第534話 ようやくの事鬼の報酬がもたらされた件
今日の換金作業は、末妹の香多奈がいないので静かなモノだと思っていたら。動画のチェックでは、能見さんを交えていつもの騒がしい盛り上がり模様を見せている。
それを横目に、護人と仁志支部長は色々と難しい話を交えつつ。つまりは7月の探索予定とか、ギルドのランクの決定についてだとか。
どうやら異世界チームのA級認定は、広島の本部も前向きで割と簡単に話が通ってくれた模様。これでムッターシャ達も、今後こちらで生活なり活動する取っ掛かりが出来て何よりだ。
それに加えて、星羅チームのB級認定も割とスムーズに行われた模様。ちなみに星羅は、“石綿星羅”と言う名前を捨てて、今後“植松”姓を名乗る事に。
植松の爺婆の養子入りみたいな格好だが、両者ともこれを歓迎した模様で。今では結構な頻度で、山の上と麓の間で交流がなされている様子。
それから星羅と言う名前だが、これはもうどうし様も無いと。本人的にも変えたくはないと言う事なので、指摘されてもシラを切り通す方針で。
それから星羅と土屋女史と柊木での、3人体制のチーム名は『まほろば』で本決まりしたとの事で。異世界チームや熊爺家の双子など、組む相手はその時々ではあるけど。
本格的にB級チームとして、協会本部にも認定されたのを切っ掛けに。星羅をリーダーとして、ギルド『日馬割』の一員として今後も頑張ると決意表明してくれた。
それは山の上の隣家に、いつの間にか住み着いた土屋と柊木も同様で。異世界から来たムッターシャ達の、お目付け役の立場なのは変わりはないのだけれど。
今では近所の子供達と、畑の世話をしたり勉強を見てあげたり。夕方の特訓に参加したり、旬の食材でご飯を作ってみんなで食べたり。
そう言う事をしていると、地域愛も自然と芽生えるモノで。
ギルドに参加して、地元のダンジョン間引きも頑張ろうと自然に考えるようになったようだ。そんな感じでのチーム結成は、良い師匠にも恵まれて意外にも順調で。
星羅の前衛デビューに関しては、本番の探索ではまだまだではあるけれど。元々は探索者として活躍していた、土屋と柊木の腕は全く衰えてはいなかったようで。
そんな『まほろば』チームのB級ランクの認定は、護人としても文句は無かったのだけれど。何故か来栖家チームを、S級に担ぎ上げようと言う動きが本部にあるそうで。
この提案に乗り気な仁志支部長だけど、護人は真正面から断りを入れて。実力的には異世界チームの方が強いし、レア認定されると今後やり難くて
子供達が聞けば、恐らくはノリ気になってしまうだろうからここは慎重に。幸い向こうは、動画のフレイムロード戦を夢中になって鑑賞している所だ。
能見さんも興奮しており、今回の遠征はなかなかに見どころもたっぷりの模様である。一気に3ダンジョンを観るのも大変なので、姫香が選りすぐって動画を回しているのだ。
紗良はその隣で、ミケを抱っこしてニコニコしながらその遣り取りを眺めている。そして少し離れた場所で、護人と仁志支部長の密会が行われており。
魔石の換金作業から今後の探索依頼まで、その密会の内容は多岐に渡っていて。学校の夏休み開始と同時に行われる、市内での研修旅行の話も少々。
この町からは、熊爺家の双子が参加をする事は既に決まっており。姫香がその付き添い役&講師として、一緒に参加するのも本決まりとなっている。
その依頼料は、まぁ探索依頼に較べれば微々たるモノではあるけれど。旅費や宿泊代は向こう持ちだし、後輩の指導と思えば良い経験だと思われる。
姫香も納得しているし、後は香多奈がギャーギャー言わないのを祈るだけ。
「それから島根の『ライオン丸』チームは、早めに町に到着を果たしてくれたんですが……愛媛の『坊ちゃんズ』チームが、実は何だかんだで到着が遅れそうとの事なんです。
それで申し訳ないんですが、先伸びして空いた週に隣町のダンジョンを1件請け負っていただけませんか、護人さん?
出来れはついでに、隣町の失踪事件の聞き取りもお願い出来れば」
「えっ、そんな警察みたいな事なんて不可能ですよ。ウチのチームがA級だからって、そこまで万能じゃ無いですから」
仁志はそれを謙遜だと捉えたようで、ペット達の素晴らしい能力をひたすら褒めそやして来る。確かにハスキー達なら、現場に残った臭いや何やらでたちまち事件を解決しそうだけど。
チーム内には小学生だっているのだ、連続失踪事件なんて生々しいモノになるべく触れさせたくなどない。と言って末妹だけ遠ざけたら、確実に
野良モンスターが犯人ならまだ良いけど、もし犯罪者集団とか人間の組織の仕業とかだったとしたら。いかにも護人の手には負えないし、関わりたくもない。
それでも現在進行形で、日々犠牲者は出続けているのだと。困った隣町の自治団体に相談されて、こちらとしても明日は我が身である。
何しろ隣町との距離など、こんな田舎でもあってないようなモノなのだ。向こうはランクの高い探索者の数も知れてるし、自警団に関してもこっちと変らない規模みたいだし。
いや、最近の日馬桜町の充実振りからすれば、追い越してしまった感もあるみたい。そんな訳で、依頼料を吹っ掛けますからと仁志の必死の説得に。
――お人好しの護人は、どうやら逃れられそうもない雰囲気だったり。
それから小1時間ほど協会で過ごして、無事に動画依頼を発注した来栖家チームは。協会のスタッフと島根チームに別れを告げて、家への帰りに爺婆の家へと寄って。
遠征中の家畜と農地の世話のお礼を言うついでに、お昼をご馳走になる事に。ちなみに“秋吉台ダンジョン”の魔石とポーションの換金額は、450万円程度だった。
護人にしたら、5百万を超えずに済んでホッと一安心である。協会側からすれば、午後に異世界チームと星羅チームの換金を控えているので。
全く安心は出来ないだろうけど、それは来栖家とは関係のない話である。一応協会のスタッフには、今回の遠征のお裾分けにとワイバーン肉とダチョウ肉を置いて行った。
それは植松夫婦にもプレゼント予定だけど、爺婆にすれば“岩国基地ダンジョン”の日用品の方が嬉しいみたい。紗良はその辺を良く分かっていて、お肉類も少なめである。
そしてお昼の準備を手伝う紗良と姫香、これがお婆にとって何より嬉しい出来事なのかも。騒がしい台所を
今年の作物の出来とか家畜の具合いとか、内容は協会の密談よりマイルドではあるけど。本業に繋がる話なので、護人としてはこっちの方が真剣で身の入る内容ではある。
夏野菜の出荷に関しては、爺婆と辻堂夫婦と臨時のヘルパーが万全の体制を敷いてくれているので。護人が留守にしても、そこまで心配は無いようで何よりだ。
それから今年初めて植えた、牛たちの冬の飼葉の生育も順調みたいでホッと一安心である。これに関しては、熊爺と言う良い師匠に恵まれたせいもあるだろう。
そう言えば、熊爺家にもお土産を持って行くのを忘れない様にしないと。ダンジョン産とは言え、家畜周りの用具をこれだけ揃えられる機会は滅多に無いのだ。
そんな話をしながら、たまにはゆっくりして行けと爺婆に誘われて。それならと、末妹が学校を終えるまでこの家で
それなら甘いモノを大量に作ろうと、紗良も姫香も大喜びである。
「ビワで作ったジャムがたくさんあったよね、それで何か作ろうか? それとも普通に、おはぎを大量に作ってお隣にお裾分けする?
あっ、そう言えば協会前にキャンピングカー停まってるでしょ、お婆ちゃん? アレってウチで招いたお客さんだから、ちょっとだけ気にしてあげてね」
「ちょっとだけ……まぁ、男所帯の探索者たちだから、飯の差し入れ程度はしてもいいかもな。アレでも去年のオーバーフロー騒動では、体を張ってこの町を守ってくれたチームだし。
気の良い連中だし、そこまで邪険に扱わなくても」
護人のフォローも、そこまで響かない植松家のリビングである。今はお昼ご飯も食べ終えて、そろそろお持ち帰り出来る甘味を女性陣で作ろうかと話し合っている所。
紗良と姫香は、さっきまで植松家の敷地でさくらんぼやビワを収穫して来ており。これらを材料に、お隣さんの分までタルトを作ろうと言う話に。
孫がたくさん出来たせいで、最近はそんなハイカラな調理法もバッチリなお婆である。もちろん紗良がメインだけど、お婆の手際良さにはまだまだ及ばないので。
特におはぎや押し寿司とかになると、お婆の調理は一級品で。紗良でも真似出来ない高みにいるようで、そこはさすがの貫禄のお婆である。
そんな感じで女性陣がおやつ作りに励んでいると、小学生たちが授業を終えて帰って来た。正確には植松家にお邪魔して、いつもは護人や凛香の車でのお迎えを待つ感じなのだけど。
今回は既にお迎えがいて、しかも豪華なおやつも机にドンと置いてあったりするのだ。香多奈ばかりか、和香と穂積も大喜びでそれに噛り付き始める。
――こうして、来栖家の麓での用件は無事に終了の運びに。
それから敷地に戻ってから、通常通りのお仕事を
梅雨明けのこの季節は、とにかく油断すると田畑の雑草が伸び放題で大変である。ルルンバちゃんは張り切って、草刈りを手伝ってくれるのだけど。
敷地は割と広大で、やっぱり伸びる草の勢力の方が強いかも。茶々丸も草に関しては、むしゃむしゃ食べてくれて除去作業に貢献してくれるのだが。
彼は隙を突いて、植えている野菜も食べる困ったちゃんではある。美味しい方を好むのは仕方が無いけど、これに関しては護人も珍しく、しっかり仔ヤギを叱って教育している。
これはまぁ、農家に生まれた宿命と言うか、これからもここで過ごし行くなら守らなければならないルールである。そんな茶々丸も、夕方の特訓では存在感を発揮して。
《飛天槍角》スキルの練習では、なかなかの発動率で既に自分のモノにしてしまった感が。子供とは言え、戦闘センスはかなりな茶々丸ではある。
そんな遠征帰りの1日を、平穏に過ごした来栖家だったけれど。事件はその夜、唐突に向こうからやって来たのだった。最初に気付いたハスキー達の、鳴き声で護人も何事かと縁側へと赴いて。
ミケが護衛にとついて来てくれて、とても心強いけど縁側にはハスキー達も寄って来てとても賑やか。その庭先には、淡い光を放っている鬼たちの姿が。
老人と子供と女性、3人が全員揃ってこちらに近付いて来ている。
「あっ、やっと来てくれたっ! これで報酬が貰えるね、叔父さんっ」
「本当だ、待ちくたびれたよっ……頑張ったんだから、良いの貰わなくちゃね!」
どうやら騒ぎを聞きつけて、子供達も2階から降りて来たようだ。既に眠る準備を済ませていて、就寝間際だったのかも知れないけれど。
前回みたいに、寝起きを叩き起こされるよりはまだマシだろう。とは言え、こんな深夜の訪問を何度も喰らうのは勘弁して欲しい。
それにしても、鬼たちの存在感は独特で何と表現したら良いモノか。敢えて例えると、かなりレア種で力の強い幽鬼の類いに近いのかも知れない。
それから代表して、老人の着物姿の鬼が護人へと語り掛けて来た。その内容は、家族で期待した通りの、約束していた報酬の受け渡しの件だった様で。
喜ぶ子供達だけど、護人は油断なくその告げられる言葉に神経を注ぐ。何しろ彼らの常識は、こちらの世界とはかけ離れている場合だって充分にあり得るのだから。
向こうが親切のつもりで
今回だって、油断していたらどんな結果となるやら分からない。
――そんな鬼の報酬は、ある意味護人の警戒した通りとなった。
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