第524話 キリンやシマウマをサファリエリアで楽しむ件



「あっちに動物の影が見えるね、シルエット的にはキリンかな? シマウマもいるっぽいけど、あれもモンスターなのかな?

 まぁ、ダンジョン内なんだから当然敵なんだろうけど」

「そうだな……茶々丸の例もあるから、突進やひづめの蹴りはそれなりに危険なんだろうな。ひょっとしたら、ボス級の敵が混じってるかも知れない。

 数も多そうだけど、仕方無いから狩りに行こうか」

「あっ、待って叔父さんっ……そこの厩舎の中、まだちゃんとチェックしてない。宝箱があるかも、行くよルルンバちゃんっ!」


 飽くなき探求心の末妹は、AIロボを用心棒に半開きの厩舎内へと入り込む。敵がいるかも知れないぞと、慌ててそれを追う護人と萌なのだけれど。

 やったとの興奮した声は、どうやら目的の物を発見した為らしい。


 宝箱代わりに利用されていた給餌箱には、鑑定の書や魔石(中)が6個、それから強化の巻物が2枚となかなかの当たり。それから、吊り下げ式の水飲み器の中身はどうやらポーションらしい。

 後から入って来た姫香がそれを指摘して、ついでにこの水飲み器も貰って行こうとちょっと嬉しそう。何しろ来栖家も、敷地内に家畜を数頭抱えているのだ。

 現役で使っているボロッちい奴より、新しい器具の方が数段も魅力的。


 他にも干し草とかピッチフォークとか、干し草用の推し切り機とかネコ車とか。家畜のお世話に必要な器具が、割とたくさん厩舎から見つかって。

 それを遠慮なく、ツグミの《空間倉庫》に詰め込む子供たちである。完全に家使い用だねと、思わぬ臨時収入に皆が嬉しそうと言う。


 護人も満更でもなく、何しろ買えばそれなりの値段がしてしまうのだ。しかも現在は、入手が困難な器具も結構あるのでダンジョン産だからと文句など言えない。

 その隣では、回収し損ねた干し草をのんびりとんでいる茶々丸の姿が。香多奈がわざわざ、なかなか美味しいみたいと通訳してくれたのは良いけれど。


 そんな回収作業に、長々と時間を掛ける訳にも行かず。手早く済ませて、さて次に向かう場所を子供達が決めにかかる。まぁ、見えている敵影を目指すのが手っ取り早いけど。

 そんな訳で、キリンとシマウマのいる場所へとハスキー達の先導で向かう事に。サファリエリアも広大なので、岩国チームの獲物を取る事態にはならない筈。


 そこまで厳密に考えなくても良いだろうが、一応は入り口近くを縄張りと決めたので。その周辺をうろつきながら、次の層への進み方を模索する方針で。

 そしてこちらの接近に、いち早く気付いていたさすがの草食動物系モンスター達の集団。ところがハスキー達の接近に、逃げずに逆に大群で向かって来て。


 キリンを中心としたシマウマ30匹程度の大集団は、単純にこちらの3倍の戦力である。それでも怯む様子を見せないハスキー達、茶々丸や萌も狩りの準備を始めている。

 そして両者は、相当なスピードで激突を果たす。


 その迫力に、先制の遠隔攻撃の機会も失ってしまった来栖家チームであった。何しろ一見して、平和そうな雰囲気の草食系モンスター達である。

 まさかいきなり、こんな乱闘へと持ち込まれるなんて誰も思っていなかった。その予想を見事に裏切られ、更には連中の咬み付き攻撃や蹄での蹴り攻撃は割と熾烈で。


 茶々丸の株を完全に奪われ、しかも大集団相手に防戦一方となる始末。それでも近距離からのルルンバちゃんのレーザー砲で、敵の数匹が巻き込まれて蒸発して行った。

 その辺は容赦のないAIロボ、これも掃除の一環と割り切っているのかも? 香多奈も家族に応援を飛ばして、押し返せ~とのげきで前衛陣も奮起している。


 特に巨大化したコロ助は、敵の大将格のキリン型モンスターとも互角以上の戦いを繰り広げ。その間にレイジーの炎のブレスで、周囲のシマウマの数体が倒されて行く。

 敵の数の多さに手古摺てこずった感はあるモノの、皆の頑張りでモンスター達はどんどん減って行き。壮大なド突き合いの末に敵将を倒したコロ助は、大威張りでのドヤ顔。


 香多奈に褒められて有頂天のコロ助、その隣にはしっかりと次の層へのワープ魔方陣が。やっぱりキリンはボス級だったらしく、これで探す手間が省けた。

 ついでにキリンはスキル書と魔石(中)を落として、魔石の儲けもいつになく加速している感じ。ここを探索し終わったら、過去最高の儲けも期待出来るかも?


「今までで一番儲かったの、どのダンジョンだったっけ、紗良お姉ちゃん? 広域ダンジョンの探索は、どこも凄く儲かった記憶はあるよねぇ?」

「そうだねぇ、特に深く潜った所ではかなり儲かったかなぁ? でも探索の基本は、安全に任務を遂行する事だからね、香多奈ちゃん。

 変に欲張って、怪我とかしたら元も子もないからね」

「そうだよ、香多奈……アンタはただでさえ、ガメつい性格してるんだから。あんまり変に駄々こねて、護人さんを困らせたら駄目だからね」


 3層へのワープ魔方陣の前で、休憩しながらそんな事を話し合う子供たち。まだまだみんな元気で、その点は心配は無さそうなのだが。

 紗良や姫香が言う通り、末妹の我が儘が今後の気掛かりではある。護人が毅然とした態度で突っぱねれば良いのだが、性格的にそれが難しいと来ている。


 その分、姫香が厳しいのは家族内のバランス取りとして最適なのだろう。そのせいで、姉妹喧嘩が頻発するのは護人としてもアレだけど。

 とにかく2層も無事にクリアして、次はサファリエリアの第3層の探索だ。先陣を切ってワープ魔方陣を潜ったハスキー達は、敵を求めてすぐに動き始める。


 香多奈も次の動物は何かなと、さっきの姉の小言などどこ吹く風でのマイペース。姫香も諦めたように、萌と一緒に前衛のハスキー軍団に合流して行く。

 それからハスキー達に、奥に行かずに入り口方向へ進むように言い含め。間引きをしながらのボス級の敵探しは一緒だよと、キッチリと指示出ししてくれている。



 そんな休憩を終えての3層の探索開始に、今度はちゃんとした宝箱を見付けるぞと意気の高い末妹。確かにあれだけ建物が並んでいたら、どこか隠されていてもおかしくはない。

 厩舎のチェックはもちろん、他にもお土産屋の建物もしっかりと見て回って。そこからは幾つか動物の縫いぐるみをゲット出来たけど、その位しか見る物は無かった。


 それよりも、この層もダチョウやカンガルーの群れが、まるで暴走族のように走り回っていて大変危険だ。ハスキー達もソロで奴等に出遭ったら、きっとビビッて逃げ出していたかも。

 群れを成すとは、それ程に脅威だし肉食動物にとっても有効な手段なのだ。とは言えハスキー軍団も、百頭単位ならともかく1ダース程度の群れに逃げ出す訳もなく。


 マッチョで蹴りを多用するカンガルー型モンスターや、恐ろしい速度で駆け寄って来る駝鳥ダチョウ型モンスターをほふって行く。姫香や萌も、瞬間的なスピードなら奴らにだって負けはしない。

 逆に惑わすような動きで、敵の群れをどんどん減らす剛腕ぶり。


「ダチョウって、やっぱりあんまり賢くはないよね……スペックは良さそうなのに、勿体無いなぁ。あれに乗って失踪したら、茶々丸より面白いと思ったのに」

「ドロップは結構、面白そうなのがあるみたいだよ、香多奈ちゃん。羽根やお肉に……あれは、ひょっとしてダチョウの卵かなぁ?」


 遠目でも分かる大きな卵は、確かに姫香や萌が倒した敵の後に次々と湧いている模様。確かに卵だねと、興奮した末妹はルルンバちゃんに回収命令を下す。

 ハスキー軍団はカンガルーの群れとの激闘を制し終え、何だか憮然とした表情。どうやらレイジーは、マッチョタイプがあまり好きでは無いらしい。


 それはともかくとして、またも大量の魔石とドロップ品をゲットしてしまった来栖家チーム。意気揚々と、ボス級の敵またはワープゲートを探して周囲の探索を続ける。

 そして、さっきの層でも遭遇したラクダの騎馬兵団に遭遇。場所はサファリパークの入り口付近で、観覧車の真下の広場である。敵は半ダース、騎乗しているのは今回はゼブラ獣人みたい。


 シマウマの獣人がラクダに乗っている貴重な映像だが、ハスキー達は何も感じなかった模様でさっさと殲滅戦に移っている。姫香も同じで、敢えて言うならゼブラ獣人の方が体格が良くて手強そう。

 奴らが操るシミターは、なかなかの腕前で接近戦も手馴れている感じ。知性のある癖の強い獣人は、強靭な体躯のゴーレムやガーゴイルより相手取るのは大変だ。


 もっとも、姫香も戦闘経験はかなり積んで来ていて、今もラクダの騎馬兵を上手くあしらっている。頭上からのゼブラ獣人の斬撃も、『身体強化』したステータスで上手にいなしている。

 ハスキー達に関しては、その視点の低さで騎馬上からの攻撃は逆に当たり難いと言う。そして狩る事に関しては、レイジーをリーダーにしたこの集団はとっても秀逸で。


 騎馬隊だろうが何だろうが、敵対する者達は全て息の根を止めてしまう戦闘力を有している。その勇猛さを主に褒めて貰うのが、彼女たちの喜びである。

 この戦いも、そんな感じで5分と掛からず終了の運びに。得意満面なハスキー達&茶々丸だけど、次の層へのルートはまだ見付かっていない。

 そうこうしている間に、香多奈が観覧車の籠の1つに宝箱を発見。


「あっ、今降りて来た観覧車の中に宝箱があったよ、叔父さんっ! 何か怪しいと思ったんだよね、最初見た時から誘うようにクルクル回ってたもん!

 姫香お姉ちゃんっ、回収するの手伝って!」

「アンタってば姉使いが荒いわね、本当に……まっ、何かいいモノ入ってそうだから、手伝ってあげるけど。ツグミ、この観覧車って止められないの?

 回収中にてっぺんまで登って、何か仕掛けがあったら嫌だし」


 確かに姫香の言う通りだけど、さすがのツグミも観覧車の回転を止めるのは無理らしい。そんな事を言ってる間に、宝箱を乗せた篭は上へ上へと昇って行く。

 まぁ、待っていればまた勝手に降りて来るのだけれど。そんなの待ってられないと、相変わらずの香多奈の我が儘が発動して。結局は、護人が薔薇のマントの飛行能力で取りに行く流れに。


 姫香は末妹の無茶振りにプンプン怒っているけど、いつもの事なので強くも叱れない。何しろこき使われている護人が、強くたしなめる事もなく従っているのだ。

 この辺は性格と言うか、子供の我が儘は叱るより受け流す方が楽って考えなのかも。そんな感じで飛行からの宝箱との対面に、いきなり牙をむかれて咬み付かれそうになる護人。


 つまり宝箱はミミックだった様で、それを“四腕”の《奥の手》で器用に叩き落とす護人であった。備えを怠っていなかったのもあるが、《心眼》の助けも借りての所業に。

 哀れなミミックは篭を飛び出して、そのままの勢いで地上へと落下して行った。単独ダイブの結果は、当然ながら悲惨でそのままブチ撒かれる宝箱の中身。

 本体はもちろん、落下ダメージでそのままお亡くなりに。


 あ~あとか言いながら、その残骸を拾い始める香多奈とルルンバちゃん。護人は何事もなかったように、そのまま宙を降りて来て一行に合流する。

 宝箱の中身はそれなりに豪華だった様で、ミミックも子供達の喜ぶ声を聞けば浮かばれるだろう。鑑定の書や虹色の果実から始まって、スキル書や魔結晶(中)が7個とか。


 ところが薬品類は、瓶が割れていたりと大半が回収不可の状態だったり。それを残念がる末妹と、ガラスの破片をお掃除し始めるルルンバちゃん。

 他には動物のフィギュアが数点に、やっぱり縫いぐるみも数点ほど。それから上等な革製の、乗馬用の蔵と鞭のセットが落ちていた。


 これは茶々丸に乗る時に良いかもと、盛り上がる末妹はお気楽ではあるけれども。家族のムードメーカーには違いなく、ペット達も楽しそうに少女の手元を覗き込んでいる。

 何にしろ、ここはまだ3層で次の層へのゲートも見付かっていないのだ。少しペースを上げないと、一緒に突入した他のチームに面目が立たないよと姫香の意見に。


 それじゃあ探索を再開しようかと、護人の号令に素早く従うハスキー軍団である。姫香も定位置へと進み出て、ボス級の敵はいないかなと探し始めている。

 そんな怪しい敵は、捜索を再開してすぐに発見された。見付けたのはハスキー達で、敵のその異様なフォルムに少々警戒している模様。


 そいつは観光バスかなって思う程の巨体の、硬そうな装甲を見に纏った巨大サイだった。全身を装甲に覆われたそいつには、間違っても牙は通りそうもない。

 そして不審者を発見したのは、ほぼ同時期だった様で。





 ――そいつは巨体にしては信じられない速度で、こちらへ突っ込んで来たのだった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る