第561話 “報酬ダンジョン”は一筋縄では行きそうもない件



 装置によって湧いた敵は1種類、そいつ等は鉄製のゴーレムで割と強靭な敵だったにも関わらず。ルルンバちゃんの活躍で、その半数が彼の魔導アームの餌食となって消滅の憂き目に。

 護人と姫香も、それぞれ2体ずつ敵をやっつけて何とかこの窮地を逃れる事に成功した。慌てて戻って来たハスキー軍団だが、コロ助の白木のハンマーで1体を行動不能にしただけの結果に。


 それにしても、いきなり鉄製のゴーレムとは難易度はかなり高めの敵である。“報酬ダンジョン”だと浮かれていた子供達だが、気を引き締めて行かないと。

 そして姫香が敵を出現させた、代わった器具と言うか装置は室内にまだまだたくさんあって。ハスキー達が覗きに行った隣室への扉は、どうやら開きそうにないみたい。


 こうやって、色々と触ってこのフロアの解き方を調べて行くしか今の所手は無いみたい。そんな訳で、来栖家チームは最初の情報から作戦を練り上げた結果。

 姫香が代表して、装置を触って敵を出現させる事に。そいつ等を倒して行けば、恐らく隣の部屋の扉が開くんじゃなかろうかって読みである。

 そんな訳で、10以上はある器具を片っ端から作動させていく事に。


「うわあっ、それは大変……さっきはその装置で、一度に10体同時にゴーレムが湧いたんだよっ? 全部の装置を作動させたら、100体以上を倒す計算じゃん。

 まぁ、魔石(小)が高確率で落ちるから別に良いけど」

「だって他に方法が無いじゃん、多分あの奥に次の層の階段があるんでしょ? だったら、開くまで装置を作動させるしかないでしょうが、バカ香多奈っ!」

「ふむっ、確かに……どれか装置の中に、当たりが混ざってるのかも知れないね。つまりは、全部作動させなくても良い可能性もあるけど、こればっかりはやってみないと分からないな。

 それから、召喚される敵も1種類とは限らないから気をつけるように」


 そう言いながら、護人は勃発しそうになる姉妹喧嘩を上手い事回避して。それからハスキー達にも頼んだよと声を掛けて、改めて検証のスタートをチームに告げる。

 それに従って、張り切って準備を始めるペット勢である。特に最初の戦いに間に合わなかった茶々丸は、今度こそ活躍するぞと勇ましく蹄を鳴らしている。


 レイジーも同じく、ただしムームーちゃんは今回は出番なしねと末妹に抱っこされている。あんな鉄素材相手はまだ早いと、常識を働かせた香多奈のファインプレーだ。

 ちなみにこの第1層目のフロアだけど、割と大き目の体育館程はあるだろうか。天井もその位で、姫香が2つ目の装置を作動させた途端に。


 その天井から、割と太めのロープが突然振って来て一同ビックリ仰天。敵の攻撃かと、ツグミが咄嗟に反応して弾き返してくれたのだけど。

 太く編み込まれたロープは、天井を起点にブラブラとしなるだけ。


 これは何だろうねと、しばしの沈黙の後に再び開かれる家族会議。ロープでしょとの、末妹の突っ込みは敢えて無視されて天井を見遣る護人が発見したのは。

 ロープの付け根、つまりは天井付近に用意された小袋と丸いスイッチ。あれを押して、小袋を回収すれば良いんじゃと言い終わる前に。


 快活な姫香は、自分の出番だと腕の力だけでそのロープを登り始めている始末。気をつけてとの紗良の言葉と、お猿さんみたいとの香多奈のディスりに。

 うるさい黙れと、こちらも腕は塞がってるけど口はフリーな姫香の応酬。こんなトレーニング器具ありましたねと、紗良は冷静に情報収集に余念がない。


 そして1分も経たずに、『身体強化』スキル持ちの姫香は任務を華麗に達成して。ボタンを押した途端に、ロープを生み出した装置は消滅して行った。

 他の場所には変化は無いようで、つまりは検証を続ける必要があるようだ。ちなみに回収した小袋の中身は、薬品類と魔結晶(小)が幾つかずつ入っていた。


 そしてすかさず、その隣の3つ目の装置を作動させる姫香。まだまだ元気なのは良いけど、もう少し落ち着きを持って欲しいと護人などは思ったり。

 その装置は、レバーに触ると今度は人より大きな鉄球を生み出した。それは滑車とロープで天井に繋がっており、どうやらロープを引いて鉄球で天井のスイッチを押す仕様らしい。

 それを見た護人は、以前の“アスレダンジョン”を思い出して冷や汗タラリ。


「うわぁ、今度はこの重そうな鉄球を引っ張り上げる仕掛けなんだ? これって、ズルは出来ないのかな、お姉ちゃん?

 例えば、ルルンバちゃんの飛行モードで、スイッチだけ押して貰うとか」

「ええっ、どうだろう……確かにこんなサイズの鉄球を引き上げるのは骨だけどさ。ズルしたらしたで、何かペナルティがありそうで怖いよね。

 こっちはルルンバちゃんもいるんだし、素直に力勝負で片付けた方が早くない?」


 そんな感じで今度の議題は、果たしてダンジョンはこちらのズルを見抜く能力があるか否かに。問われた護人と紗良は、無難に止めておこう派で票は偏ったモノの。

 どんな罰があるのか、検証も必要だよねとの末妹の言葉に。何となく、それもそうかと試してみる流れに。もしズルが可能なら、時間短縮になるし儲け物だ。


 そんな流れで、再び活躍の場を得るルルンバちゃんは超ヤル気満々で。分離からの飛行ドローンモードを家族に披露、まぁその辺は以前と変わりはないのだけれど。

 それでも温かい拍手を皆から貰い、勇んで天井のスイッチへと向かうAI戦士である。そしてその赤いスイッチを押した途端、周囲にアッと驚く変化が訪れた。


 何と、天井があちこちでバカっと開いて、ヤモリ獣人(忍者仕様)が数匹飛び出して来たのだ。しかも、丸い鉄球は瞬時にアイアンゴーレムへと姿を変えて殴り掛かって来る始末。

 不意を突かれた来栖家チームは、一変してピンチに陥ってしまうのだけど。ハスキー達が降って来るヤモリ獣人をすかさずガード、茶々丸と萌がそのサポートに入って。


 ゴーレムに殴り掛かられたルルンバちゃん(本体)は、その攻撃に痛痒を感じておらず。対戦カードの妙に助けられ、こちらもすかさず護人と姫香がブロックに入る。

 かくして、チームの弱点である紗良と香多奈は取り敢えず安全に。


「そのまま紗良は、香多奈を連れて距離をとってくれ! ミケと萌は護衛を頼むっ、ルルンバちゃんはなるべく早く戻って来てくれ!」

「やっぱりズルは駄目だったじゃん、おバ香多奈っ!」

「私は悪くないよっ、姫香お姉ちゃんも賛成したじゃんっ!」


 不毛な言い争いを始める姉妹はともかく、大慌てで本体と合体を果たす真面目なルルンバちゃんである。そして天井から出現した忍者タイプのヤモリ獣人は、かなり強くて素早い事が判明して。

 ハスキー達も手古摺てこずっているみたいで、茶々丸に至っては角の攻撃が空振りばかりな有り様だ。スピードタイプの敵には、とことん相性が悪いらしい。


 それでも護人と姫香で、3メートル級のゴーレムを倒した事から潮目が変わって来て。ルルンバちゃんも無事に合体を終えて、敵の討伐に参加していい調子。

 ガードに余裕の出て来たハスキー達も、安心して敵の数減らしを始めてくれて。5分後には、突発的に始まったペナルティ戦は何とか終了の運びに。


 そして何故か怒られる香多奈と、それを無視してドロップ品を拾い始める萌とルルンバちゃん。飽くまで来栖家の日常は、ダンジョン内でも変わらない。

 ドロップした魔石にはやっぱり小サイズのも混じっていて、ハードモードなダンジョンなのは確定である。その後の三度の家族会議では、真面目に訓練器具には取り組もうと話はまとまった。

 とは言え、まだまだ装置の数は10以上は窺える現状。


「これって、本当に当たりはあるのかな……全部こなすとなると、なかなかに大変そうだけど。敵の湧く数とか、一度に10体とか多いもんね」

「まぁ、文句を言っても始まらないし、こっちも戦闘要員は多いから何とかなるだろう。手分けしてじっくり取り組もう、そうすれば意外とすぐに次の扉も開いてくれるさ」

「そうだねっ、焦る事も無いんだからみんなで経験値を稼ぎに来たと思えばいいんだよっ。まぁ、ムームーちゃんにはちょっと難易度高めだけど」


 それは妖精ちゃんの操る戦闘ドールにも言える事で、小さな淑女はこれに関してはちっとも懲りていない様子。いつかエースの座に成り上がる事を夢見て、日々の精進も怠っていない。

 これは飽きっぽい性格の彼女には珍しく、それだけミケからエースの座を奪いたい思いが強いのかも。いつも虐められているので、その気持ちは良く分かるけど。


 チームの強化が図れるのなら、結果としてそれは良い事だと。香多奈などは、頑張れとけしかけつつもチビ妖精の訓練に毎回付き合っている次第である。

 その成果は、残念ながらまだ全然見られはしないけれど。取り敢えず今回は、姫香がメインで装置を弄ってから対応する作戦で行くらしい。


 そして今度は、奥の扉に近い装置のレバーに触る事に決めた姫香に対して。チームのみんなは、何があっても良いように周囲に注意を向けての結果待ち。

 そして4度目の装置オンの結果は、またもや敵の召喚と言う外れを引く破目に。今回出現したのはガーゴイルの群れで、硬い敵のオンパレードに嫌そうな表情の姫香である。

 レイジーも同じく、コロ助は白木のハンマーで張り切ってるけど。


 5度目と6度目は、例のロープ登攀とうはんの仕掛けを連続で引き当てて。これはオマケでアイテム袋が貰えるから良いねと、自ら天井までアタックを掛ける姫香だったり。

 結果、鑑定の書や魔結晶(小)を追加でゲットしてご機嫌な子供達だけれど。いつまで経っても、肝心の次の層への扉が開いてくれないと言う結果に。

 突入からもうすぐ1時間、クリアした階層は未だゼロである。


「これはなかなかに大変だねっ、護人さん……報酬の用意されたダンジョンだって鬼に言われて、楽な中身を想像してたウチらのミスかもっ。

 ここからは、ふん……気合い入れ直して行こうか!」

「そうだね、ふんどしを締め直して……痛いっ、何で叩くのお姉ちゃんっ!?」


 言い回しに気をつけなさいと、真っ赤になりながら末妹の発言に憤る姫香ではあるけど。まだチームには余裕あるからと、護人も焦らず行こうとその言葉に追従する。

 ハスキー達も、まだ午前中だけあって全然元気……むしろ敵かどんどん湧くこのシステムが、楽しくて仕方が無いみたい。今度は柔らかい敵を頂戴と、姫香にお替わりを強請ねだっている気も。


 それに押された訳では無いけど、続けて触った装置からは2連続で敵の召喚が発動した。それを嬉々として倒して行くハスキー達&茶々丸、ついでに姫香と萌も活躍を見せ。

 ここまで来ると、そろそろ例のフロアにそそり立つ装置の数も半減して来た。やっぱり全部倒すのが条件なのかなと、この展開に飽きて来た末妹の呟きに。


 もう“ダンジョン内ダンジョン”の1層分の敵は、既に倒したよねと相槌を返す紗良である。拾った魔石は既に50個を超えており、その3割以上が小サイズと言う割合に。

 ここって、経験値貯めの側面もあるのかもと、ハードモードを予感させる一言。ロビーから挑む扉の数が減っていたので、楽が出来ると思っていたけど思い違いみたいだ。

 やっぱり、鬼の試練は一筋縄では行きそうもない。


 とか思っていたら、次の装置の作動後に突然に開かれる奥の扉である。重い鉄球を、滑車を使って天井まで釣り上げる訓練を成功させた途端のそのクリア報酬に。

 あれっと驚く一同、そしてすかさずその奥を確認に向かうハスキー達である。メインでロープを引っ張っていた、護人とルルンバちゃんはそれどころでは無かったけど。


 何しろ、用を果たした重い鉄球が急に消え去って宝箱へと変わったせいで。思い切り後ろに引っくり返ってしまって、それは無いだろうと腹を立てていたのだ。

 いや、ルルンバちゃんは心が海よりも広いので立腹はしなかったようだけど。そろそろギックリ腰が心配なお年頃の護人は、こういうドッキリは大嫌いなのだ。


 そこに戻って来たハスキー達が、向こうは安全でルートがあるよと報告して来てくれて。つまりは残りの装置は、これ以上触らないで良いみたい。

 何にしろ、次に進めるねと護人を起こすのを手伝う子供たち。





 ――いや、香多奈だけは出現した宝箱の方が大事みたい?







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