第581話 全てが何とか無事に終わって日馬桜町に平穏が戻る件
かなり大掛かりなサポートを用意しての、“喰らうモノ”ダンジョン攻略は何とか無事に終了の運びに。その報告は、協会を通じて各所へとしっかり通達されて行った。
そして協会が主導してのお祝い会は、参加チームが全員参加して大々的に行われた。もっとも場所は、毎度の来栖邸の庭先で代わり映えは無かったけれど。
お金を支払うスポンサーが違うだけ、まぁ日馬桜町の協会支部の建物では、そもそもキャパオーバーでもある。お手伝い要員に駆り出されたお隣さんも、もちろん作戦の成功を祝ってパーティに全力で参加した結果。
祝賀会は、かつてない程の規模の人数と料理の数で賑わいを見せた。振る舞い役を買って出た協会のスタッフたちは、てんやわんやの右往左往。
それでも、紗良や美登利などのいつもの調理スタッフの活躍により、何とか破綻はせずに祝賀会は続いて行く。そして酒に酔う者が増えるにつれて、料理も簡単なモノにシフトして行き。
その頃には、紗良や調理スタッフも何とか食事の席に混じる事が可能になっていた。夕方から始めて既に1時間以上、宴はまだ終わる気配は無し。
「おおっ、みんなっ……俺たちの調理したピザが旨そうに焼けたぞっ。いいねっ、自家製のピザ窯が庭にあるって。
追加でどんどん焼こうか、次はどんな具を乗せるかな?」
「バーベキューも、まだまだお肉も野菜も焼こうと思えばあるよっ。お酒はビールが少ないけど、ワインや高級酒はたくさんあるからね。
どっちもダンジョン産だけど、ほどほどに飲んでねっ!」
「ええっと、女子チームはほぼ入浴は終わったんだったかな? 酒がそれ程まわってない男連中は、露天風呂に入って貰って大丈夫だけど。
飲み過ぎを自覚している者は、頼むから控えてくれよ」
そんなオーナーの護人の言葉に、それじゃあ入浴するかなと
岩国チームの面々は、既にちょっと
とにかく本当に頑張ってくれたのは確かだが、現状で風呂に入るのは控えて欲しい。そんな訳で、護人は最近のいつものメンバーと露天風呂へ。
島根チームもあれで意外とストイックと言うか、お酒の類いはほとんど飲まないメンツばかりである。その代わり、食欲とパートナー探しは旺盛みたいだけど。
今も女子が先に入った露天風呂に、興奮し始める島根チームを何とか黙らせて。探索の経緯などを話し合いながら、温かいお湯を楽しむ男衆であった。
ムッターシャに至っては、この場でもお猪口と魔法の酒瓶を離そうとはしていない。いつもの風景なので、護人も既に慣れて何も言わないけど。
そんなムッターシャの去就は、やはり気になって質問してしまう。
「そう言えば、ムッターシャのチームは“喰らうモノ”の討伐を、国かどっかから依頼されてたんだっけ?
それが成功したと、向こうに一度報告に戻るのかい?」
「いや、どうせ捨てた故郷だし討伐報酬だって出やしないさ。報告に行くだけ無駄だよ……それでも奴の討伐に
俺自身、今は割とスッキリしてるよ」
そんな事を述べるムッターシャの表情は、割と感慨深げでそこまでの道のりを回想でもしているよう。その返事に安堵した護人は、露天風呂から夜空を見上げてふうっと息をつく。
島根チームの面々は、少し離れた場所で騒がしく汚れと疲れを落としている。仲が良いのはいいけど、そのせいで彼女が出来ないのだとしたら少々気の毒ではある。
それから中庭の食事会の喧騒も、時折風に混じって聞こえて来る。それ以上に騒がしいのは、田んぼのカエルの大合唱だろうか。田舎の夜の風物詩だが、BGMにしては少々
この露天風呂も随分と機能は充実して来て、夜中に大勢で入っても何の不自由もない。掃除は子供達とルルンバちゃんが行ってくれるし、そう言う面では衛生面も素晴らしい。
魔法アイテムの虫よけ機を置いてるお陰で、田舎暮らしの大敵である虫も寄せ付けないし。今ではお金を取っても良い位の施設となっており、泊り客にも好評な程だ。
無論、女性陣の人気も高くてお泊り客の面々にも好評である。日に複数回入る人もいる位で、本当にお金を取って宿でもやればと言って来る人もいる程。
そんな事業は全く考えてない護人だが、ムッターシャは逆だったようで。山の上のお宿も、案外と流行るかもなと呑気な物言いである。
そしたら新婚のお隣さんに経営を任せるのも良いねとか言い出す始末。完全に寝耳に水の護人は、誰の事を言ってるんだと思わず問い質してしまう。
それにケロリとした表情で、ヒイラギとミスギだよと衝撃の返答のムッターシャ。
「ええっ、あの2人ってそんな事になっていたのかっ!? 知らなかったな、いつの間に……いやまぁ、柊木さんは意外としっかり者で、探索の腕以外にも手に職を持ってるしな。
三杉君にしても、塾での教える能力は子供達にも好評だしいい男だよ。麓でも先生に雇おうって話は、何度か出ているくらいだからなぁ。
いやしかし、あの2人がいつの間に?」
「ふむっ、ヒイラギも暇な時にはミスギの授業に参加してたしな……インテリと言うのか、元からそう言うタイプが好みだったのかも知れんな。
ミスギも最初の頃は太っていたが、今では健康的ながっしりした体型になってるし。毎日の労働は嘘をつかんな、机の上の勉強だけでなく実習をこなした結果だな。
今ではダイチ達と、ダンジョン内のデータ取りも日課だそうだよ」
そんなアクティブな活動を、ゼミ生達が行っていたのは報告では聞き及んでいたけど。まさかそんな他所の土地からの流れ者が、この地で結婚騒ぎとなるとは予想外。
そもそも本人たちは、結婚したとしてもその後もこの地に住み続けたいのか全く不明である。ムッターシャは家を建ててやれと気軽に言うけど、本人たちの意思確認が先だろう。
そんな話に、島根チームの面々も何事かと寄って来て騒ぎ始める有り様である。本当にパワフルな連中だ、午前中にハードな探索を行っていたとは思えない程。
彼らの動画もチェックしたけど、なかなか堂に入った攻略道中だった。男女混合チームも上手く機能していたし、大物攻略は慣れっこと言う雰囲気も凄かった。
若いのに大したものだ、いや柊木と三杉も確か20代中盤と若かった筈だ。それでもこんな山の上で、カップルが成立するのはめでたい事なのだろう。
護人的には大慌てな新事実だが、島根チームも結婚に対して真面目に考えるべきかと口にする始末で。愛媛チームのお嬢さん方と、まさかお付き合いが始まるのかとそっちも初耳である。
ムッターシャは、それならこの山の上の環境をお手本にすべきだと講釈を垂れ始めて。自分達で家畜を育て農地を耕し、鍛錬場所も休息場所も兼ね備えている。
居住者はみんな働き者で、ペット達ですら己の仕事に誇りをもって労働に従事している。かく言う自分達も、この地に惹かれていずれは自分達の居城を構えるつもりだ。
そんな場所なら、意中の相手も自然と寄って来るのでは?
次の日は、二日酔いから何とか回復した岩国チームが3チーム揃って帰路につくと言うので。来栖家の面々は、お土産の野菜等々をどっさり持たせて送り出す事に。
ついでに貸し出した装備品も、全てお金を受け取らずにプレゼントする事に。それだけの頑張りは示してくれたし、何より今後の付き合いもある。
向こうもそう言う事ならと、素直に受け取って貰えて何よりだ。何より今回のレイド作戦の参加と成功は、岩国チームの自信にもなったようで。
二日酔いのメンツを除いて、晴々とした表情で去って行った岩国3チームであった。もっとも、日馬桜町の青空市も近いので、また近々会おうと子供達と話し合っていたけど。
別れもそんな和やかな感じで、地元のお隣さん感は半端無い。次はレミィも連れて来てねと、そう言われたヘンリーはバリバリ二日酔いの表情でと言うオチ。
そして総勢14名も一気に減る事となった、来栖邸は随分と物静かに……とはならず、相変わらず泊り客が騒がしい。島根チームの男衆もそうだし、愛媛チームの
もちろんミケやレイジーは未だ触らせて貰えないけど、コロ助や茶々丸は何とか懐いてくれた模様で。萌やムームーちゃんもクリアして、今は鶏と
具体的には、子供達に連れられて卵の回収や乳しぼりを手伝っているのだけれど。それだけで楽しいみたいで、探索よりも随分とテンションが上がっているみたい。
そして香多奈が、動物の言葉も分かると聞いて大変な悔しがりよう。自分もそのスキル欲しかったと、A級ランクの探索者とは思えない無邪気さである。
それ故か、香多奈や和香や穂積とはすぐに仲良くなれて、こうやって敷地内を遊び回る仲に。香多奈は回収した牛乳と卵で、プリンを作って貰おうと皆に提案してご機嫌である。
やっぱり夏休みはこうでなくちゃと、和香や穂積ともども暑さも関係なく盛り上がる面々だったり。ハスキー達は、夏の気候がやはり苦手で逆に木陰で大人しい。
今年もハスキー専用の水浴び用のプールは、とっくに出していてそちらは好評である。洗われるのが大嫌いなコロ助も、そちらは積極的に利用してくれる不思議。
茶々丸に至っては、涼しい木の上に登って涼を楽しんでいる時があって。そんな場所にまさか仔ヤギがいるとは思わない、訪問者をビビらせて楽しんでいる。
そんな感じで、今年も夏の到来は子供達は大歓迎で楽しそう。毛皮の立派なハスキー達やペット勢は、逆になかなか辛そうでまぁ総じていつも通り。
レイド作戦終わりの休暇を満喫する愛媛チームだが、どうやら次の予定があるようで、早くも明日には地元に戻るそうな。その知らせを聞いて、嘆き悲しむ島根チームの面々である。
とは言え、さすがについて行くなどと言わないのは偉い。そんな喧騒に輪をかけるのは、突然広島市から遊びに来た怜央奈の存在だった。
彼女は一応、甲斐谷チームからのメッセンジャーの役割らしい。
「えっとね、まずは“喰らうモノ”攻略おめでとうだって……それから、来月の青空市は都合が悪くて行けないけど、その内直に会いましょうだってさ。
“巫女姫”八神さんからも、こっちは手紙を預かって来たよ、リーダー!」
「そっ、そうか……それはありがとう、今回も何日か泊まって行くのかい?」
「うんっ、あっ……これ甲斐谷チームのみんなからのお土産ですっ! 香多奈ちゃんも、もう夏休みに入ってるんだよね? 取り敢えず、ハスキー達とミケちゃんにも挨拶しなきゃ!
あっ、まだ島根と愛媛から来たA級チームもいるんだっけ?」
「いるわよ、家の部屋は余ってないから、泊まるなら私か香多奈の部屋になっちゃうわよ、怜央奈。香多奈達と遊ぶのは良いけど、A級チームのみんなに粗相はしないでよね」
大丈夫たよと明るく請け合う怜央奈は、いつも通りで天真爛漫と言う言葉がよく似合う。そう言う意味では、愛媛チームのエースの
それはともかく、賑やかさの減じない来栖邸は今日も人の往来が激しい模様だ。協会からも人が訪れるし、護人も朝から接客に忙しい。
そしてお昼時になって、ようやく家族揃っての食事の時間に。もちろんゲストの面々もいるのだが、昨日と違ってこの程度の人数なら、リビングでのお持て成しは可能である。
落ち着いた雰囲気の面々は、昨日の動画の観直しや回収アイテムのチェックを行っていたようだ。遊び
この機会にと、護人は隣に腰掛けていた姫香に例の噂話を確認してみた。つまりは、ムッターシャが酔っぱらいながら口にしていた、柊木とゼミ生三杉の恋話である。
姫香は知らないかもだし、結婚などより遥かに以前の段階なのかも知れないけれど。一応は確認してみようと、さり気なく訊いてみたつもりが。
姫香は以外にも、ほとんどの事情を知っていたようでキョトンとした顔に。
――その表情は、まるで護人が事情を知ってるのを珍しがってるよう。
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