第565話 食のエリアを楽しみながら進む件



 第2層目エリアも最初と似通っていて、厨房だか台所だかの大部屋が幾つか連なって存在する構造みたいだ。そして各部屋にオークのコック兵とか、大ゴキやら大ネズミが出現する仕様もほぼ一緒。

 ハスキー達は、敵の気配に嬉々としてそちらへと向かって行っての憂さ晴らし。後衛陣のサポートもいらない様子で、それならと子供達は閉じた扉の探索へ。


 分業は何かあった時色々と不味いけど、時間の短縮には有効である。護人も敢えて何も言わず、後衛陣の護衛にと気を張って追随する。

 一応は、さっきの層の反省も生かして、ゾンビがいた時用に紗良やルルンバちゃんが控えての扉明け作業なのだけど。最初に開けた扉の奥には、肉は肉でも食用の生肉の塊が吊るされていた。


 これはサービス報酬用の倉庫だと、歓喜する子供達は倉庫に飛び込んで回収作業を始める。肉は牛肉っぽいのもあるけど、紗良の《鑑定》ではワイバーン肉やら色んな種類が混じってるみたい。

 それでもこんな塊でゲット出来る機会など、滅多に無いのも確かである。紗良も割と舞い上がっていて、どれだけ持って帰れるかなと贅沢な悩みを口にしている。


 まぁ、近場のダンジョンなので無理に全部持ち帰る必要もないのだが。次に来た時に、同じ物があるとは限らないのがダンジョンである。

 そんな訳で、ルルンバちゃんの空間倉庫も使用しての、頑張っての鞄に詰め込み作業を数分。そんな事をしている間に、ハスキー達は順調に敵の数を減らして行って。


 図らずも、分業はとっても順調に進んで行ってくれた模様である。再び合流したチームは、次の怪しい場所を求めてこのエリアを彷徨い始める。

 ハスキー達の頑張りのお陰で、この台所エリアを徘徊していた雑魚モンスターは全て駆除出来ていた。お陰で次の層のゲート探しも、大変楽が出来て嬉しい限り。

 とは言え、閉まった扉は幾つか存在していて確定作業は大変かも。


「ここも1つずつ確かめて行かないと、ゲートのある部屋が分かんない仕組みかぁ。ハスキー達が雑魚を倒している間に、最低2つは確認しようと思ってたけど。

 思ったよりハスキー達が頑張ってくれて、1個しか確認出来なかったよ」

「お肉の詰め込みに、案外と時間が掛かっちゃったのも計算外だったよねぇ。欲はかき過ぎても駄目だね、反省しなきゃ」


 そんな事を口にする紗良だけど、あまり反省している表情では無かったり。何しろ、あれだけお肉の貯蔵があれば、家族もお隣さんも当分の間は幸せなのだ。

 紗良にとっては、ここは確かに“報酬ダンジョン”に間違いはない。さっきの層のチーズ塊も同じくで、久々にピザ窯を稼働させるのも悪くない。


 香多奈と一緒に、そんな脳内ハッピーパルスを発しながら後衛をついて回る姉妹である。帰ってからどんなお料理を作ろうかと、ある意味前向きな会話をして楽しんでいる模様。

 そんな後衛に構わず、姫香は次の扉の前へと進み出ての開封作業。その途端にツグミが動いたので、何かしらの罠が扉に掛けてあったと思われる。


 ツグミのお陰で、罠は結局作動せず……そして扉の奥には、大きな食器棚やら鍋や薬缶が所狭しと置かれてあった。中央には大きな机と、まな板やら包丁も置かれている。

 子供たち的には、さっきの貯蔵庫ほどには魅力的では無さそうだけど。調理器具や食器類は、青空市にでも出せばそれなりに売れそうな気も。


 注意しながら中に入った子供達は、相談の結果幾つかそれらを持ち帰る事に決めたようだ。ハスキー達は扉の前で待ちながら、早く次へ行こうよと催促している。

 そんな展開がこの層でも3度ほど続いて、1つはハスキー達お待ちかねのパペットがギュウギュウに詰まったモンスターハウスだった。

 そいつ等を、嬉々として倒し始めるハスキー達&茶々丸である。


 残りの2つは、ゲートの湧いている小部屋と食糧貯蔵庫だった。今回の食料品は、ハムやら果実酒やらが棚にそれなりに貯蓄されており。子供達も相談しながら、適当な数量を回収して行く。

 どうやらあと1層あるので、収納容量と相談しながらの回収らしい。既に持って来ている魔法の鞄は、どれも全部パンパンで大変な事になっており。


 姫香装備の白百合のマントの収納まで、限界まで突っ込む有り様である。気のせいかマントが重くなったかもと、姫香は嬉しい悲鳴をあげている。

 そして恐らく、この次は護人の薔薇のマントも協力させられる予感が……ツグミも限界は分からないけど、スキル&闇操作でかなりの量を収納出来る筈。


 これも子供達にとっては、熾烈な戦いの一部なのかも知れない。紗良などは特に、目が真剣で全部を持ち帰れないのがとっても悔しそう。

 姫香などは、凛香チームに教えてあげれば喜ぶかもと口にしているけど。ボスの強さが少なくともB級以上はありそうなので、ちょっと厳しいかも。



 そんな事を話し合いながら、一行はゲートを潜って3層へと辿り着いた。今までのパターンだと、中ボスが待ち構えているエリアなので注意が必要である。

 そう口にする護人だが、まずは雑魚の掃除が先には違いなく。台所エリアに点在している、オーク兵やら大ネズミやらを蹴散らしに、勇ましく駆けて行くハスキー達をまずは見送る。


 後衛陣は、ハスキー達の獲物を横取りするのもアレなのでやっぱり別行動に。閉じてる近場の扉を、中ボスの部屋じゃありませんようにと願いながら開けて行って。

 そんな願いが通じたのか、1つ目の扉は普通に大ゴキブリ満載のモンスターハウスだった。子供達の絶叫と、萌の炎のブレスが狭い室内に響き渡る。


 最終的には護人も前へと出て、“四腕”を発動させての害虫駆除作業。薔薇のマントはゴキブリを何とも思っていないのか、仕舞いには巨大なハエ叩きへと変化して。

 そこから繰り出される一撃は、バチーンと鳴る音も凄まじい。数匹を一気に殺傷するその威力だが、子供達にはドン引かれてしまった模様。

 戦いが終わって護人が近付くと、自然と距離を取られる破目に。


「えっ、いやいや……本物のゴキじゃないから、倒したら魔石になるんだから。従って、別にマントもバッちくなってないぞ?」

「ああ、うん……でも心情的に、ちょっと拒絶反応が」


 叔父さん大好きな姫香でさえ、こんな反応は如何いかがなモノかと思うのだが。ゴキの気持ち悪さの刷り込みは、やはり生半可ではないようだ。

 そんなやり取りを交えながら、次の扉はお馴染みの食糧庫となっていた。当たりを引いて大喜びの子供達だが、容量問題は依然として存在している様子。


 今回は缶詰やら乾物やらの、長期保存に適した食材の貯蔵庫だった。それなりの量が整然と積まれていて、缶詰は肉や魚や果物やらと色んな種類がある。

 乾物も同じく、魚の干物やらタコやイカやらにはじまって。カツオ節もあるし、肉の干物もスライスされた物が棚に積み上げられている。


 それを見て、思わずハスキー達を呼び寄せてしまう香多奈は案外家族想いなのかも。オヤツがあるよとの言葉に、戦闘を終えたハスキー達は喜んで飛んで来た。

 それを見て、ナイフで細かく切り分け始める護人も大概ではあるけど。紗良と姫香は、とにかく持ち帰る品物を選り分けている最中。


 ハスキー達は、恐らくは動物の肉と思われるジャーキーを喜んで食していた。それを見た茶々丸が、自分の分が無いと護人に頭突きをかますのはいつもの事。

 アンタはこれで我慢しなさいと、香多奈は一応持って来た枯れ草のキューブを取り出して茶々丸に食べさせてあげる。ペットへの支度は万全な末妹は、意外と良い子なのかも知れない。


「おっと、ハスキー達のモンスター退治は、いつの間にか終わってたんだな。チェックしてない扉は、あと残り3つか……あの奥の扉が、多分だけど中ボス部屋かな?

 取り敢えず、手前の2つの扉を先にチェックしよう」

「了解っ……今度大物が出たら、薔薇のマントの収納にお願いね、護人さん!」


 さっきはそのマントのゴキ潰しで、拒絶反応を示していたと言うのに都合がいいなとか思いつつ。護人は表面では、良い笑顔で了解と返事して扉チェックへと向かう。

 そして結果的に、醬油や味噌などが樽で置かれてあって、それらの収納を任される流れに。薔薇のマントも渋々ながら、何とかそれを回収してくれて一安心。


 確かに発酵品は、ある意味ゴキよりも匂い移りがしそうで薔薇のマント的には嫌なのかも。そして残りの1つは、テーブルクロスやナプキンなどの布を仕舞っておく部屋だったようで。

 ここは良いかなと、華麗にスルーを決める現金な子供たち。


 そんな訳で、残りは推定中ボスの部屋のみとなった。ヤル気を見せるハスキー達と、久々に速攻で仕留めようかと提案する姫香だけど。

 紗良は別意見で、ここの攻略が終わったら1度家に帰ろうと提案をして来た。つまりは、パンパンになった荷物を置きに戻りたいらしい。


 確かにそれは良い案だと、すかさず賛成をして来る姫香である。敷地内ダンジョンならではの作戦で、これをまさに臨機応変と呼ぶのだろう。

 ついでにトイレ&お茶休憩を挟んで、リフレッシュすればいう事なしだ。この時点では、誰も中ボス戦で苦戦するなど毛ほども思っておらず。


 そして結局は、特に作戦も決めずに突入した中ボス部屋で待ち構えていたのは。コック姿の巨大猿と、貴族のいで立ちの狼男と言う妙なペアだった。

 猿はマンドリルみたいな、顔の派手なタイプで手には巨大な包丁を持っている。コック帽がやたらと長くて、何と言うか遣り手を思わせるいで立ちだ。


 一方の中世の貴族風の服装の狼男は、長くて立派なダイニングテーブルの上座に腰掛けて優雅な仕草。野蛮な奴らに食事を中断されちまったぜと、どことなく演技臭が漂っているのはともかくとして。

 そいつがパチンと指を鳴らした途端、執事とメイド風な手下がその場に湧いて一同ピックリ。と言うか、この過剰な演出は中ボス戦を前に、必要かどうかもちょっと疑問ではある。

 そいつ等は揃って包帯まみれの、マミーな出で立ちなのも奇妙な点かも?


「わわっ、途端に雑魚が増えたね……狼男とコックかぁ、護人さんはどっちを相手にする?」

「そうだな……コックは包丁を持ってるから、俺が相手するのが良いかもな。椅子やらテーブルが邪魔くさいから、立ち回る際には気をつけなさい、姫香」

「それじゃあ萌とルルンバちゃんは、あっちの包帯巻いてる怪我人の相手をしてあげて。あんまり強そうじゃ無いからって、気を抜いたらダメだからね!」


 あの雑魚はオイラ達の獲物だと、張り切って突進をかますコロ助と茶々丸である。そんなフライング気味の行動から、中ボス戦がスタートを切って。

 護人のサポートは、相棒のレイジーが担う予定らしい。それに気付いて安心する護人だが、ある意味それは敵が強い認定の証でもあった。


 斬り結んでその強さを実感した護人は、チームに気を引き締める言葉を発しようとするのだが。それより先に、コロ助と茶々丸が包帯に絡まったと、慌てる末妹の絶叫が飛び交って来た。

 早速やらかすお茶目な前衛陣だが、狼男と対峙した姫香も隙を見せられない状況で。ツグミがフォローに入るのだが、狼男の体術は無手なのに凄まじいレベル。


 避けた筈の爪の斬撃が、頬を切り裂いて出血するのはまだマシなレベルで。周囲の椅子や机は、あっという間に瓦礫へと変わって行く破壊魔の狼男である。

 ツグミも闇を操る攻撃を仕掛けているのだが、この狼男もそっち系の属性らしく。ことごとくキャンセルされて、逆に闇系の金縛りを喰らいそうに。


 護人の方も、パワータイプと思っていた敵が以外にも流暢な包丁さばきを披露して来た。思わず三枚切りにされそうになって、慌てて距離を取っての防戦一方な遣り取りに。

 レイジーも炎のブレスでフォローしてくれるのだが、相手もどうやら炎属性らしく涼し気な表情は腹が立つ。さすがコックのコスプレをしているだけあって、炎の調理人(?)みたいな設定なのかも。

 つまりは、選択した対戦カードが思い切り裏目に出てしまったみたい。





 ――さて、この劣勢をどうやって巻き返そう?







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