第511話 5層の中ボスを撃破して新たなエリアへ向かう件



 ようやくの事、5層の中ボスの間らしき場所へと到着した混成チームである。これが終わったらお昼ご飯だと、盛り上がる子供達はさておいて。

 恐らくは大型の恐竜が待ち構えているから、まずは紗良姉さんの魔法からかなと作戦を練る姫香。その次はルルンバちゃんの波動砲ねと、結局はいつも通りの手順になりそう。


 つまりは遠隔攻撃のゴリ押しで、弱った相手に前衛陣で止めを刺すのだと。久し振りにシャベル投げでもしようかなと、姫香は余り緊張感も無さそう。

 逆に『シャドウ』の面々は、真面目な顔付きでとにかく壁役にはなろうと悲壮な覚悟。後衛陣の安全確保は、作戦の大前提だし文句など無いのだけれど。


 鬼島と舞戻に関して言えば、大型モンスターとの対戦などほぼ経験の無い事で。剣と銃で何とかなるのかなと、心配ばかりが先に立ってる様子。

 護人の楽にしてとの言葉も、楽に死ねと聞き間違える程で。ケタケタ笑う末妹の姿も、小悪魔にしか見えない精神状態は果たして健全なのか疑問である。


「そんなビビらなくて平気だってば……さすがの姫香お姉ちゃんでも、単独で大きい敵に挑めってけしかけたりはしないよ。

 コロ助や茶々丸なら、喜んで突っ込んで行くかもだけど」

「でも探索していると、普通に自分の倍以上のモンスターに遭遇するからね。この先も色んなダンジョンに潜る予定なら、少しずつ慣れてった方がいいよ」


 そんなスパルタな姫香だけど、巨大な敵に腕力で挑むのはコスパが悪いよねともっともな意見を口にして。取り敢えずはウチの戦い方を見ててよと、自信たっぷりに言い放つ。

 そして準備を整えての、遺跡風の中ボスの間へと乗り込む一行。そこで見たのは、背中の棘も立派なステゴザウルス型のモンスターが3匹だった。


 コイツ等は確か草食恐竜だっけと、護人の呟きに紗良が反応して。剣竜類の中では最大で、草食恐竜に間違いありませんねとスラスラと解説してくれた。

 それに思わず感心する末妹、剣竜類って何と続けての質問には。背中の棘と言うか剣状のヒレみたいな突起は、亀の甲羅的な役割で自身の保護の役割を果たすそうな。

 確かにアレがあると、肉食恐竜もかぶりつき難いかも?


「ステゴザウルスって、外国語をそのまま訳すと“屋根トカゲ”みたいな意味になるそうだね。別に子供を捨てる恐竜じゃ無いからね、香多奈ちゃん」

「あっ、そうだったんだ……酷い子育てする恐竜の代表格なんだと、ずっと思ってたよ」


 素直な香多奈の告白だけど、実は隣の姫香もそうなんだと感心の素振り。それはともかく、ハスキー達はさっさと戦おうよと催促を始める始末。

 幸い、草食恐竜がベースの中ボスたちは先制攻撃の素振りは無い。紗良が慌てて範囲魔法の準備を始めて、ルルンバちゃんも追撃の為に照準を合わせに掛かる。


 姫香も久し振りのシャベル投げの準備、それを見て呆気にとられる『シャドウ』のメンバーたち。どうやら古い動画は、あまり熱心にチェックしていなかったよう。

 そして紗良の魔法の気配に、さすがに相手の恐竜達もこちらを確認して反撃の気配。身体が大きいと痛覚も鈍るのか、ダメージを与えた反応もイマイチ。


 或いはそれが敵の特徴なのかも、半分凍り付いてルルンバちゃんのレーザー砲にあぶられつつ反撃する中ボスたち。背中の剣状のヒレが、発熱して赤白く発光していく。

 そこから放たれた雷撃は、恐竜とはまるで無関係な攻撃だった。追撃の姫香のシャベルも、何とその雷光に溶かされて呆気なく蒸発してしまった。

 あなどっていた訳ではないが、この反撃は熾烈しれつ過ぎ。


 コロ助が咄嗟とっさに《防御の陣》を張ってくれて、チームの被害は最小限に抑えられた。それでも周囲からは悲鳴が上がって、さすが中ボスのパワーは侮れない。

 接近戦さえしなければ、楽勝などとは大いなる勘違いだった模様。護人も何とか1体でも仕留めようと、紗良や香多奈をかばいながら思考を走らせる。


 その護人の思考を拾った薔薇のマント、この前覚えたランチャー形態へと変形しての反撃は素早かった。こんな時用に、空間収納には砲弾を幾つかストックしてあったようで。

 現代兵器での思わぬ反撃に、中ボスのステゴモドキは回避も出来ずに被弾する。そのダメージの蓄積で、手前の1体がようやく沈んでくれた。


「ひあっ、今どうなってるのっ!? 恐竜もやっぱりブレス吐くんだね、コロ助が防いでくれて助かったよ!」

「ブレスと言うか、さっきのは背中のヒレの帯電攻撃だったね。さすが中ボスモンスター、侮ってはいなかったけど遠隔攻撃も持ってたとはねっ!

 護人さんの反撃で1体倒せたから、ここから巻き返そうっ!」


 ポジティブな姫香の言葉に、ハスキー達も反撃の気勢を上げている。と言うより、怒ったミケが『雷槌』を放って、護人に続いての反撃を行っていたけど。

 さすがに向こうも雷属性なのか、倒すまでには至らなかったようだ。残った2体のステゴモドキは、その巨体を揺らしながら怒りの特攻を仕掛けて来た。


 地面を揺らすその接近に、鬼島や舞戻は悲壮な覚悟で前に出て盾になろうとしている。もっとも、敵の1体はミケの《魔眼》で急制動させられてしまったけれど。

 残りの1体は、再度のルルンバちゃんのレーザー砲で到達前に虫の息。遠隔での魔法の撃ち合いなら、まだ向こうにも分があったかも知れないのに。


 ようやく前衛陣に辿り着いたステゴモドキは、姫香とツグミのペアの止め刺しで呆気なく魔石になって行った。残った奴はレイジーが仕留めて、この中ボスの部屋の被害はほぼ無く終わる流れに。

 大物相手でも狩りの手順がキッチリしているのは、さすがA級チームと言えるかも。チーム内のペアでの助け合いも手馴れていて、不意の敵の反撃に慌てる事もない。


 その辺はさすがだなぁと、『シャドウ』チームのリーダーの三笠は感心する素振り。と言うより、明らかにこちらは実力不足で足を引っ張っている気も。

 取り敢えず5層をクリア出来たし、離脱するならこのタイミングだろう。休憩中にそう持ち掛けると、護人は少し考えて了承してくれた。

 命懸けの探索なのだ、引き際はとっても肝心である。



「そんな訳で、『シャドウ』チームとはここでお別れって事で。来栖家チームは、このまま敵を間引きながら取り敢えず10層を目指します。

 まぁ、ウチも合同探索はいい経験にはなったかな? 今度また“喰らうモノ”みたいな危険なダンジョンに潜る際には、他のチームの助けも必要になって来るかもだし。

 そんな訳で、お疲れ様でした」

「お疲れ様っ、ハスキー達が暴走してついて行くの大変だったでしょ? 取り敢えず、5層までのドロップ品は全部探索が終わってから山分けしようね。

 戻ったら、ゆっくり休んで頂戴」

「ハスキー達もね、新参者に負けるモノかって気合いが入り過ぎてたからね。普段はあんなんじゃ無いんだよ、ちゃんとチームとの距離を計算してくれるから」


 そんな言い訳を繰り返す姉妹だけど、本当はハスキー達のペースはいつも通りで。周囲がそれに合わせるのが、いつもの来栖家のペースだったりする訳なのだけど。

 あまり他のチームにショックを与えないようにと、口裏を合わせているのは姫香と香多奈の優しさなのだろう。何となく打ちのめされた表情の彼らは、傍目から見ても哀愁あいしゅうが漂っており。


 5層での余力を残してのリタイアに、何となく責任を感じてしまう両者であった。当のハスキー達は、痴れっとして次に早く進もうよって催促して来ているけど。

 その元気さが、今は邪魔で仕方の無い姉妹である。


 とにかく6層の階段を降りて行く来栖家チームと、帰還用の魔方陣を挨拶しながら潜って行く『シャドウ』の面々。護人も何となくバツの悪い思いをしつつ、探索を続けるのみである。

 ちなみに5層の中ボスからは、スキル書が1枚に魔石(中)が3個ドロップ。宝箱からは、鑑定の書やエーテルや上級ポーションなどの薬品類に強化の巻物が2枚ほど。


 それから恐竜の骨素材っぽいのが何本かと、剣竜のヒレ骨で出来た盾が1つ。盾持ちの護人としては、良い性能だったら欲しいなと思わず思ってしまう。

 それほどに外見は硬そうで、なかなかに良さそうな盾ではある。他には特に目ぼしい物も入っておらず、ちょっとガッカリしている香多奈はともかくとして。


 護人は『巻貝の通信機』で、別行動中の岩国チームへと進捗しんちょく報告を行ってみる。向こうは相変わらずの2チーム編成で、現在は“倉庫型エリア”の6層を攻略中らしい。

 それならこちらは基地の敷地内エリアでもいいねと、末妹は呑気な口調で言って来る。確かにずっと密林エリアも飽きるよねと、姫香も賛成してこちらのルートは決定の方向へ。


 その辺の事情と『シャドウ』チームの離脱を報告して、これでやるべき事は完了した。6層へと向かいながら、“基地エリア”の詳細を紗良に訊ねると。

 さすがに長女は、予習も完璧でスラスラと答えが返って来た。


「この“基地エリア”ですけど、広さはそれ程じゃ無いですね。ただしパペット兵やゴーレム、それから獣人タイプの兵士が銃で武装していて厄介だと言われてます。

 A級なので当然ですが、恐竜モンスター達よりある意味怖いですね」

「ウチは“戦艦ダンジョン”で経験済みだし、それほど怖がることも無いよ。硬化ポーションも持って来てるんでしょ、紗良姉さん。

 ハスキー達にも、一応は事前に言い聞かせておかないとだけど」

「そうだね、特に茶々丸にはしっかり言っておかないと。下手したら怪我じゃ済まないし、そもそも茶々丸は防御系のスキルは1個も持ってないんだもん。

 コロ助、しっかりサポートしてあげてね?」


 頼まれたコロ助は、尻尾を振って了解の合図をしてくれるけど。正直、戦闘中に理性が吹っ飛ぶ彼を信頼するのはちょっと怖いってのが本音である。

 それでも子供達の6層からは“基地エリア”を探索の方針は変わらない様子。そう告げると、ハスキー軍団は出現した密林を横断して近代地区を探し始めた。



 そして10分後には、無事に密林エリアを踏破して目的の“基地エリア”へと辿り着く事に成功。恐るべしハスキー達の嗅覚、ただまぁ恐竜との戦闘を2度ほど挟んだけど。

 インして以来の“基地エリア”は、整然としたタイル張りの外国風の街並みって感じ。あまり恐ろしい感じはしないけど、銃を持ったモンスターが徘徊するとなると話は別だ。


 高い建物は少なく、歩道だか車道だかの区別のない通路が目の前に続いている。見通しはそこそこで、どうやら建物内にも入れそうな雰囲気。

 階段を探すのに、建物内のチェックも必要となると探索も大変になって来そうではあるけど。ハスキー達の嗅覚があれば、まぁ大丈夫でしょとお気楽な末妹である。


 などと騒いでいると、さっそく敵影が出現して来た。紗良の予習通りの、パペット兵士と銃装備のゴーレムのセットで、パペット兵士はアーミーナイフを装備している。

 それを発見した、硬化ポーションで強化済みのハスキー達は戦闘モードのスイッチオン。疾風の如く接近して、あっという間に接近戦へと持ち込んで行く。


 そして今回もコロ助のハンマーで、銃持ちゴーレムはその武器を使う暇も無く撃破されて行き。奴らへの対処法は、ハスキー軍団もしっかりと覚えている様子で何より。

 出遅れた茶々丸は不服そうだけど、護人的にはホッと胸を撫で下ろす。それからルルンバちゃんにも、銃持ちモンスターは率先して倒すよとの念押し。


 護人の弓矢では、パペットやゴーレム相手だと致命傷には至らないけれど。ルルンバちゃんの魔銃なら、何とか1発でパペット兵士相手なら討伐が可能な筈。

 ゴーレムだと、また話が違って来て倒すのには苦労しそうだけれど。護人は代案として、萌に予備武器の『土竜のハンマー』を渡しての前衛強化。

 ガッチリ鎧を着込んだ彼なら、何とか安心して見ていられると。





 ――密林エリアに続いて、このエリアでも気苦労は絶えなさそう。








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