第566話 手強い中ボスを踏破して次の扉へと向かう件



 思わぬ苦戦の中ボス戦だが、戦っている護人と姫香に焦りの感情はなかった。ただし、護衛に湧いたマミー執事&メイド達と戦う仲間の心配はあったけど。

 指揮をとってくれる筈のレイジーが、ご主人のサポートに入ってしまったのが誤算の始まりで。ヤン茶々丸とコロ助が、いきなり敵の包帯グルグル攻撃に捕まったとの報告が香多奈から届いたのだ。


 助けに入る訳にもいかないし、大いに慌てる2人ではあったけど。今は何とか、コロ助が自力で脱出して、萌とルルンバちゃんがフォローに入っているとの事。

 つまりは、茶々丸はそのまんま捕らわれの身で、何とか脱出しようと足掻いている最中みたい。可哀想だが、グルグル攻撃自体にダメージは無い模様である。


 代わりにヤンチャ軍団の指揮を執っている香多奈は、茶々丸は放っておいてガンガン攻めなさいとイケイケな作戦を口にしている。それに乗っかって、ルルンバちゃんも前に出る素振り。

 敵のマミー軍団は、執事1体にメイド4体と合計5体。手にしているのはほうきやお盆と可愛いが、攻撃力は割とえげつない。


 今はやっと萌とルルンバちゃんが、猛攻で1体倒し切ったところである。それにコロ助も加わって、何とか安定感を取り戻した感じだろうか。

 それを隣で感じながら、護人と姫香の中ボス戦は続く。かなり手強い敵には違いないが、2人の最近の訓練での相手はムッターシャやザジなのだ。

 戦い方の引き出し的には、護人と姫香はかなり増えて来ており。


 何より慌てる事が無いと言う、精神的な成長が大きいのは確かだ。護人は敵の攻撃をいなしながら、素早くレイジーと視線だけで打ち合わせを行う。

 そしてまずは隙を作ってやらねばと、“四腕”での派手な攻撃で注意をこちらへ向けさせる。薔薇のマントは心得たモノで、巨体な敵の更に上から圧し掛かるようなプレッシャーを作り出し。


 その隙に、護人の《奥の手》は、死角の下方向から、抉るようなアッパーカットを見舞う。ありふれたコンビネーションだが、視界が人と変らぬ敵にはとっても効果的だ。

 それに見事に理力が乗っかって、わき腹を本当に抉ったような手応えが。今はすっかり影が薄くなったけど、魔人ちゃんと言う師匠もチームの技術的な進歩に一役買ってくれているのだ。


 コック姿でマンドリル顔のモンスターは、その攻撃を受けて良い感じに引っくり返ってくれた。そこに待ちわびた様に位置取りしていたレイジーが、咥えていた焔の魔剣を一閃する。

 こうなれば、属性や体の大きさなどは一切関係ない。急所に一撃を浴びた中ボスコックは、首と胴体が泣き別れの状態で消滅の憂き目に。

 それを確認して、満足そうに剣を仕舞うレイジーであった。



 一方の姫香は、体術使いの狼男のパンチや蹴りに劣勢に立たされていた。致命傷こそ受けてないけど、受け身に回ってこちらの攻撃が繰り出せないのだ。

 ツグミのフォローも、闇属性同士の干渉でどうも上手く行かない様子。それを感じて、ツグミは次第に『土蜘蛛』スキルや八双自在鞭で攻撃の加担をし始める。


 それを厄介に感じたのか、敵の連撃も段々と切れが悪くなって行って。相手のタゲが、ともすればツグミの方へと向き始める事態に。

 そこから姫香も余裕を取り戻し、何とかコイツに大きな一撃をお見舞いしてやろうと画策し始める。例えば前回、ザジ相手に決まりかけた体術系の大技とか。


 姫香の鍬での一撃は、ここまで接近されては逆に不利である。柄の部分が長過ぎて、有効打が奪えないのだ。そこで思い切って、姫香は客にこちらから懐へと飛び込んで行く戦法を選択する。

 それから飛んで来た拳をすんでの所で避けて、反転しながらの腕を掴んでの一本背負い。それを体をひねってかわそうとする狼男を、白百合のマントががっちり捕まえてキープ。


 見事な合体技の、しかも頭から落とす背負い投げの完成である。モロにダメージを受けている中ボスに、ツグミが噛みついて起き上がらせないようサポートはさすが。

 姫香は投げ捨てていた愛用の鍬を取り寄せて、相棒のフォローに感謝しながらの止め刺し。そして魔石に変わる相手を確認しながらの、派手なガッツポーズを決める。


 気付けば執事とメイドとの上品な戦いも、こちらの軍勢の圧勝に終わっていた。茶々丸は捕らえられたままだけど、それでペット勢の戦力が衰える筈もなく。

 これで何とか全員無事に、2つ目の扉の攻略は終了の運びに。


「やったね、姫香お姉ちゃん……このダンジョンの中ボスって手強いから、ちょっとヒヤッとしたけど。難易度高めだよね、その分報酬は凄いけど。

 おっと、ここの宝箱もチェックしなきゃ!」

「鞄に入る隙間があるかな、護人さんの薔薇のマントにも協力して貰わなきゃ。そこの端っこに詰まれてるの、ひょっとして米俵じゃないのかな?」

「それは嬉しいけど、確かに持って帰るのは苦労しそうだねぇ……ルルンバちゃんなんか、さっきも武器の換装の時に、収納の中身をばら撒きそうになってたもん。

 あっ、違うよルルンバちゃん、批難してる訳じゃないからね?」


 申し訳なさそうに小さくなるルルンバちゃんに、紗良が必死の取り成しをしている。そんな中、香多奈は中ボスの間の宝箱をチェックに向かっている。

 姫香とツグミも付き添って、安全確認の後に中身を確認すると。木の実や薬品類が割とたくさん入っていて、虹色の果実も3つ程出て来た。


 他にも高級食材の、キャビアやら何やらの瓶詰が色々。これって食べ物なのと、末妹にとっては得体の知れない物扱いだけど。そんなモノに混じって、大振りの鍵がやっぱり入っていた。

 これで2つ目だが、メインのお宝は米俵みたい。来栖家の面々は、それらを何とか薔薇のマントとツグミの収納に詰め込んで持って帰る算段を立てている。


 ちなみに、中ボスのドロップは魔石(中)2個とスキル書とオーブ珠が1つずつ、それから変わった武器が2つと大量だった。妖精ちゃんの反応で、それらは魔法アイテムらしいと判明した。

 紗良も新しく覚えた《鑑定》で視るのだが、なかなかパッと見ただけで分かるような便利なスキルではない模様である。或いは覚えたてで、熟練度が足りないだけかも。


 今後も使い続けて、熟練度アップを狙って行く予定の紗良である。それより2つ目の扉も無事に攻略を終えて、全員の魔法の鞄がパンパン問題を解決しないと。

 幸いにも、ここは敷地内ダンジョンである。5分も歩けば、来栖邸に戻れてしまう素晴らしい立地。そんな訳で、子供達は一旦ダンジョン退出をリーダーに進言して。

 護人も新たな回収品を持ち帰れない事による、モチベーションの低下を懸念して。アッサリそれを許可しての、お昼休みから2時間も待たずの再度の退出行動に。


 日差しは相変わらず強烈で、夏はもう本番って感じ。ついでに敷地内をチェックするも、“鼠ダンジョン”に向かった4チームは未だダンジョン攻略中らしい。

 A級チームの集まりなので、大きな怪我などの心配はしていないけど。上手くマッチ出来るかとか、その辺の心配の種は多少は持っている護人である。


 特に『ライオン丸』と『坊ちゃんズ』は、出身県も違えば性別も違うアクのあるチーム同士。何度か開催した夕食会では、お互い打ち解けている様子は窺えたモノの。

 異世界チームと星羅チームに関しては、特に心配はいらないだろう。本当に本番までの肩慣らしって感じで、今頃はダンジョン内で無双している筈。

 そんな“喰らうモノ”ダンジョン攻略は、3日後を計画している。




「それじゃあ、荷物整理は終わったかな? 他の4チームもまだダンジョンから戻って来てないし、ウチのチームももう少し頑張ろうか。

 具体的には、あと扉1つとひょっとして大ボスの間かな?」

「こっちのダンジョンは、扉が3つだから向こうのより時間の余裕はありそうだね。鍵がドロップしてるから、やっぱり最後は大ボスの間もあると思うよ、護人さん。

 さっ、次の扉でも頑張って回収品をゲットしようか!」

「もちろんだよっ、次はどんなコンセプトの扉かなっ?」


 楽しそうにそう言う末妹は、ここまでの疲れは全く無さそう。それはハスキー達ペット勢も同じく、逆に涼しいダンジョン内の方が調子が良さそうかも。

 そんな訳で、来栖家チームの意気は高いままをキープして、再び“鶏兎ダンジョン”の第2階層へ。それから0層フロアで、3つ目の扉を選択して中へと入る。


 そしてフロア内を見回して、今回の仕掛けのチェック……今度も室内と言うか、古い西洋の城の中のような造りは変わっていてちょっと面白い。

 そしてそんな中世のお城風の室内で、一番目立っているのが天蓋付きの巨大なベッドだった。他の家具類は特に置かれておらず、床は白いタイル製である。


 ハスキー達も、ここを縄張りにしている敵はどこだと、周囲を嗅ぎ回ってのチェック中。そして壁に張り付いている、巨大カタツムリを数匹発見して攻撃を始めた。

 巨大ゴキやネズミよりはマシだけど、反撃の溶解液の散布は洒落にならない威力。コイツ等はコンクリさえも溶かしてしまう、意外と厄介な害虫で。


 庭にも大量に発生して、植物の葉っぱなどを食い荒らしてしまうのだ。寄生虫なども問題視されており、可哀想だけど畑にいる奴らは駆除対象である。

 ただし、敵として巨大化して出て来ると、良い的と言うか殻以外を攻撃すれば簡単に始末が可能である。そんな訳で、ハスキー達と茶々丸でスキルを使っての半ダースの敵を駆除に成功する。

 そして改めて、室内のチェックを始める一行である。


「えっと、今度の扉はベッドとか寝室がコンセプトなのかな? 良く分かんないね、出て来たのは何故かカタツムリだったし。

 部屋は向こうに続いてるけど、こっちにも扉があるね」

「西洋のお城みたいな造りだね、見た事はないけど。遺跡タイプとは違うし、何か妙な生活感が漂っててダンジョンの中って気はしないよね。

 さて、どっちから探索しよう?」


 姫香の問いかけに、扉の奥が気になるかなとの香多奈の返事。それじゃあ開けるねと、みんなの準備を確認して姫香が部屋の片側に設置された扉を開け放つと。

 中からは、大量のマミー兵士が腕を前へ突き出して待ち伏せていて。うわっと叫んだ姫香に反応して、ハスキー達がそいつ等へと襲い掛かって行く。


 レイジーの炎のブレスで、既に敵の兵団は悲惨な状況に陥っていた。更にコロ助が頭突きをかまして、溢れ出て来そうな敵を炎の中へと突き飛ばしてやる。

 茶々丸もそれを真似して、後ろ脚で蹴りあげてのあっちイケ作戦を敢行する。姫香も長い武器を駆使して、薪をくべるように燃えてる中へとマミーを突き入れ作業を続けてやって。


 5分も掛からず、焼け跡からは魔石(微小)が大量に出て来る結果に。そしてようやく室内をチェック、他には目ぼしいモノは何も無しの結果に。

 どうやらただのモンスターハウスだった模様で、これは前の扉でも散々あった仕掛けである。それなら宝物の部屋もあるよねと、香多奈はウキウキ模様でそう告げて来る。


 それを探し出すぞとの合言葉と共に、一行はベッドの置かれた寝室(?)を出て次の部屋へ。扉も無く続き部屋の隣には敵の気配は無し。

 そこは家具の類いも置かれておらず、壁は灰色の漆喰塗りで味気ない限り。灯りは設置されているので、その点はまぁ親切ではある。


 そんな内観に見惚れていると、ハスキー達は次の部屋に敵の気配を察知して突撃して行ってしまった。どうやらシャドウ族に、それからヒツジ型の獣人が数体いたらしい。

 羊型の獣人なんてちょっと珍しいけど、強さは普通みたい。モコモコの毛並みがどう作用するのか、駆けつけた姫香は慎重に観察はしてみたけれど。


 特に何事もなく、メーメーと倒されて行く羊獣人の群れであった。そしてドロップに、何故か枕が出て来てそれを拾って不思議そうに眺める末妹。

 それから、ひょっとしてこの扉エリアのコンセプトは、寝具とかなのかなとの推測を口にして。マミーは確かに眠り人だよねと、シラケた顔で姫香が追従する。

 ただそうすると、カタツムリがどう関わって来るか不明である。





 ――枕を抱えながら、子供達の推理はもうしばらく続きそう。







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