。


 それは“アビス”や“浮遊大陸”みたいな大物の存在を見ても分かるし、来栖家の敷地に居座るムッターシャチームを見ても分かる。鎖国を無理やり解かれた頃の日本のように、混乱と異文化交流はしばらく続くだろう。

 その混乱は増すかも知れないし、穏やかになって行く可能性もある。その辺は、護人のあずかり知らぬ事、まぁ大部分に関わっているのは不可抗力と言う事で。


 今回の大掛かりなレイド作戦に関しても、A級チームと大きな繋がりが出来てしまった。今後もお付き合いは続きそうだし、良い縁は大切にして行きたい。

 大型レイド作戦は大変だけど、探索業をこなすうえでは避けては通れそうもない。その点では、頼りになる異世界チームも今後は積極的に手を貸してくれそうだ。

 前途洋々とまでは行かないが、悪くない未来に期待する護人であった。





 次の日は、朝から愛媛チームの面々を送り出す作業で来栖邸は湧いていた。そんな中、阪波はんなみ鈴鹿はムームーちゃんを抱きしめて名残惜しそうな雰囲気。

 連れて帰っちゃ駄目かとその瞳は問うていたけど、ムームーちゃん自信がゴメンねとの《念話》でのお断りに。泣く泣くそれを断念する鈴鹿は、立派だと香多奈は思う。


 例えば昨日からお泊りしている、怜央奈とかならそっと鞄に押し込んで持って帰っちゃうかも。そう思ってしまう程、自由奔放なお友達である。

 それにしても、島根チームの男衆の落ち込み様が酷くって迷惑だ。そこで香多奈は、姉の紗良に相談を持ち掛けてみる事に。この場合、同じ姉でも姫香は役に立ちそうもないとの判断だったのだけど。


 相談している場面を見とがめられて、何で私じゃダメなのよといちゃもんへと発展する破目に。男女の恋愛事なんて、お姉ちゃんに分かんないでしょとの切り返しは見事にヒットはしたのだけれど。

 そんなの、“アビス”の『魔法転移装置』を貢げば一発じゃんと、姫香にしては良い解決案を出してくれた模様。そもそも陽菜やみっちゃん達とも、これをお互いゲットすれば頻繁に行き来出来るねと話し合っていたのが功を奏した形だろうか。


 天啓を得た形の島根チームの男衆は、なるほどと新たな目的を得て途端に元気になってくれた。本当に現金だが、ずっと落ち込んでいられるよりは随分マシとも。

 そんな訳で、愛媛チームとのお別れのシーンも辛気臭くならずに済んで何よりだった。向こうもまた会いに来るねと言ってくれて、今後とも良いお付き合いを続けられそう。

 それが島根チームに対しても同様なのか、今の所は不明だけど。



 そんなお別れのついでに、麓まで降りて来た一同は協会に毎度の依頼へと立ち寄った。つまりは、魔石の現金化と動画編集依頼である。

 動画編集に関しては、広島市の協会からも特にストップは掛からなかったのでいつも通りに能見さんに頼む形で。魔法アイテムについても、今回も事前に仕分けを済ませておいた。



【属性の宝珠】使用効果:使用者はスキル《闇腐敗》を習得

【心の宝珠】使用効果:使用者はスキル《暴食》を習得

【ヴィブラニウムの槍】装備効果:不折&貫通&衝撃・特大

【アダマンの長剣】装備効果:不折&鋭刃&筋力up・大

【ミスリルの篭手】装備効果:魔力&耐性up&着脱・大

【アダマンの鎧】装備効果:打撃半減&耐性up&着脱・特大

【ダマスカス鋼のブーツ】装備効果:ステータス全up&着脱・大

【ゴーレムの表皮】使用効果:土耐性&物理耐性up・永続

【呪いの魔装兜】装備効果:自傷&狂気&呪い・永続

【魔人の斬馬刀】装備効果:不折&切断&破壊・大

【リッチの法衣】装備効果:隠密&魔力&MP回復up・特大

【鬼の六角棍棒】装備効果:物理破壊&筋力up&憤怒・大

【貪欲の牙】使用効果:闇耐性&物理耐性up&腐敗貫通・永続

【ヴィブラニウムの神剣】装備効果:不折&鋭刃&霊断&封神・特大


その他:『強化の巻物』 (耐性)×2、『強化の巻物』 (防御)×2、『腐敗竜の爪』×4、『腐敗竜の骨』×5、『ルビーの指輪』(魔力&魔法防御up)×1、『ダイヤの首飾り』(防御&魔法防御up)×2、『サファイアの指輪』(魔力&耐性up)×1、『魔人の血』(秘薬素材)×800ml、




 何と宝珠が2個も回収出来た、今回の“喰らうモノ”ダンジョン攻略ではあったけれど。他の魔法アイテムもなかなか立派な品揃いで、さすが超A級だけの事はあった。

 ただし、ヤバい品も幾つかあって、宝珠《暴食》とか《闇腐敗》など名前からして怖い。呪いの魔法アイテムも混じっていたし、来栖家からしたらまたかって感じだ。


 ただまぁ、本当に良品もチラホラ混じっていて、そこは命を張った価値はあったかも。他の品についても、魔石や魔結晶は過去にないレベルで小以上の数が多かった。

 普通のお宝にしても、高級品の鞄や香水がやたらと多くて売るのも面倒そう。協会のスタッフにお土産で渡したら、そこは随分と喜ばれたのでまぁ良かったかも。


 スキル書やオーブ珠の数も、それぞれ8つずつと大量に回収出来た。スキルの相性チェックも、大宴会で騒がしかった日の翌日に家族で済ませている。

 その結果だけど、何と香多奈と萌が続けてスキルを取得して家族はビックリする破目に。久々の取得ってのもあるけど、所持数からしてもうそんなにスキルも増えないだろうと思っていたのだ。


 そんな予想を覆して、末妹の香多奈は『命中率up』と言うスキルを取得した。これは単純に、投擲攻撃に補正がつく類いのスキルで便利には違いなく。

 探索に参加した最初の頃から、香多奈は魔玉を投げたり水鉄砲で攻撃したりしていた実績もあるし。このスキルを得たのも、まぁ不思議ではないかなと家族も納得顔に。


 一方の萌だが、こちらはオーブ珠から《竜翼》と言う特殊スキルを得た。家族の面々も時々忘れるのだが、萌はアレで仔ドラゴンで相当珍しいペットである。

 実際に子供の癖に戦闘力は凄いし、本来ならもっと世間に騒がれても良い筈。性格の奥ゆかしさとか変身しての行動が多い事や、本来の姿の可愛さから危険とみなされていないだけの可能性が多々あるだけで。


 まぁ、来栖家チームに身を寄せていたのが最大の目くらましとの噂もあるけど。そんな萌の新スキル《竜翼》は、単純に翼を使った行動に恩恵があるっぽい。

 これで萌の竜っぽさが開花するかははなはだ疑問だが、とにかくパワーアップにはなっただろう。そう子供達に祝われた萌は、ちょっとだけ気恥ずかしそうな表情に。

 とにかく宝珠を除けば、久々のスキル所有でのチーム力の増加である。


 そんな事情を含めて、協会のいつもの席で能見さんにまくし立てる末妹は少し誇らしげ。新スキルを覚えた事で、またチーム内ランキングが上昇したと思っているっぽい。

 ただし、姉の姫香にやり込められるのは、それとは全く関係ないみたい。そんな騒がしい動画チェックの中、場面は次々と大物相手の戦闘風景を駆け抜けて行く。


 リッチーは凄かったとか、ドラゴンゾンビは宝珠を落としたとか。子供達の発言は、意外と呑気で自分達がそこにいたと言う現実感が割と希薄である。

 ところが、鬼と妖精との戦闘場面になると、そんな発言も自然と少なくなった。連中が悪モノだったのは確かだけど、戦わずに更生させる妙案もあったのかもと、護人も考えずにはいられない。


 ただし、それが“喰らうモノ”のシーンになると異端過ぎでそんな考えは湧きもしなかった。あの時は気付かなかったけど、動画内では魔人やインプも多数召喚されていたようだ。

 ほとんどが雷龍や火の鳥が始末してくれていたけど、そのサポートが無ければ危うかったかも。能見さんも、宝珠で出た《暴食》を指し示して7つの大罪ですねと小声でのコメント。


 つまり、使用は控えろとの遠回しの助言なのだろう。その辺は来栖家でも、こいつはヤバいスキルだとの認識は一致しており。現状ではお蔵入りが、ほぼ確実となっている次第である。

 そんな感じで動画視聴が終盤に入った頃、江川が今回の魔石の換金額を告げにやって来た。今回は大半が魔石のサイズが小以上だった事もあり、かなり行くかなと想像していたけど。


 730万円だとの事で、まぁ魔石(大)や魔結晶の大~特大をキープしてのこの額はまずまずかも。と言うより、普段の探索の査定額の倍以上は普通に凄いと子供達は大はしゃぎだ。

 最後に能見さんから、“コア封印”の魔法アイテム使用のシーンはどうするかと問われたのだけど。本部からも特に止められなかったし、ダンジョン魔素問題の解決に各方面に渡って光明が差す可能性もあるだろう。


 そんな軽い考えのもとに、気軽にオーケーを出す子供たち。とは言え、あの鬼から貰ったアイテムは、2度と入手出来ない可能性が高いけど。

 せめて“裏庭ダンジョン”くらいは、完全に機能停止させたいよなぁとは護人の正直な思い。それが叶うのは、まだ先の事と思うと少々気が重い。

 それでも可能性は見えたのだ、それを希望として日々邁進するべし。




 そう言えば、怜央奈の持って来た“巫女姫”八神からの手紙の内容だったけど。どうやら予知に日馬桜町の混乱が視えたそうで、それに関する警告文だった。

 特に夏の間は注意が必要、新造ダンジョンのオーバーフロー騒動が起こるかもって事で。そうなると、注意はしていても防ぐ事はほぼ不可能になって来る。


 それでも心構えをしているのといないのとでは、初動の速度が違って来るのも確かである。有り難く警告は頂戴して、町の自警団にも話を通しておかないと。

 そんな事を考えながら、護人は敷地内の裏山に穴を掘り終えていた。時刻は夕暮れ時で、夏の日中の暑さを避けての一仕事である。子供達は丁度、露天風呂に入っているのか喧騒が微かに届いて来る。


 それ以外に護人の近くにいるのは、護衛犬のハスキー軍団にルルンバちゃん位のモノで。お仕事なら手伝うよと、ルルンバちゃんは周囲の草刈りを行ってくれている。

 護人の掘った穴は、2メートル程度の深さで穴の幅もまずまず。『掘削』スキルを使ったので、それほどの労力では無かったとは言え気は重い。


 今まで、家畜やペットが死んだ時にも同じ気分を味わって来た。農家の常ではあるが、墓穴を掘るのはやはり憂鬱な気分になってしまう。

 薔薇のマントは心得たモノで、その奥へと2体の死骸を横たえてくれた。この子にも死と言う概念があるのかは不明だが、少なくとも収納塞ぎの厄介払いとは思ってはいないよう。


 それから土を入れたり、鬼の紅蓮の使っていた棍棒を一緒に埋葬したり。墓石代わりにとも考えたが、立派な棍なので知らぬ者が見たら勘繰る恐れもある。

 そして数分後には、粗末ではあるが一応の弔いの形は出来上がっていた。家畜と同等の扱いはこの際勘弁して欲しいと、護人は手を合わせながら心の中で祈りを捧げる。


 ハスキー達の気配で、後ろに何者かが近付いたのには気付いていた護人だったけど。まさか例の3体の鬼たちが、一緒に拝んでいるとは思わずたじろぐ破目に。

 彼らも同族の死に、悼む気持ちはあったのだろうか。





 ――夏の夕暮れは、まだまだひぐらしの鳴く声が騒がしい程。







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