第513話 岩国基地の10層にいよいよ辿り着く件



「叔父さんっ、お腹空いたかもっ……そろそろお昼じゃ無いかな、どっか安全な場所でお昼ご飯にしようよ」

「安全な場所あるのかな、建物内に結界を張るしかないかも。私もお腹空いたから、お昼にするのは賛成だけど。

 何ならこのお店にこもって、お昼するのもいいかもね」

「それじゃあ、結界装置を出しましょうか……持って来たお弁当は、どの収納に入れたかな? 忘れてはいないと思うけど、自分の収納鞄には入ってないや」


 それは大変と、紗良の言葉に食いしん坊の香多奈が慌て始めている。一緒にお弁当作りを手伝った姫香が、自分の収納に入れた筈だよと返事をして。

 それでお弁当が喪失問題は、呆気なく解決の方向に。そこからは和気藹々あいあいとした雰囲気で、昼食の時間にと移行する来栖家チームである。


 今回はお握りの他にも、そうめんの茹でたのも用意されていて。時間を止める機能付きの、空間収納ならではの力技だが家族には好評な模様。

 外で食べる麺類は格別だよねと、末妹の食通ぶったコメントはともかくとして。ハスキー達も、香多奈からおこぼれを頂戴して満足そうな表情。




 そうこうしながらお昼の休息時間を過ごし、一行は8層の残りを走破して9層へ。さきほど岩国チームと通信を交わしたところ、向こうは昼も食べずに10層へと到達したそうな。

 そこの中ボスを2チームで撃破して、そのまま退去用のワープ魔方陣でダンジョン外へと脱出したそう。そんな訳で、この“岩国基地ダンジョン”に残っているのは来栖家チームのみという事に。


 『ヘブンズドア』と『グレイス』の両チームの実力からすると、もう少し進めたかもとは思うけど。安全を考えるなら、10層がベストなのだろう。

 来栖家チームの計画は、取り敢えず10層に挑戦してみてその後先に進むか考える感じ。岩国の協会に頼まれた、銃弾の回収もそれ程進んでいない事だし。


 恐らく、子供達はもう少し進もうと言い出すだろう。何しろ朝の割と早い時間から突入したのだ、夕方近くまでは探索を頑張る気でいると思われる。

 そしてそれは、ハスキー軍団も同じ気持ちっぽい。


「さて、硬化ポーションも飲み直したし、ハスキー達も元気いっぱいだし。サクッと9層を終わらせて、10層の中ボスに挑戦しようっ!」

「朝の早い突入だから、時間はまだたっぷりあるね……明日は移動日だし、この前の三原遠征程にはスケジュールが詰まってないのがいいよね。

 その分、香多奈が学校をズル休みする期間が長くなるけど」

「それが問題なんだよねぇ……下手したら、和香ちゃんに学力で抜かれちゃうかも知れないよ? 夜はしっかり勉強会しないとね、その分の元気は残しておいてね、香多奈ちゃん」


 そう姉達2人に諭されて、珍しく怯んだ様子を見せる末妹であった。勉強を見て貰うのは別に良いけど、お昼にたくさん動き回った夜はとっても眠くなってしまう。

 夕食を食べた後は尚更で、そんな中で教科書を突き付けられても睡魔の格好の餌食である。だからと言って、昼間の活動をセーブなど出来る筈もなく。


 悩ましい問題を抱える香多奈ではあるが、実際には学校の成績もそんなに悪くない。山の上生活ではまずあり得ない、優秀な塾が徒歩2分の場所にもあるし。

 その点は本当に助かっている護人、紗良や姫香も生徒として通っているし、最近は散髪屋まで出来そうな雰囲気。田舎の僻地へきちなのに、こんな環境が整うとは驚きである。


 それもこれも、探索者稼業を始めてのご縁ってのが何とも不思議ではあるけれど。来栖家チームも1年でA級に登り詰めて、相性は良かったのかも。

 ハスキー達も、家族で探索に向かうってのが今では大好きでテンション爆上がりだし。世にも珍しいスキルを使うペットやAIロボも、今の所は来栖家の専売特許である。


 そんな事を考えていたら、前衛が毎度の銃持ちパペット兵士達と戦闘を始めていた。コロ助の《防御の陣》が程よく効いていて、後ろからも安心して見ていられるけど。

 今回は戦闘音を聞きつけて、別方向からオーク兵団も割って参戦の意向を示し。それらを紗良が、得意の範囲魔法で氷漬けにしての隔離を行う。

 そちらは何とか間に合って、挟撃は喰らわずに済んだ来栖家チーム。


「今、オーク兵の中に鬼もいたような……9層だけあって、敵も段々と強くなって来ているんだね。そう言えば、ダンジョンの鬼って小鬼ちゃんの家族とは全然雰囲気が違うね?

 ダンジョンの鬼は、何がベースになってるのかなぁ?」

「ふむっ、そう言えば違うね……アレはオーガで、ゴブリンとか妖魔の仲間じゃないのかな? ウチの家族が遭遇した鬼は、日本に昔からいた妖怪カテゴリーなのかもな。

 要するに、国産と外国産の違い……?」

「鬼の伝承は、確かに各地にあるし古典にも記載されていて不思議だよねぇ。人によっては、鬼の伝承は昔は珍しかった漂流した西洋人船乗りの見間違いだって言ったりしてるけど。

 それだけじゃ説明のつかない事も、いっぱいあるよねぇ」


 来栖家はまさに、そんな事態に家族ぐるみで遭遇したりしているけど。香多奈にしても、実はちょくちょく小鬼ちゃんと秘かに会って話をしているみたいで。

 たまに怒られたとか、何かアイテムを貰ったとかポロッと口にして家族を驚かしている。まぁ、こちらに危害を加えないと分かってからは、そんなに警戒はしていないとは言え。


 やはり異世界交流が知らぬ間に成されている事態には、背筋がヒヤッとしてしまう。例え毎日、異世界チームのムッターシャやザジと遣り取りをしているとしてもだ。

 それよりさっきの凍り付いた師団は、迷彩服を着込んでいてかなり強そうだった。もちろん銃も持っていたし、ドロップにはマガジンや手榴弾が混じっていた。


 敵の持っていた銃も、自動小銃と言うタイプだっただろうか。護人も詳しくは無いけど、オークやオーガが持つとまるでオモチャに感じてしまう。

 それでも弾を撃って来られたら、これ以上なく厄介には違いない。さっきも紗良の魔法が放たれるまでに、護人の盾にカンカン当たっていて割と怖かった。

 それで家族を守れたなら、それはオッケーな護人ではあるけど。


 パペット&ゴーレム兵団も、前衛陣が倒し終わってタイル張りの裏通りも一時の平和が訪れた。用心しながら、後始末的に魔石を拾ったり休憩をする面々。

 そんな中、魔石を拾っていたルルンバちゃんが新たな敵の接近に気付いた。丁度一番遠くに落ちた奴を拾っている最中で、近くには姫香と香多奈も一緒である。


 このフロアは、さすがに銃弾なんかのドロップが多くて、末妹にそんなモノを扱わせるのは危ないと言う事で。回収作業も、誰かがついて行うようにとの護人の通達に。

 今は姫香がその役を担っていたのだが、ヤバいエンジン音の接近に気付いて仲間に警戒を発する破目に。さすがにジープ程度であって欲しいと、視線を通路の先へと泳がすと。


 目に飛び込んで来たのは、それは立派な迷彩色の装甲車だった。それを見た姫香は、何となく戦車じゃなくて良かったかなと安堵のため息。

 末妹の香多奈に至っては、そんなのよりルルンバちゃんの方が性能は上だよと言わんばかりに。相棒のAIロボに向かって、波動砲発射と勇ましく命令を下す。

 そして放たれる一条の光線、そして装甲車の中央には大きな焼け穴が。


「いいよっ、ルルンバちゃん……何が乗ってたか気になるけど、喧嘩は先手必勝だからねっ! あっ、装甲車もモンスターだったのかな、魔石になっちゃった。

 ドロップを拾いに行こう、姫香お姉ちゃん」

「えっ、そうだね……」


 元お掃除ロボの呆れる剛腕振りに、二の句の継げない姫香である。当のルルンバちゃんも、何となく自分のしでかした事にビックリしているような。

 ただまぁ、リーダーの護人も何も言って来ないので良かったのだろう。向こうも呆れているだけかもだけど、少なくとも叱られる事は無さそうだ。


 装甲車のドロップは、防弾チョッキや迷彩服など数がそれなりに多かった。恐らく車の中にも、兵士系のモンスターが控えていたのだろう。

 そんなコントを後衛がしている間に、真面目なハスキー軍団は近場の探索を再開して。見事に次の層への階段を発見して、本隊へと戻って来てくれた。


 その成果を褒める姫香と香多奈も、いよいよ10層だよと気合を入れ直している。体調管理をしている紗良も、ペット達に怪我が無いのを確認し終えて。

 いざ、今日2度目の中ボスとの対戦へゴー。




 10層の途中に待ち構えていた兵士団も、それなりに手強くて大変だった。敵の中のオーガ率も半分くらいに増えており、その体格の良さは自動小銃がオモチャに見える程。

 バズーカ砲でも抱えていたら、相当にお似合いだっただろうけれど。そうなると、その砲口を向けられる側としてはたまったモノでは無いのは確か。


 敵の中には手榴弾を使って来る奴もいて、いよいよ1つの戦闘も過酷になって来た。ハスキー達も、それを感じて遠慮せずに派手なスキルを使い始めて。

 あっちで炎が上がったと思ったら、向こうでは影の落とし穴に消えていく敵兵と言うカオス振り。巨大化したコロ助は、敵のヘイトをとって《防御の陣》での完璧防御。


 茶々丸と萌も、騎乗スタイルでの一撃離脱を繰り返して敵を翻弄している。猪突猛進の茶々丸を、萌が敵の射線から逸れるように巧みに操ってくれており。

 その点ではナイスコンビには違いなく、キル数も順調に伸ばしている。


 そんな道中の襲撃チームから、補給セットのドロップが。“戦艦ダンジョン”でもお馴染みのレーションから予備弾丸、応急セットや薬品類が少々。

 硬化ポーションも出て来て、この補給には紗良もとっても満足そう。大激戦の後は休憩を挟んで、さて中ボス部屋はどこだろうって問題に。


 あの建物が怪しいかもと、末妹が指差したのはシアター劇場だった。6層からの道中でも、何度か入って宝箱が置いて無いか確かめた施設だったけれど。

 そう自信をもって言われると、何となくそんな気もして来た家族一同だったり。ハスキー達も充分に休憩を取って、それじゃあ確かめに行こうと先陣を切って動き始める。


「まぁ、あの中が中ボス部屋だとしたら、最悪戦闘ヘリや戦車は出て来ないよね、護人さん。この前の“戦艦ダンジョン”は、本当に酷かったもんねぇ」

「とは言え室内での銃撃戦も、こっちは慣れてないから嫌だな。逃げ場が無いのにパンパン撃って来られたり、最悪さっきみたいな自爆ドローンを放り込まりたりとか。

 紗良と香多奈は、ルルンバちゃんの影からは出ないようにな」

「了解、ちゃんと守ってねルルンバちゃん! あっ、ハスキー達が反応してるっ……やっぱりこの中に何かあるっぽいよ、一緒に入ろうっ!」


 香多奈の音頭で、勢い付いて洋風のシアター劇場へと突入する来栖家チーム。護人が代表して大きな両開きの扉を開けると、壇上には敵の精鋭チームらしき物影が。

 そいつ等が中ボスで間違いは無さそう、特に大柄のオーガは物凄い近代装備を着込んでいる。やや場違いに見えなくもないけど、ボスっぽい雰囲気は出ているので問題は無いとも。


 その中ボスの号令で、一斉に多種多様な部下たちがこちらへと攻撃を仕掛けて来た。行儀よく並んだ座席を障害物にして、さて局地戦のスタートである。

 対する来栖家チームも、無敵のルルンバちゃんを前面に立てて迎え撃つ構え。それに加えて、コロ助の《防御の陣》を盾にしてハスキー軍団が右辺から。


 その反対側からは、『圧縮』スキルを頼りに姫香と萌が敵と対峙している。中央からは遠慮なく、紗良とルルンバちゃんの必殺技が敵の大将に見舞われるけど。

 中ボスのオーガ大将は、どうやら防御スキルを持っているらしく何と両方の攻撃を弾かれてしまった。芸達者と言うか、これだから獣人タイプは侮れない。


 ショックを受けているルルンバちゃんを叱咤激励し、みんなのサポートをするよと香多奈の『応援』飛ばしに。場は一気に過熱して、あちこちで銃弾&スキルが飛び交う。

 そして案の定、発見されるネズミ型の自爆ドローン兵器が幾つか。それを《心眼》で目敏めざとく発見して、戦場からの素早い処理を指示する護人。

 そのお陰もあって、今の所は大崩れする地点は無さそう。





 ――後は芸達者で手強そうな、オーガ大将を討伐するのみ。







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