第555話 最後は列車でダンジョンにお見送りされる件



 9層で発見した10層への階段は、上へと向かうエスカレーターの途中に出来ていた。それを用心しながら潜る一行、何しろ5層での酷い出来事があったので。

 ところが今回は、中ボス部屋直通の酷いパターンでは無かったようでホッと一息。そこはどうやら、野外の駅の上りと下りホームを繋ぐ歩道橋スペースで。


 パッと見た感じ、再びフィールド型のエリアへと出て来た模様だ。本当に忙しないダンジョンだけど、文句を言う程でも無く悶々とする一同。

 それよりここは駅だねぇとの紗良の言葉に、改めて子供達は下方を窺う。そこで初めて、残りの面々は小さな駅の存在を確認に至った。


 駅も5層と同じく、いかにも田舎にある無人駅って感じでこぢんまりとしている。人影と言うか、モンスターの姿も50メートルもないホームのどこにも見受けられず。

 本当に寂しい限りだが、末妹が突然この駅凄いと大声を発した。どうやら駅名を書いた看板を発見したようで、そこにはかすれた書体で『きさらぎ』と書かれていたのだ。


 つまりは、マニアの間で有名(?)な異界の駅がここであるらしい。そんなバカなと突っ込む姫香だが、確かにここの駅名はきさらぎ駅で間違い無いみたい。

 いや、だからどうなのって話でもあるけど。


「そんなの、本物かどうかも分からないでしょ……ってか、本物だからどうだって話だけどさ。それより、中ボスの部屋を探さないと次の層にも行けないよっ!」

「そっ、そうだった……ってか、むっちゃあの駅が怪しいんだけど! その駅の構内に中ボスいるんじゃないの、姫香お姉ちゃんっ!?」

「確かに怪しいな、今回は直通じゃないだけ有り難かったけど。これだけ近いと、逆に親切に感じるのは何故なんだろうな」


 確かに探し回る労力が省けて、楽だよねと姫香の追従に。勤勉なハスキー達は、揃って敵がいないかを確かめに階段を下って行く構え。

 それに遅れずついて行く子供たち、中ボス戦なら敵も手強い奴が控えているに違いないと。そしてその予感は、半分くらいは当たっていた模様。

 つまりは、この場所が中ボスの間は大正解。


「うわっ、空から何か大きいのが舞い降りて来てるっ! アレはワイバーンと……あのモンスターは何て言う名前、紗良お姉ちゃんっ!?」

「アレはグリフォンかなっ……ワシとライオンの合成生物で、フィールド型の中ボスでは良く見掛けるみたいっ。

 お供にワイバーンもいるねっ、みんな気をつけてっ!」

「駅の構内からも敵が出て来てるよっ、こっちはハスキー達と私で抑えておくねっ!」


 姫香の大声での警戒の言葉に、護人も慌てて確認すると。駅の構内から、サイズも大小揃えたコボルトとパペット兵士たちが続々押し寄せて来ていた。

 さながら通勤ラッシュ時の駅のホームを思わせるけど、田舎の駅には全くの不釣り合い。だからと言って、文句は言えないこの非常事態に。


 子供達の士気は、一向に下がっていないようで勇ましく迎撃準備に奔走している。具体的には、先陣を仰せつかったルルンバちゃんが波動砲を空に向けてブッ放しての先制打。

 紗良も範囲魔法の準備に入って、グリフォンはともかくワイバーンを氷漬けにするつもりらしい。護人もこの中では、唯一飛行が可能なユニットなので。

 いざと言う時には、飛び出して敵の中ボスを押さえる気は満々だ。


「うわっ、グリフォンは素早いっ……ミケさんっ、空から敵が来てるよっ!? 萌はいっその事、この屋根の上に飛び乗っちゃえば?」

「ふむ、この歩道橋の上に陣取る作戦か……確かに、タゲ役を担うには良い手かもな。よしっ、俺も萌と一緒に行こうか」


 そう言う護人に、萌はこくんと頷いて立体機動で補導橋の屋根の上に飛び乗って行った。護人も続いて、それから“四腕”を発動しての弓矢攻撃で敵のタゲ取り。

 その時、紗良の《氷雪》が上空に向けて放たれて、接近中の何匹かがその犠牲となった。固まって墜落するのはワイバーンが2匹で、まだグリフォンはピンピンしている。


 一方の改札口での戦闘は、ハスキー達が大ハッスル中で。姫香もなかなか殴る相手が回って来ず、仕舞いには少しは出番を頂戴とお願いする有り様だ。

 つまりはこちらのペースで、問題は特に無い様子。あるとすれば、敵意剥き出しで上空を滑空している中ボスのグリフォンくらいだろうか。


 ちなみにお供のワイバーンは、ルルンバちゃんのレーザービームで3体目が撃破されて行き。視界内には、既に飛行ユニットは中ボスのみと言う結果に。

 敵のグリフォンは風属性らしく、護人の『射撃』スキルでの矢弾が何と軌道を逸らされてしまって当たらない。しかし、萌の黒雷の長槍での黒雷招来での一撃は効果があったようで。


 続いての炎のブレスもヒットして、何だか成長著しい仔ドラゴンである。敵との距離が詰まると、素早い跳躍から敵の上を取ったと思ったら。

 グリフォンにまたがって、何と敵に騎乗すると言う荒業を敢行。


 これには一緒に戦っていた護人もビックリ、それ以上に驚いたのは敵に跨られたグリフォンだろうけど。周囲に風の渦を召喚して、何とか叩き落そうとする中ボスはちょっと哀れ。

 香多奈がそんな危ない事するんじゃありませんと叱って、場は軽いパニック状態である。お茶目な仔ドラゴンの萌は、四つ足の生物は騎乗が基本と思っているのかも。


 いやまぁ、茶々丸とのコンビでそう思ってしまってたなら、それはそれで正解なのかも。末妹に叱られた萌は、中ボスから飛び降りる際に敵の翼をご丁寧に切断して。

 結局は墜落する所を、護人が飛び上がっての止め刺しで戦闘終了。ついでに空中でドロップ品をキャッチして、萌と共に歩道橋の屋根に見事に着地を決めていると。


 よっしゃあと、女の子らしくない叫び声が下方の改札口から。どうやら姫香の前衛陣も、中ボス部屋に出現した敵を全て倒し終えたらしい。

 宝箱を拝みに行くよと、歩道橋の香多奈がルルンバちゃんを従えてそちらへと移動して行く。ついでに護人と萌は、散らばったワイバーンのドロップ回収係らしい。

 人使いが荒いが、ここはまぁ従おうかと萌と共に線路に降りて行く護人。


「絶対にドロップ品を取りこぼさないでね、叔父さんっ! 宝物庫を見付けたからって良い気になってると、アリとキリギリスみたいに最後に泣く事になるんだからっ!

 コロ助も叔父さんを手伝って、あとでジャーキーあげるから」

「凄い勤勉と言うか執念だね、香多奈……家の手伝いとか勉強も、こんだけ力を注げば叔父さんもさぞ嬉しいでしょうに」


 姫香の言う通りだが、そんな未来は恐らくは来ないだろう事は容易に想像がつく。子供は元気に、大きな怪我無く育ってくれれば良いと護人は既に諦観の念を抱いていたり。

 それは姫香も同様なのだが、それは言わぬが華だろう……彼女にもう少し女の子らしさとか求めても、ちょっと手遅れかなぁと無礼な事を思いつつ。


 護人は萌と仲良く並んで、ワイバーンの撒き散らしたドロップ品を求めて森の中へ。幸いにもコロ助が合流してくれて、これで少しは回収作業もはかどりそう。

 とにかく、こうして10層の中ボス戦は幕を閉じたのだった。




 宝箱の中は定番の鑑定の書や薬品類、魔玉(風)や木の実に混じって良品も少々。具体的には魔結晶(中)が7個に、宝石類も様々な種類が回収出来て。

 他にも妖精ちゃんが反応した、魔法アイテムの類いも幾つか混じっていたようだ。後は良く分からない、駅関連のペナントとかのグッズが数種ほど。


 散らばったドロップ品も幸いにも全部拾えて、末妹の機嫌も上々である。女性や子供の機嫌は良いに限ると、護人も悟った表情で成果を報告する香多奈の言葉に耳を傾けて。

 それからこの後の予定のお伺い、つまりはもう1層潜るか否かだけど。幸いにも、行くも戻るもどちらの階段もすぐ近くにあって移動に不便はない。


 そしてやっぱり、末妹の返答はもちろん進むとの事。すでに時刻は4時を回っており、他のチームとの兼ね合いも心配ではあるけど。

 休憩中に通信してみた所、『ライオン丸』は既に探索を終えて帰路についている途中だとの事で。隣町への報告は頼むと、何だか敗戦した将軍のようなトーンの勝柴かつしばであった。


 どうやら探索の結果はともかく、出玉的にはマイナス判定だったらしい。向こうは幸運のお猫様がいないからねと、香多奈はクールにそう分析するけど。

 ギャンブルは手を出さないのが一番なんだよと、理論派の紗良の言葉になるほどと頷く素直な少女。それはともかく、異世界チームと星羅チームの方も通信では微妙な反応振りで。

 詳しくは分からないけど、どうやら敵に逃げられたみたい。


 戻ったら詳しく話すとの話なので、来栖家チームとしてはもう少し待っててねと返事するしか無く。休憩を終えて、次の11層へと家族揃って進む流れに。

 そして驚き、そこは広い間取りの駅の構内となっていて。座席や時刻表、駅に設置された妙なオブジェに混じって、敵の集団がわんさか待ち構えていた。


 大半はコボルト兵士とパペット車掌だが、サイズの大きいのや特殊な武器持ちが混じっている。レイジーの先制の炎のブレスで与太ってくれたが、あの数と勢いは脅威だ。

 そんな集団の中には、一際サイズの大きなキメラも混じっていて一同ビックリ。壁を作れとの護人の号令に混じって、やっちゃってルルンバちゃんとの末妹の指令も飛んで。


 波動砲でいきなり消滅する初見のキメラは、ちょっと気の毒かも。来栖家チームの駅構内での数減らしは、慌てながらも順調に進んでいたと思ったら。

 新たな発見が2つ、紗良が改札口の奥の昔の切符売り場の仕切り内にダンジョンコアを発見したのだ。ここって最深層みたいとの発言に、なるほどと納得する護人。

 もう1つの発見は、ホームに1両車両が到着して敵の追加が吐き出された事。


「ひどっ、敵の増援が列車で到着しちゃったよ、護人さんっ!」

「慌てるな、どうせ改札口は狭いからそこで防ごう! 大物を見付けたら、そいつから先に片付けてくれ、姫香!」


 そんな作戦が功を奏したのか、追加の敵陣営も結局は侵入者を排除へは至らず。それでも10分は粘っただろうか、そして最後の車掌服を着たパペットがコロ助によって倒されると。

 ラッシュ時のピークを過ぎたホームは、静けさを取り戻して来栖家の専用スペースに。そして駅の構内に最後の宝箱を発見して、純粋に喜ぶ末妹であった。


 今回も香多奈の予言は当たった事になるが、家族の誰も敢えてその事には触れず。それよりダンジョンコア壊すねと、明るく姫香が宣言した途端に。

 ホームに停まっていた古い型の車両が、ぶるっと震えてまるで壊さないでと哀願しているような態度。驚いて何事と、宝物チェックをしていた末妹が問い掛けるのだが。


 その現象を誰も理解出来ず、家族が見守る中それは突然次のアクションを起こした。つまりは車両の前に転移ゲートが出現し、車両の行き先看板が『ダンジョン出口』と変わったのだ。

 その意味にようやく気付いた姫香は、直通の帰還ルートにちょっと嬉しそう。ところがその意味を更に裏読みした末妹が、それって命乞いじゃんと鋭いツッコミを発して。


 つまりは、ここにあるダンジョンコアを破壊したら、当然このゲートの魔力供給も途切れてしまう。出口に案内するから壊さないでと、確かにそう考えると命乞い以外の何物でもない。

 姫香もそう説明されると、なるほどねとポンと手を打って納得顔に。それから護人の方を向いて、どうしようかとこの結末のつけ方を相談して来る。

 確かに依頼の内容を考えれば、コアの破壊はやった方が良い。


 とは言え、考え方を変えれば11層まで間引きも出来ている訳だ。このダンジョンの入り口は、間口も狭いのでワイバーンみたいな大物は出て行けないようになっているし。

 そんな事を考えていると、宝箱の中身を回収し終えた香多奈がコアのある部屋を覗き込んで。もうひと声欲しいなぁ的な事を、ボソッと呟く素振りを見せた。


 その途端、ホームが小さく震えたかと思ったら新たな宝箱が少女の前に。すかさず箱を空けて確認する香多奈は、魔石(大)を手にして誇らしげ。

 何となく可哀想になった護人は、仕方無いから列車に乗って帰ろうかと家族に提案する。ダンジョンに同情するなんて変な話だが、末妹のアレはやり過ぎな気も。


 かくして来栖家チームは、長い時間を掛けて歩く事なくダンジョンの用意した列車で出口に運ばれる事に。至れり尽くせりに感じるけれど、ダンジョンからすれば厄介払いに尽力した結果なのだろう。

 いやしかし、最後の最後にこんな結果が待っていようとは。





 ――ダンジョンの個性って、本当に侮りがたしである。






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