第567話 3つ目の扉の謎と傾向を推理しながら進む件



 取り敢えずはドロップした枕は回収して、今回も敵は多そうだねとエリアの感想を呟く姫香。鬼の形成するダンジョンは、総じてこんな感じでタフと言うか意地悪である。

 或いは、経験値をたんまり稼げと親切心なのかも知れないけど。進むのにある程度の時間が掛かるし、攻略のし甲斐があるとも言い換えれる。


 ハスキー達は、そんな倒す敵の多いダンジョンは大歓迎の雰囲気ではある。相変わらず先行しての安全確保は、後衛陣としては有り難いのだけど。

 ともすれば、今どんな敵と戦ってたのと事態の把握が遅れる場合も。姫香が頑張って前衛につこうとしてるけど、最近はそれも儘ならないハイペースな殲滅振りである。


 そう言う意味では、一番パワーアップと言うかレベルが上がっているのは前衛陣なのかも。“喰らうモノ”の本番に向けて、頼もしいのは本当ではある。

 まぁ、チームとしても充分に成長してるし、その辺は問題も無いとは思いたい。今も次の階段探しで、再び合流を果たして意見を述べ合う子供達である。

 それをハスキー達は、大人しく聞きながら向かう先を定めている。


「まぁ、このエリアのコンセプトはおいおい分かるでしょ。案外そこの扉を開けたら、寝具がいっぱい置かれてあって簡単に判明するかもだし。

 そんな訳で、この扉を開けてみるね、護人さん」

「ああ、またマミーが詰まっていた場合用に、紗良に控えて貰っておいてくれ。ハスキー達は、今回は休憩して貰っておこうか」

「あっ、コロ助がメッチャ不満そう……順番でしょ、こういうのはっ!」


 そうご主人の末妹に諭されて、仕方なく休憩モードに入るコロ助である。その隣では、同じく茶々丸が仕方なさそうに首を垂れてのチェだぜの表情。

 それに構わず、姫香がこのエリア2つ目の閉じられた扉を開け放つと。中には敵の姿は一切無くて、何とさっき口にしていたリネン室の雰囲気が。


 つまりは寝具関係の、シーツや枕カバーがギッシリ。他にも普通に寝具用のマットやらクッションも、新品がたくさん置かれていた。

 クッションはともかく、シーツや枕カバーはたくさんあっても困らない。紗良は色んな柄物のシーツを見ながら、全部持って帰ってもいいのかなと困惑模様。


 使わなきゃ売れば良いんだから持って帰ろうよと、末妹は相変わらず容赦がない。そもそも泊りのお客さんの多い来栖家的には、寝具の類いは多くあっても困らないし。

 そんな訳で、ここでもバンディット行為がしばらくの間続く事に。


 他の面々は、そんな訳で本当に休憩タイムに突入……まだインして20分程度なので、それ程疲れてないので体力温存の意味合いの方が強いけど。

 それでも家族が嬉しそうな姿は、ある意味癒しの時間ではある。面白い柄のシーツを見付けるたびに、これどうかなと回収の手が止まるのはどうかなと思うけど。

 そんな時間が5分ほど、ようやく次に進もうとチームは再び進む方向を探りに掛かる。とは言っても、城の小部屋のようなエリアにルートはそんなに多くはない。


 今度はあっちかなと、姫香が指差したのは漆喰で塗り固められた小回廊のような狭い通路だった。ルルンバちゃんで、何とか詰まらず進めるかなって道が湾曲しながら下に続いている。

 とは言え、次の層への階段では無さげで、ハスキー達は慎重にそこへと足を踏み入れて。姫香と萌の中衛陣も、その歩みに遅れず続く構え。


 そして狭い回廊を抜けた先は、何とビックリ城の中庭のような広いエリアだった。四方を漆喰の壁に覆われて、高い塔もその庭から窺える。

 そして、土の地面の庭にはたくさんの羊タイプのモンスターが。


 そいつ等はメーメー言いながら電撃を放っており、近付くとかなりの確率で痺れてしまいそう。ハスキー達もむやみに突っ込んで行こうとせず、横一列に並んでスキルで対抗する構え。

 茶々丸もそれに倣って、新しく覚えた《飛天槍角》での遠隔攻撃。偉いよ茶々丸と後衛から褒められて、ちょっと有頂天の仔ヤギである。


 護人とルルンバちゃんも、遠隔攻撃でそれをサポートする。敵の数は20匹以上は軽くいて、しかも城壁の上の胸壁には羊獣人が1ダースいるみたい。

 逆にそこから矢を射かけられ、慌てる来栖家チームであるけれど。咄嗟にコロ助が《防御の陣》でガードしてくれて、直接の被害は今の所無し。


 それでも人の頭ほどの投石が開始されると、危な過ぎて黙っていられない。そこで姫香が相棒のツグミに声掛けして、『圧縮』階段で城壁を駆け上っての反撃に出る事に。

 香多奈の『声援』もうるさい程で、前衛陣の頑張りも敵を押し返すほど。そしてうっかりヒツジの電撃に痺れた、茶々丸のフォローはコロ助がしっかり請け負ってくれていた。

 さっき褒めたのに、逆に何で突っ込むのと末妹から罵声を浴びる結果に。


「地上の敵はもう半分は倒したな、ルルンバちゃんは姫香の方のフォローを頼む。俺と萌は、ハスキー達と一緒に少しずつ前に出るぞ!

 紗良と香多奈は、上に注意しながらこの場をキープしておいてくれ」

「了解っ、出来れは茶々丸を回収したいけど……まだ上の敵は片付いてないね、姫香お姉ちゃんもっと頑張って!

 うわっ、またでっかい石が落ちて来たよっ!?」

「香多奈は黙ってなさいっ、この上意外と広くって敵も分散してるんだから! ツグミっ、こっちが終わったら今度は向こう側の敵を倒しに行くよっ!」


 胸壁は3面も存在していて、それぞれに羊獣人が弓矢や投石を準備して、庭の標的を付け狙っている。護人もひとっ飛びして、1面でも請け負おうかとも思ったのだが。

 壁面に巨大なカタツムリの群れを発見して、萌と共にコイツ等を片付ける事に。コイツ等もチームの上部から、消化液を吐きかけて来るから早めに退治しないと。


 ただし、そう思って中庭に飛び出すと羊獣人がすかさずタゲって来るので始末が悪い。それでも素早い動きでその攻撃をかわして、巨大カタツムリをほふって行く両者である。

 そして中庭の攻防も、茶々丸が途中で離脱した以外は順調に進んでくれた模様で。子牛より大きなヒツジ型モンスターを、全て綺麗に片付けてくれていた。


 最後まで手古摺てこずった胸壁に居座っていた羊獣人も、最後の1体がルルンバちゃんの魔銃によって倒されて行った。これで中庭の戦いは、来栖家チームの勝利でのフィナーレに。

 そして張り切り始める、香多奈とルルンバちゃんの魔石拾い部隊である。そんなドロップ回収の途中で、今回は何と巻貝の通信機まで1セット拾ってしまった。


 大物ゲットに、やったぁと思わず嬌声をあげる末妹。魔石の数も、中庭だけで30個近く拾えて大収穫である。ついでに中庭に生えていた木の傍に、次の層へのゲートと宝箱を発見して。

 姫香もその頃には、合流しての宝箱チェックへと参加を果たしていた。ちなみに胸壁には、投石用の石くらいしかアイテムは落ちていなかったそう。

 さすがの末妹も、それを回収して来てとは口にせず。


 宝箱の中身は定番品の鑑定の書や、薬品類に加えて魔玉(土)や木の実が少々。薬品は上級ポーションも混じっていたので、一応は当たりの部類に入りそう。

 変わった所では、一緒に寝袋や寝具が出て来た事だろうか。たくさん出て来た内の幾つかには、魔法効果があるなと妖精ちゃんが鑑定してくれて。


 その言葉にテンションをあげながら、全てを回収して行く末妹である。それからこのエリアのコンセプトは、やっぱり睡眠とかかなぁと姉と話し合って。

 そうかもねとの姫香の返しに、それじゃあ値打ちモノはそんなに出て来ないかもとがっかりした表情に。まぁ、シーツやら枕やらに、高級品のイメージは確かに無いかも。



 それから一行は小休憩の後に、ゲートを潜って次の層へ。ここもやっぱり中世の城の中みたいな景観で、家具は天蓋付きのベッドやらクッションの敷き詰められた絨毯やら。

 思い切り寛いでくださいみたいな室内だけど、ハスキー達は戦闘をご所望みたいで敵の姿を探し回っている。そして隣の部屋に羊獣人を発見して、嬉々として殲滅へと向かって行った。


 子供達も同様に、この部屋に対して思う事は無いみたいで。姫香はこっちの閉まってる扉を開けるから、紗良姉さん来てとマミー対策からの部屋チェックを行う模様。

 そして案の定のマミー部屋に、紗良の《浄化》スキルはとっても効果的だった。霧のように姿を薄めて消滅して行く敵の群れに、姫香や香多奈は感心した表情に。


 そして魔石の回収タイム、他に目立ったアイテムは室内には無いみたいだ。2層目ともなれば、要領も覚えてその辺の判断もスムーズに行われる。

 そんな訳で隣の部屋でハスキー達と合流を果たし、2つ目の閉じている扉を開け放つ姫香。ここはアイテム回収部屋でしょと、見当をつけていた子供達の当ては大外れ。


 中は暗いワイン貯蔵庫だったようで、何故か大コウモリが集団で棲みついていた。一応《浄化》の準備していた紗良は、これは見当違いとすぐ後ろに引っ込んで。

 代わりに前に出て来たハスキー軍団&茶々丸は、宙を不規則に飛ぶ敵だろうとお構いなし。スキルの乱打で、撃ち落としては噛みついたり蹄で踏みつけたりして始末して回って行く。


 お陰でワインの貯蔵樽が、2個ほど中破して室内はアルコール臭が酷い事に。これも罠の一部かなと、末妹は室内に入るのを拒否して萌と外での待機を宣言している。

 ハスキー達や茶々丸も、アルコールの匂いにちょっと怪しい感じになっていて。慌てて外へと連れ出して、何とか事なきを得たのだった。


 残った姫香は、何でいきなりワイン貯蔵庫と首を傾げて考え込む素振り。ワインとかは熟成させるのを、寝かせるって言うからねぇと紗良の返事に。

 なるほどそうかと納得した後、さて次の問題はどの程度持ち出せるかって事に尽きる。一緒に残った護人も、ワインの価値など分かり様も無く。

 元々が飲まないので、適当に2樽ほど持ち帰る事を提言する。


 そしてようやく、次の3つ目の扉の奥がアイテム回収部屋だったと判明した。西洋仕立ての室内に、蚊帳が張ってあったりテントやハンモックが並んでいるのはかなりヘン。

 それでも子供達は、これらを畳んで回収する気満々みたいで。なかなかの大物だねと、価値よりは満足感に重きを置いての回収作業らしい。


 それからこの層は、細い通路からの中庭に通じての、敵の集団の待ち伏せパターンも同じだったみたいで。今回も中庭と城壁の上の両方に、かなりの数のモンスターが待ち構えていた。

 とは言え、二番煎じはこちらに考える余裕も与えてくれると言うモノ。やはりこの待ち伏せで、一番厄介なのは胸壁からの敵の攻撃である。


 何しろ上を取られて、重いモノを投げられたり矢弾が3方向から飛んで来るのだ。これを許しておいたら、中庭で押し寄せて来る敵を押し留めておく処の騒ぎではない。

 そんな訳で、今回は護人も胸壁の1面を受け持つ事に。ついでにレイジーも『歩脚術』で壁を登って、胸壁から攻撃を仕掛けていた羊獣人へと襲い掛かる作戦に。


 これで姫香を含めて、3面からの厭らしい攻撃は無くなってくれた。ヒツジの群れを押し留めていた前衛陣は、前方だけに集中すれば良いので超安心である。

 護人やレイジーが抜けた穴は、萌やルルンバちゃんが代わりに担っていた。そしてバチバチと雷を起こす敵の集団に、恐れも無く突っ込んで行っている。


 味方ながら勇ましい限りだが、幸い萌もルルンバちゃんも、茶々丸みたいに痺れてダウンなんて事はない模様。それぞれ武器を振り回しながら、多過ぎる敵の群れを蹴散らしている。

 当の茶々丸も、さっきの失態に懲りたのか、今回はちゃんと遠隔魔法で敵と対峙している。コロ助は香多奈に『応援』を貰っての、安定の巨大化でそれなりに無双中。

 そして中庭の戦いも、何とか無事に終了の運びに。


「お~い、そっちは無事に敵の制圧は終わったかい? 意外と羊獣人が手強くて、倒すのにちょっと時間が掛かっちゃったけど。

 みんな無事かどうかチェックを頼むよ、紗良」

「了解しました、護人さんっ……ちなみに次の層へのゲートと宝箱は、そこの城壁の端っこに湧いてますねっ。

 茶々丸ちゃんに萌ちゃん、怪我チェックするからこっちに来て?」

「コロ助は全然平気みたい、ビリビリに何度か触った筈なのにね? 耐性が出来てるのかな、まぁミケさんの雷撃に較べたら大した事は無いだろうけど。

 ルルンバちゃんっ、それじゃあ魔石を一緒に拾おうか。それから、あの宝箱に罠が無いかチェックして!」


 そんな感じで、恒例の戦闘後の後始末を始める子供達であった。姫香も無事に胸壁から降りて来て、宝箱の中身チェックに混ざって行く。

 やっぱり、お楽しみタイムは妹だけに任せてはおけない模様。





 ――3つ目の扉エリアも、これであと1層を残すのみ。







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