第510話 密林エリアの恐竜が段々と狂暴化して行く件



 その後一行は、2層を普通に突破して現在は3層の探索中である。懸念されていた2チームでの共同探索は、今の所は何事もなく進んでいる。

 ただし宝箱の類いは全く無くて、香多奈はちょっとつまらなそう。ハスキー達の拾って来る魔石に関しては、魔石(極小)に対して魔石(小)の数も3割以上混じっていて。


 伊達にA級ランクじゃ無いなって感じで、全く油断は出来ないって感じだ。とは言え、今のフォーメーションは上手く作動しているので、いじる予定は無いけど。

 『シャドウ』の面々からも不満は出てないし、むしろこの探索速度に戸惑っている感も。こんな見通しの悪い密林を、この速度で進むのは常識なのかなって感じて。

 そんな視線に、敢えて無視して何事も無いかのような表情の護人である。


「さて、お昼までに5層の中ボスを倒してしまいたいな。他の2チームも順調みたいだし、こちらも足並みは揃えて行かないと。

 ハスキー達もまだまだ元気そうだし、大物が出るまではこのペースで行こうか」

「大物が出るのは確定なんですね、護人さん……犬達はともかく、人間には酷な速度だと思うんですが。そもそも『ヘブンズドア』と『グレイス』は、障害物の無い米軍基地の敷地エリアの探索ですよ。

 そちらと歩調を合わせるのは、もともと無理があるような」

「でもあっちのエリアの敵は、銃とか持っててそれなりに大変なんでしょ? それなら進む速度も負けていられないよっ、もちろん宝箱を見付けた数もねっ!

 なのにこっちは、まだ1個も見付かって無いって最悪っ!」


 そういきどおる少女に、汚い言葉を使うんじゃありませんとリーダーのツッコミが。議論する場所はそこでは無いと思うのだけど、本当に良く分からないチームである。

 三笠と笹野は、今は再び来栖家チームの後衛陣と合流しての探索中である。さっき鬼島&舞戻のペアをサポートしようと前掛かりになって、そのせいで酷い目に遭ったのだ。


 すかさず護人とルルンバちゃんに救助されて、一応は無事に危機を乗り越えられたけれど。話し合った結果、位置取りは元に戻して進行する事に。

 それを受けて、鬼島&舞戻のペアもやや中段の位置に修正する事に。元々、この茂みだらけの密林をハスキー達の速度でついて行くのは相当な苦行である。


 ペット達はその点、茂みなど全く苦にせず移動が可能である。姫香とツグミのペアは、ツグミが《闇操》の能力で邪魔な茂みを排除してくれており。

 後衛陣は、ルルンバちゃんが草刈り能力で率先して道づくりをしてくれる優秀さ。下半身を魔導ゴーレムのパーツに替えた現在も、彼は草刈り&吸引能力は手放したくなかったようで。


 《合体》能力を駆使して、魔導ゴーレムの空いたスペースにそれらを取り入れている次第である。しかも駆動エネルギーは魔石頼りなので、意外と静かで目立たない。

 これなら、騒がしくして敵を招く事態も抑えられる。


「便利だねぇ、ルルンバちゃん……いつも家の敷地内の、草刈りのお手伝いしてるから手馴れてるし。これで密林の移動も、随分楽になってるよっ!

 本当に助かってるよね、叔父さんっ」

「そうだな、敷地内の草刈りもルルンバちゃんのお陰で、効率が随分アップしてるしな。今度また、ダンジョンの隠れ里にメンテに連れて行ってあげなきゃな。

 働くだけじゃなくて、機能の充実も進めてあげなきゃ」


 これ以上強くなるとどうなるのかなと、楽しみで仕方なさそうな末妹はともかくとして。前衛の3組は時折戦闘を織り交ぜながらも順調に密林を進んで行く。

 そしてしばらく後に、レイジー組が密林に侵食された遺跡跡地らしきものを発見。壁や天井は半分以上が崩壊していて、石造りの名残りだけの場所も多い。


 一応は元は建物だったと、分かる程度には面影は残しているけれども。踏み込むにはちょっと勇気がいりそう、何故なら強そうな獣人が周囲にたむろっていて。

 そいつらは体格もコボルトやオーク兵よりずっと良くて、しかも顔が恐竜のそれと言う。恐竜タイプの獣人は、この“岩国基地ダンジョン”の名物モンスターらしい。


 そんなやからが、遺跡内にグループを作ってうろついているのだ。しかも大抵は良さそうな装備を着込んで、手にはハンマーや蛮刀を持っている。

 それを見た来栖家チームの反応は様々、変な所に出ちゃったなと慎重になる前衛の姫香はまだマシで。レイジー組は、問答無用でその連中にさっそく喧嘩を売っていた。

 それに釣られて、あちこちから敵の影が出現して来て。


 ここにはお宝の匂いがするよと喜んでいた、香多奈も大慌てで『応援』を飛ばし始める。つまりは前衛と後衛の距離は、この新エリアを前に結構詰まっていて。

 レイジー組をフォローしようと、右翼の鬼島と舞戻も戦闘に突入。こちらも恐竜タイプの獣人2体とのマッチングで、体格の差は傍から見ても歴然としている。


 それに少々遅れて、姫香とツグミのペアもラプトルの群れとの遭遇戦を開始。数の多さに、咄嗟に萌をフォローに向かわせる護人なのだが。

 遺跡内からも例の獣人が新たに出現して、護人自身も前へと出向く事に。大わらわの状況だけれど、残された紗良や香多奈に焦りは無い。

 むしろ、末妹はルルンバちゃんによじのぼっての迷指揮振り?


「紗良お姉ちゃん、空からも翼竜が来てるから魔法で撃ち落としてっ! ルルンバちゃんは、波動砲と魔銃でこの位置からのサポートを頑張って!

 萌も頑張れっ、相手はすばしこいよっ」

「香多奈ちゃん、そんなに興奮したら危ないよっ? でもルルンバちゃんに乗ってるのはいいかも、危なくなったら素早く逃げれるからね。

 護人さんも前衛のフォローに出ちゃったから、私とルルンバちゃんで香多奈ちゃんを守らなくちゃね!」


 何とか一撃で翼竜を撃退した紗良は、そんな感じでルルンバちゃんに語り掛けて。それに上機嫌で応じる彼は、時折魔銃の弾の補充をせがみながら敵の駆逐に余念がない。

 『シャドウ』の面々も、後衛のサポートを得て前線を維持出来ている様子。そこに新手の大蛇モンスターを始末した護人が駆けつけ、事態は徐々に収束に向かい始める。


 そして数分後には、モンスター達の波状攻撃は完全に終焉した模様。荒い息を継ぎながら、鬼島と舞戻のペアはその場にへたり込んでいるけど。

 ハスキー達はまだまだ元気で、修練が足らないなって表情で落ちた魔石を拾っている。それを手伝う護人も、ご苦労様と若いペアに言葉を掛けてねぎらいながら。

 休憩の支度を、後衛陣に語り掛けている。


「護人さんっ、遺跡の奥の崩れかけた部屋に次の層への階段があったよ! ついでに宝箱も見付けたから、こっちで回収しておくね。

 萌は後衛と合流してていいよ、戦闘ご苦労さまだったね」

「あっ、宝箱あったんなら私も見に行くっ、姫香お姉ちゃんっ!」

「もうっ、香多奈ちゃん……仕方ないからついて行ってあげて、ルルンバちゃん」


 休憩を告げられたと言うのに、何故かドタバタしている後衛陣ではあるけれど。タオルや飲み物を用意しながら、慌しい紗良はそれでも心配こころくばりを忘れない。

 護人もそれには、敢えて何も触れず……ハスキー達も気を抜かず周辺警護をしてくれているし、まぁ問題は無いだろうと。それより、同行している『シャドウ』の面々のケアもしなければ。


 確かに彼らは若くて戦闘力もあるけど、探索に必要な持久力は少し物足りないかも。まぁ、その辺は経験だし、来栖家チームだって最初の頃は半日の稼働が精々だった。

 5層の攻略もやっとだったし、それが数をこなすにつれて徐々に体力もついて来たのだ。或いはレベルアップによる恩恵かもだが、今では数時間の探索でも疲れ知らずだ。


 ただし、瞬間的なパワーの放出を何度もこなすと、どうしても疲労は大きくなって来る。子供達に関しては、後半は集中力が持たないのも護人は知っている。

 これも何度も探索してのデータで知り得た情報、そうやってチームは強化されて行くのだ。『シャドウ』にしても、場数を踏めば良いチームになる筈だ。


 とは言え、それには周囲のフォローや生き残る運が必要なのも大いなる事実で。護人も責任の一端を感じながら、立ったまま周囲に気を配っている。

 姫香と香多奈は、宝箱の中身を嬉々としてチェックしながらの回収作業中。中身は鑑定の書やポーション類、それから木の実や魔玉(火)などのありふれた品ばかりで。


 それに混じって、重オーグ製の斧や久々の虹色の果実が2個と当たりも少々。後は良く分からない骨素材や、化石の類いが幾つか入っていた。

 ツグミとルルンバちゃんが見守る中、それらを鞄へと回収して行く姫香。そんな姉に、今日はずっと2チームで廻るから、たくさん宝箱を回収しないとねとまくし立てている末妹である。

 つまりは、いつもの2倍は見付けないとダメな計算みたいで。


「アンタね、そんなの無理に決まってんじゃん……人数増えても、殲滅時間が極端にはやまる訳でも無いし。ガメつい事言ってないで、2チームで潜る練習だって割り切らなきゃ。

 そうだよねぇ、護人さんっ?」

「そうだな……ぶっちゃけ“喰らうモノ”ダンジョンの再挑戦の際には、ウチのチームだけじゃ不測の事態に対応出来ない可能性があるからね。

 協会や岩国チームとも話し合って、適性判断の側面もある事は間違い無いよ」


 そうだったんだと、何となく感心模様の末妹の返事はともかくとして。協会からそんな話も聞いていた『シャドウ』の面々は、このチームについて行けるかなとかなり不安そう。

 最初の頃にあった若さゆえの自信は、戦闘速度を比較されるにつれてどんどん喪失して行き。この化け物染みたペット軍団は何なんだと、理不尽な恐れも抱き始め。


 その規格外のペット軍団は、子供の香多奈の言う事をきちんと聞いて従順ではあるけれど。人の言葉を完全に理解しているのが、逆に空恐ろしく感じてしまう。

 彼らが反逆を起こせば、人間など軽く蹂躙されてしまうのではないかと。ところが来栖家の人たちは、そんな感情を毛ほども見せない豪胆ごうたん振りで。


 いや、そんな事になるなんて夢にも思っていないのだろう。ペット達は完全に来栖家の一員で、そこには種族の垣根など存在していないのだ。

 今もハスキー達は完璧なフォーメーションで、休憩中の家族の護衛に勤しんでいる。猫のミケだけは、紗良の肩の上でのんびり寛いでいるけれど。

 それもまた、信頼の証なのかも知れない。




 そして束の間の休憩後、変則的な2チームでの探索は4層へと向かって行く。通信の結果、向こうの岩国2チームとは少し遅れているようだけど、一応は順調な進み具合いである。

 お昼までには5層の中ボスを撃破したいねと、子供達は呑気に盛り上がっているけれど。今回の恐竜エリアでは、どんな中ボスが待ち構えているやら。


 チーム『シャドウ』の面々も、この密林エリアの中ボス戦は実は初らしい。地元のダンジョンとは言え、何も好んで面倒なエリアに向かう事は無いので。

 だからここの中ボスと対するのは、恐ろしくもあるし怖いモノ見たさの感情も少しだけある。とは言え、剣や銃器でどうにかなる体格差では無いのも事実で。


 どうするのかなと考えながら、4層は普通に突破してしまっていた。今回もラプトルと恐竜タイプの獣人がわんさか出て来て、大変なエリアではあったのだけれど。

 後衛の術者1人と1匹が戦闘参加すると、あっという間に範囲攻撃で敵が魔石へと変わって行く。来栖家チームが温存している戦力は、いざと言う時にとっても効果的で。

 確かにこれなら、中ボスの大型恐竜も怖くないかも?


 今回も崩れかけた遺跡を少しだけ彷徨さまよって、次の層への階段を発見して。いよいよ中ボスの待つ5層に挑戦だと、香多奈の浮かれた叫び声が響く中。

 やっぱり張り切っているハスキー達を先頭に、次々と階層を降りて次の層へと降り立って行く。それから早速、中ボスの間を探して元気に歩き始めるレイジー達。


 そして20分後には、何とかそれらしき遺跡の門を発見。この層も遭遇戦は割と過酷で、恐竜タイプの獣人がラプトルに騎乗して襲い掛かってきたりして。

 この機動力に対抗するのは、人間の身ではとっても大変で。ハスキー達が頑張ってラプトルから倒してくれていたので、とっても助かった次第である。


 翼竜タイプの敵も、密林の中だと言うのにしつこい位に襲撃して来て。蟲型の古代モンスターの数も多くて、距離を進むのが大変だった。

 お陰で魔石はたんまり稼げたので、その点は嬉しかったねと素直な香多奈の感想に。『シャドウ』の面々は、いっそ殺してくれと言う疲れ切った顔付きで返事もない有り様。

 正直、A級ランクの探索者の戦闘ペースを舐めていた。





 ――そもそも、ペット達と張り合おうとするのが無謀なのかも?






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