第560話 無視も出来ない“新”敷地内ダンジョンを窺ってみる件
ようやく突入態勢が整った、“喰らうモノ”ダンジョンの攻略を来週に控え。週末を迎えた来栖家の面々は、ここに来てやや浮足立っていた。それにはもちろん、前回の攻略失敗を引き
島根と愛媛からA級チームを呼び寄せて、またもや失敗なんて事になったら目も当てられないねと。そんな末妹の呟きが、未来を招いて確定しかねないと焦った面も。
それじゃあどうするのと、半分キレそうになりながらの姫香の問い詰めに。まだ時間があるんだから、敷地内のダンジョンで特訓でもすればとの末妹の返し。
なるほど一理あるねと、多少冷静さを取り戻した姫香は小首を傾げて悩む素振り。今日は週末で、幸いブルーベリーの収穫くらいしか家族の予定は無し。
ついでに島根の『ライオン丸』と愛媛の『坊ちゃんズ』だが、息合わせに合同で探索に行こうと言う話になっているそうで。どこか良い場所を教えてくれと、歓迎会の時に相談されていたのだ。
そこで思い出したのが、鬼の用意した“ダンジョン内ダンジョン”5つである。ここは彼らが言っていた通り、特殊でコアの修繕も異様に早かった模様で。
気付いたらダンジョンは、5つとも普通に活動を再開していたようで。それを確認に向かった姫香とハスキー達は、何とも言えぬ表情に。
もっとも、ハスキー達は普段から夜中の特訓に使っていて知っていたかもだけど。それにしても、何とも個性的なダンジョンを近場に抱えていたモノだ。
さて、それじゃあ新しい“報酬ダンジョン”は一体どんな?
「攻略するとかは別にして、1度はどんな感じなのかみんなで見ておいた方がいいんじゃない、護人さんっ? ってか、ゲストチームが訓練に行くって言ってるし、ウチらもどっか探索しに行くべきかも?
異世界チームと星羅チームも、今日はダンジョン探索するって言ってたし」
「そうだねぇ、うちだけ家でのほほんとしているのも、確かに体裁が悪いわねぇ。ペット達は行く気満々で、お庭で待機しているみたいだし。
ここはもう、探索に出掛けるしかないのでは、護人さん?」
「それじゃ、急いで支度しなくっちゃだね……ほらっ、萌もムームーちゃんも出掛ける準備してっ!」
そんな訳で、家畜の世話を終えての朝食後のミーティングで。週末の来栖家は、他のチームと足並みを揃えるべく
その第1候補だけど、鬼が用意してくれた“鶏兎ダンジョン”内の新造ダンジョンが最有力候補に。1度潜った場所は、ネタバレしていてテンションが上がらないとの子供たちの意見に。
そんな訳で、まずはゲスト2チームを敷地内に招いて“鼠ダンジョン”へと案内をして。それから自分達は、鬼の用意してくれた“報酬ダンジョン”へと赴く流れに決定。
それを伝えた数分後には、探索準備を終えた異世界チームと星羅チームが庭前へと集合を果たした。それから更に15分後には、麓から車で上がって来た島根チームと愛媛チームがそれに合流。
途端に賑やかになる来栖邸の庭だけど、傍目から見たら物凄く壮観である。何しろA級チームが4組に、B級チームが1組と言う並び。
ここにいない『シャドウ』チームも、青空市の後には合宿と称して来栖家に数日泊まり込んでいた。今週は里帰りしていないが、探索者としての腕は訓練で上がっている筈。
とにかく難関ダンジョンの攻略へ向けて、全力で頑張っている一同である。今日の合同探索も、チーム間の最終的なチェックの意味合いが強いみたいで。
それにしては、島根の『ライオン丸』チームの面々はやたらと浮かれている気がしないでも無いけど。それを珍しい生き物を見る目で眺める末妹も、ちょっと容赦がない。
「野郎どもっ、とにかく探索で目立って女の子たちの好感度を上げて行くぞっ! 丁度4対4のシチュエーションだ、誰が選ばれようと恨みっこなしだぜ!」
「そうだなっ、向こうもA級チームだから同格の探索者は新鮮な筈だっ……良いところを見せれば、なびく可能性はとっても高いぞ!?
頑張ろうぜ、この探索に俺たちの未来を賭けるぜっ!」
確かに切羽詰まった野郎どもの、魂の叫びを盗み見するのは面白いかも知れないけれど。それを聞こえてても、敢えて無視するマナーはとっても大切。
愛媛の『坊ちゃんズ』の女性4名は、そのルールを守ってとってもお行儀が良い感じ。もっとも
『坊ちゃんズ』の女性リーダー
そんな騒動を挟みつつ、4組のチームは“鼠ダンジョン”へと去って行った。最初に懸念していた、A級チーム同士の
それに関しては本当に良かった、こちらも余計な神経をつかわずに済む。チーム『ライオン丸』が、早くも女性チームに尻に敷かれそうな雰囲気は漂っているけど。
その辺はノータッチで、向こうのやりやすいようにしてくれればそれで良い。
「さて、それじゃあこっちも探索に出掛けようか。ハスキー達が急かして来てるし、ウチらの準備はすっかり出来てるからね」
「確かに向こうのチームばっかり訓練させても、主催チームとしては格好がつかないもんね。せっかく鬼が用意してくれた報酬だって、確認しないと失礼だろうし。
そう思えば、丁度いいタイミングなんじゃない、護人さん?」
「そうだな……どうせ他のチームが探索してるのを知ってて、ウチだけ休む度胸も無いしな。それじゃあ取り敢えず入ってみて、中の様子を窺う感じで行こうか。
全部を攻略するかどうかは、中の階層数次第かな?」
合計の階層数が15以上だと、1日で全て攻略するのも大変になって来る。そもそも“鶏兎ダンジョン”に入るのも、来栖家的には随分と久し振りだし。
ハスキー達は、間引きと称する経験値稼ぎで、夜中とかに入っている可能性もあるけど。ダンジョン内に変化があったと、報告も無いし内情は不明だ。
行けば分かるよと、香多奈などは呑気に構えて早くも歩き始めているけど。それに先行して、ハスキー達も軽やかな足取りで敷地内を進んでいる。
今回も主力は彼女達には違いないし、その点では本当に頼り甲斐のある仲間である。今回もムームーちゃんを連れて行く気満々の末妹に関しては、護人ももはや掛ける言葉もない。
ただし、妖精ちゃんの操る戦闘ドールが足元をウロチョロするのは
香多奈などは頑張ってねと楽しそうに声を掛けてるし、紗良も錬金の師匠には強い言葉を発せない様子。かくして、チビ妖精の我が儘は日々増長して行くのであった。
まぁ、彼女もチームの役に立とうと思ってやってくれている筈なので。強く
この力関係は、恐らく天地が引っ繰り返っても崩れる事は無さそうだ。例え妖精ちゃんが、スマートに戦闘ドールを操れるようになったとしてもだ。
ウサギは
「おっと、結局1層目には変化が無かったかな? 向こうの“鼠ダンジョン”と同じ構造なら、2層目の支道から入れるゲートが出来ているのかもな。
次の層は注意して確認頼むよ、ハスキー達」
「そうだね、敵もほぼ出て来なくなってる点も同じかも……“報酬ダンジョン”の数は幾つかな、1個だけだと今日中に探索して終わりだね」
「えっ、複数の可能性もあるの、香多奈? 私はてっきり、1個だけで豪華な報酬をゲットして終わりだって思ってたよ」
そう言う姫香に対して、1個なんて寂しいじゃんと良く分からない反論をする末妹である。そして実際、2層に降りて確認した所……支道3つに対して、その奥に存在するゲートも3つ程確認が出来てしまった。
つまりは、最低でも3つは“報酬ダンジョン”がある事は確定っぽい。3層に行ってみないと分からないけど、まだある可能性ももちろん大きい。
どうしようと驚き模様の姫香に、取り敢えず今日はこの中の1つを探索しようと簡潔に答える護人。報酬が欲しいからと、あまり無理して攻略するのも違うだろうし。
最悪、今日中に攻略出来なくてもその辺は諦めが肝心だ。ハスキー達も今日はここかと、護人が指定したゲートへと元気に突入して行ってしまった。
その姿は何の
そして出た先は、“鼠ダンジョン”の改良後に見慣れたロビー室みたいな空間で。大人数の来栖家チームが出現しても、余裕のある広さの空間の先には。
3つの扉と、それからそれらが囲む床の先に魔方陣が1つ。魔方陣は稼働しておらず、深読みすればこれを稼働した先がボスの間なのかも。
探索も1年以上を数えると、自然とその程度の推理は出来てしまう。それは頭の良い紗良ばかりか、香多奈までが推測を口にして最初行けるのは3つかなと。
つまりは最初はどの扉を選んでも良いと言う、向こうの“ダンジョン内ダンジョン”と同じ構造らしい。その扉を攻略するか、鍵をゲットして戻ると大ボスに挑めるパターンだろう。
最終的には姫香もそれに同意して、末妹にどれから行こうかとご意見伺い。香多奈は元気に右端の扉を指差して、何の疑問も持たずにそれに従うハスキー達。
いよいよ探索開始だと、その表情はとっても嬉しそう。そして先陣切って第1層フロアへと突入して、慣れた様子で周囲を嗅いで回っている。
少し遅れて入って来た、護人たちも同じく周囲の確認を行った所。どうやら最初のダンジョンは、遺跡タイプと言うか室内フロアの模様である。
古い感じもしないし異世界感も無いなと思って眺めてみると、どうも現代建築物っぽい室内である。意外と広くてフラットな室内に、目立って散在する妙な器具類。
アレは何かなと、モンスターの姿の見えない気軽さからそれに近付こうとする子供たち。ハスキー達も敵の姿を求めて、周囲をうろついてるけど見付からない様子。
今までの“ダンジョン内ダンジョン”では、1フロアに敵が50体以上出て来たので違和感が凄い。子供達は器具がやっぱり気になるようで、間近でそれを観察している。
そしてビックリ、姫香が試しに作動させると周囲に湧くモンスター達。
「わわっ、これって敵の召喚装置だった……ひあっ、一気に10匹もっ!? ハスキー達、フォローお願いっ!」
「おっと、ようやく敵が出現したか……とは言え、まだこのエリアの仕掛けも分かって無いしな。他の装置には触らず、取り敢えず出て来た敵を倒すぞ、みんな」
「オッケー、叔父さんっ……ルルンバちゃんも参戦だよっ、頑張って! ルルンバちゃん、近接攻撃モードにチェンジっ!」
その言葉と共に、ノリノリで装備を変更させて良く分からないポージングを行うルルンバちゃんである。その辺は、秘かに末妹と特訓を行っていたのだろう。
そこからの交換した魔導アームでの近接戦は、何と言うか容赦のない戦い振り。普段の温厚な彼とは違って、無機質に敵を
まさにお掃除殺人マシーンとでも呼ぼうか、ドワーフの親方も罪作りな装備を与えたモノだ。この魔導アームには、一応刀身やらの昔の回収武器を使用してはいるのだが。
質量と言うか、アームそのものが凶悪な武器となっており。これを、ほぼ無料でルルンバちゃんにプレゼントしてくれた親方は、ある意味来栖家チームのファンなのかも。
その装備の威力の初お披露目に、護人も驚いて目が点になっている。
――とにかく、新生ルルンバちゃんが増々頼りになる事は確か?
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