第574話 かつての強敵と再度相まみえる件
4層ともなると、既に魔石(微小)を落とす敵は1体も出現しなくなってしまった。こんなダンジョンは過去に記憶がなく、さすが超A級ダンジョンである。
ゴーストの比率も多くなって、紗良や浄化ポーション入りの水鉄砲を用意した後衛陣はとっても忙しそう。そして落ちる魔石(小)を、嬉々として拾い集める香多奈である。
ここに来て、不気味な風貌の遺跡型エリアも通路が大きくなって来ており。この辺も予習した通りの構造で、出て来る敵もビッグサイズの奴らばかり。
ダークトロルは相変わらずで、ゴーレムも4メートル級が混じり始める始末。それから4本腕の大クマや、バスケ球サイズの目玉お化けの群れも出現して。
厄介な特性の敵が混じると、こちらの対応も大変である。こちらは護人の『射撃』とルルンバちゃんの魔銃で、浮遊する敵に応対するのだけれど。
欲を言えば、もう少し遠距離武器を扱う仲間が欲しいかも。
「スキル技の連続使用は、確かにコスパが悪いですもんね……まぁ、遠隔武器も弾代はただじゃないし、費用は馬鹿にならないですけど。
味方の被害を思ったら、確かに遠隔武器でサッと仕留めた方が断然いいですね、護人さん」
「そうだよな、使ってない高性能の魔法の弓矢は、家の保存庫にたくさんあって勿体無いんだけどな。俺だって『射撃』スキルが無けりゃ、こんな必中効果なんて間違っても無理だしなぁ。
それでも、もう1人遠隔遣いがいれば作戦の幅も広がるのに」
「そっかぁ、私が将来そうなってあげても良いけど……ここはムームーちゃんに期待かな? コスパが良ければ魔法でもいいの、叔父さんっ?」
そんな未来予想図を楽しそうに語る末妹は、恐らく探索者に向いている性格なのだろう。ムームーちゃんも同じく、この難関ダンジョンに追随して特に慌ててる感じも無い。
それよりも、群れで狩りをするチーム情景を改めて体感中と言うか。基本は群れで生活するネビィ種にとっては、その中にいる安心感は半端無いみたい。
そしてこの家族チームの絆は本物で、彼にとってはやはり居心地は最高みたい。今は自分で歩いているけど、平時の移動では大抵は誰かが抱っこしてくれるし。
そんなコミュニケーションから、家族の絆は深まるモノで。今では立派な来栖家の一員となった、異界の軟体生物のムームーちゃんである。
とは言え、たったレベル4の彼が活躍出来るような敵は、ここから先は出て来そうにない。今もバスケ球サイズの目玉が身体に纏わり付いた、4メートル級のゴーレムの出現を目の当たりにしており。
魔法耐性の高い目玉の化け物と、物理耐性の高いゴーレムの組み合わせは最悪と言うしか無く。一撃で全滅させるなんて到底無理、時間を掛けて周囲から
こちらは目玉お化けを先に片付けたいのだが、魔法スキルの効きが弱いので直接武器で殴るしかない。仕方なく近づいて、武器の届く範囲で戦闘を仕掛けるのだが。
そうすると、範囲に入ったのを見届けてゴーレムの超ド級の張り手が飛んで来ると言う。目玉の麻痺視線を浴びてる際にこれを喰らうと、ゲームセットなので相当気を遣う敵である。
そんな敵には、やはり護人の弓矢が一番効果的ではある。最近覚えた乱射は、一度に数本の矢弾を放つ事が可能な技で。『射撃』スキルも、極めればこんな技の補正もバッチリ。
それを見て、やっぱり遠隔攻撃の仲間がもっと欲しいねとの話題に戻る後衛陣である。そんな軽口が叩けるのも、余裕と言うかチームの調子が戻って来た証拠かも。
事前の敗北時の記憶から来る緊張が、ここまでの順調な道のりで上書きされた感じがする。そして目玉お化け&ゴーレムの手強い集団も、5分後には全て討伐を終えており。
ゴーレムの落とした魔石(小)と硬貨素材に、うひょうと変な声を出して喜んでいる末妹である。もっとも、目玉のお化けも魔石(小)のドロップなので変化はないけど。
「えっと、探索の進行具合からしたら、そろそろあの
「そうだな、この先は充分に気を引き締め……おっと、言ってる先から出現したかな? しかも今回は3体か、右端のミノは萌とルルンバちゃんに頼もうか。
俺は真ん中の鎧騎士の相手をするから、姫香は左の変種パペットを頼む」
「了解っ、護人さん……うわっ、両腕から剣が生えてるよ、アイツ。強そうだねっ、相手にとって不足はないよっ!」
そう口にする姫香は、闘志を体中から噴き出してヤル気が
残りの面々は、サポート要員って事になるのだが。相手を指定されなかった、コロ助や茶々丸はとっても不満そう。そんな不満に関わっていられない護人は、レイジーを従えて因縁の相手と再び斬り結ぶ。
前回は何とか辛勝したが、その後確か呪いを受けたのだったっけ。とことん厭らしい相手には違いなく、今回も決して油断は出来ない。
それにしても、ミノの特殊個体は騒々しくて落ち着きがない。今も真っ先に突っ込んで来て、ルルンバちゃんのカウンターパンチで吹っ飛んで行った。
どうやら女性の存在に興奮しているようで、紗良を掻っ
萌とルルンバちゃんのコンビは、鬼畜な敵の
萌のスピードも同じく、チェーン装備の巨大ミノタウロスを翻弄しつつ、黒雷の長槍で傷付けまくっている。残念ながら筋力不足で致命傷とはならないけど、新装備の『全能のチェーンベルト』の追加攻撃が割とエグイ。
しかも黒雷の付加効果で、ダメージ自体は随分と入っている感じを受ける。そこにルルンバちゃんのハードパンチ、身長が足りないのでそれが股間の急所を抉るような形で入ってしまい。
サカっていたミノタウロスは、気の毒な程に七転八倒する有り様。
一方の姫香は、初見のパペットにいきなり
コイツも思い切り特別仕様らしく、全能力値が半端なく底上げされている感じ。それをツグミとコロ助のフォローを受けながら、何とか相手をこなす姫香である。
自身も『圧縮』防御を使うのだが、信じられない事にそれすら真っ二つにされてしまう。危うく肩口から袈裟懸けに斬られそうになった姫香は、過信を反省しつつ回避行動を続ける。
コロ助も同じく、《防御の陣》を過信して途中で浅くない傷を負ってしまった。それを救助に入ろうとして、ツグミも相手の衝撃波をモロに喰らう展開に。
そんな隠し技も持っていたとは、さすがレア種級の難敵である。姫香も内心では焦りながら、背後からの末妹の『応援』に背中を押され。
コロ助を助けてあげてと、少女も必死の声掛けみたいだ。それから鋭利な変種パペットに向かって、バカ~ッとの末妹の『叱責』スキルでの弱体魔法が炸裂した。
あまり使わない手だけど、余程気持ちが籠もっていたのかこれがバッチリ
新武器の『天使の執行杖』も、持ち主の意思を汲み取って最大出力を捻り出してくれた模様で。胸をエネルギーの刃で抉られて、手強かった鋭利パペットは一気に行動不能に。
どうやら攻撃力は特化していたけど、防御はおざなりな敵だったようだ。
護人の相手の黒鎧の騎士は、その点防御力もピカ一で攻撃力も侮れない敵である。コイツに対しては、さすがのレイジーもさすがに攻めあぐねている感じ。
護人も“四腕”を展開しつつ、敵の鋭い斬撃を受けたり
その余裕は、敵との技量やレベル差が、以前よりずっと
それを踏まえて、サポートに入った紗良が《浄化》スキルでのサポートに徹してくれており。そのせいなのか、以前は馬鹿みたいにキレのあった黒鎧の騎士の動きはぎこちない。
それに乗じて、護人とレイジーの上下からのコンピプレーも冴えを見せ。その上、以前白百合のマントにしてやられた戦法を、薔薇のマントが模倣して今回初披露!
余程悔しかったのだろう、ただしその技のコピーはやや強引だった。
「あれっ、叔父さんのマント……何か湿ってる気がしない、紗良お姉ちゃん? 何だろう、腕に変形してて分かりにくいけどヘンだよね?」
「ああっ、アレは……《鑑定》によると、どうやら湿ってるのは浄化ポーションみたいだね? 霧状にして散布するのが無理だから、自分の本体に染み込ませてるとか?
でも暗黒系の敵だったら、あの状態で殴られるとかなりダメージ受けちゃうかもっ。今も私の《浄化》スキルで、かなり動きが鈍ってるからね!」
そう話し合ってる後衛陣は、あっちを見たりこっちに支援を飛ばしたりと忙しい。それでも特別に不利な戦況の味方はいないので、幾分か余裕が窺える。
そして護人の装備している、薔薇のマントの殴りの威力と言うかエフェクトがエグい。敵にブロックされても、浄化ポーションが飛沫をあげる程の全力パンチ。
さすがの呪いを振り撒く暗黒の騎士も、こんなバッチィ扱いを受けたのは初かも? おまけにレイジーが、戦法を変えて焔の魔剣&『魔喰』での斬撃を振る舞い始め。
それを足元に受けて、じりじりと魔力を消耗して追い込まれて行く孤軍奮闘の黒鎧の騎士。敵を追い詰める戦法は、さすがハスキー軍団のリーダ犬レイジーである。
暗黒の騎士も、このままではジリ貧と感じたのだろう……暗黒のオーラを噴出して、タダではやられない構えを見せるのだが。
それを阻止する、紗良の《浄化》スキルと薔薇のマントのびちょ濡れパンチ攻撃である。仕舞いにはあれだけ強敵に感じていた暗黒の騎士が、根負けするように潰されて行く。
中身が空洞の鎧騎士には、それに抗う術もなく。
結局は、3体揃ってお出ましとなったレア種級の強敵たちは、ほぼ時間を同じくして倒されて行った。それを見て、飛び上がって喜ぶ末妹である。
紗良はツグミとコロ助の怪我を見て、慌てて治療へと飛んで行った。姫香も相棒の怪我には心配そうで、強敵に勝利した喜びも半減と言った感じ。
護人はただ脱力して、その場に座り込んでレイジーに心配されている始末。それだけこの対戦と、それに勝利した事は彼にとっても重要だったのだろう。
ミケもやっぱり、家主を心配して紗良の肩を降りて護人の元へ。ダンジョン内では滅多に見せないその行動に、何だか家族の絆が詰まっている気も。
そんな気遣いをみせるレイジーとミケを交互に撫でながら、護人はようやく一息ついて安堵の表情に。よほど気を張っていたのか、本当に解放された感が強い顔付きだ。
そうこうしていると、コロ助の具合を見たりドロップ品の回収をしたりと動き回っていた香多奈が近付いて来て。ご苦労様と、飲み物を叔父に手渡して
それから護人の顔をじっと覗き込んで、大丈夫と判断したのだろう。良かったねと呟いて、ミケを担ぎ上げてその場を去って行ってしまった。
ミケは抗議をしても無駄と悟っているのか、いつもの冷めた表情でされるがままに甘んじている。何だかんだで、来栖家は末妹を中心に全ての行動が決定しているのかも。
それには最強生物のミケも、家長でギルマスの立場の護人も決して逆らえないと言う。このダンジョン攻略の鍵も、案外とこの最年少の少女が握っているのかも。
そんな事を内心で考えて、すぐさまそれを否定する護人である。子供に頼るような歳ではまだないし、まだまだ無理は効くし頑張る余力も残っている。
ただもう少し、今はこうして脱力していたいけど。
――“喰らうモノ”攻略もまだ中盤、この奥には更なる強敵が潜んでいる筈。
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