第533話 山口遠征から無事に帰還を果たした件



 久々の我が家の感触に浸りながら、遠征から無事に戻って来れた来栖家の面々はあれこれ騒がしい。地元の協会にも寄らないといけないし、植松の爺婆にも戻ったよと挨拶に行かなければ。

 何より家畜の容態のチェックやら、敷地内の田畑の確認もすぐに取り組むべき案件で。一息などついていられない護人と子供たち、家の空気の入れ替えも早々に外へ飛び出して。


 留守を預かっていたゼミ生達を交えての、情報の遣り取りの時間を取ってみたり。お隣では、同じく戻って来た異世界チームや星羅チームも、バタバタと何やら騒がしそう。

 そう言えば、彼らは今回の遠征では上位ランクの扱いだったけど。地元の協会が動いてくれて、正式に異世界チームをA級認定に持って行けるそうだとの話が。


 同じく、ほぼ活動実績の無い星羅チームも、B級認定出来ないかと動いてくれているみたい。この辺のチームのランクは、上位程に恩恵も大きいので有り難いのだけれど。

 その分、責任も多くなって不測の事態には駆り出される事に。それを身をもって知っている来栖家チームだけど、ギルド自体も大変な進歩となっている。


 現在、姫香がノリで作ったギルド『日馬割』だけど、今はA級ランクが2チーム在籍するとんでもない事態に。これで星羅チームもB級認定されると、県内どころか西日本最強ギルドに担ぎ上げられる可能性も。

 凛香チームに尾道チームも現在は頑張ってC級に上がっているし、質も量も軽く吉和のギルド『羅漢』を抜いてしまっている。これは彼女たちの頑張りなので、特に否定するつもりは無いけど。

 予期せぬギルドの発展には、戸惑いしか無い護人である。


「今夜はゆっくり休んで、協会や爺婆への報告は明日の昼過ぎになるかな? 夕食にはお隣さんも来るかもだから、多めにご飯を炊いておいてくれないか、紗良。

 香多奈は明日から、しっかり小学校だからな」

「は~い、分かってるよっ……でもまた、すぐ週末だけどねっ。ちゃんと勉強はするから、心配しなくてもいいよっ、叔父さんっ」

「アンタの将来は心配しか無いわよ、あんまり護人さんに負担を掛けるんじゃないわよっ。ズル休みの常連になったって、偉くも何ともないんだからねっ!」

「姫香ちゃんの言う通りだよ、香多奈ちゃん。土日休みも、授業で遅れた分は家でしっかり取り戻すからねっ!」


 姉2人に追い込まれて、最初の勢いも完全に削がれてしまった末妹である。タジタジになりながら返事をして、大人しく夕方の家畜のエサ遣りへと向かう。

 今回の“秋吉台ダンジョン”でのサファリエリアでは、給餌用具も結構入手した感じではあるけれど。それの交換や取り付け作業も、明日以降になりそう。


 夏になって、夕方からの日照時間が長くなって来たからと言って。遠征から戻って来て早々に、バタバタするのも何かと大変なので。

 夕食までの時間は、家畜と農地のチェックだけで済ませる事になりそう。子供達は夕食前に、露天風呂に集団で入って旅の疲れを癒そうと話し合っている。


 ザジや星羅たちもそれに参加して、その賑やかな声は厩舎の方まで響いて来る有り様。それは良いけど、護人達が留守中にこの町にも多少の変化が起きていた。

 これは協会伝手に聞いたのだけど、どうやら島根のA級チーム『ライオン丸』が、再び日馬桜町にやって来ているらしい。例の作戦のために、前乗りしてくれた訳だ。


 来週あたりには、愛媛の『坊ちゃんズ』も到着するそうで、そうなるとA級チームがこの小さな町に集結する事に。それだけ“喰らうモノ”の脅威は、侮れないって事である。

 護人もあの死に掛けた探索については、忘れた事などない。この2チームに加えて、岩国の『シャドウ』と地元の3チームで、総力を結集してあの難関に挑む予定。

 その決戦は、刻一刻と近付いて来ている。




 明けて木曜日の早朝、平日の来栖家の朝は当然ながら騒がしい。主に香多奈が学校に行く準備に追われていて、それを姉達がフォローして回って。

 いつもの事ながら、お隣の和香と穂積が迎えに来るまでがとにかくリミットなので。護人が送迎の車を出すまで、この騒々しさは致し方が無いとも。


 お供するコロ助や萌は、逆に静かなたたずまいでご主人の出発を待っている。戻って来た日常にもすぐさま適応する能力は、なかなか大したモノではある。

 そしてお隣さんの来訪から、護人の送迎までの嵐の時間が過ぎ去って。残された面々も、遠征の後片付けをボチボチ始めようかと話し合っている。

 既に今は月末で、来週は7月の青空市が待っているのだ。


「えっと、妖精ちゃんには魔法のアイテムを選り分けて貰ってるから……協会で売る分は、仕分けは終わっているんだっけ、紗良姉さん?

 護人さんが戻って来たら、午前中に協会に出向く予定なんだよね?」

「そうだね、島根の『ライオン丸』チームに挨拶に行くみたい。差し入れにお弁当持って行こうかな、お手伝いにまたこの町に来て貰った訳だし。

 そう言えば、温泉の施設が少し変わってたね……お隣さんは自分達の仕業じゃ無いって言ってたし、鬼がまた勝手に施設を良くしてくれたのかな?

 ダンジョン制覇の報酬があれだけだったら悲しいよね、姫香ちゃん」


 そう言えば、鬼の試練をクリアした報酬をまだ貰って無いねと、思い出した姫香が大声を上げて。妖精ちゃんもその話に一枚噛んでた気もするけど、このおチビさんの言葉は香多奈にしか分からないので。

 取り敢えずは保留だが、鬼とのコンタクトもこれまた難題には違いない。姫香としては、こっちは約束を守ったんだからそっちも守ってよって話。


 ただしそれを伝える術もなく、段々と近付く“喰らうモノ”ダンジョンの再挑戦に向けて。闘志を燃やす姫香なのだが、自分的にはあまり強くなった実感もない。

 新しく覚えたスキルも一向に扱えないし、特に武器や装備を新調している訳でも無いし。とは言えチーム力はかなり上昇しているし、護人を2度とあんな目に遭わせるつもりもない。


 今回は1つのルートに2チームずつで当たるし、事前準備も相当に気を遣っている。まぁ、鬼の報酬でチーム力が上昇すれば、確かに言う事は無いけれど。

 そこまで他力本願ではない姫香は、ひたすら自分の力を鍛えるのみ。


 そんな事を考えてたら、護人が小学校への送迎から戻って来た。それからお隣さんチームは、時間をずらして協会に報告に行くそうだよと経過報告して来て。

 動画編集依頼もあるので、来栖家の報告はいつも時間が掛かるのだ。そんな訳で、お昼時間に掛からないようにと、早めの時間に出掛ける事に。


 出発と聞いて、ペット達も同伴するよと慌しく車の周辺に集合し始めた。今回は妖精ちゃんも一緒に行くようで、香多奈がいないのにこれはちょっと珍しい。

 ちなみに、彼女のお手伝い結果の魔法アイテムがこちら。



【属性の宝珠】使用効果:使用者はスキル《炎心》を習得

【ラクダ革の鞍】使用効果:騎馬&騎乗者の能力上昇&人馬一体・中

【ゼブラの毛の鞭】使用効果:使用者の体力半減&攻撃力2倍・中

【無限の水飲み器】使用効果:無限湧水・小

【軽量のネコ車】使用効果:積載物の軽量化・小

【白獅子のたてがみ】使用効果:勇猛&ステup付与・布素材

【カンガルー服】装備効果:空間収納&身体能力up・中

【空間革の魔ポケット】使用効果:貼り付け自在&空間収納・大

【ラクダの仮面】装備効果:勇猛&ステup付与・小

【魔炎の珠】使用効果:希少魔石・炎属性素材

【魔炎の大斧】装備効果:不折&衝撃&炎撃・大

【オーク大将の大剣】装備効果:不屈&鋭刃&ステup・大

【オーガ将軍の鎧】装備効果:体力回復&打撃半減&耐性up・大

【ダマスカス鋼インゴット】使用効果:鋭刃&硬化付与・鉱石素材

【獣人の秘蔵酒】使用効果:獣人の秘蔵酒・秘薬素材



 今回はサファリエリアで獲得した品も多いが、獣人の集落でゲットした品も多く混じっている。それから、レア種のフレイムロードのドロップ品も割と秀逸で。

 宝珠《炎心》は、どうやら炎を自在に操る事が可能なスキルらしい。誰が使うかはまだ話し合って無いけど、レイジーの炎属性の強化に使用される可能性も。


 それから獣人の装備品は、どれもサイズが大きくて人間が使用するにはちょっと不向きかも。ギルドで使う者もいないだろうし、これは売り候補となってしまいそう。

 『無限の水飲み器』や『軽量のネコ車』は、家畜のお世話に自分達での使用になりそう。厩舎関連の品については、結構持ち帰ったので熊爺家に分けるのも良いかも。


 そんな話をしながら、アイテムの仕分けをこなしていた姉妹だけれど。やっぱり当たりは、空間収納のついた『カンガルー服』や『空間革の魔ポケット』だろうか。

 『カンガルー服』は着ぐるみながら、お腹の収納と身体能力up効果が秀逸過ぎる。『空間革の魔ポケット』は、何と空間収納ポケットが自在にどこでも貼り付け可能なアイテムで。


 収納力こそ低いけど、かなり便利なので百万は下らないだろう。これらは売りに出すか、それともギルドで誰かに融通するか難しい所ではある。

 家に置いておけば、確実に末妹のオモチャに成り下がるのは目に見えているので。ただ、ペットの誰かの使用として持っておくのも悪くは無いかも。

 まぁ、そう思って死蔵しているアイテムも実は数多いのだけれど。


 誰かが積極的に欲しいと言わないと、来栖家所持のアイテムは持ち主を得ない感じなので。ペットへの積極的な付与は、実は香多奈の恩恵だったりする。

 今回も、使用者が決まっているのは『ラクダ革の鞍』が茶々丸行きくらいだろうか。ちなみにスキル書とオーブ珠の相性チェックは、昨日の内にこなして全滅だった。


 残念な結果だけど、さすがに全員が結構なスキル数に到達している現状で。これ以上ポンポン増えるのは、どうやっても考えにくいとも。

 それならチームの総合力とか、他チームとの連携力を伸ばして行った方が断然よい。今回の6チームでの“喰らうモノ”攻略も、成功すれば良い糧になるだろう。


 そんな事を思って辿り着いた協会前の駐車場には、噂に違わずいつか見たキャンピングカーが。島根のA級チームは、今回もここを拠点に寝泊まりする予定らしい。

 逞しいと言うか何と言うか、姫香は呆れているけど紗良はそうではない様子。優しさからお昼の手作り弁当を差し入れして、相手チームに勘違いをさせてしまうのもアレだけど。

 今回は、ちゃんと別に綺麗どころも用意しているしけむには巻けそう?


「そっ、それって本当か……俺たちと組む予定のチームって、綺麗な女性ばっかりの愛媛のA級チームだって!? 何てこった、実力と美貌を兼ね備えている女性チームが存在するだとっ!?」

「本当ホントウ、来週あたりにはこの町に到着する予定だって言ってたから。ただし自分達より、弱い相手には見向きもしないかもだからね。

 強さと男らしさを磨いて、頑張ってアプローチすればいいよ」


 それで結婚して、この町に居を構えてくれれば言う事は無いけれど。そこまで贅沢は言っていられない、精々が紗良に粉をかけるのを止めて貰えれば万々歳だ。

 或いは土屋女史や柊木辺りを紹介すれば、この町にA級探索者が居着く可能性は高まるかもだけど。向こうにも選ぶ権利はある訳で、その辺は当事者同士でやって貰えれば。


 姫香もムッターシャの言ってた、若者の恋のさや当ては自然な事だの意味を少しは理解しているつもり。つまりは家族やギルド員に迷惑が掛からなければ、容認もやぶさかではない。

 その上で町に探索者が増えれば、確かに良い事尽くしには違いないし。護人もきっと喜ぶだろう、まぁ呆れられる確率もちょっと高いかもだが。

 とにかく、この単細胞のチームの舵取りは姫香が担うつもり。





 ――何しろ“喰らうモノ”の再挑戦は、ギルド『日馬割』の主催なのだから。







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