第547話 軟体ペットの教育が粛々と行われて行く件
そんな訳で、ムームーちゃんの一般常識教育計画は主に護人が担当する流れに。末妹の香多奈は、平日は夕方まで小学校なのでこの任務に適していない。
紗良と姫香も、まぁやろうと思えば可能ではあるのだけれど。家畜やペットを含めて、これまで一番生き物のお世話に携わって来たのは家族の中では断トツに護人である。
もしこの軟体生物が、誤ってスキルを暴走させても護人なら防御系のスキルを持っているし。一番、被害を少なく抑え込む事が可能な点も見逃せない。
リリアラによれば、このネビィ種と言うのは温厚で、他種族と争うよりも身を隠す方法を選ぶのだそうな。滅多に目撃されない希少性も、そんな所に由来するのだろう。
そんなスライムモドキを紹介されても、植松の爺婆は特に驚いた風もなく接してくれた。妖精ちゃんやら何やらな存在で、既に慣れっこになっているようだ。
朝の子供達の送迎終わりに、ちょっと寄っての新しい家族の紹介のつもりが。そんな事より、結婚相手はまだ見つからないのかとか余計な世間話が始まって。
護人は仕方なく、ムームーちゃんをレイジーに預けて爺婆の相手をこなす事に。こうやっていろんな場所に連れ歩くのも、社会経験を積ませる大事なイベントである。
そこで色んな人々や景色に触れて、主人との関係や何やらを覚え込む。自分に害のある者とそうでない者の見分けをこなして自分の立ち位置も見分ける。
もちろん、飼い主が一番の良好な保護者なのは大前提ではある。
「今日は午後から、企業の買い取りトラックが何台かこの辺を通ると思うけど。気にしなくていいよ、ウチの探索での回収品を買い取りに来たお客さんだから。
紗良と姫香は、今頃は家で売る品の整頓をしてくれてるよ」
「それはええけど、子供達には余所でいなげなモン拾って帰るなっちゅうて言うときぃや。拾った動物が、変な病気持っとったらコトやけぇな」
「爺さん、そんな事言うても今更もう遅いでよ。護人、ついでに嫁さんも拾うて帰って来てみんさい。それより帰りに、カナちゃんらに家で作った水ようかん持たせようか?」
植松の爺は、どうやらムームーちゃんに得体の知れなさを感じ取っていたようだ。婆に関しては、子供達のおやつと護人の嫁さんの方が切実な問題らしいけど。
企業の買い取りトラックに関しては、今回は3社が揃い踏みでやって来るらしい。薬品関係と資材関係を、今回は別々の企業が引き取ってくれるそうで。
これで買い取り側の資金不足問題は、多少は緩和されるかも。これでも青空市でのやり取りは多少あって、企業の方からもアプローチはされていたモノの。
青空市の日には、さすがにゴタゴタしていて後日に伺うとの毎回の逃げ口上に。企業同士の縄張り争い的な駆け引きもあって、何故か各社が同じ日程を指定した為に。
来栖家としては、突発的に探索も入って多少バタバタしてしまった感じである。うっかり忘れかけてた訳でもないのだが、アイテム整頓がずれ込んでしまい。
取り敢えず、紗良と姫香にそっちを頼んで協会
そんな訳で、そろそろ協会も開いた時間だしと、護人はムームーちゃんに声を掛けて植松家を後にする。従順な態度の軟体生物、今の所は異界への順応も悪くはなさげ。
そして訪れた協会でも、概ね好意的に受け入れられたムームーちゃんである。その相手側のリアクションは、来栖家のやる事には一々驚いていられないよって感じにも見えたけど。
能見さんの興味は、いつもは騒がしい子供達が今日はいない事に尽きたよう。江川も同じく、換金物を受け取りながらどこのダンジョンに行って来たのかと不思議そう。
まぁ、異界に出掛けてこの子を拾ったのだと、説明はとっても簡単に済んでしまうけど。それ以上は突っ込みませんよと、江川はさっさと奥へ引っ込んで行ってしまった。
「いや、しかし……このスライムが知的生命体ですか。異界って、こっちの常識が全く通用しませんね。ちなみにこの生物、戦闘能力はあるんですか?」
「諸事情によって、色々と厄介なスキルを覚えてしまって……そんな訳で、この子に常識を教え込もうと連れ歩いてる次第ですよ。
見ますか、これがムームーちゃんのステータスですけど」
【Name】ムームー/Age 01/Lv 04
HP 10/10 MP 12/12 SP 16/19
体力 E‐ 魔力 D 器用 E 俊敏 F
攻撃 F‐ 防御 E+ 魔攻 D‐ 魔防 E
理力 E‐ 適合 E 魔素 D 幸運 D+
【skill】『擬態』
【S.Skill】《ドレイン》《心話》《心頭滅却》《炎心》
【Title】《異界の迷い子》
レベルが上がっているのは、どうやら夜のハスキー達の特訓に同行させられた結果らしい。この数日で、あちこちから気に掛けられているのは良い事なのだろう。
ただまぁ、護人としてはこの異界の幼子を来栖家チームの戦闘要員へと招く事は全く考えていない。ただ覚えたスキルで、周囲に迷惑を掛けてくれるなと願うのみ。
その為にはやはり、社会性とこちらの常識をなるべく早く覚えさせないと。ハスキー達の連れ回しも、社会性を学ぶ良い機会だと思う事にした護人である。
もっとも、妖精ちゃんには注意を払った方が良さげではあるけど。彼女は呪いを解除した兎の戦闘ドールを(勝手に)入手して、ムームーちゃんと一大勢力を築こうと画策しているらしい。
それもこれも、暴虐魔人のミケにいつかやり返す日を夢見ての事らしく。ちょっと可哀想な気もするけど、来栖家の平和はミケがトップで成り立っているのだ。
それを、チビ妖精に引っ繰り返される訳には行かないのが実情である。
今回は録画チェックに、護人と仁志支部長と能見さんと言うメンバーで挑んで。途中で換金が終わったと、江川が現金を持って来たけど。
鑑定の書と薬品を含めて、魔石の売り上げは240万円とパッとせず。まぁ、宝箱の回収品がほぼ無かったのだから、ドロップ魔石だけでここまで伸びたのは逆に凄いかも。
それもこれもゴーストのお陰だけど、動画でもその威力は凄まじい。主に能見さんが、時折ひえっとリアクションをとってくれて、彼らも驚かし役冥利に尽きるだろう。
それから動画の最後に映っていた、ルルンバちゃんの新形態には皆でホッコリ。『錬金レシピ本』が浄化関連で新たに発見された報告には、江川も耳をびくつかせていた。
更に言うと、呪い解除品の報告には、完全に耳ダンボ状態に。広島の協会本部にも持ち込まれた品は割とあるようで、死蔵したままの状態のモノが多いらしいのだ。
だからと言って、異世界のダンジョンにまで解呪に行くのも途方もないリスクだし。来栖家の解呪した2つのアイテムは、どちらも当たりだったのでまだ元が取れたと言えるけど。
そうでなかった場合、呪いの品と一緒に心中する破目に陥る可能性も。そんな訳で、当分の間“浄化の泉”は異界の品を投げ入れられる機会はなさそうだ。
まぁ、護人としてはどちらでも良い話だけど。
「それより、愛媛の『坊ちゃんズ』の到着がもうしばらく遅れるそうなんですよ。間の悪い時期に、間の悪い場所でオーバーフロー騒動が起きたみたいで。
地元案件なので、そちらを優先して処理して貰っていますけど。恐らくそれが片付けば、来週にはこの町に来て貰える筈ですので。
そうすれば、A級チームがこの町に揃い踏みですね!」
「それじゃあ、島根チームにはもう少し待って貰う事になりそうですね。まぁ、連中はキャンピングカー生活をそれ程苦にしないみたいですけど。
取り敢えずは、よろしく面倒見てやって下さい」
護人の言葉に、苦笑いを浮かべる正直な性格の能見さんである。恐らく女好きの彼らの、怒涛の攻撃をほぼ毎日食らっているのだろうけれど。
星羅チームの女子3名も、顔合わせと称して色々と面倒を見てやったと報告が上がっており。近接戦での実力的には、全然負けてなかったと誇らしげなコメントも。
護人も夕方の厩舎裏の訓練で、直接土屋女史から話を聞いたのだけど。その場にいたムッターシャも、恐らく師匠として鼻が高かっただろう。
何せ、向こうは押しも押されぬA級ランカーである。土屋女史の適性が、元から近接アタッカー寄りだった事を差し引いても凄い事である。
護人も同じギルド員として誇らしいが、彼らも“喰らうモノ”ダンジョン攻略では仲間なのだ。あまり
協会に来たついでに、例の件も報告しておく事に。
「あっ、そう言えばウチの“敷地内ダンジョン”ですが……どうやら2つ目も、鬼の仕業で“ダンジョン内ダンジョン”が発生しまして。
鬼によると報酬のつもりらしいですけど、一応協会にも報告を」
怒涛の午前中の用件も片付けて、お昼過ぎには敷地内に停車する企業の買い取りトラックの列と言う。なかなか壮観な景色ではあるけど、利用するのは来栖家のみなのが寂しい所。
今回来てくれたのは、いつもの『四葉ワークス』の森田とその護衛の探索者達に加えて。『眞知田オート広島』と『不磨キラー薬品』からも、薬品類その他を買い取るべく鑑定人が来てくれた。
それぞれ欲しい品は違うだろうから、それほど喧嘩にはならないと思うけれど。そもそも来栖家の回収品も、定期的に売る場が青空市だけなので結構貯まって来ていたり。
青空市の企業の買い取りにしても、大金がついた品は買い取りを断られる始末で。そんな感じで、向こうがどうしても欲しい物だけを売り捌いた結果。
随分と偏った在庫になってしまって、青空市で甲斐谷に相談した結果。それならと、彼と協会の伝手で今回の大出張買取となった訳だ。
ちなみに平日なのは、香多奈にバレない様に取り計らった結果である。大金が動くので、チームとは言え小学生には目の毒だろうと姫香の発案なのだけど。
護人も全く同じ意見、何しろ溜まっているアイテムの数と来たら。既に上級ポーションや中級エリクサーの余剰分を、紗良が薬品会社の買い取り人に手渡し始めている。
彼のチェックと査定も、相当掛かるだろうから挨拶している暇も惜しいのは良く分かる。そして上級ポーションが5リットルを超えた当たりで、彼の表情に変化が。
まぁ、協会買い取り額が100mlで10万円の薬品なので、その気持ちは良く分かる。ただし、その後には中級エリクサーが3リットルほど控えている。ちなみにこれは、100mlで30万円の薬品だ。
来栖家としては、飽くまで余剰品なのでギルド用のキープは万全だ。他にも“秋吉台ダンジョン”でゲットした、『鑑定プレート』(木の実専用)も向こうは喜んで買い取ってくれるだろう。
秘薬素材なんかも、紗良が許せば全然売っても良いし。
それから『眞知田オート広島』は鉱石やインゴット系が欲しいそうなので。丁度“美川ムーダンジョン”で入手した、鉱石インゴットや素材系を売り渡す事に。
そちらは姫香が担当する予定で、午前中には仕分けを頑張ってくれた少女は。ウチには必要無いから、全部買い取ってねと圧が割と凄いと言うか酷い。
ついでに宝石や金属も売り払おうとしたが、そちらは断られてしまった。それでも『オリハル鋼インゴット』やモンスターの甲殻素材には、割と食い付いてくれた模様で。
恐竜の骨素材や、重オーグ製の武器や装備品も溶かせば使えるからと欲しがって来る始末。それに気を良くして、収納からそっち系をどんどん取り出す姫香である。
気がつけば、こちらも鑑定に時間がとっても掛かりそうで少々怖い。それからいつもの『四葉ワークス』は、護人の担当と言う事になっていて。
装備品やら素材系を中心に、今回は向こうの資金が尽きるまで買い取って貰う所存である。残念ながら、一番金になりそうな宝石や貴金属を買い取ってくれる当てが無いけれど。
そちらはまた今度、知り合いに良い買い取り人を紹介して貰う所から。
「今回はよろしくお願いしますよ、本当にお手柔らかに……」
「いえいえ、これだけ大企業が買い取りに訪れてくれる機会なんて滅多に無いですからね。まずはこの『ラクダの仮面』から行きましょうか。
鑑定の書はこちらになります、他にも装備品は山のようにありますよ」
――かくして来栖家VS買い取り人の闘いは、来栖家の圧勝に終わりそうな気配。
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