第573話 “喰らうモノ”の再突入に家族チームで燃える件



「うへえっ、見てよ護人さん……魔石の数はともかく、大きさは極小が半分もないよっ。もう半分は小サイズだ、やっぱりS級認定だけはあるよねぇ。

 2層以降は、確かもっと酷くなる筈だよね」

「そうだな、言うまでもないけど気を抜かないようにな、みんな。それから罠も酷いのが多かった覚えがあるから、ツグミにも頑張って貰わないと。

 とは言え、中衛や後衛も気を抜いて仕掛けを作動させないようにな」


 そう言う事もあるかも知れないもんねと、姫香は了解と元気に返事をする。チームの進行はいつにないスローペースで、先程には2層で最初の戦闘も行われた。

 出て来たスケルトン兵士は、装備も立派で力も並では無かったとは言え。所詮は骨でしょと、コロ助の無慈悲なハンマー攻撃がいかんなく発揮されての戦闘終了。


 残りは茶々丸の角での突き上げと、レイジーの出力を落とした炎のブレスで完勝の結果に。不意打ちで後衛陣をゴーストが襲って来たけど、紗良に見透かされて昇天させられていた。

 護人も少しは働きたいのだが、今の所は出番は全く無し。などと思っていたら、遺跡の通路の角を曲がってトロルの勇ましい顔がにょっきりと出現した。

 さて出番かなと思ったら、姫香がその相手を勢いよく買って出て。


 そして3分も掛からず、ぺろりと平らげてしまった。どうやら新しく交換した武器『天使の執行杖』の使い勝手を、実戦で試してみたかった模様である。

 トロルは再生能力を有する4メートル級の巨人で、戦う相手としてはとっても強い相手だ。それを試し斬りの相手に指名するあたり、何と言うか勇まし過ぎる少女である。


 かくして、護人の出番はまたもお預け……背中の薔薇のマントも、誰でも良いから殴らせろと無言の主張をしている気も。ある意味平和とチームの余裕を噛み締めつつ、2層の探索は続く。

 前回も思ったけど、この遺跡は何となく不気味で悪意に満ちたねじれのような違和感を感じる。それは通路の繋がりだったり、壁画の模様だったりするのだが。


 ダンジョンを呑み込んだ、或いはあるじの感性が反映しているのかも。そこまでは定かでないが、そこを進む身としては何となくうつな気分になってしまいそう。

 そして3メートル級のゴーレムの顔すら、そんな目で見ると苦悶に歪んでいるように見えてしまう。いつもは探索中も賑やかな末妹も、気のせいか口数は少な目で。


 やはり少し緊張気味なのかも、その肩に留まってる妖精ちゃんは至っていつも通りに見えるけど。紗良の肩の上のミケも、その点では緊張など無縁に見える。

 そして探索の進行は、思ったよりも順調で肩透かし感が拭えない。次に出て来た肌の浅黒いトロルも、前衛陣が総出で掛かって数分で仕留めてしまった。


 やはり、前情報があると言うのも大きいのだろう。ダークトロルやゴーレムは、前回もこのエリアで戦った記憶が一行にもあったし。

 その分、幾ら強敵が出て来ても戸惑いも無いし対応も事前に練れている。取り敢えず4層辺りまでは、予習は出来ている計算になるので。


 今はその分の余裕で、サクサク進めている感じだろうか。分岐も一応はチェックする一行だけど、罠があるだけで宝箱っぽいモノは1個も無し。

 そしてしばらく探索して、3層への階段を発見に至る。


 その階段を守るように立つ2体のゴーレムを撃破して、来栖家チームは次の層へ。この層から恐らくイビルアイが出て来ますと、紗良が一行へ注意喚起を行って。

 その忠告通りに出て来る、バスケ球大の奴はまだそれほど怖くはない。それでもハスキー達は、見付け次第に先手を取って撃破して行く徹底振り。


 中衛を担う姫香と萌も、まずまずのコンディションで新武器との相性も悪くなさそう。萌の腰に装着されてる『全能のチェーンベルト』も、性能は文句なしでステータスアップ効果だけでも付けておく価値はありそうだ。

 そんな香多奈のお勧めでのコーディネートだけど、頑張り屋さんの萌は正規の使い方も努力して模索中。まだ反応は微妙だけど、時折チェーンの先端の矢尻が生き物のようにうごめいている。


 この中衛コンビ自体の相性も悪くなく、何より最近の萌の成長は目覚ましい限り。やはり《経験値up》の恩恵が素晴らしいのか、身体能力の向上は半端ではない。

 体格も以前より大きくなっていて、子供達が抱っこするのもちょっと大変に。それに伴って、夕方のチームの特訓ではムッターシャにも、この子は有望株だと太鼓判を押されていた。


 近い将来のエース候補だとの意見には、香多奈も大喜びで萌を褒めていた。それに何故か嫉妬するのは茶々丸のみで、その辺はいつもの来栖家ペース。

 そんな成長著しい萌に較べて、姫香の方はあまりパッとせず。いや、戦闘能力に関してはムッターシャやザジに鍛えられて成長してるけど、新しく覚えた《剣姫召喚》のスキルが何とももどかしい限りで。

 一向に発動してくれず、本当に素質があって覚えたのか疑問でしかないと言う。


 そう愚痴る姫香だけど、護人も最初は《奥の手》を出すのに苦労したし。香多奈も現在進行形で、《精霊召喚》のスキルが上手く発動してくれないし。

 いわゆる“召喚系”のスキルは、本人に素養があっても発動にコツみたいなものが必要らしい。そんな訳で、姫香も別に戦力には困ってないしスルーしておく事に。


 パワーアップに関しては、他の所で行えているので問題はない。今は作動してくれないスキルに思い悩むより、出て来る敵を倒す事に尽力するのみである。

 そんな3層の探索も、途中までは順調で過去の苦労はどこ吹く風な来栖家チームである。出て来る敵は、相変わらずのスケルトン兵士や、ゴーレムやダークトロルで。


「おっと、手強いトロルも順調に倒せているな……この調子なら、他のチームと遅れずに5層の中ボス部屋に辿り着けそうだな。

 問題は、次の4層にいた徘徊する敵だけど、今回も遭遇するのかな?」

「今回もいるとは限らないよね、後はこの3層にも巨大な目玉が出て来なかったっけ? ルルンバちゃんがビームを受けて、派手に壊された記憶が……」

「そいつは動画にも映ってたよっ、出て来たら遠慮なく先制で倒しちゃってね、ハスキー達!」


 確かに強い敵に好き勝手されるより、こちらの先手で倒せた方が作戦的には良い。などと話していると、遺跡の通路はいつしか不気味な広場へと繋がっており。

 その広場の中央には、巨大な鳥の巣のようなオブジェと、その中に巨大な目玉が2つほど。それらは明らかにモンスターで、まぶたを持たないそいつ等は果たしてどっちを向いているのやら?


 と言うか、ロックオンされたらあの殺人ビームが飛んで来る確率が高い。一同は慌てながらも、その目玉のお化けの撃退へと動き始める。

 前に出た護人は、飽くまでタゲ取り要員でわざと見付かる動きをしてのヘイト取り。その背後からのルルンバちゃんのレーザー砲は、見事に一撃で目玉お化けの片割れを撃ち抜いてくれた。


 お返しにと放たれたビームは、護人が『剣竜の盾』で根性込めてガードを行う。魔法の装備は大抵は“不壊”特性を持っているけど、魔法攻撃や同じく魔法アイテムでの打撃で壊れる事なんてよくある事だ。

 今回も、向こうのレーザー砲で護人の盾は表面が焦げてしまっており。『硬化』スキルを使っていてもこのダメージ、かなりの攻撃力を持つ敵には間違いない。


 そんな巨大目玉お化けも、レイジーの炎にこんがり焼かれて既に虫の息。逆に茶々丸は麻痺攻撃に遭ったのか、その場で前脚を折り曲げてゴメンなさいしている。

 そんな強敵に止めを刺したのは、ツグミの『土蜘蛛』とコロ助の『牙突』のダブル攻撃だった。パンと弾けた敵が落としたのは、魔石(中)とスキル書と言う贅沢セットだった。


 とは言え、そんなサービスにはもはや驚かない子供達である。ダークトロルも定番は魔石(中)だし、このダンジョンは魔石(微小)を落とす敵を探す方が難しい。

 最弱認定はスケルトン兵士くらいだけど、3層ではめっきり見なくなってしまっていた。代わりに出て来るガーゴイルは、総じて体長2メートルの硬い皮膚を持つそれなりの強敵で。


 コロ助と茶々丸が勇ましく壊して回るのだが、茶々丸に関しては割と大変そう。紗良も味方の被害を気にして、怪我チェックの回数は普段より多く行っている。

 今も戦闘を終えて、慌てて茶々丸の体調を案じて近付く長女である。その被害は本当に麻痺だけだった様で、ピンピンしているやんちゃ坊主に思わず安堵の吐息の紗良だったり。


「良かった……怖い敵の攻撃だから、即死効果とかあったらどうしようって思っちゃったよ。みんな怪我はないかな、それじゃあエーテルで魔力の回復だけでもしよっか?」

「あっ、敵の巣の中に宝箱があったよ、香多奈。ツグミ、罠が無いかちょっと見てあげて。これまでのパターンだと、間違いなくあるだろうけど」

「やった、初のお宝ゲットだねっ! ランクの高いダンジョンだし、前回も確か高級品が置かれてた記憶が……うわっ、ビックリしたっ!」


 ツグミの罠解除は、それ系のスキルを持っていないので割と乱雑なのだけど。闇ガードの上から触りまくって、罠を発動させての安全確保もパターン化していて。

 今回は、その闇ガードを通り抜けて破砕音が響いてしまった模様である。つまりそれだけ、凶悪な罠が仕込まれていた事になる。相変わらず殺意の高いダンジョンだ、“喰らうモノ”の生き汚さを感じる程度には。


 罠解除の失敗のせいで、残念ながら箱の中身の薬品は全滅してしまっていた。それでも強化の巻物が2枚にオーブ珠が1個、他にも木の実や魔玉もそれなりに出て来てくれた。

 香多奈の高級と言うワードに感化された訳ではないだろうけど、他にも高級石鹸やら高級バッグもチラホラ出て来た。香水やら化粧品も、誰もが知る有名ブランド物が数点混入していた模様。


 そして恒例の、高級そうなサングラスや眼鏡が結構な数出て来て。目玉繋がりだねと、確か前回も口にした呟きが子供達から漏れて来る。

 そして一番奥から、幸いにも割れていない瓶に入った薬品をゲット。コイツもいかにも高級品で、妖精ちゃんが秘薬素材の原料かなと教えてくれた。


 前回《鑑定》スキルをゲットした紗良も、同意見を口にするもその感覚にはまだ慣れていない様子である。何だか脳内で知識を持つモノがささやいて来る感覚らしく、確かにそれは慣れないと怖いかも?

 とにかく最初の宝箱にしては、かなりの当たりを引けてご満悦な子供たち。




 そして休憩後に、呆気無く4層への階段を発見する来栖家チーム。このダンジョンは分断系の罠や直接的な罠は酷いけど、通路は比較的真っ直ぐで助かる。

 いや、配置されたモンスターは強敵揃いなので、そちらにスペックを注ぎ込んでいるのだろう。この階段を降りれば、次は前回リタイアした敵の潜むエリアである。


 相変わらず門番にと配置されたゴーレムを、今回は姫香と萌のペアでサクッと倒して。この辺の配置型の敵との対戦カードは、仲良くチームで話し合って決めている来栖家チームである。

 今回に限っては、レイジーも体力温存に徹している気も。或いはこのダンジョン深奥に、ただならぬ気配を感じ取っているせいなのかも知れない。


 それはミケも同じく、まぁこの番猫がチームに手を貸すのは気まぐれな部分が大きいのだけど。今回に限っては、体力と魔力の温存を積極的に行っている気も。

 何にしろ、チーム内のピリピリ感は4層潜入を果たして一層強くなった。誰もが記憶している、チームの初の敗北の地に降り立ったのだから仕方のない事だけど。


 それでも1歩を踏み出して、探索を始める頼れるハスキー軍団&茶々丸である。まずは出迎えたゴーストたちを蹴散らして、チームは慎重に遺跡エリアを進んで行く。

 護人も同じく、強敵を見掛けたら躊躇ちゅうちょなく前へと出る気満々で。その時は頼んだぞと紗良に言付けると、長女も神妙な面持ちで頷きを返してくれた。

 肩の上のミケは、そんなリーダーを黙って見詰めるのみ。





 ――そこまでの覚悟は不要だよと、その瞳はまるで近い未来を見通してるよう。








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