第552話 6層以降も鉄道に沿って進んで行く件



 目の良い末妹は、吹っ飛んで行ったドロップ品の行方をしっかりと把握していた。遠くまで転がって行ったスキル書を、そんな訳でルルンバちゃんが回収しに行ってくれて。

 その途中で、コボルトの群れに絡まれたのはお愛嬌と言う事で。ハスキー達も討伐に手伝いに行って、駅のホーム周辺は数分後には再び静かになってくれた。


 それにしても、中ボスの部屋に直通のダンジョン通路とはスパイスが効き過ぎた仕掛けである。これがわざとだとしたら、随分と意地悪な製作者かも。

 過ぎ去った事は深く考えない子供達は、現在は駅のホームに設置された宝箱の確認に忙しい。割と大きな箱なので、中身を期待する香多奈だけど。


 まずは定番の鑑定の書や薬品類に、魔玉や木の実も割とたくさん入っていて。当たりは魔結晶(中)が6個に初級エリクサー500mlだろうか。

 他にも宝箱からは、何故かかき氷機や各種シロップも出て来てくれた。それから大トンボの模型は、果たしてどうやって使ったら良いのだろうか。


 それから各種インゴット類と一緒に、花火セットが何故か混じって出て来た。良く分からない夏押しだが、香多奈は気にせず嬉しそう。

 それらを回収して、さて次の層への階段の捜索だけど。さすが中ボス部屋仕様の駅のホームだけあって、すぐ近くに確保出来ていると言う。


 親切設計なのかどうかは不明だが、歩き回って探す手間は省けたのでまぁ良かった。そんな話をしながら、一行は次の層へと向かう前に昼休憩をとる事に。

 優しい紗良は、今日一緒に行動するチーム員へと多めにお弁当を作っており。それを別行動前に受け取った『ライオン丸』のメンバーは、泣き出さんばかりに感激していた。


 姫香などは、勘違いさせるだけだからと否定的な反応ではあったけど。頑張る力になるのなら、それもアリかなと悲しい男の習性を知る護人などは思ってみたり。

 そんなお弁当を、家族は駅のホームで歓談交じりで食べるのであった。


「ハムサンド美味しいねっ、多めにあるし辛子も入ってないから、ハスキー達にもあげてもいいよねっ?

 ムームーちゃんはどれが良いかな、やっぱり卵サンドが好きかも?」

「相変わらず、この子に高い知性があるって言われても信じられないけど……夜は寝床を抜け出して、ハスキー達とダンジョンで特訓してるんだって?

 子供なのに凄い根性してるよね、その点は感心しちゃうよ」

「リリアラの話では、ネビィ種と言うのはほとんど睡眠の必要のない身体の構造をしているらしいね。軟体だから、僅かな隙間からでも建物の出入りが可能だし。

 レイジーから社会性を学ぶのも、まぁ良い勉強だろう」


 駅のホームで横並びに座って、食事を楽しんでいる来栖家チームと。香多奈の傍に陣取って、おこぼれのハムサンドをゲットしているハスキー達に混じって。

 ムームーちゃんも、しっかり食事をとって仲間の絆を再確認している所である。そんな彼は、将来は妖精ちゃんの傘下になるかミケの配下となるかは不明だけど。


 しっかり社会性は身につけているようで、甘え上手でもあったりして。家の中でも外でも、活動の範囲をどんどんと広げている最中みたいだ。

 食事に関しても、出されたものは何でも食べてとっても食欲旺盛で。時たまリリアラの診察を受けて、データを取られている時も大人しいモノである。


 ダンジョン探索にも嫌がらずについて来るし、その辺はひょっとして《心頭滅却》の効果なのかも。子供の癖にやけに落ち着いており、図らずも大物になる予感も?

 まぁ、妖精ちゃんの兎の戦闘ドールと一緒で、家族チームの戦力になる未来はまだずっと先だろう。或いは香多奈がデビューする頃に、一緒にとの思いはあるかも知れないけど。

 そんな遠い未来を、今から心配するのも馬鹿らしい護人だったり。




 そしてお昼休憩を終えて、改めて6層の探索へと向かう来栖家チーム。休み時間に、巻貝の通信機で外のチームの情報を得ようとしたのだけど。

 異世界チームのザジは、今取り込み中だニャと興奮していて状況は確認出来ず。『ライオン丸』チームに至っては、出玉を飲まれたと悲痛な声が遠くから聞こえて来て。


 それを聞いた香多奈は、順調そうだねと勝手に解釈をして通信を切ってしまった。地上チームに関しては、ザジが張り切っていたねとそんな感想で。

 要するに、どちらも良く分からなかったが、怪我人の類いは出ていないようで何よりだ。こちらも頑張って、せめて10層くらいまで間引きは行おうを合言葉に。


 休憩後のフォーメーションも、ハスキー達の先行でその辺は変更なし。相変わらず鉄道の線路沿いに進むチームの前に、出て来るのはコボルトや大トンボがメインの様子。

 6層に到達して、大きくエリアが変わるのかと思っていた護人だけれど。どうやら出現する敵の種類も、フィールド型のエリアも大きく変更はない模様。


 そもそもC級ダンジョンとの触れ込みなので、強敵は精々がワイバーン位だと予測しての探索である。それなのに、イレギュラーが早くも2体も出現して、戸惑いも隠せない一行である。

 この調子なら、もっとヤバい敵が出て来るかもねと香多奈の呟きに。アンタが口にしたら本当になるでしょと、いつもの姉妹の掛け合い漫才が始まる。

 そして5分後に、再びワイバーンの襲撃が。


「わわっ、今度は2体出て来たよっ……ルルンバちゃんに撃ち落として貰う、それともミケさんがやっつける?

 ミケさんったら、中ボス戦でも全然働かなかったもんね!」

「猫の手も借りたいって状況じゃ、そもそも無いから別に良いじゃん。ミケはどっちかって言うと、幸せの招き猫のポジションだもんね」

「そうだな、俺とルルンバちゃんで1体ずつ撃ち落とそうか……腕が鈍らないように、色んな武器やスキルは定期的に使って行かないとな」


 そう口にする護人に、ルルンバちゃんも張り切って武器換装からの上空の敵に向けて砲塔を持ち上げ。狙いを定めての、両者同時の射撃の敢行。

 打ちあがった弓矢の矢弾とレーザービームは、それぞれ見事に上空のワイバーンを射抜いて行って。別々に墜落して行く、もはや雑魚指定の亜竜種である。


 そして護人の着用している薔薇のマントは、今度こそ自分の出番だと思ったのだろう。遠くに墜ちて行くワイバーンに向かって、飛行しながらドロップ品のキャッチを試みて。

 付き合わされる護人は良い迷惑だけど、末妹的にはグッジョブらしい。ドロップ品は無駄なく、そして1つ残らず拾うのはダンジョンでの正しいルールとの事で。


 そんな感じで色々あったけど、6層は概ね平和に距離を稼ぐ事が出来た。具体的には15分後には、ハスキー達が怪しい場所を発見に至って。

 いや、ただ線路を伝って真っ直ぐに進んで行っただけなのだけれど。香多奈など、線路は続く~よ~♪ と、探索中なのにご機嫌に歌ってたりなんかして。


 それを許されるのが来栖家クオリティ、紗良も自慢の妹の撮影に余念がない有り様で。とは言えようやく出現した鉄橋と、その奥のトンネルには充分注意を払わないと。

 姫香も何かでっかいのがいるねと、今回は吊橋タイプの鉄橋線路を遠目で覗き見て。そこに巣を張っている大蜘蛛を発見して、やられる前にやるよとハスキー達に号令を掛けている。

 それを受け、張り切り始める前衛陣。


「かなり大きいね、前に“もみの木ダンジョン”で見た奴くらいのサイズはあるかも? あの時は、倒すの大変そうだからって撤退したんだっけ?」

「撤退じゃ無くて反転よっ、私たちのチームに敗北と言う文字はないのっ!」

「それはさすがに言い過ぎだろう、姫香……夕方の特訓じゃ、毎回ムッターシャやザジにコテンパンにやられてるからな。

 姫香も少しは、謙虚と言う言葉も覚えなきゃな」


 そう護人に詰められて、顔を真っ赤にさせる純真少女である。ザジになら、5回に1回はいい勝負出来るもんと弱々しく反論をするも。

 もう突撃していいかなとの、ハスキー達の圧に負ける格好で。それじゃあ行くよと、勢い良く特攻指令を叫ぶ勇ましい姫香であった。


 そしてすぐさま、空間収納から『炎のランプ』を取り出して炎を操り始めるレイジーである。さすがにあの巨大な敵は、自分達の牙でどうこうなるサイズではない。

 その操る炎は、次第に巨大な鳥へと姿を変え始める。狼の形の方が制御しやすいのだが、以前に姫香に自然の捕食関係について彼女は学んだのだ。


 つまり犬や狼は、野生では草食動物を狩っての捕食関係なのは間違いないけど。鳥やフクロウは、蛇や魚や昆虫全般を捕食して、彼らから見れば天敵であるのだ。

 目の前にいるのは、巨大とは言え昆虫なので鳥タイプには苦手意識がある筈。そうして普段の特訓で、レイジーは姫香との合同スキルを見事に習得していた。

 その名も《不死鳥召喚》だが、姫香以外はそのネーミングは知らないと言う。


 レイジーの炎の属性は、姫香の《豪風》を受けてより一層激しく成長する。これは特訓中に発見した特性だけど、まぁ考えてみれば当然とも。

 とにかく《不死鳥召喚》の合同スキルは、茶々丸の《マナプール》の手助けもあって大蜘蛛に引けを取らない程巨大に成長を果たす。一軒家より大きなソイツは、恐らく自分と同じサイズの敵を初めて目にしただろう。

 そして始まる、怪獣大決戦のような派手なバトル。


「おおっ、合同スキルとは言え……こりゃあ、ミケに引けを取らない天災級の必殺技だなぁ。レイジーも強くなったもんだな、飼い主としてうかうかしてられないぞ」

「さすがウチのダブルエースだよね、レイジーってば! ミケさんはサボり癖があるから、真面目なレイジーの方がずっと頼りになるよねっ。

 あっ、でもミケさんの方がずっと可愛いからねっ!」


 だから怒らないでねとの末妹の言葉に、ミケは何でも無いわよと大人の表情。子供の言う事に、いちいち目くじらを立てていても仕方が無いとその目は語っている。

 それもある意味家族の優しさか、そんなミケは今回の戦いにも参加する気配は無し。子供達の活躍を、ただ温かく親の視線で見詰めるのみである。


 そんな中、レイジーと姫香の合作フェニックスは、想像以上の強さを発揮してくれた。長い尾を幾重もたなびかせつつ、真っ赤に燃える嘴と爪で巨大蜘蛛を斬り刻んで行く。

 傷をつけられた場所から順次炎が立ち上がるのだから、敵もたまったモノではないだろう。反撃の毒攻撃も蜘蛛の糸絡みも効果はなく、敵の反撃はやがて無くなって行き。


 最後にはクルッと丸まって、大きな光を放って消滅の憂き目に。僅か3分の攻防に、遠目から応援していた子供達はやんやの喝采を挙げる。

 そして珍しくドヤ顔のレイジーに、揃ってのなでなで攻撃を加える姫香と香多奈である。紗良は消耗したでしょと、鞄の中からエーテルを取り出して与える仕草。


 護人も相棒にご苦労様といたわりの言葉を掛けて、子供達と一緒に頭を撫でてやる。茶々丸が自分も褒めろと突進して来て、収拾がつかなくなるのはいつもの事。

 そしてドロップを拾いに向かったルルンバちゃんは、驚いた事に魔石(大)とオーブ珠を拾って戻って来てくれた。こんな大物討伐が続くのはいつ以来かなと、姫香も驚きを隠せない。

 そしてお手柄のレイジーを、もう一度撫でて称賛の声掛け。


「さてと、後は近くに次の層への階段があれば良いんだけど……ハスキー達に茶々丸、もう一仕事しに行くよっ!」

「この鉄橋を渡り切った、向こうのトンネルが怪しいなぁ。でもまたトンネル移動だと、変な敵とか出て来そうで怖いよね?」


 私はアンタのその発言が怖いよと、姫香は言い残して前衛陣へと合流して行って。何も言い返せない護人は、後衛陣を指揮して歩き始める。

 それにしても、突発的に強敵の出るダンジョンだねぇとの香多奈の呟きに。確かにその通りだし、この先もひょっとしての思いも強い。

 ここまで癖の強いダンジョンは、来栖家としても久し振りかも?





 ――ただまぁ、護人としては無難に間引きを続けるだけ。






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