第570話 ようやく“喰らうモノ”への突入が整って行く件
その日は結局、“鼠ダンジョン”に向かったチームたちも夕方まで実地訓練を頑張ったようで。その後の来栖邸での夕食は、やっぱり大人数で大盛り上がりだった。
もちろんその宴会には、来栖家チームがその日に獲得した食材がふんだんに利用されたのは言うまでもない。それにはお肉やハムやチーズばかりか、キャビアやフカヒレも加わってとっても豪勢。
紗良も調理方法が分からずに、適当に煮込んだりそのまま出したりだったのだけど。好奇心に勝る者達は、それでも文句を言わずに口に運んでいた。
そして揃って旨いとの評価、高級食材は伊達では無かったようである。ただまぁ、半分は酔っ払いのコメントだったので、信用出来るかは少し心許ない気も。
護人や姫香は、新じゃがとチーズの組み合わせが1番だとお替りをする勢い。香多奈は果敢に高級食材に挑戦してたけど、どうも口には合わなかったよう。
そんな宴会騒ぎが終わって、お隣さんもようやくそれぞれの家へと帰ってくれて。ゲスト扱いの『坊ちゃんズ』の面々は、2階の寝室へと引っ込んで行った。
男性陣の『ライオン丸』は、自宅代わりのキャンピングカーで仲良くご就寝。
そんなお客が去ったリビングでは、子供達が後片付けを頑張っていた。床はルルンバちゃんが走り回り、その役割分担は称賛に値するレベル。
汚れたお皿を片付けたり、お酒の空き瓶とか集めたりと忙しい子供たち。護人もそれを手伝いながら、みんな元気だなと思わず呟いてみたり。
何しろ、1日中ダンジョンに潜った後の酒盛りである。2時間程度で済んで本当に良かったと、護人は既に電池切れの足取りである。
それを見た姫香が、無理しないでいいよと家主を強引にソファへと座らせる。それから近くにいたミケを護人の膝に乗せて、これで寛ぐ態勢は完了だ。ムームーちゃんもソファの隙間から湧き出て、護人の膝で寛ぎ始める。
ミケも軟体生物に怒っても仕方が無いと思っているのか、特にちょっかいを掛けずに空間を共有している。夏の夜のリビングは、山の上だけあってクーラーが無くても程良い涼しさ。
網戸の向こうの庭先では、ハスキー達だか茶々丸だかが時折走り回って賑やかだ。彼女達も、さっきまでの探索の熱がまだ抜けてないのかも。
そんな庭先のペット達の動きが不規則に乱れたのは、子供達の片付けが終わりかけた頃だった。護人は付き合いで呑まされたアルコールで、ソファでうたた寝モード中。
そこにハスキー達の吠え声、ただしそれはヤッてやるぜ的な戦いの前の威嚇の声では無かった。家族に何か近付いて来るよと、警告の呼び掛けに近いみたいで。
それにビックリした護人が夢から舞い戻り、姫香は縁側の網戸を開けてハスキー達に
どうしたのと呼び掛けると同時に、庭先に訪問者の姿を発見した。どうやら、鬼が用意してくれた“報酬ダンジョン”が気に入ったかどうかを、当人たちが直接確かめに来たようだ。
護人も千鳥足ながら、子供達に合流して訪問者と真夜中の対面を果たす。そこには相変わらずの3体の鬼の姿、香多奈がヤッホーと子供鬼にお気軽なあいさつ。
そこまで気楽に話し掛けれない護人は、何事でしょうと訪問の意図を訊ねる。本当に用意してくれた報酬についての話なら、やや拍子抜けではあるけれど。
恐らくは、そんな単純な話では無いと本能が告げていた。
「お主等が突入予定の“喰らうモノ”ダンジョンには、我らの里から逃げ出した“悪鬼”が逃げ込んだ模様じゃな。我らもこの地まで追いかけていたが、いつもあと一息で逃げられておった
“喰らうモノ”も“悪鬼”も、この地の平穏を脅かす陰の気を帯びた存在……お主等には是非とも討伐に成功して貰いたく、こうして今夜姿を現した。
メシア候補よ、これを受け取るがよい」
「は~いっ……痛いっ、何で殴るのよっ、お姉ちゃんっ!?」
「アンタは候補じゃないでしょ、人からホイホイモノを貰うんじゃありません!」
相手は人では無く鬼だし、受け取らないと話は進みそうにはないのだけれど。そんな事を思いながら、家族を代表して護人が縁側へと進み出る。
そうして受け取ったのは、手錠のような一風変わったアイテムだった。魔法アイテムには違いなさそうで、妖精ちゃんがふむぅとか反応している。
子供達も同じく覗き込んで、どうやって使うのと興味津々な姫香が代表して質問を飛ばす。中央の老人鬼は、その素材の鉱石はあらゆるスキルを封じるのじゃと呟いた。
末妹はひたすら感心して、漫画とかにもあったかもと使い方は心得たみたいなポーズ。それでどう“喰らうモノ”や“悪鬼”に仕掛ければ良いか、いまいち護人はピンと来ずな模様だ。
ただまぁ、ダンジョンの《不死》がスキル特性なら、これで封じれば倒す事も可能かも。それも相手が大人しく、手錠を掛けられてくれればの話だけれども。
もう少しヒントが欲しくて、顔をあげて質問しようとした護人だったのだが。その時には既に鬼たちは姿を消しており、その速度はまさに神隠しの如し。
こうして再度の鬼の来訪は、不思議なアイテムを残して終わりを告げた。
次の日は香多奈は学校で、いつものように朝から支度に大わらわだった。ただし本人のテンションは物凄く高く、浮かれ模様なのは今日が終業式だからに他ならない。
つまりは明日から夏休みで、今日も午後から休みである。とは言うモノの、友達と遊ぶ予定があるとの事で協会への活動報告はパスするそうな。
そんな訳で、今回も協会への換金依頼は護人だけで行く事になりそう。取り敢えずは子供達を小学校に送り届けて、護人は家へ帰る道中でそんな事を考える。
ただまぁ、今回は食料品が割とたくさん入手出来たので、お裾分けの範囲が多くなる気も。植松の爺婆の所以外にも、今回は熊爺家にも持って行く予定である。
何しろ向こうも、食べ盛りの子供達が多いのだ。後はギルドのメンバーや自警団の人たちにも、差し入れとして詰め所に持ち込めば喜ばれるだろう。
後のトレーニング器具やら食器類、鍋やお皿や寝具などは全部青空市で売る事に。回収品が多いのは嬉しいけど、多過ぎると後処理がとっても大変である。
ちなみにそっちの処理は、現在来栖邸で紗良と姫香が行ってくれている。他のチームは二日酔いで初動が遅れる筈なので、先に換金処理を済ませる予定である。
そんな感じで護人が送迎から戻って来た時には、何とか仕分け処理は完了していた。魔法アイテムに関しても、妖精ちゃんと紗良の《鑑定》スキルで鑑定済み。
紗良もスキルの練習になって、良い時間を過ごせたと満足げ。
【耐の宝珠】使用効果:使用者はスキル《全耐性up》を習得
【紫電の腕輪】装備効果:電磁防御・特大
【安寧のトロフィー】設置効果:安寧&休息・永続
【頑健のペンダント】装備効果:頑健&ステup・中
【人斬り包丁】装備効果:不折&切断・中
【狼人の鋭爪】装備効果:不折&鋭刃&魔法攻撃・大
【魔法の寝袋】使用効果:休息&HP回復・中
【魔法の枕】使用効果:安寧&休息・中
【吸血のマント】装備効果:魔力&MP回復up&吸血・大
【緋色の刀】装備効果:不折&鋭刃&裂傷・特大
【勝利の兜】装備効果:魔力&ステータス全up・大
【天使の執行杖】装備効果:不折&変幻自在&魔法攻撃・特大
その他:『強化の巻物』 (耐性)×2、『ルビーの指輪』(魔力&魔法防御up)
最後の大ボス戦では、宝珠《全耐性up》や『天使の執行杖』など魔法アイテムの回収品も多かった。中でもこの2つは、大当たりで頑張った甲斐もあると言うモノ。
宝箱の中身に関しては、薬品系が多くて後は魔結晶(大)や換金性の高い品も幾つか。やたらとプロテインが多かったのは、筋肉つけろとの無言のメッセージなのかも知れない。
他の当たり装備だけど、『紫電の腕輪』や『狼人の鋭爪』『緋色の刀』はすぐに使い手が見付かりそう。この辺りも、“喰らうモノ”攻略メンバーで分けて良いかも。
姫香は昨日の探索で破損した愛用の
そんな感じで油断していたら、薔薇のマントに『吸血のマント』が食べられると言うハプニングが。まぁ、毎度の事なので改めて誰も驚きはないけど。
本気で叱ろうにも、相手はマントである……それに話し掛ける構図も変だし、来栖家ではこれは仕方が無い事と処理されている。ミケのしでかした事と同列で、目を離していた方が悪いのだと。
それにしても、“報酬ダンジョン”は魔法アイテムの回収は良かったけど意外とタフで大変だった。それから他の2チームの探索も、まずまずフォーメーションの確認は出来たそうな。
儲けに関しても同じく、こんなのが敷地内にあるって凄いねと感心する島根&愛媛チームだったり。それに対して、香多奈などはじゃあ引っ越して来なよとお気楽な返しである。
そしたらモフモフ触り放題と、鼻息を荒くする
それはともかく、ゲストがお泊りしているので来栖家全員が家を空ける事は今日は無理である。そんな訳で、護人と姫香が午前中に協会や自警団の詰め所へと用件をこなしに行く事に。
「それじゃ、済まないが留守を頼んだよ、紗良……一応は、キャンピングカーで寝泊まりしてる島根チームの面倒も見てやってくれ」
「了解です、護人さん……みんなのお昼ご飯作りながら、お泊り組が起きて来るの待ってますね。本番のダンジョン攻略が控えているし、体調管理はしっかりしてあげなきゃ」
「本当、プロならそう言う所をしっかりして欲しいわよねぇ。ザジ辺りも、今頃は酷い事になってるんじゃないかな?」
だらしない事に、まだ誰も起きて来る気配を見せないゲスト組である。来栖家の面々は、今日も早起きで家畜の世話や敷地内の管理とかこなし終えている。
そう言う意味では、お出掛けに関して何の憂いも無い護人だったり。お泊り組の世話さえ忘れなければ、多少長く外回りの用事で留守にしていても問題は無し。
夏野菜の収穫&店舗への品出しに関しては、辻堂夫婦やお隣の子供達がほぼやってくれている。昔に比べて、作付面積を増やしても問題無くやって行けるのは凄いかも。
などと思いつつ、キャンピングカーに姫香とペット達を乗せて麓の協会へ到着。電話で訪ねて行く事を告げてあったので、車が到着するとすぐに仁志支部長が迎え入れてくれた。
ただし、その様子がちょっとヘン……慌てているのは、何か予定外の事態が起きているのかも。何かあったかなと、姫香も心配そうにミケを抱き上げて車を降りる。
護人もムームーちゃんを肩に乗せて、近付いて来た仁志支部長と対面を果たす。ムームーちゃんは、どうやら家族の中では護人に一番の信頼を置いている模様だ。
或いはそれは、ミケやレイジーの影響かもしれないけど。
「護人さんっ、お待ちしておりました……あのっ、現在は“喰らうモノ”ダンジョン攻略のルート分岐を、3チームでお考えですよね?
過去の動画を観直したところ、分岐ルートは全部で4つあるのですが。急遽ですが、もう1チーム声を掛けた方がよくありませんか?」
「あっ、それは私も思った……前回は4つの分岐ルートを3チームで突入したんだっけ? それで記憶がごっちゃになってるんじゃない、護人さん?
ってか、『シャドウ』チームと一緒に岩国チームが来てくれるから、頼めば良いじゃん」
「えっ、俺の思い違いか……“喰らうモノ”攻略には、4つのチームが必要だって?」
――攻略を前に、どうやら一波乱ありそうな日馬桜町のお昼時であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます