第564話 昼食休憩を終えて2つ目の扉へと挑む件



 さて、嬉しいドロップ報告だけど、香多奈が張り切ってルルンバちゃんと拾い集めた結果。魔石(中)が1個に魔石(小)が3個、それからオーブ珠が1個にスキル書も1枚回収出来た。

 そして中ボスのゴーレムが豪華な腕輪を落としていて、妖精ちゃん的にはこれは大当たりらしい。強い敵ではあったので、報酬もそれなりに期待出来るかも。


 それから設置されている宝箱だけど、これも少々不穏と言うか。明らかに宝箱に入りきらなかった、ホームジム用の筋トレ器具が箱の横に置かれていたのだ。

 いかにも物々しい器具だけど、香多奈は売れるかもとルルンバちゃんにお持ち帰りを指示する。彼の空間収納は、その手の大物も簡単にパクれる優秀さを併せ持っているのだ。


 そしてそんな健康器具は、宝箱の中にも散在していた。腹筋ローラーやダンベル、バランスボールやハンドグリップや敷き用のマット類等々。

 トレーニング用の衣類やタオルも結構入っていて、それに紛れてプロテインも結構な量を発見した。ナニコレと不思議そうな末妹に、栄養補給に良い飲み物かなぁと紗良の注釈が入る。


 これも家族の口に合わなければ、お隣に配るか青空市での売り候補になりそう。サプリも同じく、恐らく家族の誰も見向きもしないだろうから売る事になるだろう。

 後は、お決まりの鑑定の書とか薬品類がそれなりの量入っていた。部類としては、上級ポーションと中級エリクサーの両方が入っていたので大当たりである。


 武器防具の類いも、重オーグ製のハンマーやメイスに鎧も1セット。それから何故かトロフィーにペンダント、最後に大振りの鍵が1つ出て来てそれは予定通りかも。

 香多奈もそれを手にして、これを集めればいいんだよねと口にしている。紗良もレイジーやペット達の怪我チェックを終えて、ようやく宝物の前へ合流して来た。

 賑やかになる子供達だけど、宝物のチェックはこれにて終わり。


「よっし、最後の敵は強かったけどしっかり倒せたし、一旦戻ろうか。お昼食べて、午後は取り敢えず2つ扉を攻略する感じかな、護人さん?

 まぁ、報酬は逃げないし無理する必要は無いよね」

「そうだな、みんなお疲れ様……一応は帰り道も気をつけてな」


 護人のその言葉に、は~いと元気な子供達の返事である。ハスキー達もテンションアップしつつ、帰路の案内を率先して務めてくれている。

 安堵の大きい護人は、そんな家族を見守りながら一番後ろをついて歩く。午後からはまた仕切り直しだが、取り敢えず最初の扉を無事に攻略出来て良かった。

 この調子で、“喰らうモノ”への再挑戦に弾みをつけたい所。




 そうして約1時間後、お昼休憩の終わった一行は再び鬼の“報酬ダンジョン”の前へ。ロビー的なフロアの間へとやって来て、今度は真ん中の扉を選ぶ。

 選んだのは香多奈で、その辺は毎度の来栖家のパワーバランスとでも言おうか。そしてハスキー達が、すかさずそれに従うのも毎度の事。


 入って最初に目に付いたのは、なかなか広い台所のような空間だった。同じく鼻に漂って来る匂いも、夕食の宴を思わせる混然とした料理の品々を思わせる。

 ハスキー達も混乱しているようで、こんなフロアもあるんだと周囲を仕切りに窺っている。どうやらここは中世の厨房がベースの様で、床は全て土を固めた土間仕様となっている。


 奥の壁際には、火の入った暖炉なのかかまどなのか、盛大に炎が上がっていた。粗末な木製の大テーブルもあちこちに設置されていて、ロウソクの灯りもテーブル上に。

 そして肝心のモンスターだけど、オーク兵が見える範囲で2集団ほど。それぞれ半ダースで固まっていて、何故かエプロン姿と言うか調理師の服装である。


 手にしているのは鉈や巨大な肉切包丁で、エリアに沿った雰囲気を醸し出している。コイツ等も、1層の敵にしては揃って強そうな面構えな気がする。

 とは言え、容赦のないハスキー達は押せ押せで討伐に挑んでいる。近寄って来たもう1つの集団も、姫香と萌がブロックへと出張って行って。

 それを背後から、護人とルルンバちゃんの遠隔でのサポート。


「うへえっ、台所のエリアに豚さんのコック……何だか変なエリアだねぇ、料理の並んでるテーブルも向こうにあるよ。間違っても食べたくはないけど、ハスキー達にも食べるなって言っておかないとね、叔父さん?

 あの子たち、アレで食いしん坊だから」

「まぁ、そうだな……毒とか混じってたら大変だし、その辺はしっかり注意しておこうか。それより、本当に厨房と台所が繋がったようなエリアだな。

 さっきのトレーニング施設のエリアと言い、変なのばかりだな」

「そうですねぇ、でもこのエリアだったら……ひょっとして、大量の食料品の回収も出来ちゃうかも?」


 嬉しそうにそう話す紗良に、それは楽しいねと乗っかる末妹の香多奈である。既に出来上がってテーブルの上に置かれた料理は別として、素材の食料は持ち帰る気満々な鼻息だったり。

 確かにあちこち視線を向けてみると、貯蔵庫かなって場所もあるにはある。ただし、敵の姿も物陰に潜んでいそうで、下手に単独で動くべきでは無さそうだ。


 ハスキー達は、新しい敵を求めてこの妙なエリアの探索に出向いてくれている。それを尻目に、香多奈はあの扉の向こうをチェックしようよと飽くまで呑気である。

 最終的にそれに乗っかる護人も、まぁ大概ではあるけれど。子供の我が儘を叱るより、探索の手伝いと言う形で処理した方が気が楽なのだろう。


 そして開かれた扉の奥は、紗良の推理したように食糧貯蔵庫だった。ワインやパンやチーズの塊が、棚に分けられて整然と置かれている。

 貯蔵庫の大きさ的にはそれ程でも無かったので、蓄えられていた食材もそれなりの数だったけれど。持ち帰って、ギルド仲間に分けるには充分過ぎるほどの量である。


 早速それらを、手分けして空間収納に詰め込む子供達&ルルンバちゃんである。仕事を手伝っている時のルルンバちゃんは、とっても幸せそうで見ていて和む。

 ムームーちゃんも、手伝っているつもりなのか触手を伸ばして食材を掴む仕草。護人はワイン瓶を眺めて、値打ちはどの程度なのか推測の真似事など。

 もっとも、知識が全く無いのでサッパリだったけれど。


「ふうっ、これで食べれそうな食料品は、ほぼ持ち出せたかな? ワインは年代とかによって、価値が違ったりするんだっけ、叔父さん?

 高く売れると良いね、それともザジ達が飲むかな?」

「そうだな、青空市で売れなさそうな食料はお隣さん達に分ければいいしな。遠慮せず持って帰ろうか、何しろここは“報酬ダンジョン”だからね」


 そう言う護人に、確かにそうだねとヤル気をみなぎらせる子供バンデット達である。倉庫を出ると、隣の隣の部屋でハスキー達は戦闘中の模様。

 どうやら大量の、大ゴキと大ネズミが出没した様だ。茶々丸がムキになって、蹄でそいつ等を踏み潰している。ハスキー達は、スキルをメインに冷静に数を減らして行って、対照的な戦闘風景だ。


 次々と魔石になっている敵たちに、遠目でそれを確認した末妹も興奮状態に。この扉エリアは当たりだねと、さっきとの違いに目を見開いて喜んでいる。

 まぁ、さっきの扉も召喚の仕掛けを触ったら、10体ペースで敵が湧いてくれたけど。この層は騒ぎに釣られて、奥の部屋から次々とオークやパペットが集まって来ている気が。


 これは最初に討伐に本腰を入れるべきかと、護人は周囲の安全確保をチームに指示する。それに従って、姫香はルルンバちゃんと一緒に敵の気配のする方へ。

 このエリアは、扉で仕切られている部屋こそ少ないけど繋がりは乱雑で意外と見通しは良くない。灯りも設置されているけど、充分とは言えず探索には注意が必要だ。


 それを踏まえて、後衛陣もチームの敵の殲滅手伝いへと動き始める。護人も弓矢を取り出して後方支援、香多奈も前衛に『応援』を飛ばしてのサポートに余念がない。

 そんな訳で10分後には、この奇妙な台所エリアはおむね静かになってくれた。紗良はペット達を集めての怪我チェックを始め、姫香はルルンバちゃんを連れて次の層のゲート探し。

 そして不用意に奥の扉を開けて、新たなモンスターと鉢合わせ。


「うわっ、何もいないと思ったらゾンビの集団が詰まってた! 外れの部屋もあるよっ、みんな注意してっ!」

「一番注意しなきゃなんないのは、姫香お姉ちゃんじゃんかっ! 萌、浄化ポーション入りの水鉄砲あげるから、お姉ちゃんのヘルプに行ってあげて」

「ルルンバちゃんもいるから大丈夫と思うが、俺もヘルプに行こうか。紗良、ここは頼んだよ」


 過保護な護人は、離れた場所で敵と対峙して騒いでいる姫香がとっても心配な様子。休憩中のこの場の指揮を長女に任せて、萌と一緒にゾンビ退治へ向かう。

 幸い向こうは、入り口が狭いために囲まれずに済んでいるようだ。ルルンバちゃんも敵のき止めに協力して、敵を渋滞させての各個撃破を行っている。


 敵のゾンビも、どうやら強敵が混じっているなんて事は無さそう。後の心配としては、ゴースト系が混じっていないかどうかだけれど。

 どうやら今の所、そっちの気配は漂って来ていない。


 そんな喧騒も5分後には沈静化、小部屋の中をようやく改める事が可能となったのだけど。残念ながら、大した回収品もゲートも無しと言う結果に。

 見回してみると、閉じている扉の数はあと数枚はありそう。どれも古びていて、そのデザインからはどれが当たりかとかは判然としない。


 こうなったら、全部開けて行くしか無いかなとの姫香の言葉に。休憩を終えたハスキー達も合流して来て、場は再び賑やかになって行く。

 こうなると、もう戦力不足なんて事にはなりようも無い。ハスキー達も、扉を開けれないから敢えてスルーした訳で、手抜いた結果とも違うし。


 今も自分達の休憩中にズルい的な感情を向けられ、言い返す事も出来ない姫香である。勤勉なのは褒められる美点だけど、こっちだって活躍はしたいのにと。

 そんな事を姫香は思いながら、仲良く行こうねとハスキー達に呟いて。近場の閉じている扉を、用心しながら次々と開けて回る作業を始める。


 その結果として、1つはさっきと同じくゾンビの閉じ込められた小部屋と言うオチで。もう1つは塩やトウガラシ、香辛料などの貯蔵庫だった。

 カレー粉っぽい匂いもしたので、そっち系の香辛料も混じっているのかも。嬉しそうな紗良は、これらもある程度持って帰ろうと張り切り始めている。

 そして最後の2つは、洗い場とようやくゲートの部屋が出て来た。


「ようやく発見、次の層へのゲートがあった! もう1つは、内井戸とかあって水場っぽいね……調理場と言うか、野菜の下処理とかお皿洗いとかする場所かな?

 ハスキー達の敵の殲滅はどんな、護人さん?」

「紗良の《浄化》スキルで、ほぼ見せ場が無かったのが不満なのかな。残った敵がいないかって、あちこちフロア内を彷徨さまよってるよ。

 まぁ、呼び戻しても問題は無いだろう」


 モンスターなら、恐らく次の層にも大量にいるだろうし。このダンジョンの攻略もかなり押しているので、時間短縮も図りたい護人である。

 ここの攻略は、分業が功を奏して幸いにも30分と少ししか掛かっていない。この調子で、次の層もサクッと攻略して3層へと向かいたい所である。


 そんな事を考えながら、周囲に散っていたハスキー達を呼び戻して。次の層へのゲートへと、仲良く歩を進める来栖家チームであった。

 ハスキー達も、気持ちを切り替えて先頭でゲートを潜って行く。





 ――探索はまだ、ようやく半分と言った所か。







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