第544話 3つ目の浄化の泉を見付けてお仕事完了の件
今は10層フロアの中ボス部屋で、その地下墓地の雰囲気の暗さに家族揃って
紗良もエーテルの準備だけで、ペット達の怪我チェックは行わず。何しろ最初の自身の《浄化》スキルの撃ち込みで、ほぼ勝敗は決していたようで。
その後も特に盛り上がりも無く、中ボスの部屋の制圧は完了してしまったのだ。家族の興味は、宝箱の中身と次に出現する浄化の泉の場所位のモノ。
ちなみに香多奈が漁っている宝箱からは、魔結晶(中)が7個に薬品類が数種類。上級ポーションが混ざっていたので、薬品に関しては大当たりである。
他にもオーブ珠が1個に錬金関係のレシピ本が2冊、色の違う水晶が割と大量に出て来た。リッチがスキル書とローブを落としたのだが、宝箱の中には魔術師の杖も入っていて。
後衛用の装備品は、割と出現率が低いのでギルド的にも重宝するかも。ただまぁ、ギルド『日馬割』も後衛の数はあまり多くないと言う現状もあるので。
そんな意味では、後衛装備の回収率はそこまで悪いとも言い切れない気も。それから一緒に入っていた金銀の古銭や装飾品は、価値が高いのか低いのかは良く分からなかった。
恐らくは、死体と一緒に棺に納められていたとかって設定なのだろうけど。香多奈は全く気にしていないようで、妖精ちゃんとあれこれ話し込んでいる。
どうやら装飾品の中に、王冠みたいな形状の金飾りが入っていたようで。それが欲しい小さな淑女が、我が儘を発動させているみたいである。
まぁ、最終的には誰かの我が儘は大抵通ってしまうのが実情なのだけど。それが来栖家クオリティ、護人にとっては少々頭の痛い問題ではあるけど。
この程度の我が儘ならば、目くじらを立てる程でも無い。
香多奈は仕方が無いなぁとか言ってるけど、自分が欲しいモノもちゃっかり見定めている模様。そんな休憩時間を挟みつつ、いよいよ次は11層への挑戦である。
それほど間を置かずに進んだそのフロアだが、基本の配置は前の層とそんなに変化は無かった。要するに崩れかけた塔の遺跡で、上り階段を見付ければ良い感じ。
「あれっ、もっとガラッと変わるかと思ってたけど、そんなに変化は無いみたいだね。強いて言えば、天井に水晶のつららがいっぱいくっ付いているくらいかな?」
「そうだな、何と言うか……清浄と汚濁のせめぎ合いみたいなダンジョンだな。さすがに呪い解除を得意としても、そこに溜まっている淀みを完全に除去する事は難しいんだろうな。
それで追い払われた淀みが、フロアのあちこちから染み出ている感じなのかな?」
「なるほどぉ、
紗良がそんな例え言葉で締めたのに対して、それってどう言う意味と香多奈のツッコミが。それを丁寧に説明し始める先生役のお姉さんと、フロア掃除の名のもとに討伐を始める前衛陣。
この層のモンスターも、前の層と大きく変わらず大ネズミや蟲系が多数出没して来た。それを慣れた感じで倒して行く、ハスキー達&茶々丸である。
姫香は萌と一緒に、相変わらずの瘴気溜まりの除去作業に歩き回っている。それを見た薔薇のマントも、何とか自分も噴霧が出来ないかを試行錯誤しているみたいだけれど。
何らかのスキルか構造的なモノが関係しているらしく、どうやっても無理なようで。背後でむずむずしてくれるなと、護人もやや困っていたりして。
それでもその程度の困難で、11層は無事に通過する事が出来て一行は階段上のゲート前へ。ここまで来ると天井の水晶が良く見えて、何とも幻想的ではあるけれど。
これが周囲の浄化を担っているのかと問われると、何とも返事のしようがない感じ。取り敢えずはその存在は無視して、探索に集中していれば良さそうではある。
そんな感じで12層も、特に波乱も無く探索を終わらせる来栖家チームであった。この層の淀みには、ゴーストも潜んでいたりして少々厄介だったけれど。
ゴーストは軒並み魔石(小)を落とすので、子供達には大人気と化してしまっていたり。そうやって獲得した魔石(小)は、このダンジョン内で既に30個以上。
未浄化霊も成仏出来て、言ってみればウィンウィンなのかも?
そんな話をしながら、訪れた13層目はようやくの目的地で。つまりは3つ目の“浄化の泉”に辿り着いて、子供達もやったぁと喜んでいる。
神殿フロアも3度目だと、色々と興味深く見る箇所も出て来るのだけれど。異界の神様の趣向は、祀られた場所をさらっと眺めただけでは良く分からない。
香多奈に至っては、ここにも宝箱が無かったねぇと凄く残念そうなコメントをこぼして。目的は叶ったから良いじゃんと、姫香は早くも呪いの装備品を取り出している。
それから今度はどっちが行こうかと、護人と腕比べの順番の相談など。白竜が出て来て恒例の使用許可を得る流れは、今回も当然あると思っている模様。
「そうだな、今回も俺とレイジーで行こうか……また硬い敵が出て来そうだし、最後くらいは働かないとな」
「あっ、護人さん……番人が出て来たら、ダンジョンを直通で出れるゲートを出せないか聞いてみて。歩いて戻るの大変だもんね、そのくらいのサービスあっても良い筈だし。
こっちもちゃんと、向こうの提示したルールを守ってるんだから」
それもそうだねと、末妹も姉の姫香の提案には賛成の様子。確かに歩きで13層分を下って行くのは、探索終わりには骨が折れる。かと言って、ワープ装置の使用は不測の事態が怖過ぎるし。
“アビス”の転移装置の他にも、来栖家は巻物形式のダンジョン脱出用の魔方陣を実は幾つか持っている。それを使わないのは、貧乏性と言う理由もあるけど、やっぱりその効用が本物かどうか確信が持てないから。
下手に楽をしようとして、逆に変な場所にワープさせられるとか嫌過ぎる。“アビス”の装置もまだ少し怖いけど、アレは少しは信頼出来るというか。
ただまぁ、あの装置は今の所は最終手段に取っておきたいのも事実で。ここで我が儘が通るなら、それに越したことはないとも確かに思う。
番人の白竜には、呆れられるかも知れないけれど。提案するだけならただなので、そこは子供達の助言に乗っかる事にした護人である。
準備を整えて泉へと近付くと、やっばり出て来た番人役の白竜の神々しい姿。前の層の時よのクッキリと鮮やかなその映像は、まるで本体がそこにいるかのよう。
それには嫌な予感を覚える護人だが、まさか次の腕試しの相手がこの竜と言う事もあるまい。多少ドキドキしながら、泉の前で戦闘前の交渉を行って。
帰還用のゲートについては、何とかオッケーを貰って何より。それから呪い解除の品は1個だけの説明と、腕試しで勝ったらねとの毎度の注釈を得て。
戦闘準備から、怒涛の最終戦のスタート!
唐突に現れたのは、3メートル級の巨大パペット天使だった。お供に白く輝くパペット獅子をつれて、今までのどの敵よりも強そうだ。
天使の武器は長槍と弓矢、何と相手のパペットも“四腕”で2種類の武器を操っている。それでも飛んで来る弓矢を軽く
レイジーも白獅子パペットを相手に、主の邪魔にならないように配慮して端っこへとおびき寄せ。所持スキルを駆使しながら、自分より巨体の敵をまずは翻弄してリードを取っている。
それを背後から応援する子供たち、ペット勢など今にも援護に駆けつけたそうな雰囲気だ。それをしないのは、護人とレイジーの勝利を信じて疑っていないから。
現に護人は、敵の弓矢スキルなのか、雨と降り注ぐ矢束の群れを全て弾き飛ばして接近戦へと持ち込んで。今度は鋭く繰り出された長槍の突きも、躱し切っての逆襲のシャベルの一撃。
硬いパペット相手には、得意の『掘削』スキルが物凄く相性が良い。それが天使の形をしていようと、白い翼で宙に浮いていようと関係はない。
何しろこちらも、薔薇のマントでの飛翔が可能なのだ。その代わり“四腕”は使えなくなるけれど、護人は潔く弓矢の攻撃は諦めて接近戦1本で討伐に当たっていて。
そのすれ違いざまの一撃で、胸元に大穴を開けた天使パペットは呆気なく墜落の憂き目に。子供達のやんやの歓声の中、勝敗は数分で決してしまった。
もちろんそれに後れを取るレイジーではない、白獅子パペットも天使と同じ運命を辿っており。
それを見届けた白竜は、浄化の泉の使用を許可すると言って消えて行く。泉の端には、きっちりと退去用の魔方陣を発生させてくれて律儀な番人ではあった。
とにかく、これで帰れる体制は整った。
「やったね、叔父さんっ……これでこのダンジョンともおさらばだよっ! えっと、最後に残ったのはこの鎖に巻かれた装備かなっ?」
「そうだね、いかにも呪いって感じの奴だから最後に取っておいたけど。ちゃんと解呪出来るか不安だなぁ、取り敢えず試してみるよ」
そう言って、最後の呪い装備を実験するように泉へと投入して行く姫香。その効果はやっぱり絶大で、数分も掛からずバッチリ解呪に成功した模様。
それを喜ぶ子供達だが、取り出した装備品を見て首を傾げる破目に。封印の為に巻かれていたと思っていた鎖の束だけど、どうやら装備の一部らしい。
凄いファッションセンスだねぇと、面白がっている香多奈はともかくとして。それじゃあ戻ろうかとの護人の声掛けに、慌しく帰宅の準備を始める一行である。
番人の白竜は、結局あれ以降は出現してくれなかったので。お
そして改めて蒸し返されるムームーちゃん問題だけど、取り敢えずは隠れ集落までは連れて行く事に。何なら親方が引き取ってくれるかもだし、良い案を出してくれる可能性も。
そう願いつつ、帰りの方向を見定めて出発を果たす来栖家チームである。ハスキー達は迷う素振りも無く、やって来た道を先導して進んで行って。
かくして、半日に渡っての異世界ダンジョン攻略は無事に終了したのだった。
そして集落に戻って来たら、既に探索を終わらせた異世界チームとバッタリ鉢合わせ。それからお互いの成果を、早口で確認し合うザジと来栖家の子供達である。
護人とムッターシャは、離れた場所でもう少し落ち着いた感じの情報のやり取りなど。そして案の定、ムームーちゃんを拾った話には驚きの応対が返って来た。
「あれはネビィ種の子供か、こりゃ珍しいな……俺も初めて見たよ、リリアラも興味津々ってい顔だな。あれを観察出来るってだけで、研究者冥利に尽きるって思う学者もいるって聞くけどな。
どこで拾って来たんだい、モリト?」
「いや、普通にダンジョン前で子供が見付けて……最初はスライムだと思ってたら、なんか違うぞって妖精ちゃんが教えてくれたんだけど。
さすがにアレを飼うのは、異世界でも非常識だよな?」
そう尋ねた護人を、ムッターシャは藪を突いてたらドラゴンが顔を出したって表情で見つめ返して来た。さすがに非常識な発言だってのは、本人だって重々承知なのだが。
問題は、子供達がそれで簡単に納得してくれない事に尽きる。確かに群れからはぐれた子供を、放置して死なれたら寝覚めが悪いって理論は分かるけど。
とにかく、まずは親方に会って新生ルルンバちゃんの出来を確認しなければ。今回の集落訪問の、8割の目的はそれに尽きるのだから。
ムッターシャ達の方は、既に探索で得た魔石や回収品の換金作業も終わったとの話。さすが、たった3人と1機とは言え物凄い戦力を有するチームである。
その探索スピードは、とても来栖家では真似出来ない。
それならルルンバちゃんのリニューアルを、一緒に見に行こうよと話は簡単にまとまって。向こうではリリアラが、嬉々としてムームーちゃんを抱っこして目を輝かせている。
そして全員が揃っての工房訪問、借りパーツで飛び跳ねている本人もお披露目にウキウキ模様みたいだ。出迎えて来た親方も、自信満々で良い出来になったぞと大声で報告して来た。
「やったね、ルルンバちゃんっ! それじゃ私たちはここで待ってるから、ルルンバちゃんは合体して扉から出て来てお披露目会しようか!」
「あっ、それ良いね……親方、そんな訳でちょっとだけ場所貸して下さい」
姉妹のお願いに、快諾の返しをしてくれる親方である。コミュ力お化けの姉妹は、この異界の地でもその猛威を振るっている模様。
そして、しばらく後に工房から出現する魔導ゴーレムのその勇姿。
――かくして新生ルルンバちゃんは、工房前でお披露目となったのだった。
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