第525話 ホワイトライオンはやっぱり格好良かった件



「わわっ、凄い迫力……ミケさん、これは結構ピンチかもっ!?」

「確かにそうかも……避けたら後衛がかれちゃうから、『圧縮』で防御するしかないかな? あの巨体を押しとどめるのは、私とコロ助が協力しても難しいかもっ!?」

「俺とルルンバちゃんも前に出よ……うおっ!?」


 ド迫力の装甲サイの突進に、慌てて迎撃態勢を整えようとしていた来栖家チームだったのだけど。その態勢が整う前に、観光バス程のサイズのモンスターが急停止。

 その推進力は、無理やりな制止に本体へのダメージに転嫁された模様で。その時点で、家族はこれはミケの《魔眼》の仕業だなと悟ってしまう。


 当のミケは、末妹のお願いを聞いてやっただけですが何か? みたいな澄ました表情。ついでに前脚で顔を洗い始め、我関せずを貫いている。

 そうは言っても、突進して来たボス級の装甲サイはそのままの勢いで退場してしまっていて。香多奈は元気にミケにお礼を言って、ドロップ品の回収へ。


 それに付き従うルルンバちゃんと萌は、気分はいつもの遊びモードなのかも知れない。そして装甲サイの自滅? した場所には、次の層へのワープ魔方陣が湧いていてくれて。

 そしてドロップには、魔石(中)や硬そうな甲殻素材が幾つか。サイの角も拾う事が出来て、これは良い素材になりそうなフォルム。



 そして一行はようやく4層へ、ここまで既に2時間近くが経過している。さすが広域ダンジョンだけあって、その攻略には予想以上の時間が掛かってしまっており。

 それを気にする子供達だが、他のチームもそこまで進んでない筈だよとの護人の言葉に。それもそうかと、気を取り直して探索に取り掛かって行く。


 ハスキー達は全く気にしておらず、自分達のペースを貫いているけど。今も周囲の探索から、新しく侵入した層のチェックに取り掛かり始めており。

 そして毎度の、徘徊するカンガルー&ダチョウ型の敵を発見して殲滅に取り掛かっている。この層も建物の配置やエリアの雰囲気は、前の層とそこまで変わりなく。

 探索の取っ掛かりには、充分ヒントは散りばめられていそう。


「えっと、厩舎小屋のチェックをして観覧車も見ておきたいし……お土産小屋は閉まってる場合もあるけど、近くだから行くべきだよね。

 忙しいけど全部チェックするよっ、ルルンバちゃん!」

「いいけど、勝手に歩き回らないでよ、香多奈……護人さんの負担を増やしちゃ駄目だからね、それでなくてもアンタは無駄に騒ぐんだから」

「何よっ、宝箱の回収はみんなの為なんだからいいでしょ! お姉ちゃんはすぐに、がめついだとか浅ましいだとかって文句を言うんだもんっ。

 本当は自分だって喜んでる癖に、ズルいよねっ!」


 そこから始まりそうになる姉妹喧嘩を、何とかいさめて護人は進行ルートを決定して。要するに建物を見回りながら、入り口方面へと戻って行くよと。

 ほぼ末妹の願いに沿った道順だけれど、来栖家の縄張りがこの辺なのは既に決まっている。ならばそれに沿った巡回は、別に悪い事ではない。


 宝箱の回収にしても、間引きのついでにするかメインにするかの違いでしか無く。敵を倒すのはハスキー達が進んでやってくれるので、来栖家チーム的には負担でも無いし。

 そんな訳で、続いて出て来たラクダの騎馬隊はハスキー達と姫香で相手取って。その間に、ルルンバちゃんと萌に守られた香多奈が建物のチェックに動き回る。


 護人は両方を気に掛けながら、『射撃』スキルで前衛のサポートなどこなしつつ。紗良が香多奈のサポートをしてくれて、本当に大助かりの気分である。

 これも広域ダンジョンの罠なのかも、何しろ担当したエリアも充分に広過ぎる。1層ごとの遭遇数も、平均が20体近いし移動距離も意外と広い。


 過去の広域ダンジョンの攻略を思い出しながら、あんまり手分けでチームが離れるのは良くないなぁと感じつつ。どんな仕掛けがあるとも限らないし、一応気にかけているのだが。

 それでも飼料や飼育用器具を順調にゲットする後衛組に、危ないから止めなさいとも言えない。護人の苦悩は、そんな感じで途切れることなく続くのであった。


 とは言え、前衛陣の頑張りもいつも通りで敵の殲滅の速度も上々だ。A級に近いB級ダンジョンだが、まだ4層目なのでそこまで気を遣う事も無いだろう。

 とは言え、やはり動物型のモンスターが多いと、他のタイプよりスペックが高いと計算すべきだ。獣人タイプも、特殊なスキルや武器を持っていたら警戒すべき存在に成り上がるけど。

 野生の力は、ハスキー達を見れば分かるように全く侮れないのだ。


「叔父さんっ、厩舎裏でまたネコ車とエーテルを見付けたよっ! ここのダンジョンは羽振りがいいねぇ、まだどっかに宝箱がある気がするよっ。

 ルルンバちゃん、どんどん探し当てるよっ!」

「宝箱探しも良いけど、前衛が戦っている間はちゃんとフォローもしなさい、香多奈。ルルンバちゃんだって、戦えば強いんだから大事なフォロー要員だからね。

 茶々丸や萌も、前衛で頑張っているんだから」


 毎度の護人の小言に、ハーイと返事だけはとっても従順な香多奈である。そうしている内に、前衛陣はサファリパークの入り口広場に到達して。

 観光バスの駐車場の向こうから、こちらを睥睨へいげいする巨大生物を発見。どうやらゾウらしいが、何故か目が5つくらいある。


 しかもゾウは巨体に似合わぬ優しい目の筈が、この敵は切れ長で殺意に満ちた眼光の持ち主で。こいつはボス級に間違いないと、ハスキー達も戦闘モードに移行する。

 そして2度目のビックリ、バスの影から出て来たのは5つ目ゾウだけでは無かった。周囲に半ダースほどの大虎がいて、その迫力はかなりのモノ。


 そして巻き起こる、ハスキー軍団と大虎の激しい肉弾戦……茶々丸も参加して、周囲は猛獣大戦争って感じである。香多奈も『応援』を飛ばして、みんなの活躍を叱咤激励。

 そして地響きを立てて迫って来た5つ目ゾウの相手は、自然と姫香が担う事に。観光バスの上に飛び乗って、先制の鍬の一撃は割と効果があったよう。


 萌もそれに参加して、敵の大柄な体を蹂躙しに掛かる。何しろあの巨体なのだ、狙い所は豊富で外しようもない。護人とルルンバちゃんも、前衛陣のフォローに大忙しで。

 最初は大虎の数の方が多かったのだが、来栖家チームの奮起でその差はどんどん埋まって行って。気付けば威勢の良い敵の咆哮も、順調に数が減って行く破目に。

 それにしても、ゾウの咆哮と地響きは迫力が凄い。


 思わず護人も前に出ようとしたのだが、前衛陣はそこまで慌ててなどいなかったようだ。きっちりと肉弾戦を制して、どんなもんだと荒ぶっている。

 そして5つ目ゾウと戦っていた姫香と萌も、相手の鼻掴み技や突進技を上手く回避しつつ。2人で体力を削っての、危なげない勝利をもぎ取った模様で。


 ゾウの咆哮にはスタン効果もあったようなのだが、姫香の『白百合のマント』の麻痺耐性が上手く作用したようで。萌も元々耐性が高かったのか、普通に動いて敵の伸びて来た鼻を回避していた。

 そんな感じで5つ目ゾウを撃破した両者、そいつは予測通りボス級の敵だったようで、ワープ魔方陣を出現させてくれて。ガッツポーズからのハイタッチで、姫香と萌は勝利を祝って戻って来る。


 それから恒例の、紗良による怪我チェック……今回はさすがに、ハスキー達も無傷とは行かなかったようだ。体格差を考えずに肉弾戦を挑んだツケは、意外と大きかった模様だ。

 そんなハスキー達を治療する紗良と、ずらりと並ぶ動物モチーフの観光バスを眺める末妹の香多奈。あの中に宝箱があるかもと、毎度の如く騒ぎ出して。


 仕方無く、姉の姫香が護衛について1台ずつ中身を改めて行くと。何と3台目の後部座席に、目論見通りのカラフルな宝箱の設置を確認出来た。

 中身はお決まりの薬品類や、魔玉(光)が7個に木の実が5個。魔石(小)が8個に動物の皮素材や骨素材が少々、それから車や動物のオモチャが数点ほど。

 当たりと言うには微妙だが、まずまずの品揃えかも。


「宝箱の中身、取り敢えず全部回収が終わったよ、護人さんっ。休憩と治療が終わったら、すぐ5層に進もうねっ。

 あっ、他チームと通信してたんだ……向こうはどんな?」

「んっ、ああ……岩国チームはワニのいる沼に苦戦しつつも、こっちとほぼ同じペースで進めているみたいだ。ムッターシャチームは鍾乳洞エリアを進むも、大物とは未だに遭遇出来てないそうだよ。

 それから地元の連合チームは、カルスト台地エリアで苦戦中みたいだね。怪我人も出ているし、5層で脱落するチームも出るかも知れないって。

 それを考慮するなら、ウチがそっちに廻るべきかな」

「そうだね、確かフレイムロードってレア種の出現情報が上がってるんだっけ? レイジーやミケさんと、どっちが強いか是非とも較べてみなきゃ!

 ちょっと楽しみだね、どんな敵なのかなぁ?」


 そんなお気楽な事を言ってんじゃ無いわよと、姉の𠮟り付けにも香多奈は痴れっとした表情で。ハスキー達も平原を走り回りたいよねとか、都合の良い誘導などしてみたり。

 ハスキー達の心情を代弁すれば、強い奴がいればやっつけに行くぜみたいな勇ましいノリなのかも。まぁ取り敢えずは、次のエリアの中ボスを倒すのが先ではある。


 そんな訳で、ワープ魔方陣を潜って5層へと到達した来栖家チーム。6層からカルスト台地エリアに向かうのならば、なるべく入り口付近を動きたくないけど。

 敵の攻勢は、そんなチーム事情に関係なく襲って来る。毎度のダチョウ型モンスターやカンガルー、ラクダの騎馬隊も戦闘音を聞きつけて遠くから参戦して来て。


 そちらは紗良の《氷雪》で一網打尽に、固まって来ていた奴らにはお気の毒様ではある。とは言え5層の敵は、質も数も段々と上がって来ているのも確かで。

 挟み撃ちなど冗談では無いし、こちらにもそれ程余力など無かったり。まぁ、ミケと言う保険があるにはあるけど、接近戦に持ち込まれたら紗良や香多奈は大変には違いなく。


 そう言う意味でも、早期発見からの即刻撲滅は来栖家チームにとって正しい戦法である。そうして5分後には、3種の敵の全てを駆逐に成功していた。

 それを確認して、ホッと息をつく一同である。


「やっと倒し終わった、みんなご苦労さまっ! ゆっくり休憩してて……ルルンバちゃんは、今の内に中ボスの場所を探して来てねっ。

 フィールドエリアだと、飛行モードは本当に便利だねぇ」

「そうかも知れないけど、ロボット使いが荒いと動画観たリスナーから批判が来るわよ、香多奈。ルルンバちゃんは、あれでチーム内の人気上位なんだから」

「あ~っ、確かに言われてみれば……ルルンバちゃんを応援してますとか、好きですって書き込みって意外と多いかも?

 とっても献身的で、頑張り屋さんだし当然かもねぇ」


 香多奈とは正反対だねと、いつもの余計な一言から姉妹喧嘩に発展する両者を、護人は何とかたしなめて。命令通りに偵察に出てくれるルルンバちゃんに、信頼の視線など向けてみたり。

 そんな彼が発見したのは、割と近場にいた集団だった。すぐ側の厩舎の裏側に、何故か岩と木立ちで快適そうな空間が設えられており。


 その中央には、見事な白い毛並みのホワイトライオンが1匹。広場の入り口付近には、巨体のクマが4匹門番をしていて鉄壁の守りである。

 その知らせを聞き取れるのは、チームでは香多奈だけなのだが。少女はそいつ等は中ボスで間違いないねと、一行をそちらへと案内する素振り。


 発見者のルルンバちゃんも、ウキウキしながらそれに追従する。どうやら自分は人気者だと、紗良や姫香の言葉をしっかり聞き取っていたようだ。

 ただし、そんな浮かれた感情でこの敵の集団には立ち向かえそうにはなかった。何しろ大クマ1匹だけでも、普通にその辺のダンジョンの中ボスを担う実力の持ち主なのだ。


 それが一気に4匹、オマケにどこから出現したのか、ジャッカルの集団が1ダースほど追加で出て来て。ハスキー達はこのイヌ科の敵に、明らかに興奮してヤッてやると突撃して行く。

 かくして中ボス前哨戦のスタートだが、敵の数の方が明らかに多くてとっても大変。慌てて前へ出る姫香と萌のペアだが、大クマの乱入に前線も混乱模様である。


 それでもレイジーの派手なブレスで、雑魚のジャッカル軍団はビビってくれて押せ押せムードに。大クマを抑えようと、護人も前衛に出張ってこれで何とかなりそう。

 ルルンバちゃんのレーザー砲で、大クマを1匹始末してくれた功績も大きい。さすがに連射は無理なので、再チャージまで魔銃しか使えないのは辛いけど。

 姫香と萌も、大クマを1匹仕留めて順次こちらのペースに。


 とか思っていたら、強烈な咆哮と共に乱入して来る中ボスのホワイトライオン。これだから徘徊タイプのボスは始末が悪い、そしてタゲとなった茶々丸は見事に吹き飛ばされて。

 太い前脚の一撃を避けれなかったみたいだが、逆に噛みつきで無くて良かった。そして慌てる一行の中で、護人のフォローが一番早かった模様だ。

 目の前の大クマを一撃で切り伏せて、何とか両者の間に割って入る事に成功。





 ――かくして対峙する、白獅子と来栖家のリーダーであった。






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