第531話 10層を攻略して帰り時をそろそろ考え始める件



 階層渡り前の休憩中に、香多奈は他のチームと通信を取り合っていた。紗良は毎度の怪我チェックで、火傷被害の仲間の治療に忙しい。

 そこはポーションも使って、時間の節約も行いつつの作業に。実はチームのほぼ全員が、大なり小なり火傷を負っていたと言う酷い有り様だったのだ。


 それだけレア種の炎エリアは、滞在しているだけ大変だった訳だ。それに見合う報酬を得たのかは不明だけど、まぁ大きな被害なく倒せて本当に良かった。

 そして他のチームの状況だけど、巻貝の通信機によると岩国チームももうすぐ10層に到着するとの事。サファリエリアを順調に間引き出来ていて、10層をクリアしたらそこを区切りに退却する予定みたい。


 異世界チームと星羅チームは、鍾乳洞エリアの7層でレア種の水龍と遭遇したそうな。良い経験になったとご機嫌なザジだけど、そのペースは来栖家チームより遥かに早く。

 現在は13層に到着していて、15層を区切り予定にしようかと話し合っているそうな。異世界チームの実力もることながら、それについて行っている星羅チームも成長が半端ない。


 そして最後のA級チームの、博多『ガリバーズ』の面々だけど。こちらも9層で、オーガのレア種と遭遇を果たしたそうな。それを聞いた香多奈は、向こうに負けてられないねと闘志を燃やすモノの。

 それを始めると、向こうが探索を終わらせるまでこっちも終わらないみたいな事態になってしまいそう。それを危惧した護人は、時間制をチームに提言する。


 今はお昼過ぎの3時半くらいで、最初の探索の遅れからすれば盛り返した感じも。昼食休憩を短めにして、頑張って階層渡りをこなした結果ではあるのだが。

 それもこれも、博多のA級チームに負けたくないと言う、子供達の変なプライドから。護人にすればこだわりは無いのだが、頑張りを否定する程でも無い。

 かくして、10層の攻略も同じくスピーディーに。


「そうだね、レア種も倒したしこれ以上の盛り上がりは無いかもね……あんまり帰るの遅くなってもアレだし、そろそろダンジョンを出ようか、護人さん。

 他のチームもぼちぼち戻り始めてるし、香多奈もそれでいいでしょ?」

「半分以上のチームは、間引きを終えてダンジョンを出てるみたいだね。香多奈は明日は学校だし、俺たちもこの層の間引きを終えたら戻ろうか」

「ええっ、ザジのチームと博多のチームがまだ戻って無いんでしょ? 私たちも、もうちょっとだけ潜ろうよっ。

 せめて11層までは行こうっ、切りは良くないけど」


 本当に切りは良くないけど、それで子供達の気が済むならまぁ付き合うのもやぶさかでは無い。下手に言い争って、へそを曲げられても後が大変だし。

 家族の中のワガママ順位では、護人は一番の最下層では無いかと思っている。優しいのはペット達だけ、いや子供達から無碍むげに扱われている訳では決して無いけど。

 我が儘を通す力的には、圧倒的に子供達の方が強いのは事実ではある。それを覆す術を持たない護人は、大人しく子供の我が儘に従うのみ。


 幸い、ハスキー達はまだまだ元気で探索続行に超前向きである。10層の探索でも、大物中ボスを求めて縦横無尽に平原を疾走してくれている。

 10層のカルスト平原は、炎の気配もなく至って平和……などでは全く無くて。当然の如くに出現する、オーク兵やオーガ兵のお出迎えは割と熾烈で。


 更には空からも、ワイバーンやロック鳥と熱烈な歓迎がチームに襲い掛かる。来栖家チームもハスキーだけでなく、全員で立ち向かっての最後の追い込み。

 そして発見した怪しい集落は、移動要塞を見た後では平凡サイズで驚きの感情は湧かなかったけれども。大将格のオーガ将軍は、かなり強くて集落攻めは20分以上掛かってしまった。

 ただし、見返りの宝箱はそれなりに豪華で。


 これには業突ごうつく張りの末妹も大満足、魔結晶(大)から始まって鑑定の書(上級)や強化の巻物などなど。金塊や換金性の高いアイテムも多くて、回収作業も鼻歌混じりだ。

 それから薬品類も多数あったし、オーブ珠や武器や防具の類いも少々。もっともこちらは、獣人サイズで大き過ぎて人間には扱えなさそうだけど。


 他にも木の実や魔玉など、定番のアイテムが割と盛りだくさん。宝箱もかなり大きかったので、中身も期待出来たけど想定通りで満足そうな子供達である。

 とにかくこれで10層は用無し、休憩後に集落の奥に設置されていたワープ魔方陣を潜って次の11層へ。約束とは言え、既に夕方が近付く時間帯に。


 本当にこの層で終わるからねと、護人は先行するハスキー達に中央へ向かうルートを指示。これなら帰還用の巨大ゲートへ近付きながら間引きすれば良いし。

 子供達も文句は無いようで、次第に暮れ始めるダンジョン内の景色に見惚みとれながら。丘を登って、この広大な“秋吉台ダンジョン”に別れを告げている。


 もっとも、途中で連続でワイバーンの群れにロックオンされて、感傷にひたるどころでは無くなってしまったけど。それにしても、ちゃんと夕方や夜が訪れるダンジョンも珍しい。

 まぁ、捜せばそれなりにあるのかも知れないけど。知ってるフィールド型ダンジョンの数も多くないので、来栖家も率先して検証などした事は無かったり。


 ミケにも討伐を手伝って貰って、追加のワイバーン肉や飛竜の牙や骨を多数ゲットして。10層を超えると、ワイバーンも魔石(中)を落としてくれるらしい。

 ますますここがB級と言うのは、無理がある気がしてならないのだけど。追加で徘徊している5メートル級のゴーレムを退治などしつつ、丘を登り切ってようやく帰還用のゲートに辿り着いた。

 脱落者なしのこの結果に、ホッと一安心の護人である。


「やれやれ、何とかみんな無事に辿り着けたな……みんなご苦労さま、車を出発させるまでゆっくり休んでなさい。

 香多奈は明日は平日だから、学校もあるからね」

「は~い、妖精ちゃんと魔法の品チェックしてるよっ。スキルの相性チェックもしないとね、他のチームに挨拶もしなきゃなのかな?

 ザジと星羅ちゃんのチームと、一緒に帰る感じ?」

「あっ、そうだね……吉和のチームもいたし、帰りは大移動な感じかも。野良モンスターに襲われても、この集団なら全く平気だねっ!」


 確かにそうかも、まぁ大抵は並走しているズブガジが始末してくれるだろうけど。この魔導ゴーレムは、そう言う点では本当に容赦がない。

 お陰で仲間たちの安全が確保出来ているので、文句を言う程では無いのだけれど。時に派手な立ち回りで、周囲のアスファルト被害も甚大になる事も。


 その辺は、道徳をルルンバちゃん(?)に教えて貰って、最近は無くなって来た感もあったりして。魔導ゴーレムも成長するんだと、ザジなどひたすら感動していた。

 そんな帰りの算段をしながら、長かった“秋吉台ダンジョン”の探索も終わりに近付いて来た。目の前に見える巨大ゲートを潜れば、安全の約束された地上である。


 遠征にも一区切りついて、後は家までキャンピングカーを運転して帰るだけ。末妹などは、早くも今回の探索の儲けを口にして興奮している。

 そんな感じで、今回のレイド作戦に終止符が打たれたのだった。




 地元の協会の建てたテントに報告に行く護人リーダーを、子供達は離れた場所で待ちながら。ペット達の体調チェックや、回収したアイテムを片付けたりと時間潰しなど。

 既に探索を終わらせたチームから、たまに声が掛かって来たりするのだけど。それらの対応は、コミュ力お化けの姫香が担って何事もなく時間は過ぎて行く。


 各主要チームに配布した『巻貝の通信機』を回収しながら、ザジや星羅たちと談笑して解散の時を待って。周囲の雰囲気を察するに、レイド作戦はおおむね成功に終わった様子。

 何しろ、過去の作戦では10層まで間引きなど出来ていなかったそうなので。さすがA級などと、声を掛けられるたびに褒められて満更でも無い子供たち。


 ザジや星羅たちも素直に喜んでおり、自分達の手際を香多奈や周囲の人々に喋りまくっている。レア種の討伐シーンは、向こうもかなり盛り上がったイベントだったらしい。

 そんな事をしていたら、ようやく護人がチームの元に戻って来た。預かっていた撮影機材を返却して、報告も終えてもう帰宅の許可は出た模様だ。


 周囲のチームからは、これから飲みニケーションをとか誘われてはいるけれど。こちらは子供もいるし、明日も平日なので香多奈は小学校がある。

 今日の内に地元に戻って、学業の遅れを拡がらせないよう努力しないと。そんな訳で、来栖家チーム方針は戻る一択ではあるのだけれど。

 異世界チームと星羅チームも、同じく一緒に戻る事を選択した模様。


「リリアラとズブガジは、休むにも自分の領域でゆっくりしたい派だニャ! 今日は2人とも活躍したから、その要望は聞いてやらないとダメなんだニャ」

「お店じゃ寛げないのは、私達も一緒かなぁ……だったら紗良姉さんの料理を、家で食べた方が何倍も良いもんね。ペット達も、そろそろ家が恋しい筈だし。

 帰る支度始めて良いでしょ、護人さん?」

「ああ、ここでの報告は全部終わったし、換金作業は地元で行って良いそうだし。岩国チームと吉和チームには、一応声を掛けておこうか。

 後はもう、帰るだけだから準備してて大丈夫だよ」

「よおっし、みんな家に帰れるよっ!」


 その言葉を聞いて、一気にテンションが上がるハスキー達である。彼女達も、遠征での放浪よりも自分達のしっかりした縄張りで過ごす方が快適なようだ。

 そんな帰り支度の慌しい中、再び知り合いに挨拶に向かった護人と入れ違いに。例の博多のA級チームが、やっぱり挨拶に近付いて来て。


 それに気付いて、何故か喧嘩腰で受けて立つ姫香と、サポートにと隣に寄り添うツグミである。他のペット勢も、喧嘩ならすぐフォローに入るよと虎視眈々の表情。

 慌てているは紗良だけで、護人を連れ戻した方が良いのかなと視線を彷徨さまよわせている。昨夜みたいな格付けならまだ良いけど、ルール無用の喧嘩はいかにも不味い。


 ところが、探索者の父親とその娘の隣には、いかにも肝っ玉の太そうな中年女性が。昨日はいなかったけど、どうやらなつめの母親らしい。

 探索には参加しないけど、チームには同行してフォロー役をこなしているとの説明を受け。改めて自己紹介して来る母親に、姫香や香多奈も戸惑いを隠せない。

 2チームは同じ家族チームとは言え、形態はまるで違うみたい。


「いや、そんな警戒しないで大丈夫ったい……お別れの挨拶に来ただけやし、この娘も充分に反省している筈やけん。なんちゅうか、同い年の友達がいなくってひねくれとってなぁ」

「別に、友達なら大歓迎だけど……例え友達いなくっても、両親や兄妹がいるなら充分じゃないの? ウチも同じく家族チームだけど、叔父さんと姉妹とペット達の存在でとっても満足してるもんね。

 無い物ねだりしている内は、まだまだ子供の証じゃない?」

「アンタ達……いや、何でもないったい」


 姫香のその言葉で、向こうに両親がいないのを察したなつめとその両親は。かなり気まずい思いのまま、挨拶もそこそこに戻って行くのだった。

 姫香と香多奈にしてみれば、これなら喧嘩して別れた方が良かったねと言う思い。別にしんみりしている訳でも無いけど、自分達の不幸を宣伝したくもないので。


 と言うより、今や両親不在も不幸などとは思っていない姉妹だったり。さっき姫香がなつめに口にしたのは、かなり本音と言うか本心で。

 田舎で良いお隣さんに囲まれての生活は、これ以上ない程の充実振りだと思っている。その上に優しい叔父さんと言う保護者に、姉妹とペット達と言う賑やかな家族構成に。


 ただまぁ、辺鄙へんぴな場所過ぎて車が無いとどこにも行けない立地が玉にきずなくらい。それから自然が豊か過ぎて、ハスキー達が番をしていないと野生動物に荒らされ放題になっていたかもな点もアレだが。

 そんな我が家だけど、住めば都と昔の人も言ってるし。





 ――寛げる場所があるって、とっても大事な事には違いない。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る