第578話 悪鬼の逃亡者たちと死闘を繰り広げる件
ドラゴンゾンビが落としたのは、魔石(大)の他にも色々とあったようだ。その全部が値打ちモノだと太鼓判を押す妖精ちゃんに、末妹も喜びを隠し切れない。
まずはパッと見て分かる値打ちモノは、宝珠が1個と立派な爪が数本。爪はかなり多くて怪しい光沢でテカっており、他にも骨素材も転がっていた。
残念ながら、周囲に他の宝箱の類いは無い様子。それより酸の水溜まりの範囲が酷くて、さっさとこのエリアを抜け出たい。不幸中の幸いは、雑魚が近辺に見当たらない事だろうか。
大技を放ったレイジー達は、MPの回復休憩が必要ではある。護人は少し考えて、少し進んだ安全な場所で結界アイテムを使用して休憩する事に。
「6層も凄かったけど、7層も大物が待ってたねぇ、叔父さんっ。この分じゃ、次の層も絶対に何かいるよね!
その割には宝箱が無いし、このダンジョンは
「ダンジョンの侘び寂びって何よ、香多奈……それより次は8層だよ、いい加減そろそろ大ボスの間じゃないの?」
「そうだな、出来立てのダンジョンにしては階層が多いよな。まぁ、オーバーフロー騒動が起きなかった分、内側の成長に
“喰らうモノ”の考えは分からないけど、この先の道のりも大変そうだな」
そう呟く護人に、それでも終幕は近いよねと気合を入れ直している姫香である。紗良はエーテルをペット達に用意しながら、毎度の怪我チェックを行っている。
そんな中での家族の会話は、この後何層残っているかに尽きており。さすがにそろそろ大ボスの間に辿り着くんじゃないかと、通路の奥を覗き見ている。
ひょっとしたら、この奥に突然出現する可能性も大いにあるのだ。休憩時間を長くしてでも、全員の体調を万全に戻して探索に挑みたい所。
何か情報が分かるかなと、他のチームと通信を繋げる末妹だが当て外れの結果に。他のチームは探索に忙しいのか、言葉が返って来る事は無かった。
巻貝の通信機は、そう言う意味ではスマホなどには機能が数段劣ってしまう。こちらの言葉を一方的に伝えるだけで、ペアとなるもう1つの巻貝で返事をする事で通信機としてようやく成立する仕掛けなのだ。
ただし、スマホの電波はダンジョン内では全く通じないので、この魔法アイテムは探索で
そんな便利アイテムも、相手が通信に気付いてくれなければ何の役にも立たない。恐らく戦闘中なのだろうけど、向こうが無事に探索を続けている事を祈るのみである。
そんな訳で、来栖家チームも休憩を終えてこの“喰らうモノ”ダンジョンの探索を再開する事に。ドラゴンゾンビとの戦場だった大空洞の先は、普通サイズの1本道の空洞が続いていた。
そこをしばらく進むと、7層の突き当りへと辿り着く一行。
そして発見したのは、大ボスの間では無く8層へのゲートだった。どうやらダンジョン探索は、もうしばらく続きそう。来栖家チームの面々は、それぞれ覚悟を決めてゲートを潜って行く。
そして8層を目の当たりにして、少々の絶句タイム。
「あれっ、内臓の洞窟テイストは変わらないのに、いきなり分岐とか増えちゃうの? これは時間掛かりそう、見えてるだけで3本の支道があるよ。
しかも本道がどれか、全くヒントもないのは意地悪だねっ」
「ハスキー達は、分岐に関係なく右のルートを進み始めてるね。何か気になる臭いでも見付けたのかも、私たちも続こうか、護人さんっ」
「そうだな、こっちも周囲の気配に気をつけながら後に続こうか。道幅もさっきの層より狭いから、ゴーストの不意打ちにも注意して行こう」
了解との子供達の返事は、まだまだ元気で頼もしい限り。ハスキー達も、何かを追跡しているかのように道を選んで迷いなくダンジョンを進んで行く。
そんな8層の分岐ルートだけど、ツグミの『探知』はとっても優秀なのが判明した。空洞の突き当りに2度ほど進行を阻まれたけど、どちらにもしっかり宝箱が置かれていたのだ。
喜ぶ子供達だが、その内の1つは何とミミックだったと言うオチ。しかもかなりの難敵で、全員に囲まれながらもしぶとく5分以上の大暴れ振りだった。
仕舞いには、毒のブレスや嚙みつきや金貨の
ただし噛みつき技は、巨大化したコロ助が見事に喰らって、前脚が取れるかって程の大ダメージを受けてしまった。慌てる一行は、ミミックの口を開かせるのに必死。
護人が盾を放り込んで、ついでに《奥の手》まで突っ込んで敵の口のこじ開けには何とか成功。代わりに、反撃の金貨の礫はモロに体中に受けてしまった。
その弾速は洒落にならないレベルで、危うく『硬化』で防御した護人も体が穴だらけになりそうに。吹き飛ばされただけで済んだのは、完全にラッキーだったと言うしかない。
このミミックの外皮はとっても硬くて、武器やスキルではほとんど傷がつかない。上位になると魔法耐性も高いそうで、欲をかいた探索者泣かせのモンスターには違いない。
そんな子供達の苦戦を見兼ねて、ミケがようやく動きを見せた。ただしそれは本当に一瞬で、派手好きのミケにしてみればとっても奥ゆかしい雷撃での動き止め。
アレッと思わず手を止めた姫香だが、どうやらペット同士でのコンタクトは既に為されていたらしい。スルッといつの間にか前線に出て来た軟体幼児が、何とミミックの口の中へと侵入して行き。
《ドレイン》スキルを敢行したのか、それで完全停止する哀れな宝箱モンスター。
「あれっ、今の戦闘でミケはサポートをしただけっ? 今のは、ムームーちゃんが止めを刺したのっ!?」
「偉いねぇ、ミケさん……新人のムームーちゃんに、止めを譲ってあげたんだ? あっ、それよりコロ助は大丈夫、紗良お姉ちゃんっ?」
「何とか平気かな、完全に千切れてたら私のスキルでも危なかったけど。後遺症が無いと良いけど……コロ助ちゃん、動かしてみて平気かな?」
元のサイズに戻ったコロ助は、その返事に周囲を疾走して元気アピールに余念がない。これには仲間のレイジー達も一安心、もちろん護人や子供達もホッと安堵の吐息をつく。
それから茶々丸も、ミミックの大暴れに軽くない怪我をしていた。護人も礫をモロに受けて、怪我人として認定されて今回の治療は大忙しの紗良である。
その代わり、宝箱から出て来たアイテムはかなりの当たりが揃っていた。薬品も数種類入っていて、中には中級エリクサーや上級ポーションなど当たりも多数。
それから強化の巻物やらオーブ珠やら、魔結晶も中サイズや小サイズが割とたくさん。一番多いのが宝石や金貨で、こちらは床を覆い尽くす程に大量だった。
それを拾って鞄に仕舞う末妹は、とっても嬉しそうで満面の笑顔。お手伝いのムームーちゃんも、キラキラ光るこれらの品には興味津々の模様である。
妖精ちゃんもその中に
雑に金貨を吸い取って、理不尽に香多奈に怒られていたり。
「手伝ってくれてたルルンバちゃんを虐めるんじゃないわよ、香多奈……そんなチマチマ拾ってたんじゃ、収拾がつかないでしょうが。時間も勿体無いから、さっさと集めて次に行くよっ。
まぁ、さっきの宝箱よりは中身は良かったよね。ミミックの外皮の硬さには、本当に参ったけどさ」
「ムームーちゃんは本当にお手柄だったな、良くやったぞ。それからさっきの中身も、竜涎香とか入ってたみたいだからまるっきりの外れじゃ無かっただろう、姫香」
「そうですね、私の鑑定だと高価な品物も多かったと思います。でもやっぱり、インパクトではこっちの方が強いかなぁ?
金貨に宝石は、現在じゃあまり買い手がつかないけど」
先ほどの宝箱には、竜涎香の他にオリハル鋼のインゴットや魔法の装備品が結構入っていた。現在では、こっちの方が買い手がつきやすくて売れ筋である。
ここに来て、ようやく宝箱運も上昇して来て子供達も嬉しそう。とは言え、強敵だらけで怪我人が出まくってるのには、さすがに少し不安そうな表情をみせている。
大物との連戦で仕方が無いのだが、次に出遭ったのもまさにそうだった。ハスキー達が仕切り直しに進み始めて、ほんの数分後に広間のような場所に出たと思ったら。
そいつ等の生活空間だった様で、ヤレヤレって仕草でこちらを確認して武器を手に応じる構え。そいつ等の顔を直接見たのは初めてだが、護人は異世界チームから何度もその噂を聞き及んでいた。
奴らは隣町からここに逃げ込んだ、はぐれ鬼の一味に間違いは無さそう。
「ここまで追って来るとは、現地人も本当にご苦労な事だな。しかし餓鬼丸の奴を利用するつもりが、まさかこんな風に
俺たちも焼きが回ったモノだ……そうじゃないか、
「
さてト、楽しキ狂宴の宴の始まりジャ!」
黒い羽根の小さな妖精が、邪鬼のたっぷりと詰まった言葉をそう
そして気味の悪い腐肉の壁から、次々と生まれ始める鬼と妖精の手駒のモンスター達。それらは総じて醜く歪んだ容姿をしており、元はオークだったりオーガだったりするようだ。
それらの魂も、恐らくは“喰らうモノ”が犠牲にした使い回しなのだろう。その中に2匹の大型犬が混じると、末妹がアレは元ウルフハウンドだねと反応した。
そう言えば、奴らがここに逃げ込む前に行動を共にしていた、2匹の大型犬がいたとムッターシャから報告があった。どういう経緯か不明だけど、彼等の霊体も囚われのままなのかも。
とは言え、コイツ等は明らかにドラゴンゾンビより数段劣る雑魚たちだ。それを知って、紗良も幾分余裕の対応で《浄化》スキルを
それを根性で乗り切ったのは、2匹のゾンビ犬と巨体のゾンビトロル3体のみ。荒ぶる巨犬たちをツグミとコロ助が迎え撃ち、文字通りのドックファイトが始まった。
それをかき分けるように突進して来たトロルに、レイジーが炎のブレスで対抗する。ルルンバちゃんも壁役へと前へ出て行き、周囲は一気にお祭り騒ぎに。
その騒ぎに乗じて接近して来た鬼の
装備は布切れ同然で、まさに山の中で遭遇した鬼って感じ。それでも油断出来ないのは、向こうも炎系のスキルを所持して随所に使って来る点でも分かる。
それを受ける姫香も、ステップ防御はなかなかのモノ。
後衛のダークフェアリー、
今度は1つ目巨人軍で、あばら骨が飛び出してたり片腕が無かったり色々と酷い出来である。それでも咆哮を発しながら、主人の命令通りに次々と闘いへ身を投じて来る。
護人もゴーストの奇襲を気にしながら、前衛へと参加して追加の敵の抑え込みに掛かる。ちゃんとした意志を持つ敵の相手は慣れてないけど、そうも言っていられない状況だ。
琥珀の狂気は凄まじく、MPもダンジョンから供給されているのか無限なのかと思う程。紗良が何度か《浄化》を撃ち込むも、段々とそれでは倒せない敵も混じって来た。
具体的には、ガーゴイルやら奇抜なデザインのパペット軍団やら、そんな召喚モンスターが波のように襲って来る。パペット兵士の中には、デザインが奇抜過ぎて
そんな一連の行動に終止符を打ったのは、何といつの間にか紗良の肩からいなくなっていたミケだった。ギャッと言う、敵の妖精の断末魔が聞こえたかと思ったら、その場には口に妖精を咥えたミケが
どうやら『透過』を使って奇襲をかけていたようだ、それと同時にパタリと止まる召喚モンスターの群れ。ウルフハウンドの2体も、いつの間にやら戦場から姿を消していた。
ミケは敵の消え去った戦場を、ゆっくりと妖精の死骸を咥えて主人の元へと近付いて来る。特に自分の狩りの戦果を誇るでもなく、その姿は何やら感慨に
と言うより、子供達に教え諭しているのかも……ミケの行動には、一般的な善悪の区別はない。ミケにとっては、家族が善で
そして、家族を害する物全てが悪に外ならず。
――その意思を持つ覚悟を、護人は飼いネコに突き付けられるのだった。
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