第543話 2つ目の浄化の泉に家族で盛り上がる件



 辿り着いた第9層目は、宝箱こそ無かったけど目的の神殿フロアだった。それに歓喜して、やったねと騒ぎ始める単純な子供達だけど。

 前と同じパターンなら、泉に近付いた途端に変な仕掛けが作動するかもと。護人は子供達に注意喚起して、それから自分が行こうかと名乗りを上げる。


 この神殿フロアだけど、パッと見た所では敵の気配は全く無し。前回の時もそうだったけど、戦闘はどうやら泉の管理人に難癖付けられての1度きりみたい。

 姫香がまた私でも良いよと名乗り出るけど、少しは休んでなさいと護人も譲らない。と言うより、少しは戦わないと最近は動画のコメントも気になってしまって。


 何しろ派手な戦闘で毎回目立っているのは、ハスキー達&茶々丸で。その次が姫香と萌の前衛陣で、後衛陣は活躍があまり評価されていない。

 別に外野の喧騒など無視すれば良いのだが、ルルンバちゃんより働いてないとか言われるのは心外だ。挙句の果てに、ミケに出番をさらわれてるとか、ペットや子供を働かせて保護者は楽をしているとか。


 そんな風評被害が蔓延しては、この先の探索活動にも支障が出る恐れが。もちろん子供達は、護人の苦労は分かってくれているし、ギルド仲間にしてもそれは同様なのだが。

 護人の本業は農家であり、子供達の面倒も見るし広大な敷地の管理も怠っていない。その上自治会の役員で、あれこれ厄介事を押し付けられたりとか。


 それを踏まえて、探索業やギルド活動も行っているのだ。これで働いて無いよねとか、ペット達を無理やり戦わせてるとか、勝手な事を吹聴されたらたまらない。

 田舎に住んでても、世間体って意外と大事なのだ。


「それもそうだね……護人さんが家族の中核だって事実は、私たちはちゃんと知ってるけどね。確かに動画の中では、活躍している所は意外と映って無いかも?

 それじゃあ、ここは大人しく譲ろうか」

「護人さんがいなかったら、私たちここまで活躍も成長も出来てなかったですよ? 動画しか観てない人は、その辺が分からないのかも知れませんね」

「そうだねっ、叔父さん頑張って! ここで目立って、ファンをたくさん作ろうっ!」


 香多奈の変テコな応援はともかくとして、何とか順番を譲って貰った護人である。その隣には、当然のようにレイジーが寄り添って来てこれで戦闘があっても万全だ。

 とは言え、まずは泉の番人にコンタクトが先なのだろうけど。そう思いながら近付いて行くと、案の定に先ほど見た白竜が泉の中から出現して来た。


 この浄化の泉はそんなに大きくも無く、人工的な石造りのモノである。建物内に適したサイズ感と清涼感を備えたそれから、出て来た白竜は当然実体を備えている訳でも無く。

 恐らくは精神体と言うか、そんな感じなのだろう……そしてテレパスでこちらと接触を図って来たのも、姫香の言ってた通り。内容も同じく、ここでは1種しか呪い解除をしちゃ駄目よとのお達しで。


 それからその権利を得るには、戦ってそれを勝ち取れとの一方的な通告。向こうはレイジーの同伴も、敢えて触れずにスルーしてくれたようでホッと一息の護人だったけど。

 出現したゴーレムには、ちょっと待てと思わず声を荒げてしまった。


「うわっ、デカいっ……いきなり強くなってるんじゃないの、ちょっとこれはズルくない、番人さんっ!?」

「でもまぁ、所詮はゴーレムだもんね……レイジーが手伝わなくても、護人さんのシャベルで一発で戦闘は終わっちゃうよ。

 向こうは、こっちのスペックを知らないのが敗因だねっ!」

「いやまぁ、戦ってみないと分からないけどな……」


 子供達の批難や難癖やらに、ちょっと相手が可哀想になってしまった護人なのだが。戦った結果もまさに姫香の言う通りで、レイジーがフォローに出る暇も無し。

 得意のシャベルでの『掘削』で、身体に大穴を開けて機能停止する白きガーディアン。それからすぐに魔石と化して、これで使用許可は得たっぽい。


 1個だけだよと念押ししながら、スッと消えて行く白竜とは逆に。騒々しい子供達は、泉の周辺の探索に張り切って乗り出して来ていた。

 泉の周囲には、先程と同じく木の実がなっている植物や浄化ポーションの中身が汲み放題で。それに加えて、家から持参して来た呪いの品のどっちを先に浄化しようかとの議論が。


 結局は呪いの縫いぐるみに決まって、姫香が真っ黒な兎の縫いぐるみを泉へと投入した。その効果は速攻で現れて、黒かった布の質感が白へとまさに早変わりを見せてくれ。

 その劇的な効果に、おおっと驚きのリアクションの子供たち。ただし変化はそれだけで、特に勝手に動き出すとかそんな妙な効果は発揮されないようだ。


 肝心な呪い除去後の性能は、まぁ帰ってからのお楽しみと言う事で。妖精ちゃんは、これは楽しみだ的なリアクションを取っていたので外れでは無さそうだけど。

 それを横目に、浄化ポーションや木の実を回収していた紗良と香多奈も、収穫には満足そう。宝箱などの設置は無かったけれど、異世界のダンジョンだし仕方無いのかも。


 とにかくほぼ消耗も無く、この9層の神殿エリアをクリアに至って。意外と順調な探索に、護人も子供達も気分も緩みがちではある。

 ハスキー達はいつも通りで、とにかく先行しての危険排除を頑張る事しか頭にない感じ。そうして始まった次の10層エリアの探索も、今まで出て来た敵のオンパレード。

 大ネズミやコウモリ、蟲類のお出迎えを返り討ちにして行くハスキー軍団。


「うわっ、でっかい蚊がモンスターで出て来たっ! 刺されないように気をつけて、ハスキー達っ……割といっぱい飛んでるよっ、叩き落してあげてお姉ちゃんっ!

 ほらっ、茶々丸がターゲットになってるってば!」

「騒がなくても見えてるよ、香多奈っ……ふむっ、コイツ等にも浄化ポーションの噴霧が効くみたいね。茶々丸っ、こっちに敵を連れて来て!

 そいつは飛んでるから、突いたくらいじゃ倒せないよっ!」

「それにしても、ここも10層だけど中ボスの部屋は無い感じかも? やっぱり神殿フロアは、イレギュラー的な階層扱いなのかもな」


 護人の言葉に、それじゃあこの先が区切りの10層かなと香多奈は呟いている。それより新しい敵の出現に、前衛陣はややパニクっている感じではあったけど。浄化ポーションの噴射で弱らせて、レイジーが焼き殺しての掃討には成功して。

 モスキート3匹にたかられていた茶々丸は、割と必死に姫香の元へと逃げ出しており。それを《豪風》スキルで蹴散らした姫香は、ヤン茶々丸のフォローもすっかり慣れたモノ。


 それから白百合のマントでのエリア浄化作業も、順調にこなして瘴気溜まりの除去もある程度終わらせて。ハスキー達の階段の確保に合わせて、そちらへと移動を果たす。

 ここまでお昼過ぎて、まだ1時間ちょっとしか掛かっていない。お宝の回収も少ないけど、まずは順調な探索行程ではある。


 次は恐らく中ボスの間が控えているよと、姫香がチームへと気合を入れ直す言葉を掛けて。強敵が出るかもだから、気をつけて行くよとハスキー達にも注意喚起。

 合点承知と相変わらずハイテンションなハスキー達は、11層へと到達しても進軍速度は衰えず。この層から出現したどろどろの毒状のスライムにも、まるで怯む様子を見せず。


 もっとも、バッチいよとの末妹の忠告には従って、誰も咬み付いたりなどしなかったけれど。蹄で踏みつけた茶々丸に至っては、やっぱり毒を喰らって前脚が酷い状態に。

 ホレ見た事かと冷たい視線のレイジーだけど、これも良い経験と思っているのだろう。敵の動きや属性を覚える事も、強くなるための必須項目には違いなく。

 まだ幼い茶々丸は、その辺を手抜く事が間々あるのだ。


「ほらっ、また茶々丸が怪我したっ……紗良姉さん、治療してあげて。毒も喰らってるのかも、痛くっても暴れないの、茶々丸っ!」

「先に解毒ポーションを掛けてあげなさい、香多奈。おっと、ゴーストの気配も近くにするな……水鉄砲は構えたままで、気配には気をつけてな、ルルンバちゃん。

 それにしても、今回は監獄エリアじゃ無くて地下墓地って雰囲気の場所だな」

「そうですね、この調子なら確かにゴーストも湧いてそうだけど……ゾンビやスケルトンもいますね、恐らくその奥の暗い小部屋の奥に」


 来栖家チーム全員が、そんな感じで感覚が鋭くなって来ているのもこんな環境のせいなのかも。何しろ暗闇と瘴気溜まりのエリアを、既に数時間も彷徨さまよっているのだ。

 そこに潜んでいる、悪意のある敵の気配を察するのも既に慣れて来た感じ。そして紗良は、浄化しますねと護人に断っての奥の小部屋の大掃除など。


 恐らくだが、いっしょに潜んでいたゴーストも一緒に昇天するほどの大規模清掃に。白百合のマントで先行して浄化作業をしていた姫香も、威力じゃ敵わないなぁと肩をすくめる素振り。

 まぁ、このエリアはさっきみたいな崩れかけた塔エリアと違って、入り組んでいるうえに広そうなので。瘴気溜まりの除去作業は手分けして当たった方が早いかも。


 レイジー達も、未だに中ボスの部屋を見付けられていないようだ。地下墓地エリアは、少し進むたびにゾンビやスケルトンが湧いて来て進むのも大変だし。

 しかも小部屋の数も多くて、その大半が骨壺や棺を納めている地下墓地仕様で。雰囲気は増々暗くなって来て、さっさとこんなエリアは抜け出したい。


 そう願ってやまない一行だけど、薄暗い地下墓地のルートは一向に判然とせず。ハスキー達も自慢の鼻が利かず、イライラしながら出て来た敵を倒している。

 まぁ、瘴気と死臭だらけのこのエリアでは致し方がない感じかも。


「慌てなくていいぞ、慎重に安全エリアを広げて行こう。特にゴーストの奇襲に気をつけてな、姫香もあまり孤立し過ぎないように」

「了解っ、まぁこっちの浄化作業も順調だから大丈夫だと思うけど。それにしても中ボスの部屋が見付からないね、どこにあるんだろう?

 香多奈、どっちに進んだらいいか分かる?」

「そんなの、どっちでも大して変わんないよっ……もう少し進めば、目の前に見えて来るんじゃないの?」


 相変わらず騒がしい来栖家チームの探索風景、前衛と後衛でそんなやり取りが交わされて。そこから割とすぐ、香多奈の言った通りに中ボスの部屋の扉をハスキー達が発見した。

 やったねと気勢の上がるメンバーたち、ここの番人もどうせ悪霊系でしょとの推測がなされ。紗良の《浄化》スキルの先制での作戦が、いつも通りに立てられて行く。


 それから今回は、護人が魔断ちの神剣で制圧しようかとの話の流れに。適材適所で素早く攻略して、なるべく早くこの異世界ダンジョンを去るのが良策だと。

 そんな作戦を立てて、さぁ頑張ろうと開かれる10層の中ボス部屋の扉である。すかさず紗良が、作戦通りに《浄化》スキルを撃ち込むのだが。


 案の定、苦しそうに悶絶する気配がそこかしこから漂って来た。室内もモロに地下墓地の形状で、中央には立派な漆黒の棺が置かれていて雰囲気を作っている。

 それを呆気なくぶち破る先制打に、恐らく中ボスの死霊リッチは既に半生半死の状態に。いや、元から死霊なので生きてはいないのだろうけれど。

 そこに飛び込む、“四腕”の護人とお供のレイジーの最強コンビ。


 恐らくだが、薔薇のマントもライバルの白百合のマントが活躍していたのを見て、かなり燃えるモノがあったのだろう。暴走気味の真っ赤なパンチは、誰よりも速くリッチの顔面に吸い込まれて行った。

 周囲にいたゴーストのお供は、紗良の《浄化》スキルでほぼいなくなっており。辛うじて浮いていた奴を、レイジーが『魔炎』で退治して行く。


 そんな周囲からのサポートを得て、護人も何とかリッチを斬り伏せようと頑張るのだが。思わぬ薔薇のマントのお節介で、哀れな中ボスリッチはほとんど消えかけ状態に。

 香多奈が背後から『応援』してくれるも、そこまで万全のサポートも必要無かった程。気がつけば、刃の先に微かな手応え、そして魔石(中)を落として消滅して行く中ボスであった。


 そして湧き起こる、後ろに控えていた子供達からのやんやの喝采……これと言った仕事をしていない護人は、少々気まずい思いだったり。

 薔薇のマントも、さを晴らせて多少はスッキリした模様。





 ――何にしろ、これで10層クリアは確定だ。








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