第559話 日馬桜町でA級チーム揃い踏みの宴が開かれる件



「おっちゃん達っ、紗良お姉ちゃんの作ったサンドイッチを差し入れに来たよっ! それから昨日の容器の回収ね、ちゃんと洗って返すのはマナーだからねっ」

「おっ、うおおおっ……今日も紗良ちゃんの手作り料理が食せるのか! この町に来て正解だった、まるでこの世の春じゃないか!」

「そっ、それより……愛媛の女子チームがもうすぐ町に来るんだって?」


 協会での用件が一通り終わって、そこの駐車場のキャンピングカーで生活している島根チームに。差し入れを持って来た香多奈は、いつも通りに超元気である。

 その後ろには、一応のお目付け役として柊木が立っていた。今日は土屋と共に、A級2チームの迎え入れを協会から仕事として仰せつかっており。


 それならば、この島根チームの相手でもしていようかと麓まで車で降りて来た所なのだが。そんな時、子供が何かやってて面白そうなので見学させて貰っている次第である。

 他の来栖家の面々は、もうすぐ到着予定の愛媛チームを待ちながら、麓で時間を潰しているみたい。土屋もそちらに合流しており、今は植松家にお邪魔中との事。


 末妹だけチーム『ライオン丸』を訪れているのは、差し入れもあるけどこのチームの暴走を防ぐためでもあって。妙齢の女性チームとの食事会に、変な事をしない様にとの釘刺しの面も。

 こちらもその為に訪れた柊木だったけど、香多奈は姫香と向こうチームのラインの内容も知っているので。おっちゃん達頑張りなさいよと、アドバイスする気満々な様子である。


 つまりは、やり方次第では案外とこの2チームが仲良くなれるかもと思っているようで。今夜の食事会を知らされた男衆は、何を着て行けばいいと舞い上がっている。

 仕舞いには、冠婚葬祭用の礼服があった筈とのヒーラー向井の発言に。天才かと絶叫するリーダーの勝柴かつしばと、アホですかと呟く少女の背後の柊木である。


 その声に振り返った香多奈は、お隣のお姉さんにオッちゃん達のコーディネートをしてあげてと頼む素振り。小学生から見ても、この男衆の普段のズボラ振りは不味いレベルなのだろう。

 その点、柊木は山の上の理髪を一手に引き受けて、町で育っただけあって服のセンスも抜群だ。男だけの生活にひたり過ぎて、探索以外ではダメ人間となった男衆の救世主として。

 その手腕を発揮して、今夜の食事会で脚光を浴びさせて欲しいとの少女の願い。


「分かりました、取り敢えず全員の髪形を整えて、それから隣町へ服を買いに行きましょうか。時間かあまり無いので、皆さん協力してスピーディに動きましょう。

 そして同じくA級チームの、愛媛チームのお嬢さんたちにアピールするのです!」

「頑張ってね、おっちゃん達……紗良お姉ちゃんは無理でも、おっちゃん達がイケてるって思ってくれる女の人はきっと見つかるよっ……多分、きっと!

 さあっ、それじゃあ散髪からだねっ、柊木さんっ!」




 植松の爺婆の家にいったん厄介になった来栖家の他の面々は、呑気に夏の収穫物の出来について話をしていた。紗良と土屋と植松の婆は、夕方の食事会の用意もボチボチ始めており。

 護人からは人も多いので、毎度のバーベキュー方式で良いとのお達しなのだが。それでもお肉の他にも、お惣菜やら周囲の彩りはあって損にはならないと。


 何しろ島根チームはともかくとして、そんなにまだ接点のない愛媛チームも参加と来ている。男衆ばかりの島根チームとは違って、やはり多少は華やかな食卓を用意しないと。

 そう思って、台所を借りてお婆と夏野菜を使ったおつまみを色々と作り始める紗良であった。例えばナスのはさみ揚げとか、オクラと長イモのサラダとか。


 キュウリやトマトも良く出来たものが手元にあるし、夏は本当に楽しい。これさえ食卓に出しておけば、夏バテなんてしないよとお婆も言っているし。

 そんな話をしながら、5~6品をあっという間に作り上げたお料理大好き軍団は。ブルーベリーを収穫して、デザートにも手を染めたいねとの結論に至って。


 護人や姫香にお願いして、暑い盛りだと言うのに畑に出て貰う事に。例え田舎でも、暑い日中に作業する働き者はほぼ存在などしない。

 それをおしての作業は、なかなかの出来栄えで見事なサイズのブルーベリーが篭にわんさか。一番頑張ったのは、実はツグミでそのスキルの使い方は既に達人レベルである。


「ありがとう、ツグミちゃん……暑かったでしょ、今お水をあげるねっ」

「紗良姉さん、ウチらも一応は頑張ったんだけど……それにしても、香多奈は一体どこをほっつき歩いてるのかしら。

 島根チームに、お昼を差し入れするだけって話だったのにね」

「ああ、何か柊木さんと一緒に、隣町に島根チームの服を買いに行くって連絡があったよ。今夜の夕食会に、粗相がないようにって向こうは盛り上がってたけど何でだろうな?」


 合コン感覚だからでしょと、お互いをせっついてセッティングした姫香当人は痴れっとしたモノ。その結果までは責任持てないよと、まぁ確かに一理はあるのだが。

 当事者としてはもう少し、身を入れて歓迎会を盛り上げる努力をすべきなのだろう。とは言え、姫香からすればその後の“喰らうモノ”攻略の方が、何倍も大事なのは当然で。


 その前に盛り上がっても仕方ないでしょと、そんな思いもあるみたい。色恋沙汰を二の次とは、年頃の女の子らしくはないなと紗良も思うのだけれど。

 姫香の考えも、確かに一理あるかもと思ってしまう長女だったり。


 そんな事を話しながら、料理のストックは順調に増えて行ってくれて。新たに増えた食材も、見事にブルーベリータルトやアイスへと変わって行き。

 特にアイスは、来栖家の牛乳からつくられた本格的なモノである。材料を抜かりなく運んで来ていた紗良は、相変わらず料理にかける執念が凄い。


 そうしている内に、ようやく『坊ちゃんズ』が協会に到着したよとの知らせが届いて。こちらも料理関係が整った来栖家は、お招きしようと勇んで車で移動を果たす。

 そして懐かしの愛媛チームとの再会、とは言っても“アビス”遠征の際にちょっとだけ話しただけの仲だけど。それでもライン交換していた姫香と相手の女性陣とは、熱烈な再会の挨拶が交わされる。


 改めてみると、女子だけのA級チームはなかなかに華やかで凄みすら感じる。醸し出すオーラも独特で、確かにこれを見て気楽に話し掛けようって男達は少ないかも?

 姫香も出会いが少ないとラインで相談されて、気楽に知り合いにA級男衆チームがいるよと返したのだが。案外上手くまとまってくれたら、それはそれで良いじゃんって思う次第。


「お久しぶりです、『日馬割』ギルドの護人リーダー……召集の期日に遅れてしまって、大変申し訳なく思っています。

 地元でオーバーフロー騒動が起きて、それに駆り出されてしまって」

「ああ、その辺の顛末は協会から聞き及んでいます。仕方のない事だと理解してますよ、ウチのチームもきっとそうしたでしょうし。

 地元の安全は、何をおいても確保するべきでしょう」


 そんなリーダー同士の挨拶の隣では、ツグミを触ろうと懸命になっている阪波はんなみと、ブルーベリーのデザートがあると知って嬌声をあげてる工藤と石黒と言う構図。

 夕食まで我慢してとキッパリ年上に指示を出す姫香は、ある意味大物ではある。そしてツグミは、何この知らない人と駐車場を逃げ回ってイケずな態度。


 思い切り落胆しているのは、デザートをおあずけされた女子たちも同じく。夕食会にバーベキュー大会を、夕方から開くからと姫香はそこは譲らない構え。

 それから阪波はんなみにも、山の上に行けば触らせてくれる動物いっぱいいるからと慰めて。いつもの場所にいない島根チームに、小首を傾げて先に戻ってようかと提案する。


 まだ夕方って感じの時間だけど、露天風呂やらお酒やら振る舞っていれば良い時間になるだろう。そこからお肉を焼き始めれば、歓迎会も大いに盛り上がる筈。

 そんな訳で、今夜のお泊り込みでの『坊ちゃんズ』の歓迎会を行うべく。山の上の来栖邸へと、一行は列をなしてキャンピングカーで上がって行く。


 それから進行する、露天風呂でのお持て成しやら食前酒やらの数々。阪波はんなみは仔ヤギの茶々丸を撫で回して、コレジャナイ感に苦悶の表情。

 それでも途中から可愛いが芽生えて来たのか、敷地内を一緒に駆け回っていたり。風呂に入った後なのに、動物との触れ合いが楽しくて仕方無いらしい。



 そうこうしている内に、異世界チームと星羅チームも合流して来て食事会が始まった。バーベキューに用意されたお肉は、ワイバーン肉がメインで味もお墨付き。

 それから紗良と姫香が、戻ってからせっせと作り上げたお惣菜とお握りも大量に机の上に並んで。ゲストの愛媛チームを、これは凄いと驚かせていた。


 それからようやく、末妹の香多奈から今帰ってる途中だよとの電話連絡が。もちろん島根チームと一緒で、向こうは何やら気合いを入れて支度をしていたらしい。

 合コンのムードに気合いが入っているのは、男衆チームの方が上みたいで。男ってバカだなと、姫香は内心で思いつつ末妹との電話を切る。


「香多奈と島根チームが、もうすぐここに到着するみたい。愛媛から女子チームが来るからって、気合い入れて服とか揃えに出掛けてたみたいだね。

 まぁ、悪い連中じゃないから変な目で見てあげないで」

「そっ、そう……だったら、こっちももう少しお洒落しておくべきだったかしら?」

「そうね、今から着替えるのもアレだし……お風呂入って、化粧も落ちちゃったし」


 途端にソワソワし始める愛媛の女子チームだけど、そんな時間はなかったようで。ただいまとの元気な末妹の声と、緊張しながらその後に続く洒落込んだ格好の男衆と言う。

 それをコーディネートした柊木は満足そう、緊張でろくに喋れもしない島根チームの紹介をし始めて。合コン中盤のように、席を指定して男女まんべんなく着席させる手腕振り。


 お腹空いたと、自分も席に座る香多奈はそんな緊張した席などどこ吹く風で。一緒に戻って来たコロ助や萌を発見して、ただ阪波はんなみだけが盛り上がっていたり。

 ホストとして食事を勧める護人や紗良は、とにかく男衆にも酒を入れて緊張をほぐしてやろうと必死。異世界チームと星羅チームは、戻って来た柊木に酒を勧めて勝手に盛り上がっている。


 そんな中、『ライオン丸』と『坊ちゃんズ』のリーダー同士はお互いの経歴や探索スタイルを質問し合って良い調子。お酒も酌み交わしながら、まずまずの滑り出しに見える。

 阪波はんなみだけは、今はムームーちゃんを膝の上に乗せてとっても幸せそう。隣で爆食いしている香多奈に、何やら質問しているのはペット事情についてだろう。


 お酒の力は偉大で、しばらく後には場はかなりの盛り上がりを示し始めた。その頃にはお酒を飲まない子供達は、家の縁側に避難して花火を楽しみ始めていて。

 同じく飲まない阪波はんなみや、食後のデザートを食べにザジや女子たちがやって来て。縁側周辺も、それなりにかしましくて騒がしい。


 護人は若い2チームが羽目を外さないよう監視しつつ、酒を飲み過ぎのメンバーのチェック。ムッターシャや土屋女史は、うわばみなのであまり関係ないけど。

 星羅や島根チームの最年少の神辺かんなべなどは、既にベロベロで休ませた方が良いかも。とか思ってたら、姫香がやって来てリビングへと連れ去ってくれた。

 頼りになる娘に、感謝し切りの護人である。


「それで、本番の“喰らうモノ”ダンジョン前に、肩慣らしで2チームの合同探索を挟みたいんだけど。ぶっつけ本番は怖いし、時間もちょっとあるみたいだから。

 明日……は、何人か二日酔いで潰れてるだろうから、明後日とか?」

「いいっすね、そこでフォーメーションの組み合わせを幾つか試しましょう。護人さん、近場で腕試しに丁度いいダンジョンありますか?」


 珍しくキリッとしている、島根チームのリーダー勝柴かつしばは見た目はナイスガイに激変していた。柊木もさぞ苦労したろう、そのイメチェン振りはほぼ詐欺である。

 それでも愛媛チームのリーダーの氷室ひむろは、いい男じゃんとちょっと舞い上がっている様子。合コンに関しては、ここまでは成功かも?

 いや、これは単なるレイド作戦前の顔合わせなのだけど。





 ――或いは、それより切実な男女の恋のさや当てゲームとも。







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