第553話 再びトンネルを抜けて深層へと至る件
7層への階段は、香多奈の言う通りにトンネル内に設置されていた。大蜘蛛以降は雑魚モンスターの姿は全く見えず、簡単にその階段を発見に至った来栖家チームだけど。
何と言うか、アレってレア種だったのかなと言う妙なモヤモヤ感はそれなりに強くて。それにしては、既に何度もそれっぽい奴に遭遇してるよねって話に。
護人は一応、気を引き締めて行こうと声掛けはしているのだけれど。再び暗いトンネル内の探索に戻されて、やや
それでもハスキー達は、元気にチームを先導してくれて頼もしい限り。ここも階段を降りた先は、トンネルのどっちを向いても外の光は窺えないエリア構成で。
それでも雑魚のモンスターは、シャドウ族とか大コウモリとかそれなりに出現してくれて。前衛陣と後衛陣で、そいつ等を倒しながら進む事10分余り。
それから不意に、先頭を進むハスキー達に戸惑った動きが現れた。どうやらトンネルに分岐があるようで、どっちに進むか決めかねているようだ。
そちらに合流を果たした後衛陣は、その分岐を眺めて推測を話し始める。レールはどちらにも伸びていて、レールの切り替え装置とその前にトロッコが1つ。
トロッコは自走式と言うか、シーソーのように前後で交代で重さを加える力を走力に変える仕掛けみたい。人間だと前後で4人は乗れるけど、それに乗ってどちらの方向へ進むべき?
と言うか、そもそも乗る必要もあるのかはトンと不明である。
「どうしよっかねぇ、叔父さん……ハスキー達も、どっちに進んで良いか分かんないみたい。敵の気配はどっちが強いか分かる、コロ助?」
「そう言えば、雑魚の姿も段々と見掛けなくなって来たわね……本当に妙なダンジョンだね、護人さん。またレア種みたいな強い敵が、どっかに湧いているのかも?
紗良姉さん、今度は先制でスキルお見舞いしてやってね!」
「分かったよ、妙な汽笛の音がしたら遠慮せずにやっちゃうねっ! さっきはみんな、かなり苦しい目に遭ったからね……同じ感じのトンネルとは言え、二番
そんな会話を挟みつつ、初見のトロッコの仕掛けに答えは未だ出ず。試しに動かしてみようよと、ノリノリな香多奈に対して残りの面々は慎重派で。
両方のルートを偵察して見て、進むべき方向を定めようとの護人の言葉に。あっちは多分だけど、何も無いよと素で返す香多奈は果たして『天啓』を作動させたのか否か。
あまりにも素早い返答だったので、姫香も思わず突っ込むタイミングを逃してしまった。それを受けて、ハスキー達は右へと曲がる分岐を調べに向かう様子。
ルルンバちゃんも、切り替え装置を
それを聞いて、ガチャンと勢い良く線路の切り替わった音が周囲にこだました。凄い仕掛けだねぇと、それを眺める香多奈は飽くまで無邪気だ。
そしてひらりとトロッコに飛び乗る姫香、これってどう動かすのと不思議そうにシーソー部分を触っている。護人が反対側に飛び乗って、試しに動かしてみようかと提案。
それに釣られて、紗良と香多奈もトロッコに飛び乗って来る。
「さあっ、いつでも出発準備はオッケーだよっ! ルルンバちゃんは、後ろから頑張ってついて来てね……トロッコって、どの位のスピードが出るの?」
「いや、出そうと思えば早く漕げるけど、そんなに速度を出しても危ないだけだからね。ゆっくり漕いで、周囲を確認しながら進もうか、姫香」
「オッケー、護人さんっ。分岐の先は何か広い空洞タイプみたいだし、モンスターにも注意だね」
分岐で潜り込んだ先のトンネルは、加工も舗装もされていなくて荒々しい洞窟タイプとなっていた。そこにレールだけが伸びていて、何と言うか不思議な景色。
ハスキー達も先行しているので、敵がいれば彼女達が始末してくれるだろう。前方からは、今の所何の戦闘音も響いて来ないけれど。
そんな中、姫香は護人と協力してトロッコを動かし始めて浮かれ模様だ。これって面白いねと、ガタガタと動き出したトロッコに末妹も興味津々で。
挙句の果てには、護人に操作を代わってと
お陰で必要以上にスピードが上がってしまって、先行していたハスキー達に追いつきそうに。味方を
ハスキー達は何して遊んでるのと、さほど慌てもせずに各々勝手に避けてくれるけど。最後まで一緒に走っていた茶々丸も、ぴょんっと避けてとうとうトロッコが先頭へ。
トンネル暴走トロッコ、さてその運命やいかに?
結果的に、トロッコはなかなか止まってくれず、そのまま壁へと激突してしまった。そもそもブレーキもついて無くて、最後は護人が香多奈を抱っこしてのエスケープ。
姫香も同じく、隣の紗良をお姫様抱っこして地面に飛び降りて事なきを得て。乗り手を失った暴走トロッコは、そのままの勢いで線路の行き止まりの壁へと衝突して行った。
ハスキー達は、行き止まりかよって表情で衝突の喧騒については丸っきり無視している。地面に降ろされた香多奈は、それなりに驚いているみたいでビックリ
そして壁の奥に空間があるのを、目敏く発見して騒ぎ始める。
「あれっ、何だっけ……身から出たサビだったか、
なるほど、最初から壊さないと進めない仕掛けだったのかも?」
「なるほど、じゃあある程度スピード出すのも正解だったのか……まぁ、意地悪って程でもないか。宝物庫だったら嬉しいけど、次の層への階段でも充分嬉しいよね」
「そうだねっ、宝物庫なんてそうそう発見出来ないし……最後に見付けたのは、いつになるんだっけ?
それから香多奈ちゃん、それを言うなら災い転じて福となすだよっ」
“戦艦ダンジョン”でそれっぽいの見付けたよねと、記憶力の良い末妹は紗良の言葉にすかさず返答。そんな上手い話も無いよねと、姫香も用心しながら崩れた壁の向こうをチェック。
最終的にはルルンバちゃんが出張って来て、念には念を入れての安全確認を行って。それから崩落に注意して、壁の向こうに階段が無いかを探し始める。
ハスキー達も順次続いて、あまり広くない壁の向こうは途端に賑やかに。光源も魔法のランプで確保すると、ようやく入って右側に次の層への階段を発見した。
それとは別に、真っ直ぐ奥に列車の車両のような物が目に付いた。まるで博物館の展示のように、古い車体だが汚れの無い1車両が放置されている。
アレは何だろうと、不思議そうな子供達と確認に近寄るハスキー達。やった宝物庫だと喜ぶ香多奈は気が早いけど、どうやら敵の待ち伏せの類いでは無さそうだ。
ハスキー達の反応からそれを知る護人は、車両の前側の開閉扉へと近付いて行く。半開きのそれを思い切り押し広げると、ハスキー達がするりと中へと入って行って。
安全を確認して、すぐに出て来てご主人に場所を開けてくれた。
そして次に入った子供達が、歓喜の声をあげてハイタッチを始める。つまりは想像通りの宝物庫で、中には綺麗に整頓された品々がズラリと並んで置かれていて。
車両の中は、まるで整頓棚のように左右の座席の空間に棚が設えてあった。前の座席には、防具一式が座席に座る格好で合計4つ置かれている。
それから武器のコーナーがあったり、魔石や魔結晶に至っては大サイズしか置かれていない。宝珠もあるみたいで、妖精ちゃんが興奮して飛び回っている。
車両の一番奥には、石炭やら鉱石やら、それから砂金袋がびっしりと山になって置かれていた。そちらは子供達には人気が無いようで、見向きもされていない。
持って帰るにしても、価値のあるモノ優先になるだろう。今は空間収納を家族みんなが持っているとは言え。さすがに列車1車両分の容量となると、ちょっと苦しいかも?
その辺は紗良や姫香が、魔法アイテムを優先ねと張り切って仕分けを既に始めており。香多奈も妖精ちゃんをせっついて、価値のあるモノは絶対に逃さない構え。
そんな喧騒が、しばらくと言うか10分以上続く事に。
護人に関しては、自分の出番は無いかなと早々に見切りをつけて。エーテルを取り出して、ペット達と車両の入り口で休憩に入っていたりして。
探索もまだ続くなら、体力の回復も大事な作業には違いなく。茶々丸も護人の前では、大人しく座り込んで休んでるよアピールに余念がない。
ついでにミケも寄って来て、子供達の騒々しさには敵わないよって表情。座っている護人の膝に避難して、休憩なら任せておけって余裕の仕草である。
車両の宝物庫に入れなかったルルンバちゃんは、中の様子がちょっぴり気になる様子。それでもみんなが休憩してるのを見て、素直に自分も待機モードに。
それから、お待たせと姫香の元気な声がようやく室内から飛んで来て。次の層に向かおうと、お宝の回収が終わったとの報告をチームに告げて来た。
それを聞いて、張り切って立ち上がるハスキー軍団&茶々丸の前衛陣。ルルンバちゃんも、出発だと元気にアクションを起こして進行の構え。
そしてすぐ近くの階段を皆で潜って、次は第8層目である。ここも真っ暗なエリアで、どうやら地下トンネルの続きみたいなのだけど。
トンネルと言うより大地下空洞エリアって感じで、あちこちに鍾乳石が生えてちょっと幻想的。地下湖畔もあるようで、そんな中にトロッコのレールがくねくねと曲がって設置されている。
「うわっ、ナニこの場所っ……鉄道とか関係ないじゃん、トロッコの設置とか無理やりのこじつけでしょ!?
そもそも、乗って移動する意味あるのかな、護人さんっ?」
「そうだな、多分ないだろうな……少なくとも、紗良と香多奈は危ないからルルンバちゃんに乗せて貰ってついて来なさい。仕掛けの作動にトロッコが必要かもだから、念の為にコイツは動かして進もうか。
俺と姫香で動かそう、さて……進む方向はどっちだ?」
その言葉を受けて、ハスキー達は鍾乳石の棘だらけのエリアをチェックに向かい始める。一方の姫香は、これ位の仕掛けなら1人で動かせるよと、トロッコの運転をソロで買って出て。
それだと護人も完全フリーになれるので、作戦的には有り難い。その代わり、トロッコの速度はそんなに出ないけど、その方が逆に嬉しいので問題は無し。
そんな感じでのこのエリアの方針が決まって、ハスキー達も怪しい方向をようやく定めてくれた。やはりこのエリアの肝なのは、遠くに拡がる地底湖らしい。
そちらへと向かって進み始める一行だけど、このエリアの雑魚敵もシャドウ族と大コウモリが数体だけと言うショボさ。さっきもそうだったけど、何と言う極端な布陣だろうか。
呆れる護人だけど、今回はレア種の担当エリアなのかも知れないと。チームに油断するなと喝を入れるのだが、末妹はまた宝物庫があったらどうしようと有頂天な様子。
これにはトロッコ操作中の姉の姫香も呆れていたが、それでも幸せな予知ならまだいいかと口をつぐむ事に。そんな顛末を含みながら、一行は暗闇の中を進んで行く。
ハスキー達の進行速度は、死角の多い暗がりの中だけあってやや遅めをキープ。敵の出現が少ない事に、多少の不満はあるモノの彼女たちの足取りは確かである。
そこに本日2度目の不協和音が、地面の底から轟いて来た。いや、方向は定かではないけど、この振動はさっきのトンネルエリアでも感じた奴と同一に違いない。
それを感じて転進したレイジーは、さすが一流の司令塔に他ならず。何しろ仲間の中に、この現象を一発で蹴散らす力を有する者が存在するのだ。
或いは頑張れば、自分達でもコイツを倒す事は可能かも知れないけれど。下手に消耗して、この後の探索に響くのは悪手でしかない。
そんな訳で、2度目の出現の幽霊列車の討伐は長女に譲られる流れに。
――騒々しい汽笛が退出するまで、今度は10秒も掛からなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます