第523話 秋吉台ダンジョン”のサファリエリアの探索を始める件



「う~ん、観光バスの中には宝箱は無かったみたい。残念っ、絶対にあると思ったのにな」

「つまらない事で時間かけてんじゃないわよ、香多奈。このダンジョンは広いんだから、どんどん間引きして行かないと日が暮れちゃうよ。

 それじゃ、岩国チームが奥のエリアに行ってくれるのね?」

「ああ、来栖家チームは色んなエリアを廻りたいんだろう? それなら最初から、中央に近い方がいいだろうし……我々はサファリエリアに散らばって、ここの間引きを重点的に行うよ。

 10層くらいを目安にするかな、我々の戦力ならそんな感じだろう」


 岩国チームも充分強いと思うけど、元の戦力を2チームに分けた事で戦力ダウンは否めないみたい。それに加えて『シャドウ』の売り出しキャンペーンで、いっぱいいっぱいと言った所か。

 来栖家チームに関しては、子供の我が儘で出口ゲートに近いエリアを譲って貰って。護人としては、有り難いには違いないけど少々気まずい思い。


 それでも頑張って間引きをすれば、それもチャラになる筈だと信じて。岩国の3チームと別れを告げて、さて本格的な広域ダンジョンの探索の始まりだ。

 ここの階層渡りは、どこかに湧いてるワープ魔方陣を見付けるか、ボス級の敵を倒してゲートを湧かすかのどちらからしい。広域ダンジョンだけあって、転移ゲートは各所にあるとの事で。


 まずはそれを探しながら、間引きを行うぞとの護人の宣言に。子供達は了解と、元気に返事をしてくれる。ハスキー達も、自分達の仕事は心得たモノで。

 待ち侘びたように、敵の気配を求めて進み始めてくれた。



 そんなサファリエリアの入り口周辺だが、建物も乱雑に建っていて何より目印代わりの観覧車が間近にある。その人が乗るカゴがユニークで、動物を模したものが多数あって。

 本物のサファリパークがそうなっていたかは不明だが、観覧車も稼働していて何か凄い。あの中にも宝箱があるかもと、末妹の興味はそこに集中しているけど。


 それより先に、岩国チームが去った方向から敵の接近する気配が少々。どうやら広いこのエリア、討ち洩らしがあったようで高速接近中のダチョウ型モンスターが半ダース。

 それを迎え撃つハスキー達は、さあ出番だといかにも勇ましい。そして敵のくちばし攻撃やキック攻撃を掻い潜っての、長い首への咬み付き攻撃と来たら。


 野生の戦闘シーンに、末妹などはうひょうとか変な奇声を上げているけど。続いて戦闘参加の姫香と萌は、着実に手にした武器で敵の数を減らして行く。

 護人とルルンバちゃんも、遠隔武器でフォローに余念がない。この辺はいつものフォーメーションで、来栖家チームには何の躊躇ためらいもなし。

 そしてほんの数分で、ダチョウ型モンスターは全滅の憂き目に。


「ふうっ、かなり狂暴な性格のモンスターだったけど……コイツ等って、普段もこんな人見ると襲って来る習性なんて無いよね?

 ダチョウとか、取り扱った事無いから分かんないよ」

「もしダチョウが大人しいんなら、山の上の敷地内でも飼ってみたいかなぁ……そんで、毎日ダチョウの卵で目玉焼きを食べるのっ!

 それって楽しいと思わない、叔父さんっ!?」


 思わないし、飼うつもりは無いよと冷や汗混じりの護人の返答に。つまんないのとむくれる香多奈だが、しっかりと魔石拾いは行うようだ。

 その隣ではルルンバちゃんも稼働中で、何とも真面目なその性格にハスキー達も感心して見ている。今ではしっかり仲間認定されている彼だが、最初は変なモノとの扱いで。


 ミケに至っては、乗って遊ぶ玩具だと思っていた節すらあって。そんなルルンバちゃんも、今では一緒に探索に励むとっても頼もしい仲間である。

 世の中って、本当に何が起こるか分からない。


 そんな感じで戦闘の後始末を行っていると、建物の中から新たな敵の気配が。どうやらパペット兵士たちが、建物周辺には配置されているようで。

 建物の中もチェックすべきかなと、サファリエリア入り口周辺だけでも意外とチェックポイントが多いと言う。ちなみにパペット兵士達だけど、いつも通りの手応えの無さだった。


 強敵ばかりでないのは有り難いけど、数はそれなりにいる感じで移動するたびに鉢合わせしてしまう。建物の間を通りながら、それでもハスキー達の先導で周辺探索を続けていると。

 建物の裏手に割と大きな池を発見、所々を柵と木々に囲まれているけど出入りは自由らしい。そこには水牛がたむろしていて、その大きさは軽自動車サイズである。


 その中に1サイズ大きな、角の数も多い奴がいてそれが群れのボスらしい。ひょっとして、魔方陣を出してくれる奴かもとの姫香の推測の言葉に。

 狩る事が決まったのだが、向こうは至って静かなモノで。モンスターの中でも、元が草食系だとたまにこんな穏やかな種類も存在するのだけど。


 いったん暴れ始めると、この巨体でこちらも対処が凄く大変なのは自明の理である。そんな訳で、護人はさっさと紗良に魔法で氷漬けして貰う事に。

 この方法は、水辺にきょを構える敵にはとっても有効的だった。


「やった、でっかいボスまで固まっちゃってるよ! 後はみんなで殴ってやっつければ、敵の群れも一網打尽だねっ!」

「あっ、でもボスは抵抗しようとしてる……レイジー、気をつけてっ!」

「一緒にフォローするぞ、ルルンバちゃん……相手が完全に沈黙するまで、みんな気を抜かないようになっ!」


 護人の言葉に、子供達のいつもの元気な返事が。レイジーはほむらの魔剣を口に咥えて、凍り付いて動けない水牛の群れへと氷上を滑って移動中。

 それに続くコロ助は、同じくハンマーを咥えて敵を粉砕する気充分だ。紗良の《氷雪》で、池にかっていた水牛の群れの大半は凍り付いてしまったけれど。


 さすがに大型モンスターはタフで、倒れる物はほぼおらず。それどころか、自壊も厭わずに動こうと暴れる奴も出始めて。悲惨な戦場に、敵の遠隔スキルの反撃が突き刺さる。

 どうやらこの水牛モンスター達、角の突き刺し攻撃を遠隔でも出来るようで。そんなスキルを茶々丸も持ってたねぇと、呑気な香多奈の言葉は今はどうでも良い。


 腹を立てたレイジーも、魔剣を放り投げて炎のブレスで対抗する。これで前方の2体は倒れたが、足場にしていた氷も壊れ始めてさあ大変。

 一際ひときわ巨体のボス水牛も、とうとう冷気の呪縛から抜け出してこちらへと突進して来た。それを挑戦と受けて立つコロ助と茶々丸、どちらも譲る気は無さげである。


 アンタは無茶だから止めなさいと言う、姫香の制止を振り切って突進した茶々丸は体格の差で吹っ飛ばされる破目に。案の定の結果に、急いでフォローに入る姫香である。

 逆にコロ助は、そこまでおバカでは無い……思い切りフェイントを入れて、《韋駄天》で敵の視界から消えての『剛力』込みのハンマーの振り下ろしに。

 周囲に響き渡る、物凄い衝突音とモンスターの悲鳴。


 そこからは、萌も黒雷の長槍を振りかざして戦いに参戦。姫香は目を回した茶々丸を抱えて後退、紗良が慌てて治療に当たっている。

 コロ助が倒したボス水牛は、ワープ魔方陣を湧かしていてこれで2層には到達出来そう。ついでに立派な角素材もドロップしており、香多奈が拾いに行きたそうにしている。


 まだ戦いは続いているので、そこは護人が何とか宥めつつ。ルルンバちゃんと一緒に遠隔攻撃で支援しつつ、数分後には何とか池の周辺は静寂を取り戻す流れに。

 そんなに歩き回らずに済んだねと、末妹はワープ魔方陣を眺めながら呑気に呟くけど。茶々丸がいきなり戦線離脱しそうになるとか、この“秋吉台ダンジョン”は侮れないかも。


 まぁ、さっきのは自業自得な面も大いにあるけど……そんな茶々丸を叱りながら、姫香はハスキー達をねぎらってと割と忙しい。香多奈は萌とルルンバちゃんを伴って、水中の魔石やドロップ品を回収中。

 それから改めて作戦会議、広域ダンジョンの攻略は前にも何度かこなした事のある来栖家チームだけど。“もみのき森林公園ダンジョン”と攻略方法は同じかなと、話し合いは落ち着いて。

 それなら何とかなりそうと、休憩を挟んで探索手順は決定の運びに。


「あそこは階層渡りに苦労したけど、出て来る敵も凄かったり強かったりした記憶があるねぇ。雪の積もってるエリアとかもあったし、変わり者では動くやぐらとかもあったっけ?」

「この“秋吉台ダンジョン”には、フレイムロードが出るエリアもあるって言ってたけどさ……何でそんなのが出るのかな、護人さん?

 炎のエリアとかが、平原にあるのって変じゃない?」

「それはね、秋吉台では毎年春に『山焼き』って行事をするからじゃないかな? 伸びた雑草を燃やして、新芽を育てるのが目的ではあるんだけど。

 秋吉台では、観光客を呼ぶイベントになっちゃってるみたいだねぇ」


 紗良の恒例のウンチクに、へえっと感心の素振りの姫香に対して。末妹の香多奈は、それってウチの地元の“とんど祭り”みたいなモノかなと、脳内で想像を膨らませている。

 どちらにしろ、一面炎の平原なんて物騒なエリアを探索などしたくは無いけど。子供達は揃って見てみたい派らしく、護人の気苦労は増えるばかり。




 そんな話をしながら、ようやく2層へと辿り着いた一行は。次はどっちに向かおうかと、周囲を覗っての作戦タイム。もっともハスキー達は、敵の気配に敏感に反応しているけど。

 建物の裏手の池のほとりは、正直あまり視界は良くはないとは言え。匂いに頼るハスキー達は、敵の接近を察知して元気に迎撃に向かっていた。


 慌ててそれに従う家族たちが見たのは、大人よりやや大きなサイズのカンガルー型のモンスターの群れ。ぴょんぴょん飛びながら接近して、キックや尻尾攻撃が凶悪そう。

 ハスキー軍団も、さすがに接近戦では苦戦を強いられるかと思われたのだが。それ以上に凶悪なレイジー達は、自分達より大型のモンスターを集団で狩って行く。


 そこに遅れて参戦する、姫香と茶々丸のいつもの前衛組。萌も少し遅れながらも、建物の側面を利用しての立体機動を活かしての乱入に。

 場は一気に騒がしくなるも、順調に敵の数を減らしていけている模様である。後衛陣もフォローしようと、視線の通る場所を確保にと動き始める。

 ところが、その騒ぎを聞きつけてモンスター軍に助っ人が。


「わわっ、叔父さんっ……あっちから、ラクダの騎馬隊が来てるよっ!? あれってラクダでいいんだよね、紗良お姉ちゃんっ?」

「うん、ラクダかなぁ……実際のラクダも、意外とスピードが出るって聞いてるし。乗ってるのはキツネ獣人かな、こうして見ると迫力あるねぇ!」

「確かに迫力あるな……ただまぁ、その勢いで前衛に突っ込まれたらかなわないし。紗良、魔法で連中の足止めを頼む」


 了解ですと、砂漠の生物に対して容赦なく氷魔法を撃ち込む紗良であった。ひゃっほうと、テンションの高い香多奈の叫び声と共に、増援モンスターは大半が氷漬けに。

 その頃には、カンガルー軍の駆逐を終えた前衛陣がお替わりの敵軍に反応しており。護人とルルンバちゃんの遠隔攻撃と共に、ラクダの騎馬隊の迎撃に成功。


 そしてひと段落ついて、香多奈とルルンバちゃんがドロップ品の回収に赴いて。カンガルーが革の財布とポケットを落としたよと騒いでいる。

 革のポケットって何よと、姫香が現物を見に行くのだけれど。確かにそれは、革製のポケットと形容するしかない代物で。ちなみにラクダの騎馬隊は、革の水筒をドロップ。


 キツネ獣人は曲刀や皮素材をドロップして、魔石以外にも回収品は多い気が。それだけ出現するモンスターの数も多いからねと、姫香は冷静に分析している。

 これは15チームでの探索でも苦労するかもと、一角のエリアでこんな連戦だもんねと香多奈もそれに同意。だからと言って、やる事は変わらないけどと子供達は揃って肩をすくめる。

 つまりは間引きだ、それを続けて深層を目指すのだと。





 ――ここはまだ第2層、探索は始まったばかりだ。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る