第512話 基地エリアを寄り道しながら潜って行く件



「こうして見ると、ここって外国の町並みって感じがするよね、護人さん。まぁ、外国なんていっこも行った事は無いけどさ。

 そう思ったら、これも社会勉強なのかもね?」

「向こうの銃社会に触れる良い機会なのかもねぇ、かなり怖いけど。アメリカとかだと強盗とか犯罪には必ず銃が関与するし、被害者も多くなる傾向があるよね。

 例えばアメリカでは銃の乱射事件が、50年間で1900件も起きてたんだって。犯人が学校に乗り込んで銃を乱射なんて話も、たまに聞いてたし。

 ダンジョンが出来た現在じゃ、オーバーフローの鎮圧に有効かもだけど」

「そうなんだぁ、でも敵も銃を持ってたら撃ち合いになっちゃわないかな。やっぱり日本の方が平和だよね、ダンジョンが出来てからの事は分かんないけど。

 私たちで頑張って、ダンジョン問題も解決したいね!」


 そんな事を口にする末妹に、姫香は笑ってそうだねと同意する。ちなみに外国のダンジョン情報も、暫定的にだが現在も入手は可能となっていて。

 それによると、日本と同様に“大変動”の初期は酷い有り様だったよう。外国は何故か大規模ダンジョンも多く発生して、被害も大型モンスターの流出で甚大となって。


 軍隊での対応は、日本よりはスムーズだったとは言え。町ごと消滅する都市もあったりと、全てをカバーするにはとても手が回らない状況が続き。

 6年が経過した現在も、間引きのシステムは依然として確立はしていないよう。よしんば強力な軍隊を持っていたために、民間の探索者に頼ると言う発想が出て来なかったせいかも。


 その点、日本人の発想はユニークで、ある意味オタク的な気もする。そんな気質が、しかし現在の協会の発足に役立ったのは言うまでもない。

 スキル書やオーブ珠によって、力の弱い者でもモンスターと対峙出来る能力を得る事が可能になって。しかも魔石を買い取る手段が確立されて、探索者で食って行けるように。


 現在は、力さえつければ一攫千金も夢ではない職業となっており。そんな認識も出て来て、若者の参入もボチボチ増えてきた結果。

 初心者の死亡率が上がっての、新たな問題も出て来てはいるのだが。協会もその辺は頭を痛めており、定期的に研修会を開いて対策を取っているようだ。


 去年の夏には紗良と姫香も参加した市内の研修は、今年も開催されるそうだ。その辺の話を協会の能見さんから聞かされている護人は、一応協力はしますとの約束は交わしている。

 そんな探索者チームの数だけど、やっぱりレイド作戦を遂行するには実力者の数は足りていないのが現状っぽい。護人としては、高ランクがもっと増えてくれて楽をしたいのだけど。

 次の予定の“秋吉台ダンジョン”の探索者チームも、不足していて大変との事。


 香多奈の壮大な目標はアレとして、その後も街角からは単発的に敵襲が。どいつも拳銃かナイフを所持しており、たまに弾丸のドロップが倒した敵から。

 今の所はパペットとゴーレムばかりで、萌のハンマー所持での前衛も特に問題無し。コロ助と共に、硬いゴーレムのキル数をどんどん伸ばして行ってくれている。


 そんな6層だけど、途中でお邪魔した食堂やシネマ館の建物内には宝箱の設置は無かった。残念がる香多奈だけど、そんな建物の探索中に7層への階段を発見して。

 無事に次の層へと到達した来栖家チームは、毎度のフォーメーションで探索を始める。この基地エリアは、密林エリアに較べると移動は遥かに楽で見通しも良いけど。


 逆に言うと敵モンスターにも見付かり易く、銃の射線も通っている事を意味する。現に今も、突然の射撃音にビクッとなる来栖家チームである。

 パペット兵などのゴーレム系モンスターは、他の敵に較べて気配だとかが鈍く出来ているので。幾らハスキー達でも、遠くに配置された連中の認識は難しい様子。

 幸い弾は外れて、反逆の疾風が連中に襲い掛かる。


「び、ビックリしたぁ……急に遠くから狙われるって、心臓に悪いよ」

「本当だね、紗良お姉ちゃん……機関銃じゃ無くて良かったよ、怖いコワい!」


 保険として硬化ポーションを飲んでいても、当たり所が悪ければ大怪我になってしまう。慎重に進んでいたって、小さな気の緩みから事故に繋がる可能性も。

 護人も改めて気を引き締め直して、後衛の防御に徹する構え。死角の多いこの建造物だらけのエリアでは、それもなかなかに難しいだろうけど。


 盾を持っているのは護人だけだし、ルルンバちゃんも手伝ってくれる筈だ。前衛陣も敵を見付けたらすぐに殲滅に動いてくれるし、フォローは充分だ。

 今も銃を撃ったパペット兵は、レイジーの怒りの『魔炎』によって消し炭にされてしまった。一緒にいた兵士たちも、ツグミとコロ助がスキル技で粉砕して。


 このエリアでは、MPをケチってスキル技を温存するのは得策ではないと気付いた模様だ。敵が遠距離攻撃の手段を持っているなら、こちらも積極的に遠距離で潰して行く方が安全だ。

 その辺の選択は間違えない、賢いレイジーとその子供達である。茶々丸や萌は良く分かってないようだけど、全力で攻撃する雰囲気は伝わった様子。



 そんな訳で、この層の戦闘は割と派手に進行して行った。前衛陣の積極的な遠隔スキルの使用に、初見のオーク兵士たちは出て来るなり退場の憂き目に。

 彼らも一丁前に、迷彩服を着込んでいてそれなりの人数を揃えていたのだけれど。茶々丸の突撃を受けて陣形が乱れた所を、ハスキー達に順次駆逐されて行って。

 見せ場も無いまま、即刻退場して行く運命に。


 そんな感じで狩りは順調だけど、宝箱の捜索はこの層でも不発に終わって。シアター劇場で古い映画のパンフの類いと、古いディズニーのDVDを数枚入手出来たくらいだろうか。

 オークの兵隊は、高確率で銃の弾丸もドロップするので岩国の協会も喜んでくれそう。これらの回収も、間引きと同様に突入前に頼まれていたし。


 そう言う意味では、しっかり任務を果たしている来栖家チーム。複合ダンジョンだと構えていたが、道中は広域ダンジョンとそれほど変わりは無いみたい。

 そして7層の探索も20分が過ぎた頃、ようやく次の層への階段を発見した。それはフェンス仕切りの通りの奥まった所にあって、発見が困難だったのだけど。


 さすがハスキー軍団の嗅覚である、通りの安全確保もバッチリで抜かりなし。半ダースほどいたパペット兵&銃持ちゴーレムを粉砕して、通りの先で後衛陣を待ってくれている。

 ただやっぱり、このエリアの攻略にMP消費は激しい模様。


「護人さん、次の層に行く前にMP回復休憩を挟んでいいですか? 香多奈ちゃんは、ルルンバちゃんの魔銃の弾のチャージをお願いね。

 硬化ポーションの持続時間は、まだ大丈夫かな?」

「あと30分は平気だと思うけど、少し早めに飲み直すくらいがいいかもね、紗良姉さん。“戦艦ダンジョン”だと、後半はドローン兵やもっと強い現代兵器が出て来てたけど。

 ここも確か、前もっての動画チェックだと酷いのが出て来そう」

「ふぅむ、それじゃあ陣形を交代しようか……姫香は下がって、ルルンバちゃんと後衛の護衛についてくれ。次の層から、俺が前に出る事にしよう。

 萌はどうする、引き続き前衛でも大丈夫かい?」


 半竜半人形態の萌は、小柄ながらもなかなかのパワーを有しており。装備の『立体機動』を駆使して敵をほふる姿は、なかなかのモノがあるとは言え。

 まだ子供の彼に、あまり大きな負担を掛けたくはない護人としては。姫香と一緒に下がって貰っても良いのだが、本人は前衛のままで良いらしい。


 ハンマーを両手持ちして、頑張るよのポーズをしてくれるのは有り難いけど。勇ましいと言うより、何とも可愛らしい仕草に見えてしまうのは如何いかがなモノか。

 それでも、コロ助もフォローしてくれるし平気だと思いたい。ちなみにレイジーは、茶々丸のフォローで手一杯。それでも前に出て来た主人に、嬉しそうに尻尾を振っている。


 姫香も一応納得してくれて、次の8層からはこの陣形で探索をする事に。久々の前衛だとは言え、それほど腕は鈍ってはいないと思いたい護人。

 “四腕”を発動しての、更には薔薇のマントのフォローにも期待しつつ。萌と一緒に、ハスキー達の後ろに並んで基地エリアのタイル張りの歩道を進んで行く。

 そして2分も歩かない内に、敵の気配を察知するハスキー達。


「おっと、またパペット兵士とゴーレムのペア……いや、地面を走って来るあれは何だ? ひょっとして、ネズミ型のドローン兵器?

 嫌な予感がするな、自爆とかしないだろうな」

「叔父さん、気をつけてねっ! あのチョロチョロ動いてる奴、絶対に爆発するよっ!」

「えっ、マジ? ルルンバちゃん、爆発する前に撃ち殺しちゃって!」


 良く分からないが、子供達もネズミ型のドローン兵器には不穏な空気を感じた模様だ。慌てて近付かれる前に排除しようと、作戦を練って騒いでいる。

 護人も同じく、先行しているハスキー達が爆破に巻き込まれたらコトである。何とかしないとと思っていたら、有能なルルンバちゃんが1機目を撃ち殺してくれた。


 そして巻き起こる、派手な爆発と子供達の悲鳴。確かにアレにはビックリした、ハスキー達も何事かと驚いて耳をそばだてているし。

 香多奈の予測は本当に秀逸、バッチリ敵の性能を見抜いて警告している。


 敵の自爆ドローンはあと2機ほどいて、前衛のハスキー達に1機、後衛方向へ1機チョロチョロと駆け寄って来ている。幸い速度はそんなに無いので、落ち着いての対応が吉。

 前衛はツグミが迅速に処分して、スポンと闇の中へと連れ去られてしまった。地面の奥の方から爆破音が響いて来たので、自爆は止められなかったみたいだけど。


 被害は全くのゼロで、さすが地味だけど優秀なツグミである。その逆に、騒々しくネズミ型ドローンを追い回す茶々丸は何も考えて無いようで怖過ぎる。

 それ爆発するからポイしなさいと、紗良や香多奈の必死のアドバイスに。角の先に器用に引っ掛けて、言われた通りにポイッと宙に放り投げる茶々丸は案外と素直なのかも。


 それを護人が『射撃』スキルで、空中での安全な爆破処理に成功した。こうして残りの2機は、こちらに被害なく処分出来てホッと一息の護人である。

 一緒に出て来た銃持ち無生物兵士団は、レイジーの指揮のもとにコロ助と萌で安定の瞬殺となって。敵の銃の射線から逃れて接近、そしてハンマーを振り上げて。

それから一撃で決めるルーチンも、すっかり手慣れた両者だったり。


「あっ、出て来た敵は全部倒しちゃったみたい……しかし香多奈、よくアレが自爆するって分かったわね。いよいよ本物だわ、アンタの予測スキル」

「本当だねぇ、でも危険の予測は本当に有り難いよね。みんなが怪我しないのが、やっぱり一番だからねっ♪

 香多奈ちゃん、その調子でガンバだよっ!」


 姉達に持ち上げられて、何とも微妙な表情の末妹の香多奈ではある。自分でも御し切れないスキルなので、その気持ちももっともなのかも知れないけど。

 どうせなら、お宝を漏れなく察知する方向に開花してくれないかなと、内心の本音はさて置いて。その後のハスキーが進んだ先には、売店らしき店舗を発見。


 それから訪れる幸せタイム……それほど大きな店舗では無かったけど、飲み物やチョコバーなどの品物が幾つか置いてあって回収し放題である。

 飲み物に関しては、噂のドクターペッパーが大量に置かれてあった。外人さんの味覚はアレだねぇと、姫香はやや批判的なモノ言いだけど。


 香多奈はアレ美味しいじゃんと、評価は人それぞれみたいである。ちなみに紗良は飲んだ事は無いそう、護人は敢えて評価を口にせず、姉妹喧嘩に火を注ぐ可能性が高いので。

 他にもポップコーンの袋やら、奥の方にはアロハシャツやサンダルが置かれていて。品揃えは奇抜だが、文句を言わずに回収に勤しむ子供達であった。


 ハスキー達はその近くに次の層への階段を発見してくれていて、今は家族の警護をしながら休憩中。子供達は、売店での回収作業にもう少し掛かりそう。

 時刻はもうすぐお昼で、そろそろ香多奈辺りが騒ぎ出しそう。





 ――そしてお昼が終わっても、もう少し探索の時間が続きそう。








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