第568話 “報酬ダンジョン”の大ボスを見事倒す件



 宝箱の中身は定番の鑑定の書や薬品類に加えて、今回はスキル書が1枚入っていた。今日の探索では意外とドロップが少なかったので、宝箱からの回収は素直に嬉しい。

 そんな話をしながら、他のアイテムをチェックする姉妹である。そして出て来た目覚まし時計や太鼓を見て、これはどういう意味だろうと揃って首を傾げてみたり。


 目覚まし時計は種類も様々だが、太鼓も大きさが大中小と色々揃っている。明日からこれで起こしてあげようかと、姫香が寝起きの悪い末妹を揶揄からかって遊んでるけど。

 そんな文化が日本にあるのかなと、寄って来た紗良も不思議そう。とにかくこれで第2層も攻略は終了で、残るはあと1層のみとなった。


 そんな訳で、休憩後にゲートを潜って最後のエリアへと勇んで進み始める一行。そしていきなりの中庭への出現に、驚いてちょっと待ったと慌てまくる。

 このパターンはもちろん初で、何より不味いのは中庭にはさっき撃退した総セットが無傷のまま待機している事。つまりは、じっとしていたら前から上からの総攻撃が待っている。


 悪意を何より感じるのは、来栖家チームが出現したのは中庭の丁度ど真ん中で。出て来たゲートは細い木と木の間で、頼りなく揺らめいていてここに戻るのも躊躇ためらわれる。

 護人は仕方なく、さっきと同じ戦法で行くぞとチームに指示を飛ばして、自分は囮となるべく派手に飛び上がって行った。目論見通りに飛んで来た矢弾は、『硬化』で何とか耐え忍んで。


 その隙にと、姫香とレイジーが5メートル以上はある城壁を果敢に上って行く。残された者は、防御スキルを張り巡らしながら周囲の敵に対する構え。

 紗良もコロ助も防御スキルを張って、味方に被害が及ばないよう必死なのだが。突進して来る電撃ヒツジの量と勢いは、そんなこちらの事情など知った事かと暴力的だ。


 そこに待ったをかける、巨大化したコロ助とルルンバちゃんの黄金コンビ。コロ助も余程気張ったのか、いつものサイズより巨大化して防護服が弾け飛びそうな勢い。

 ルルンバちゃんに至っては、《合体》スキルを上手く使って近接&砲塔武器の二刀流を初披露。物凄く格好良いよと、末妹の声援も貰って有頂天の彼の攻撃は凄まじかった。


 それこそ、隣のコロ助がアレッと目を点にするほどの威力の砲撃と。近接した敵を、粉微塵みじんにするんじゃないかと思うアームのブン回し。

 コロ助も慌てて自分の倒す敵をキープする程、その暴れっぷりは凄まじかった。ただしその反動も、魔導ゴーレムのパーツにはダイレクトに来てしまったようで。

 敵を半数残して、まさかの機能停止状態に。


 ただし、その頃には胸壁の戦いも随分と片付いており、少なくとも中庭に投石する余力を持つ羊獣人はいなかった。ヘルプへと代わりに前に出た、萌と茶々丸にも余裕が見えて。

 半分に減った敵を前に、もうひと頑張りしようかって気構えで、武器とスキルを操り始めている。実際、中庭の電撃ヒツジは体当たりさえ気をつければ、そんなに手強い敵ではない。


 茶々丸も痺れて動けなくなった教訓を糧に、上手く遠隔スキルで敵を片付けて行っている。その内に、いち早く胸壁の敵を片付け終わった姫香とツグミのペアも、地形を利用してのサポートを始めてくれた。

 敵に頭上を取られて苦労していたエリアなのに、それを逆手に取るとこれほど楽なモノは無い。姫香はその辺に転がっていた石の塊を、『身体強化』で放り投げて敵の殲滅のお手伝い。


 中庭にいた敵の群れは、パニック模様でその攻撃になす術無し。こうして護人とレイジーが胸壁の敵を倒し終えた頃には、全ての戦闘は終了していた。

 ルルンバちゃんもクールダウンを終えて、何とか動けるようになっていて。一時的な行動不能だった事に、子供達もホッと胸を撫で下ろしている。


「あそこの壁にまだカタツムリがいるよ、茶々丸に萌っ! 壁に張り付いてる奴も、しっかり見落としが無いようにね。

 お姉ちゃんも、上から見てちゃんと確認してよねっ!」

「分かってるわよ、そこにへばりついてる奴で最後だから安心していいわよっ」


 城壁の上と下でそんなやり取りを行った後、チームは晴れて最終号を果たした。それから今回は宝箱の回収が無い事に、文句を言い始める末妹だったり。

 そうは言っても、ここでの魔石の回収も数十個とかなりの豊作だ。電撃ヒツジは羊毛やら枕を高確率でドロップするので、それを含めると結構な儲けが出ている。


 そう言って末妹を慰める護人だが、この3層目のエリア構成はちょっと先行きが不安だ。順調に行けば、この層には中ボス部屋がある筈なのだが。

 それでこの順序不具合が出たのなら、まぁ仕方が無いとも思う。ちょっと周辺を調べた限りでは、城の中へと入る通路はたった1つきりのみ。


 休憩を取った後、ルルンバちゃんの具合をしっかりとチェックして。本人も問題無いよみたいな感じなので、それを信じていつもの隊列で城の中と入って行く。

 中庭から城内の狭い通路に入ると、何となく圧迫感を感じるけど。室内に出ても、出て来るのはシャドウ族くらいで大きな障害も無し。


 ついでにお宝部屋も宝箱の設置も無くて、気付けば大きな部屋の突き当りに両開きの扉を発見した。部屋の中には、やはりおざなりに大きなベッドが設置されていた。

 とは言え、整合性を取るために置かれた感が半端なく、どうやらこのエリアは睡眠とか安息とかそんな主張があるらしい。それじゃ開けるねと、せっかちな姫香は何も考えていないよう。

 とは言え、考え込んでも何が進展する訳でも無し。


 そんな訳で、開け放たれた次のフロアは案の定の中ボスの間だった。目立って置かれているのは、部屋の中央の真っ黒な棺だろうか。全体的に暗い室内だが、最終部屋だけあってかなりの広さ。

 これならどれだけ派手に戦っても平気だろう、そんな思いで室内に飛び込む来栖家チームの面々。それと同時に、部屋の奥に召喚されるたくさんのマミー軍団と、ゆっくり開いて行く中央の黒い棺。


 どうせ吸血鬼とかでしょと、末妹の香多奈の発言は思い切り的を射ていた模様で。黒いマントの青白い肌の金髪男が、棺の中からよっこらしょと出現。

 そいつの相手は、どうやら姫香とツグミが担うらしい。レイジーは茶々丸とコロ助を引き連れて、奥のマミーを制圧しに向かっている。


 護人も心配しながら、すぐに援護に入れる形で手は出さない構え。大物相手に下手に手を出しすると、連携でバタバタしてそこに付け込まれかねないのだ。

 来栖家チームでは、姫香とツグミとか護人とレイジーとか、阿吽あうんの呼吸の連携の使い手が存在する。それに較べると、護人と姫香のペアはどうしても1ランク下がってしまう。


 それでも、姫香がピンチなら強引にタゲを奪う気構えの護人である。ところが姫香は、この部屋の主の中ボス相手に押せ押せの奮闘ぶりを発揮していい感じ。

 そしてそのまま破壊的な一撃をお見舞いして、フィニッシュに持ち込んだかと思われたその瞬間。敵の吸血鬼は黒い霧と化して、その攻撃を無効化すると言う荒業を敢行した。

 そのビックリスキルに、さすがの姫香も唖然とした表情に。


 ただし、霧状での攻撃はツグミが全力で《闇操》でブロックした模様。姫香も慌てて態勢を立て直し、黒い霧になった相手にどうやってダメージを与えようか考えている。

 後ろで応援しているメンバーも、この防御方法にはビックリしてズルいとか指差して批難轟々ごうごう。だからと言って、中ボスは反省する素振りも無く再び襲い掛かって来る。


 それをガッチリ防御したのは、何と忍犬ツグミだった。同じく霧状の暗黒物質を体中から噴き出して、絡まるように一体化して地面へと落下して行く。

 驚く周囲の面々だが、なるほど同じ形状なら相手を抑え込む事が可能なのだろう。物凄いガッツのツグミに、子供達の声援が一際集中して凄い盛り上がりようだ。


 姫香も相棒の頑張りに報いようと、地面を転げまわる黒霧に追撃を見舞おうと追い回す。ただし融合した黒霧に下手に手を出すと、ツグミにまでダメージを与えそう。

 そう思って躊躇ちゅうちょしていた姫香の背中で、白百合のマントが怪しい動きを示し始めた。まるで闇系の敵を目の前にして、出番かなって目覚めた感じのその動き。


 そして浄化ポーションの噴霧を敢行した途端、黒霧の一部に劇的な変化が。ウッとしかめ面をあらわにしたのは、誰あろうさっきの吸血鬼だった。

 それを見逃さず、姫香はその顔面に向けて鍬を振り下ろす。


「やったねっ、姫香お姉ちゃん……中ボス撃破だよっ!」

「あれっ、私の武器は神聖系でも何でもないのに倒せちゃった。まっ、いいか……お手柄だったね、ツグミっ!」


 中ボス配下のマミーの討伐も滞りなく終了して、辺りは静かになっていた。騒いでいるのは子供達だけ、元気に勝利とお宝ゲットを祝ってはしゃいでいる。

 護人も内心ホッとしながら、闘いに参加した面々を褒めて回って。それから紗良の怪我チェックを眺めて、ツグミの容態を一緒に確認する。


 ツグミの身体の負担を心配しての事だけど、どうやら特に無理をしたって感じでもない様子。それにしてもとっさの判断と、がむしゃらな行動力は大したモノだった。

 姫香も一緒になって褒めながら、隣の護人へとコソッと相談事を持ち掛ける。先ほどの止め刺しで、中ボスの吸血鬼を無事に倒せたのは良かったのだけど。

 無理をし過ぎて、愛用の鍬にガタが来たみたいで。


「う~ん、この接続部分は普通の鍬でも良く壊れるんだよなぁ……このダンジョンの残りは、後は大ボスの間だけだったかな?

 その大ボスは俺が相手をするから、姫香は予備武器でサポートに回ってくれ」

「そうさせて貰おうかな……でもちょっとショック、この武器も長い事使っているからなぁ」


 そんな事を呟く姫香に、耳の良い末妹が馬鹿力で振り回すからだよと苦言を呟く。やっぱり耳の良い姫香がそれを聞き取って、毎度の姉妹喧嘩になる前に護人が出立の合図を行う。

 この部屋の宝箱も全部回収済みで、残るは鍵を3つ使った先のみである。多分、大ボスが待ち構えてるよねと、香多奈の先読みは当たってる公算が高い。


 時間も既に夕方で、他のチームの動向も気になる所。紗良もこの後、みんなの分の夕食を作る予定となっている。なるべく早く、探索を終わらせたいと気も急いている筈。

 そんな長女からのプレッシャーを感じ取って、護人も0層フロアへと戻ってすぐに最後の部屋に入る算段を開始する。姫香と香多奈が張り切って、3つの鍵を取り出してどう使うか言い争い始めている。


 ところが鍵の方が勝手に、宙へ浮かんで地面の魔方陣を起動させると言う離れ業を敢行し始め。ビックリしている子供達を尻目に、最後の入り口が大きく口を開けた。

 突入前の作戦は至ってシンプルで、護人とレイジーがボスを押さえる役目。複数いた場合、ルルンバちゃんや、姫香も予備武器で出撃する流れに。

 そんな作戦で、最終フロアへと突入する来栖家チームである。



 そこはすり鉢状のリングのような形状の、対戦を目的とした舞台だった。その中央にはマッチョの魔人っぽい大ボスが、ポージングをして待ち構えており。

 それを見た香多奈が、なるほどと納得した表情に。適度な運動としっかりとした食事、それから充分な休息が立派な肉体を作るんだねと。


 そう思って振り返ると、確かにこのダンジョンのコンセプトが透けて見えた気も。最終ボスのポージングは謎だけど、恐らく最終ボスに相応しい強さなのだろう。

 護人とレイジーが中央に近付いて行くと、大ボスの背後で途端に太鼓と銅鑼どらの大きな音が鳴り響いた。それに合わせて、ガーゴイルとインプの大群が援護にと飛び出して来る。


 それを迎撃に向かう、残りの面々は役どころを貰えてとっても嬉しそう。そんな周囲の喧騒の中、大ボスの魔人と護人が対戦場の中央で斬り結ぶ。

 敵は細身の杖のような武器を手にしており、振る度に先端に刃やハンマーが出現する。かなりトリッキーな武器で、相手をするには注意が必要だ。


 ただ、肉体はやたらと立派な魔人だが、武器を操るスキルは持ってない模様。力任せの攻撃を繰り返すばかりで、逆に周囲の雑魚湧かしシステムの方が厄介かも。

 それを感じた護人は、レイジーに雑魚の討伐の方へ応援に行くように指示を出す。自身は“四腕”を発動しての、全力での敵の抑え込み。


 相変わらず定期的に、背後の太鼓と銅鑼どらが鳴るタイミングで、どうやらガーゴイルとインプが湧き続けているようだ。それを止めたい一行だけど、どれが正解か分からない。

 大ボスの討伐がその鍵なのかも知れないが、増え過ぎた雑魚がこちらの戦いに割って入る有り様である。大ボス魔人は、そんな雑魚など歯牙にもかけず大暴れが止む気配は無し。


 レイジーは言われた通り、炎のブレスに加えて《狼帝》で炎の軍団の召喚を図っている。数には数で押し返そうと、その理論は確かにとっても正しい。

 それよりも直情的な姫香は、奥に設置された太鼓と銅鑼どらを怪しいと睨んだ模様。ツグミのサポートを得て敵の群れをかき分けて、まずは太鼓の破壊に及んだのだけど。

 何と姫香の『身体強化』込みの馬鹿力も、跳ね返す破壊不能の謎オブジェ。


 そして姫香の攻撃で、派手に打ち鳴らされる太鼓の音。それに釣られて出現したのは、体長4メートル級の新たな魔人だった。これはピンチと焦る護人だが、相手取る大ボス魔人もさすがにタフでなかなか倒れてくれない。

 何しろコイツ、“四腕”での打撃や理力込みの斬撃を受けても、ほぼ傷がつかない超人ボディの持ち主なのだ。無敵のボディはやり過ぎだと、憤慨する護人だがなす術も無し。


 そこに何やってんのと、プッツン切れたミケ大明神の横槍が炸裂した。必死で後衛陣を守ろうとしていた紗良の《結界》も、中からブチ破っての『雷槌』ジャブから始まって。

 右ストレートの《昇龍》は、大ボスも追加で出て来た魔人も巻き込んでの多段ヒット。思わず味方のペット勢も、巻き込まれちゃ敵わんと壁際へと避けて行く始末である。


 そんな騒乱が、たっぷり30秒以上……ようやくそれが収まった室内には、敵の気配は微塵も感じられず。呆れた事に、ミケが全て始末してしまった模様である。

 さすがミケさんとの香多奈の呟きに合わせて、ミャーンと可愛く鳴くミケはうって変わって上機嫌。その所業に巻き込まれそうになった味方も、猫のやる事に腹を立てる訳にもいかない。

 かくして来栖家の力関係は、ミケを頂点に形成されて行く。





 ――残念な事にその次は子供たち、家長の護人は割と最下層だったり。






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