第571話 何とか岩国チームを招いて突入4チームが決定する件



 今回の“喰らうモノ”ダンジョン攻略に関しては、バックアップもかなり充実させるらしい。地元の協会どころか、市内の本部からもスタッフが出張って来ての協力体制を敷いてくれるそうで。

 かなりな規模になっているのは、土屋女史と柊木の根回しがあったせいなのかも。それから『反逆同盟』の甲斐谷も、参加出来ない事を謝って来て。


 その分、協会に便宜を図ってくれるよう裏からお願いしていたらしい。それだけ、この超A級難易度ダンジョンの攻略は、周辺地域に気に掛けられていたって事なのだろう。

 そんな“喰らうモノ”ダンジョンへの突入作戦の数日前に、ちょっとバタバタしたのは護人だけのミスではないと思いたい。


 この“喰らうモノ”ダンジョンの、入ってすぐのチーム分断の仕掛けだけど、護人はてっきり3つのルートだと思い込んでいたのだ。ところが、分岐は確か4つではとの仁志の指摘に、改めて昔の動画を見返すと。

 確かにそうで、急遽もう1チームの召集が必要に。そこで快く受けてくれた岩国2チームの『ヘブンズドア』と『グレイス』は、本当に天使のような存在である。


 ただ、このB級2チームを招いた事が、編成騒動に発展するのだけれど。今は感謝の念しか無くて、ようやく全ての支度が何とか整ったと安堵する護人。

 ちなみに、その時の“報酬ダンジョン”の魔石やポーションの換金額は、340万円とまずまずの結果だった。編集依頼も済ませて、後は回収品のお裾分けをすれば用事は終了だ。


 協会支部での最終的な打ち合わせは、改めて岩国3チームが到着してからと言う話になった。電話で連絡を取った岩国チームは、明日にはこちらへと到着するとの事。

 元々参加予定の『シャドウ』のバックアップに、ついて行く予定だったらしい。ひょっとしたら攻略参加もあり得るかなと、心構えも出来ていたようで。


 一緒に行動していた姫香も、頼りになるねと明るく笑っている。ムッターシャはあの時、3チームでも何とかなるだろうと言っていた筈ではあるけど。

 事前に軌道修正が出来て、本当に良かったと冷や汗を拭う護人であった。何しろ背後では、協会やら他ギルドが派手にサポートに動いてくれているみたいだし。

 そんな大掛かりな作戦に、不備があったでは笑い話にもならない。


「そんな心配しないでよ、護人さん……それより今回は、歴史的な結末が待ってるかも知れないんだからね。鬼に貰ったあの装置で、ダンジョンが封鎖出来るかも知れないんだから。

 ムッターシャも、向こうの世界から不死の“喰らうモノ”を倒す秘密兵器を貰い受けて立って言ってたじゃん。ひょっとしたら、その魔法アイテムでダンジョンを塞ぐ事も出来るかもよ?

 そしたら、“大変動”以降では、物凄い大発見になっちゃうかもね!」

「ああ、そうなると小島博士も驚きまくるだろうな。そう言えば、妖精ちゃんからもそっち系の報酬を貰う約束をしてたんじゃなかったっけ?

 それを受けたら受けたで、また忙しくなるんだろうな」


 そんな事を話し合いながら、キャンピングカーで移動を果たす護人と姫香である。自警団の詰め所には、協会の帰りに立ち寄って挨拶とお裾分けの配布は完了済みである。

 麓に降りたついでに、そのまま熊爺家に足を伸ばして同じ事をする予定。その後帰りに植松の爺婆の家に寄って、欲しい物を渡したらすぐに来栖邸に戻る手筈になっている。


 ゆっくりしたいのは山々だが、何しろ自宅にゲストを大勢抱え込んでいる身である。放って置きっぱなしには出来ないし、自分達も大一番を控えている身分だし。

 そんな事を話し合う2人は、意外とプレッシャーなどどこ吹く風の有り様。お互いの膝の上には、ミケとムームーちゃんを抱えてそのせいもあるのかも。


 話題も夏休みのレジャーの予定だとか、次のレイド遠征依頼はどこから来るかなとか。そんな他愛のない2人の話を、後ろのリビング席でレイジーとツグミはのんびり聞いている。

 そんな家族でのドライブは、午前いっぱい続くのだった。





 さて、護人の勘違いから多少バタバタした、“喰らうモノ”ダンジョンの攻略作戦だけど。それを何とか乗り越えての、今回の万全の陣形である。まぁ、急遽きゅうきょお鉢の回って来た岩国チーム『ヘブンズドア』と『グレイス』の面々には、気の毒な話ではあるけれど。

 『シャドウ』を含めて、3チームが日馬桜町へとやって来たのが、その次の午後の事だった。改めて山の上の来栖邸で全チームが顔合わせをして、さてお次はチーム編成の話をとなったのだけど。


 岩国チームの『ヘブンズドア』と『グレイス』は、確かめるまでもなくB級チームである。順当にチーム分けするなら、『ライオン丸』と『坊ちゃんズ』のサポートに回って貰うのが望ましい。

 岩国チームで突入班を1つ作るとなると、バランス的に4チームの中では弱い感じを受けるのは否めない。他がとにかくAチームの揃いなのだ、来栖家としては岩国チームを信頼してるし問題は無いのだが。


 ところが『ライオン丸』と『坊ちゃんズ』を別々に分ける案には、島根チームから猛反対が。恐らく彼らのモチベーションの9割は、女子に格好良い所を見せるのに尽きるのだろう。

 つまりは、今更野郎連中とチームを組むなんてとんでもない話だと。その位なら探索者を辞めるとまで、涙ながらに訴える勝柴かつしばの熱量は本物なのだろう。

 まぁ、他の面々は相当に面食らってはいたけれど。


「ふむっ、俺が思うに、チーム分けは掛け算を念頭に入れるべきだ。そう言う意味では、確かに岩国2チームは分けるべきじゃ無いな……ついでに来栖家チームは、単独で動いた方が断然スペックは上がる筈だ。

 思い切って『シャドウ』を岩国チームに入れて、3チームで組ませるのはどうかな。それで応援のA級連合チームは、そのまま弄らずおく作戦はどうだろう?」

「おっと、随分と思い切ったチーム分配だな、ムッターシャ。確かに、戦い方の理解の深い仲間とチームが一緒の方が、実力を発揮出来るとは思うけど。

 ウチはペット達の独特の動きがあるし、岩国チームは銃火器を作戦に組み込んでるからな。言われてみれば、確かに系統が一緒のチームの方が動きやすいかもなぁ」

「良いんじゃない、護人さん……元々ウチは、ペットを含めると10人以上の大所帯だもんね。戦力不足には間違ってもならないし、別チームの人がいるとペット達が気にしちゃうし。

 確かに、ムッターシャ師匠の言う通りだと私も思うよ」


 そんな姫香の取り成しもあって、何とか勝柴かつしばの願いは通る流れに。愛媛の女性チームも、そんな島根チームを仕方無いなぁって目で見ている。

 とは言え、岩国2チームも三原の市街戦では大活躍を見せた実績の持ち主だ。銃火器を用いての制圧戦では、右に出るチームも無い程優れている。


 しかもムッターシャの見立てでは、ヘンリーや鈴木辺りはA級と遜色がないとのお墨付きで。ギルや『シャドウ』の鬼島辺りも、ブレイクスルーは近いんじゃないかとの話。

 面と向かって実力者にそう言われ、岩国チームの面々も面映ゆい表情をしている。それを後押しする形で、護人は彼らの強化案を画策する事に。


 例えば薬品やら消耗品のサービス提供やら、装備品の貸与だとか。丁度良い事に、来栖家チームは前回の探索で宝物庫からセット装備をゲットしている。

 これらの装備だけど、セットで装着した際の防御力はなかなかのモノだと判明している。例えば最悪、あの巨大目玉お化けのレーザービームを浴びても耐えられる可能性も。


 それを聞いた前衛のヘンリーやギルは、興味津々でチェックを始める始末。それから『シャドウ』の鬼島や舞戻まいもども、自分達の現状の装備より良いと判断を下して。

 借りれるのなら借りたいと申し出て来て、さすが前衛陣は装備には目敏い様子である。移動販売で買った革装備の元を取ろうと、途中まで頑張ってそれを着ていた来栖家とは大違い。


 結果、『アダマンの鎧一式』と『ダマスカスの鎧一式』をヘンリーとギルが、『オリハルの鎧一式』と『ミスリルの鎧一式』を鬼島と舞戻が着る事が決定して。

 これで随分と探索に余裕が出来そうと、岩国チームの面々にも笑みがこぼれ始める。ちなみに銃火器に関しても、今回の探索では特殊弾を使用する事が決定しているらしい。

 それだけ、今回の探索は意気込みも違う岩国チームの面々である。


「魔法弾とでも言うのかな、魔玉の研究から開発を重ねたオリジナル弾なんだけど。貫通力に優れている奴と、魔法ダメージを与える奴の2種が今回配布されてるんだ。

 それから、ゴーストや闇系のモンスターに効果が高い浄化弾もね。こちらはついこの間も、探索で試し撃ちして来て効果もバッチリ把握済みだよ。

 効果も絶大だし、魔法の水鉄砲とは弾速も違うし心強い秘密兵器だね」

「へえっ、ルルンバちゃん用にウチも欲しいかもっ。そう思わない、叔父さんっ?」

「思わないな、ルルンバちゃんはもう2丁も魔法の銃があるじゃないか。それより近接武器も、ウチで余ってる奴は自由に持って行ってくれていいからね、みんな」

「そうそう、余らしといても勿体無いし……放っておいたたら、香多奈がオモチャにして危険だからね。それから紗良姉さんの、オリジナル強化果汁ポーションもお勧めだよっ。

 前衛用と後衛用の2種類あるけど、効果が1時間も続くんだから」


 それは凄いと、これには島根チームや愛媛チームも飛びつく勢い。それらの配布に加えて、様々な前準備が集まったチームで交わされて行く。

 『シャドウ』の舞戻まいもどは、『緋色の刀』の性能も気に入った様子で。ぜひ買い取らせてくれとの事なので、つつしんで融通する事に。


 他にも、島根チームが“報酬ダンジョン”でゲットした『勝利の兜』を、愛媛チームが『紫電の腕輪』を気に入って。それぞれ買い取ると申し出て、さすがA級チームは太っ腹である。

 さすがに《全耐性up》の宝珠だけは、売り払うのも勿体無いし姫香が使う事に来栖家チーム内で決定した。これで“報酬ダンジョン”で回収した魔法アイテムは、大体の分配が終わった形となった訳だ。


 そこからは、こちらで招いた複数チームの歓迎会へと話は移り。要するに、まぁ来栖邸に寄って夕食を一緒にとの話なのだが、何しろ人数が多過ぎる。

 今日合流した岩国3チームだけで14名、島根&愛媛チームで8名である。それに異世界&星羅チームを加えると、来栖邸のリビングには絶対に入り切らない。


 中庭のバーベキューコーナーでも苦しいけど、そこは何とか工夫してお持て成しをしないと。何しろ来栖家が遠方から招いたゲスト達である、空腹で帰らせたらチームの名折れとなってしまう。

 そんな悲壮な決意で、指示を飛ばし始める長女の紗良であった。


 場所もそうだけど、人手もとても足りないのは分かり切っているので。そこは素直に、お隣さんの美登利や凛香や小鳩に応援を頼む事に。

 和香や穂積も給仕なら可能だし、お客は知り合いばかりなので少々の粗相も勘弁して貰える。そんな訳で、子供達にもお小遣いを渡して働いて貰う事に決定した。


 こんな事態は結構あって、お隣さんを含めて大人の面々は子供に結構甘い。とは言え、簡単な仕事と引き換えにお小遣いを渡す程度で、本人たちは甘やかしだとは思ってないけど。

 問題は、田畑や家畜を所有する田舎の家々には、ちょっとした仕事が山のようにあるのだ。お陰で香多奈を筆頭とする子供達は、実は結構なお金持ちだったり。


 今回も、そんな感じで気楽にお仕事を請け負う和香と穂積であった。上手くすれば、酔っぱらった大人達からもお小遣いが貰えるかなとか画策しながら。

 世間の大人は、甲斐甲斐しく働く子供にお小遣いを渡したくて仕方が無いみたい。酔っぱらうと特にそう、それを分かってちゃっかりとお仕事を手伝う香多奈はさすがのやり手である。


 場はゲストたちを中庭に招いて、バーベキューの用意がなされて既に1時間が経過。バーベキューテーブルも4面が用意されて、お握りやその他のお惣菜も行き渡って良い調子。

 お酒も当然振る舞われて、あちこちで陽気な笑い声が響き始めている。ホスト役の来栖家は、色んなテーブルでゲスト達の相手をしないとなので大変だ。


 裏方の紗良はともかくとして、姫香や香多奈は場の盛り上げ役に大忙し。護人も慣れないお酒を勧められ、やっぱり今夜も酔っぱらう運命からは逃れられそうもない。

 かくして、“喰らうモノ”ダンジョン攻略前の夜はまた更けて行く。





 ――願わくば、前日までに各人の酒は抜けていますように。







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