第575話 5層の中ボスもかなりの強敵だった件



 4層終盤の階段を守っていたのは、例の巨大サイズの浮遊目玉お化けだった。そいつに危うく先制で、レーザー照射を浴びそうになって大慌てで回避行動を取るメンバー達。

 レイジーの『針衝撃』が何とか間に合って、目玉お化けのレーザーの軌道がずれたのが幸いした。そこから反撃のルルンバちゃんの逆レーザー砲で、何とか早々に決着はつく事に。


 大砲の撃ち合いなんて、傍目からは大雑把な遣り合いに感じるけれど。受ける方は、肝は冷えるし寿命は縮む思いだしで、決して望んでいる遣り取りでは無い。

 とにかく助かった、そしてドロップした魔石(中)を拾って階段前へと集合を果たす来栖家チーム。ちなみにさっきのレア種級の面々は、やっぱりドロップも凄かった。


 魔石(大)が3つにオーブ珠が2つ、呪われた兜に特殊ミノは高給肉もドロップして。食べたくないなぁとの意見は、食いしん坊の子供達にしては珍しい。

 とは言え護人も、二本足のモンスターのドロップしたお肉はやはり抵抗がある。オークもたまに豚肉をドロップするけど、こちらも家族には不人気である。


 味はとっても良いのに、先入観ってやはり強固なのだろう。それでも食べ物を腐らせるのは勿体無いので、いつもはバーベキューなどで消費してしまう。

 幸いにも、来栖家は常日頃から来客がとっても多い。お隣さんがご飯を食べに来る事もあるし、他のチームだとか植松の爺婆だとか。


 自治会のメンバーや仕事関係の仲間も、たまに昼食や夕食を食べて行く事がある。その時はさり気なく、上手にその手の不人気なお肉を消費する紗良である。

 まぁ、ハスキー達は全く嫌がらずに、モンスター肉も食してくれるのだけど。さすがに毎食お肉など、贅沢過ぎるしカロリーも心配である。


 とにかく、そんなお肉の塊もゲットして、さて次に向かうのは問題の5層目である。強敵も待ち構えているだろうし、分岐の仕掛けを上手く回避出来るかもとっても心配である。

 そんな事を考えながら、いざ突入する護人たち一行。



「さてと、いよいよ第5層だねっ……異世界チームの前情報では、層はもっと続いてたんだっけ。それじゃあ、中ボスを撃破してルート分断の仕掛けを解除しようか。

 今回は4チームだし、絶対に上手く行くよっ!」

「そうだな、俺らのチームが辿り着かなくても、異世界チーム辺りが“喰らうモノ”の元に辿り着いてくれれば良い訳だし。

 そんな訳で、中ボスの討伐は皆全力で行くぞ」

「えっ、私達で大ボスも倒すに決まってるでしょ、叔父さんっ! そんな消極的な考えじゃ、ペット達も納得しないんだからねっ!」


 そうだそうだと盛り上がるペット達、いや思わずそう見えたのは護人の目の錯覚か。とにかく子供達は、ダンジョン攻略の手柄を他チームに譲る気はない様子だ。

 そんな気概が伝染したのか、前衛陣の勢いは一層燃え上がっている感じでの行進が続いた。結果として、5層の中ボスの扉に辿り着くのに、わずか15分と言う有り様。


 それでもやっばり、異世界チームはその上を行く強さだった模様だ。扉前の通信では、現在5層を攻略し終えて、他のチームの仕掛け解除待ちだとの事である。

 A級連合チームも、来栖家チームとほぼ同じタイミングで扉前へと到着したみたい。懸念されていた岩国チームだが、やや遅れつつも頑張っているそうで。

 こちらも欠落者なしで、もうすぐ中ボスの間に到着出来そうと連絡が。


 さすがムッターシャの見立ては優秀だ、B級チームに重責を負わせた護人は内心ハラハラ状態だったのだが。この最大の難所を突破すれば、大ボスの間までのルートは開けたも同然。

 まぁ、そう言い切れる程にはこのダンジョンも潔くはないだろう。きっと様々な仕掛けで、こちらの行く手を阻んで来る筈である。


 それは挑んでみないと分からないし、あと何層あるかの情報も未だ不明と来ている。そんな中での自分達で制覇する宣言は、無謀以外の何物でも無い気も。

 それでも勢いって大事で、島根と愛媛のA級チームには負けないよとの元気な子供達。ハスキー達もその勢いに乗っかって、中ボスも任せておいてとヤル気満々だ。


 それをまとめ上げる護人は、別の気苦労もあってなかなか大変そう。それでも決戦を先送りにする訳にもいかず、それじゃあ行こうかと勢いのまま扉を開け放って中ボスの間へ。

 そこには馬頭の魔人と羊頭の魔人が待ち構えていて、ついでにミノタウロスが半ダースほど追加で控えていた。中ボスは体格も凄くて、両方とも4メートル級である。


 雑魚の筈のミノタウロス軍団もそれ位はゆうにあって、広い筈の室内が狭く感じるのはちょっと異様だ。それでも姫香の号令で、敵を倒すべくチームは動き始める。

 そんな訳で、姫香とそのサポートのツグミは馬顔の魔人と対戦を決めた模様である。護人も中ボス戦くらいは前に出ようとしたけど、それを何故か茶々萌コンビがインターセプト。

 どうやらさっき強敵と対戦した護人は、順番を使い終わったとの判断で。


 それなら次は自分達だよねと、茶々丸に騎乗した萌はすっかり騎士モードに突入している。顔付きもどことなく勇敢で、いざ悪役を討伐するぞって完全に浸りきっている感じ。

 それを見た末妹は、仕方無いなぁって2匹に『応援』を飛ばして後押しする素振り。レイジーも仕方なさそうな表情で、子供達のサポートをして来ますと護人に視線を飛ばす。


 そうこうしている内に、近付いて来た敵の巨体ミノタウロス軍勢である。仕方なく、流れでそいつ等の相手を始める護人とコロ助とルルンバちゃんである。

 まぁ、ルルンバちゃんは何も考えておらず、みんなを守るぞって張り切っているのが救いだろうか。コロ助は不服そう、自分の出番を弟分に取られたって気持ちなのかも。


 とは言え、ミノタウロス軍勢も強いって点には変わりはない。その巨体から繰り出す武器のブン回しやタックルは、モロに浴びると一撃で吹き飛ばされてしまう。

 盾持ちの護人ですらそうなのだ、コロ助も巨大化しているとは言え不利には違いなく。それでもパワーでは負けていないのだから、ハスキー達は普段どんな特訓をしてるんだかって話である。

 そしてそれは、茶々萌コンビも同じ模様。


 小柄な体型を活かしての、とにかく死角に潜り込んでの突きやスキルでの追い込みと来たら。のみのようにぴょんぴょん跳ね回る茶々丸は、その角の突きも容赦なくエグい。

 それに騎乗している萌も、同じく最初の頃とは見違える活躍振りだ。膂力も相当上がっているようで、敵の分厚い装備をズタボロに引き裂いている。


 それからレイジーとタイミングを合わせてのブレス攻撃、魔人タイプは魔法耐性が強い事が多いのだが。バッチリ効果はあったようで、苦しみ悶えている羊顔の中ボスである。

 萌の新装備の『全能のチェーンベルト』が、敵の苦しみに付け入るように勝手に伸びて追撃を喰らわせている。そう言う意味では、油断も隙も無い鎖装備である。



 一方の姫香は、先程のレア種級の敵に続いての大物対戦となってしまった。とは言え、疲れも見せずに体格の良い敵との対戦も慣れて来た感も感じさせる。

 実際、ツグミのフォローは完璧だし、敵の攻撃に被弾さえしなければそんなに怖い敵では無さげ。油断する訳ではないけど、積み重ねた戦闘経験は嘘をつかないのだ。


 そんな緊張感の中から生み出される感覚も、これまた貴重で前線に立つ意味がある。最近はハスキー達ばかりが目立ってしまい、戦う機会が減ってしまってる姫香なのだが。

 スキルの成長には、この緊張感は欠かせないと思う次第である。そんな冷静でいられるのも、持って生まれた並々ならぬ集中力のお陰かも知れない。


 馬頭の魔人は、手に斬馬刀と言う巨大な剣を持って凄まじい動きで迫って来る。それをツグミの力を借りながら、避けたりいなしたり動き回って敵の隙を窺う。

 自分の動きの最適解を探していたら、習得したスキル《舞姫》や《豪風》が自然とサポートを始めてくれる。或いは、もう少しで《剣姫召喚》も芽を出し始める可能性があるのかも。


 その辺は定かではないけど、動きがスキルに釣られて滑らかになって行くのが自分でも分かる。そして、焦れた敵が大技に移行するタイミングもバッチリ予見が出来ていた。

 そう言う点では、新しく使い始めた『天使の執行杖』も使い勝手が物凄く良い。正直、もう少し慣れる時間が欲しかったけど、相性的にはバッチリな気もする。


 そうして放たれたカウンターの一撃は、見事に馬頭の魔人の首筋を捉えた。モードは愛用していたくわと言うかかま形状で、切れ味も申し分なし。

 急所への容赦ない一撃に、さすがの中ボスも力を失ってダウン……かと思いきや、最後の反撃に危うく胴体を真っ二つにされそうになる姫香。


 その攻撃をかわせたのは、いつの間にかフォローに入っていた護人のお陰と言うか。《心眼》スキルのファインプレーで、何とか喰らわずに済ます事に成功。

 邪魔でしか無かったミノタウロス軍勢も、ルルンバちゃんの活躍で処理に至って何よりである。お陰で護人のフォローも間に合ったので、その功績はとっても大きい。


 隣を見れば、茶々萌コンビの方もレイジーのフォローを得て、丁度勝利をもぎ取った所だった。こちらもそつなく……とは行かなかったようで、全員が浅くない傷を負っている。

 どうやら相手の羊顔の魔人も、倒される直前に最後っ屁みたいな反撃をして来た模様だ。それは雷の針を周囲に飛ばす攻撃で、全てかわすのは不可能なレベル。

 お陰で側にいた、レイジーまで被弾して割と被害は甚大となった。


 それを見た後衛陣が、慌てて駆け付けて治療に取り掛かっている。幸い目などの重要な場所は無事なようで、紗良は安堵の吐息をついているみたい。

 香多奈もポーションを茶々丸と萌にぶっ掛けて、応急措置に忙しそう。そんな甲斐もあって、何とか全員の出血も止まってくれた模様である。


 寄って来た他の家族も一安心で、治療の様子を眺めて声など掛けている。さすがに難関の“喰らうモノ”ダンジョンだ、その中ボスも一筋縄ではいかなかった。

 その分、ドロップも秀逸で魔石(大)が2個とスキル書が2枚転がっていた。中ボスの使っていた武器も同じく近くに転がっていて、これなら宝箱の中身も期待出来そう。


「ふうっ、レイジーが怪我したっていつ以来だっけ? 怖い敵だったね、さすが超A級ダンジョンの中ボスだよ……途中の遺跡エリアのトラップも、相変わらず意地悪だったし。

 でもこれで、6層以降も通れるようになるんだっけ?」

「アレがその塞き止めの仕掛けかな、確かにゲートの色がくすんでて通れそうにないな。その隣の魔方陣は、恐らく帰還用の奴かな?

 そっちは帰って下さいと言わんばかりに輝いてるな」

「茶々丸に萌、もう痛い所は無い? 頑張ったねぇ、お宝回収している間は休んでていいからね。それでお姉ちゃん、次に進むにはどうすればいいの?」


 姫香も良く分からないけど、怪しげな構造物は幾つか中ボスの室内には存在していた。護人はもう一度ムッターシャチームと通信を繋げて、クリアを告げて次の指示を仰ぐ。

 それによると、やはり怪しい構造物を破壊すればゲートの機能が回復するらしい。それを聞いた姫香が、それじゃあ奥に設置された奴を壊すねと元気に挙手する。


 それを横目に、香多奈はルルンバちゃんを引き連れて中ボス部屋の宝箱のチェック。なかなか大きくて、その色は銀色に輝いていてとっても綺麗だ。

 中身もなかなかで、まずはお決まりの鑑定の書や薬品類や魔玉(土)が幾つかずつ。それからオーブ珠が1個に、オリハル製の武器や防具が幾つか。


 防具はセットでは無く、篭手や足具のデザインはバラバラみたいだ。他にも高級品のお酒やワイングラス、食器などのお皿が出て来た。

 どれも高級品みたいで、輝きからして違っている。使うのがちょっと怖いねとは、香多奈の素直な感想だ。そんな作業を尻目に、姫香の破壊工作は無事に終了した模様である。


 確かにゲートの色は少しだけ輝きを取り戻し、なるほど分断の罠はこういう仕組みらしい。これを潜り抜ければ6層へと行けるかは、未だに不明だけど。

 不完全なゲートに飛び込む勇気は、さすがの姫香にも無いみたい。





 ――これで後は、他のチームの結果待ちだろうか。






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