第522話 広大な“秋吉台ダンジョン”のレイド作戦が始まる件
「それでは、この15組のチームによるレイド作戦の前に、改めて注意事項と激励を協会の
この手の激励とかお偉いさんの訓示は、どちらかと言うと邪魔でしか無いってのを主催者は分かっていないようだ。来栖家の子供達にしても、話が始まって3分後にはもぞもぞし始めて。
ハスキー達も同様で、主の足元に寝転がって欠伸なんかしちゃったりして。茶々丸も器用に立ったまま寝ており、香多奈もそんなペット達にちょっかいを出しての暇潰し。
発熱で欠席した支部長の代わりにと、バトンを渡された協会の副部長の新坂も、同様に大勢の探索者を前に話の長いタイプのようで。特に過去に出現したボス級モンスターに対しての注意喚起に余念がない。
例えば今から突入する“秋吉台ダンジョン”だが、主に4つのエリアに区切られるそう。コアが1つとは思えない多彩なエリアを持っているのが、この広域ダンジョンの特徴で。
その中の“鍾乳洞”エリアでは、割と浅い層でも水棲ドラゴン系の敵が確認済みなのだとの事。そんなのミケさんだったら、ソロで倒しちゃってるよとの香多奈の言葉には。
動画でそのシーンを観た事のある岩国チームの面々は、振り向いたら竜がいたって表情で紗良の肩のミケを盗み見る。当の
副部長の話はなおも続き、“平原カルスト”エリアではつい最近フレイムロード級の狂精霊が見付かったそうな。それに対する末妹のコメントは、召喚したら楽しそうとの事。
アンタは前科があるからねと、姉の姫香の責めるような呟きに。まさかねとの岩国チームの視線が、次第に
ダンジョン内には、他にも“自然動物公園”エリアや“旅行村”エリアがあるそうで。それぞれ癖の強いモンスターが出没するようで、B級ランクの探索者でも厳しい敵も多いそう。
それってつまり、この“秋吉台ダンジョン”はA級認定で良いような気もするけど。世間体が悪いと探索者が寄り付かなくなるのを恐れてか、B級ランクのままっぽい。
まぁ、雑魚モンスターに限ればそれ程には強くは無いのだろうけど。
「ホワイトライオンが出て来るんだって、見てみたいよねお姉ちゃん。“自然動物公園”エリアってどう行けばいいのかな?」
「ゾウやサイ型の猛獣系モンスターも普通にいるらしいよ、ハスキー達で狩れるのかな? “鍾乳洞”エリアを廻るのもいいかな、凄く綺麗な景観らしいから」
そっちもいいねと、まるで今から観光に向かう感じの姉妹の会話に。昨日はサラッとしか見て回れなかった事もあって、
他にもカルスト地形ではゴーレムや要塞タイプの獣人拠点が散在するとの事。どこも癖が強くて厄介みたいだが、フィールドエリアではワイバーンが群れで襲って来る事もあるそうな。
周囲の探索者チームはそれを聞いて
そんな感じで、長かった激励の言葉もようやくの事終わってくれた。来栖家チームの周辺が、多少ざわざわしているのは仕方が無いと護人は諦め模様。
そこに近付いて来る博多の『ガリバーズ』チームの親父さんは、お互い頑張ろうと言って去って行った。向こうは確か“旅行村”エリアが担当だった筈、昨日の割り当てではそう決まっていたと記憶している護人である。
負けていられないねと、姫香はそれを挑戦と受け取った模様で盛り上がっている。大ボス級の討伐数と、深層到達数の両方で勝つぞと香多奈と一緒に気勢を上げて。
それを察して、ようやくハスキー達もテンションが上がって行く。
「それにしても、広域ダンジョンの入り口はどれも大きいな……岩国チームは、今回は移動にバギーを使わないのかい?」
「そうだね、中には鍾乳洞なんかもあるらしいし、ワイバーンとか飛行タイプのモンスターも多いそうだから。クロスバイク位は持ち込んでも良かったかな、カルスト地形にフィットするかは分からないけど。
岩の剥き出しの地形だと、バイクも大変そうだしね」
「あぁ、そっかぁ……あの遠征スタイルは格好良いと思ってたのに。でも色んなエリアが出て来るタイプのダンジョンじゃ、仕方無いかもねぇ」
そんな話をしながら、少しずつ入り口の巨大ゲートへと近付て行く各々のチームであった。その数は15と、来栖家の経験からしても大規模レイドの類いである。
今回も15層を目指すよと、子供達の意気は最初から高く。
そして15チームが出た先は、完全なカルスト台地の平原だった。晴れ晴れとした青空も近くて、ここがダンジョン内だとはとっても思えない。
地元のB級チームの説明では、ここから4方へと進むとそれぞれのエリアへと出るらしい。サファリパークはどっちと、人見知りせず質問する香多奈はある意味アッパレ。
地元チームのリーダーは、慌てなさんなとそんな末妹を宥めつつ。昨日のリーダー会議でも説明された、ダンジョン案内を始めてくれた。
それによると、この“秋吉台ダンジョン”の出入り口はこの巨大なワープゲートのみらしい。各階層の丘の上に出現するので、坂を上れば自然とここに辿り着くとの事。
それから4方のエリアだけど、遠目から観覧車が見えるのが噂のサファリエリアみたい。それからその隣には、いかにも洞窟の入り口っぽい地形が存在する。
あれが鍾乳洞エリアで、水棲の竜の目撃が最近あったそう。
「それでこっち側が、カルスト台地エリアだね……人間用の建物がある方が旅行村エリアで、獣人の集落が点在する方が平原エリア。
フレイムロードの目撃情報があったのは、平原エリアの方かな?」
「どこも癖が強そうだな、来栖家チームの割り当てはサファリエリアだったっけ? 普通にゾウやクマやライオンが襲って来る、かなり危険な場所だって話だったけど。
ハスキー達で太刀打ち出来るのかい、ちょっと心配だな」
「いやまぁ、その点は大丈夫だと思うよ……レア種の討伐も言い渡されてるから、結局はあちこち廻る感じになると思うけど。
かち合ったら済まない、先に謝っておくよ」
仮にもA級探索者の来栖家チーム、間引き先を優先させるのは当然ですよと皆から言われ。そんなら間引き頑張らなきゃねと、こちらも物怖じしない姫香の答えに。
大物モンスターはウチが全部倒すからねと、香多奈の宣言は果たして頼もしいのかは不明だけど。リラックスしている家族チームを見て、周囲も緊張がほぐれているよう。
それからあらかじめ決めてあったエリア担当チームに、来栖家の『巻貝の通信機』を貸してあげて。いざと言う時は、これで情報交換しようとのすり合わせ。
それからお互いのチームで、ある程度決めてあったエリアへと散らばって行く。広域ダンジョンだけあって、その移動も長くて大変ではあるけど。
来栖家の子供達は、まるでピクニックに行くかのように上機嫌で。それを先導するハスキー達も、お仕事開始だと張り切って進んでいる。
一緒に進んでいるのは、今回サファリエリアの間引きを一緒に担う予定の岩国3チーム。まぁ、1つのエリアにも複数の移動用の魔方陣が湧いているらしいので。
必ずしも、ずっと一緒に行動しなくても階層渡りは出来るみたい。
間引きが目的なので、エリアに到着したらバラけて探索をしようかと話し合って。今回は“岩国基地ダンジョン”とも違った陣形で、探索する事が決定する。
護人にしてみれば、いつもの事なので取り立てて何も言う事は無い。ただし、広域ダンジョンだけあって目的地に到着するのがとっても大変で。
一応道は通じているけど、印となっている観覧車に辿り着くまで10分は掛かりそう。こんな事ならバイクを持ち込むんだったかなと、ヘンリー達も早くもボヤいている。
エリア間の移動も念頭に入れての選択だったけど、サファリエリアだけの間引きならバイク通勤もアリだったかもと。そんな事を話す岩国チームも、肩の力は抜けている様子。
彼らもダンジョン探索の経験は、来栖家チームより多いので当然とも。それでもB級と言いつつ恐らくA級ランクのこの“秋吉台ダンジョン”、侮って対応すれば確実に痛い目に遭いそう。
現に4チーム固まっての移動中に、襲い掛かって来たのはワイバーンの群れで。4匹は多過ぎるだろうと、慌てて対処に追われる面々。
ところが、その内の1匹がいきなり失速して地面に激突する。
「ミケさんが1匹やっつけたよ、ルルンバちゃんも1匹お願いっ! ひあっ、タッチダウンが連続で来るよっ!」
「尻尾の毒針に注意しろっ……みんな、俺とルルンバちゃんの影に隠れて!」
「マジかっ、こんな大物が1層から複数匹で出るなんて……」
「みんなっ、反対側から推定ヒルジャイアントが3体ほど接近中! あっちは岩国チームで相手をするから、来栖家チームに飛竜を任せて良いかいっ?」
任せといてとの返事は、何故か香多奈からではあったけれど。飛竜のタッチダウンからの毒針攻撃は、護人が盾で強引に
すれ違いざまのルルンバちゃんのレーザー砲は、残念ながら
ルルンバちゃんのレーザー砲2射目は、何と2匹を巻き込んでの大命中! 紗良の《氷雪》魔法も、猛スピードの敵には不利だけどダメージは入ったようで。
動きが鈍った所を、護人が“四腕”の射撃で更に追撃してやって。これにて全て撃ち落とす事が出来て、空の覇者たちは地上でハスキー軍団と茶々丸の相手をする事に。
一方の岩国チームも、5メートル級の巨人の接近に銃と魔法での先制攻撃中。その攻撃に荒ぶった3体のジャイアント達だったけど、次第にその勢いも減じて行き。
チームに辿り着くまでに、まず1体が没……そして前衛の攻撃で、程無く残った2体も無事に狩る事が出来た模様。チーム同士の連携もこなれていて、さすがレイド慣れしている。
傍からはそんな印象だけど、本人たちは弾が持つかなと心配気ではある。初っ端からこんな大物が出て来て、階層を下ると恐らくその数ももっと増えるだろう。
これでB級指定は詐欺だなぁと、割と呑気な物言いではあるけど。それもその筈、来栖家チームの戦闘も、既に終わってドロップ品の回収も終わっていて。
ワイバーン肉も回収出来たねと、子供達はホクホク顔と言う。
「確かに最初に戦う敵としては、骨があると言うかB級じゃ有り得ないね。他のチームは大丈夫かな、下手したら1層でリタイアする所も出て来るかも……」
「う~ん、一応は通信機も配布してるし、何か異変があれば知らせて来てくれると思うけど。魔素濃度も結構な事になってたから、こんな事態があちこちで起きてる可能性は高いかもな。
一応、他のチームには無理しない様にって伝達しておこうか」
「それがいいかも……ワイバーンだって、魔法や遠距離攻撃が
広域ダンジョンの間引きって、何度参加しても本当に厄介だね」
岩国チーム『ヘブンズドア』のリーダーの鈴木は、そんな感想を漏らしつつ肩を竦める仕草。入っていきなりのイレギュラーは、こちらの計画を大いに狂わせるには充分で。
ハスキー達は我関せずな表情で、早く狩りに行こうよと元気をアピール。そんな訳で、再出発しながらの通信の遣り取りに忙しないのは護人だけ。
ルルンバちゃんの簡易シートに乗せて貰って、他のチームと連絡を取るのだけど。それを面白がって、香多奈も隣の席に座って会話を堂々と盗み聞きしている。
姫香はハスキー達と前衛に出て、敵の接近に備え中。そんな事をしていると、最初の目的地であるサファリエリアの観覧車が近付いて来た。
サファリパークのゲートは、ダンジョン内ではあってないようなモノみたいで。代わりにあるのは、まるでバリケードのように並んだ観覧バスが数台。
どれも動物の顔を模していて、傍目にはユーモラスではあるのだけれど。その物陰に猿型の獣人が潜んでいたようで、ハスキー達といきなりの戦闘に。
手荒い歓迎は、どうやらこのダンジョンのセオリーらしい。この先もこんな感じで、こちらを消耗して来るとすると先が思いやられる。
それでも大規模レイドは始まったばかり、今更逃げ出す訳にも行かない。
――さて、風変わりなサファリ観光の始まりだ。
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