第546話 新生ルルンバちゃんを颯爽とお披露目する件



 何とか無事に異世界のダンジョン探索から戻ってきて翌日、来栖家の敷地は今日も賑やかである。何しろ異世界から、色々とヤバいモノを持ち帰って来たので。

 その言い方には多少語弊ごへいがあるけど、まぁ似たような感じだろうか。本当はルルンバちゃんのただのメンテだった筈だが、その当人は物凄い変貌を遂げて戻って来た。


 まぁ、それは予想の範囲内と言うか……今まで回収した素材を、腕の良い親方に差し出して改良を頼んだのだ。しかし、まさか『蝸牛かたつむりの荷物入れ』をあんな風に使うとは家族の誰も思っていなかった。

 護人にしても、移動要塞のルルンバちゃんに空間収納を持たせたら割と無敵かなとの思いで。それが親方のアイデアで、その中に交換パーツを仕込んでの形態変化を可能にしたのだった。


 最初に現れたルルンバちゃんは、防護系の素材をボディに加工してより生体的に生まれ変わって恰好良かったのだけど。肝心の砲台パーツがどこにも見当たらなくて、子供達はアレッと言う表情に。

 本人も新形態を良く分かってなくて、しばらくまごまごしていたのだが。収納の中に各パーツを発見してからは、スンナリ交換してのお披露目が可能に。


 その後は、割とノリノリで新パーツを披露する彼であった。最初の移動用のスリム形が第1形態だとしたら、砲台を備えた遠隔攻撃パーツはいつも通りで頼もしい。

 それから近接攻撃パーツには、ゴツイ腕に武器が仕込まれていて飛竜も殴り殺せそう。そして彼のアイデンティティである、草刈り機や吸引機の完全作業パーツもついていて。

 その心意気には、大満足な模様のルルンバちゃんであった。


 今日は日曜日なので、そのテストも兼ねて朝から敷地内を走り回っている彼である。その動きは明らかに以前よりスムーズで、速度や安定感が増している。

 親方の話では、《重力操作》の付与された魔法アイテムを新パーツに組み込んでくれたそうで。これにより、重い魔導ゴーレムの機体でも重量を感じずに行動が可能になった模様だ。


 それこそ、山の斜面すら軽快に駆け上がっていて、本当に生体感が増していると言うか。巨大化した蜘蛛みたいな生物的な動きは、称賛に値する気も。

 本人も大満足しているようだけど、そんな彼に新たなミッションが。修理されて戻って来た『魔法の飛行ランプ』の操縦も、今後はルルンバちゃんに任す事に。


 これは親方が勝手に改造しての、善意からの仕様変更みたいで。その方が行動や作戦の幅も広がるし、AIロボなら可能だろうと思っての変更だそうな。

 とは言え、AIロボだって決して万能ではないのは来栖家のみんなは分かっている。事実、このオプションパーツの安定操作は、ルルンバちゃん的には大変みたいで。

 今も操作に苦労しながら、敷地内を飛ばしての練習中。


「でも、確かにオプションで飛ばせるパーツあったら、戦いにもスゴく便利かもね。ほら、某機動ロボットの操るファンネルみたいな感じでさぁ。

 ランプに撮影器具とか魔法の銃とかくっ付ければ、凄く便利だと思わない?」

「アンタは何でも足したがるのは悪い癖だよ、香多奈。結局、異界の生物も連れて帰って来ちゃうし……本当に我が儘だねっ、世話はちゃんと自分でするんだよっ!」


 分かってるよとの返事に、姉妹喧嘩になりそうな気配を素早く察して。近くにいた紗良が、もうすぐお昼だからねと会話に割って入る。

 最近はこんな手管もすっかり慣れて来た、優秀な来栖家の長女である。敷地内には農作業を終えた護人やお隣さんの子供達もいて、賑やかに収穫した野菜を手に盛り上がっている。


 来栖家の子供達は、今まで家畜の世話とか昨日の探索の回収品の仕分けとか。後は昼食の支度とかしていて、別にサボっていた訳ではない。

 そして魔法アイテムに関しても、妖精ちゃんに手伝って貰って既に鑑定済み。



【浄化の水晶】設置効果:周囲を浄化効果・小~大×9

【発光水晶】設置効果:周囲に発光効果・小~大×8

【生命の水晶】設置効果:周囲の生命力上昇・小~大×5

【耐性の水晶】設置効果:周囲の耐性上昇・小~大×3

【魔術師のローブ】装備効果:魔力&MP回復up・中

【魔術師の杖】装備効果:魔力&魔法攻撃up・中

【清浄の木の実】使用効果:魔法植物・薬品素材

【裂帛の木の実】使用効果:魔法植物・薬品素材

【白兎の戦闘ドール】使用効果:呪い&遠隔操作&全能力up・特殊

【全能のチェーンベルト】装備効果:自動防御&全能力up・特殊


その他:『錬金レシピ本』 (浄化)×2




 13層まで攻略したにしては、今回の回収品はあんまり多くは無かったのはとっても残念。ただまぁ、異界に生えたダンジョンだったので、その点は仕方が無かったのかも。

 神殿フロアに生えていた水晶だけど、サイズは大中小と色々あって効用も様々だったみたい。設置するだけで周囲に恩恵をもたらすみたいだけど、それほど強い影響は無いみたい。


 実際に、発光水晶も夜の明かりの代わりになる光量では無いみたいだし。それらは香多奈の発案で、温泉の各所に設置して癒し効果の素材にする事に。

 同じく神殿フロアで拾った木の実に関しては、宝箱から回収した『錬金レシピ本(浄化)』の素材として使えそう。このレシピ本の回収には、紗良ばかりかリリアラも大喜びで。


 今現在も、有効なアイテムを錬金出来ないかと、温室に併設された研究室にこもって作業中である。エルフのツボは良く分からないが、喜んでもらえて何よりだ。

 その他の回収品については、特に気にするモノはなし。ただし“浄化の泉”で解呪したアイテムについては、色々と考えさせられる破目に。


 ちなみに、親方から預かって解呪に成功した『白亜の剣』だけれど。こちらはルルンバちゃんの改良代金として、工房に納入して手元には無い。

 チラッと見た限りでは、かなりの高性能だったみたいなのだけど。それに関しては、残りの2つも負けてなくて妖精ちゃんもビックリしていた。


 その2つ目の『白兎の戦闘ドール』なのだが、解呪しても呪いの要素が縫いぐるみに残っていて。混乱する一同だが、どうやら仕様上で仕方が無い特性らしい。

 かなりのレアアイテムだぞと、興奮している妖精ちゃんに使い方を教わる子供達。つまりは自分の髪の毛とかを白兎の縫いぐるみの口に突っ込んで、後は遠隔操作で戦わせるのだそうで。

 そんな事が出来るのと、ビックリする香多奈は良いリアクション。


「それなら、今度から妖精ちゃんとかムームーちゃんが戦力になれるかもって事じゃん? 凄いよね、私も縫いぐるみを使って前衛デビューも可能だよっ!

 縫いぐるみは1個だけだから、争奪戦になるねっ!」

「いや、でも……呪いの要素が抜けてないって事は、縫いぐるみがダメージ受けたら操ってる人にも痛みが伝わるんじゃないの?

 アンタならともかく、妖精ちゃんやムームーちゃんが操るのは可哀想だよ」

「う~ん、その辺を含めて何とかならないかなぁ? 錬金術とか強化の巻物を使ったりして、本体の縫いぐるみを強くしてみるとかさ」


 そんな弟子紗良の提案に、妖精ちゃんもヤル気を見せて家に余っていた巻物を香多奈と共にかき集め。それから兎の縫いぐるみの強化を、魔石と巻物の尽きる限り行った結果。

 かなりの強化を掛けて貰った新入りの縫いぐるみは、何故だか見た目も変化してやたらと強そうに。だからと言って、使い勝手が良くなってはいないようだけど。


 とにかく、この秘密兵器を実践投入するには少し時間が掛かりそう。それまでは、妖精ちゃんとムームーちゃんの遊び道具として使われる気配が。

 ムームーちゃんに関しては、あまり良く分かっていないようではあるけど。来栖家を新たな群れと認識はしているようで、甘えてくる姿はちょっと可愛いかも?


 ペット達も、この軟体生物は子供なのだと分かっていて対応は飽くまで穏やか。新入りイビリをしているのは薔薇のマントくらいのモノで、リビングは彼らの起こす騒動でたまに騒がしかったり。

 そんな時はルルンバちゃんが間に入って、新入りの軟体生物をかばったりしているのだが。さすがお兄ちゃんだねと家族に褒められて、満更でも無さそうなその態度。

 来栖家のペット情勢は、そんな感じで日々更新されて行くのであった。




 そんな異世界旅行帰りの来栖家だけど、平日は至って通常通りで。あともう少しで夏休みだを合言葉に、小学生たちは麓の小学校へと通っており。

 段々と日差しが強くなる中、護人も農場をしっかりと管理して。ゼミ生の塾も通常運転で、ペット達も各々の任務をしっかりこなして頑張っている。


 そんな中、まだ幼子のムームーちゃんの世話は何故か妖精ちゃんが担っており。3~5歳児並みの知能のこの軟体生物を、家族が留守の間は面倒見てくれていたり。

 ただしやり過ぎなお世話があったのも、後に判明……と言うか、週の最初に香多奈がムームーちゃんの異変をいち早く察知してしまった。何とこの軟体ペット、知らない間に幾つかスキルを取得している!


 どうやら来栖家が今まで貯め込んでいたスキル書やオーブ珠を、このチビ妖精はお世話している軟体ペットに与えたようだ。それだけなら良いのだが、どうも虎の子の宝珠も全て消え去ってているのが判明した。

 百万以上の価値のする宝珠が、呆気なくペットに使われる事態はこの際どうでも良い。いや、良くはないけど護人はそこまでお金に世知辛くは無い。

 とは言え、幼児ペットの過剰な強化は如何いかがなモノか。


「うわぁ、いつか使えるかもと思って保存してた《心話》と《心頭滅却》をパクられちゃったのは良いけどさ。レイジーの強化にと取っておいた、《炎心》まで覚えさせられちゃってるよ。

 他にも《ドレイン》とか『擬態』とかってスキル持ってるね、この子ってば」

「最初から覚えてたのかな……スキル書やオーブ珠はいっぱい貯め込んでたから、幾つ消えたか正直良く分からないんだよねぇ。

 でも、攻撃的なスキル覚えたらちゃんと教育しないと不味いかも?」

「確かにそうだな、いやまぁ……日中は妖精ちゃんに、お世話を任せてた俺も悪いんだが。まさかこんな結果になるとは、全く想像してなかったからな。

 仕方無い、みんなで頑張ってスキルを悪さに使わないよう教育しようか」


 その辺は、犬猫を含めてペットを何匹も飼った経験のある来栖家である。最初の幼い頃にキッチリ教育をしないと、変な癖や社会ルールを知らない困った事態になるのは把握済み。

 そうなると、お互いに損をするのは目に見えている。下手をすれば、一緒に住めなくなる可能性にまで発展してしまうのだ。例えば大型犬の噛み癖が大人になっても抜けないと、飼い主も危なくて触る事が出来ない。


 そんな訳で、一度拾って家に招いたからには家族の覚悟で事に当たる護人と子供達である。スキルの特性を把握して、危ないスキルは家族や他人に使わないよう教え込まないと。

 幸い、ムームーちゃんの取得した《心話》と言うスキルは、異種族間のコミュニケーションをある程度可能にしてくれそう。さすがに来栖家の覚えている《異世界語》でも、ムームーと言う鳴き声を翻訳はしてくれないので。


 それでも一筋の光と言うか、この《心話》スキルでのコミュニケーションで分かった事は。この軟体生物の幼子は、本当に心が綺麗で群れを傷付ける行動など全く考えていないって事。

 それどころか、好奇心が凄く旺盛でこの新しい住処に興味津々の模様。ハスキー達や先住民の先輩たちにも、好感触の感情しか持っていないのは何となく伝わって来て。

 これならまぁ、常識を教え込むだけで何とかなりそう。





 ――つまりは、一番の敵はこの屋敷で一番非常識な妖精ちゃんって事に?






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