第509話 しばらく密林地帯を進む事に決める件



「ええっと、来栖さ……護人さん、我々の方からも先行戦闘チームを出した方が? 一応はそちらの作戦に従いますけど、少しは役に立ちたいかなと。

 鬼島と舞戻はそれなりの腕前ですから、前に出しても良いでしょうか?」

「ああっ、それじゃあ右辺の探索を頼もうかな? 姫香、『シャドウ』チームに右辺の先行探索を頼むから、姫香は左辺を集中してくれないか。

 レイジー組には、このまま中央を頼もう」

「了解っ、行くよツグミ……今日は後衛も多いから、萌も前衛に来て貰おうか、護人さん?」


 向こうのリーダーの三笠みかさの提案に、それは良いねと護人は返事をして。2チームでの、探索編成の振り分けを着々と進めて行く。

 そして決定された3組に、ペースは遅めで頼むとの言葉を掛けて探索はスタート。


 心得たとばかりに進む、中央のレイジー組はコロ助と茶々丸がサポートを担っており。左辺は姫香とツグミと、それから萌のトリオで進む事に決定した。

 それから右辺は、『シャドウ』チームのアタッカーの鬼島と舞戻が担当する流れに。何チームかで合同探索の経験は、来栖家チームも何度かあるので戸惑いも無い。


 ハスキー達的には、獲物を取られてなるモノかって感じで意気は高めをキープ。そのせいか、気を抜けば後衛組との距離は段々と離れ気味に。

 そして最初の敵との遭遇は、やっぱり中央のレイジー組だった。対するのはラプトルの群れで、どうやらここは恐竜タイプのモンスターが出現するらしい。


 そんな気がしたよと、左辺の姫香は呑気に観戦モードで手出しはしない模様。戸惑う『シャドウ』チームだが、後衛の護人達も特に支援はしないのを見て驚き顔に。

 それでも戦闘音を聞きつけて、空から飛来した飛竜の相手は受け持つようで。護人とルルンバちゃんで次々と撃ち落とす速度に、完全にド肝を抜かれている。


 そしていつの間にか、最初の戦闘も終わって再び進み始めるレイジー組であった。隣の三笠は、完全分業パターンですかと護人に訊ねて来るも。

 こんな浅い層で、慌てる程じゃ無いよねとの末妹の突っ込みに。軽く頷いて、ハスキー達を戦闘でガス抜きさせないとねと、護人は通常モードをアピールする。

 つまりは、これが来栖家のいつもの探索パターンだと。


「ハスキー達にもプライドはあるし、自分の持ち場はきっちりこなすって言う気概は尊重しないとな。逆に言えば、長丁場なんだから対応は各自でした方が効率が良い。

 そっちも、ペース配分には充分気をつけてくれ」

「な、なるほど……了解しました、さすが探索についてはベテランですね」


 そんな三笠の返しに、ウチはまだ探索1年ちょっとのキャリアなんだけどなと、護人は微妙な表情。そう言う『シャドウ』チームこそ、何と言うか不気味な底の深さを秘めているようで。

 同行するのに異を唱えなかったのも、それなりの実力をみ取ったからに他ならない。その辺の感覚は、ムッターシャに鍛えられたせいか鋭くなった自負のある護人である。


 それにしても、さすがに広いエリアを誇る3コア複合ダンジョン。そのせいで、幾つも下の層へのワープ通路は存在するって話は、突入前には聞いてはいるモノの。

 それをこの密林エリアで探すとなると、なかなか大変でハスキー達の鼻に頼るしか無いのが現状である。とか思っていると、再び前方で戦闘の気配が。


 今度は鬼島&舞戻ペアも、敵と対面しているようで激しく遣り合っている戦闘音が。すかさず笹野が遠距離武器でサポートに入ろうとするが、密林が邪魔で射線が取れない。

 これには同僚の三笠も慌てるが、護人の指示は至ってシンプルで。フリーの姫香組がサポートに向かったから、こちらは慌てず後衛を押し上げて行こうと。

 事実、前線はそこまで慌てる必要も無い状況で。


 レイジー組の方にアルマジロ型の恐竜が3体、鬼島&舞戻の方に2体出没した程度だった。ただし、戦闘音を聞きつけて新たに接近中の恐竜の群れがいる模様で。

 そいつ等の足止めを頼まれたルルンバちゃんは、勇んでそちらの方向へと向き直る。つまりは後方寄りからの襲撃だったけど、《心眼》の冴える護人にはバッチリ視えており。


 その撃退にしても、護人も戦闘に参加して時間を掛けずして終了してしまった。ルルンバちゃんの前衛能力は、滅多に使わないけど錆び付いてはいない様子で何よりである。

 そう末妹に褒められて、ウキウキ模様のルルンバちゃん。香多奈と一緒にドロップ品を拾いながら、魔石もちょっと大きいサイズがあるのを見て浮かれている。

 何とも人間臭いAIロボだが、何故か精神年齢は低い模様。


「あっ、護人さん……たった今『ヘブンズドア』チームから連絡が入りました。向こうは、次の層へのワープ魔方陣を発見した模様ですね。

 休憩後に2層へと、『グレイス』チームと進むとの報告です」

「了解、こっちも間引きは順調だけど特に報告する事も無いかな。それにしても1層からモンスターの数が多いけど、ひょっとして密林エリアのせいかな?

 今度は樹の上から大蛇が来てる、飛行タイプも混ざってるから気をつけて!」


 巻貝の通信機で会話をしていた三笠は、護人の言葉に慌てた様子で戦闘準備に入る。今回に限っては、前衛だけでなく後衛陣も戦闘が忙しくて大変だ。

 立ち向かおうとした笹野だったけど、それより先に紗良の《氷雪》が発動してくれて。いかにも寒さに弱そうな変温動物、大蛇はそれを浴びた時点でノックダウン。


 意外と機動力のある飛竜の群れも、半数が範囲に入って墜落してくれた。ソイツ等の止めを刺す笹野と、討ち洩らしを弓矢で追い詰めて行く護人。

 出遅れたルルンバちゃんも、魔銃を放ってなかなかの撃墜率を示して行き。何より香多奈の声援に、1層でいきなりヤル気マックスのAIロボである。


 その甲斐もあって、様子を見に戻って来た姫香組の出番は全く無しの結果に。向こうも大ネズミや大ゴキブリの小さな襲撃があったようで、本当に雑魚とは言え敵の数が多い。

 三笠は密林エリアを好んで進むチームがいないせいかもと、その原因を分析するけれど。間引きするには丁度いいよねと、子供達は至って呑気な返答である。

 ついでに姫香からも、レイジー組が空き地を見付けたよとの報告が。


「多分だけど、ワープ魔方陣もあるんじゃないかな? 変な仕掛けや敵の待ち伏せは無いみたい、このまままっすぐ進めば自然とつくよ、護人さん。

 『シャドウ』の前衛も、今は一緒にそこにいるよ」

「了解……ご苦労様、姫香。それじゃあこっちも移動して、前衛陣と合流しようか。それから少し休憩して、次の層に向かおう」

「は~い……それはそうと、レイジー達はちゃんとドロップ品拾ってくれてるかなぁ? ツグミは問題無いけど、レイジーはそう言うの苦手だよね」


 来栖家のエースのレイジーに文句を言うのは、世間広しと言えども末妹くらいのモノかも。護人は犬の手はそんな風には出来てないからねと、フォローしながら先へ進み始め。

 三笠も同じく、自分のチームもドロップ品の確保は万全ですと何故か説明口調で。変なあら探しをされたくないと、その瞳は雄弁に語っている。


 そんな顛末をはさみながら、無事に前衛と後衛は姫香の言う空き地で合流を果たした。そこにはちゃんとワープ魔方陣があって、他には特に目立つ物は無し。

 それじゃあ小休憩に入ろうかと言う護人と、魔石を拾ってない文句をレイジー組に述べる香多奈に。冷や冷やしながら、それを離れた場所で窺う『シャドウ』の面々だったり。


 紗良が何とか取り成してくれて、魔石の件は曖昧になったけど。それから恒例のペット勢の怪我チェックをするも、幸い負傷した者はいないようで何よりだ。

 姫香もMP回復ポーションを用意して、ペット達の回復のお手伝い。もっともまだ探索は始まったばかりで、各々そんなに消費してはいないけど。


 完全に寛いでいる来栖家チームに較べて、『シャドウ』の面々はどこか居心地が悪そう。舞戻のみが、紗良の肩に乗っかってるミケを眺めて幸せそう。

 そんな彼女を、熱心に撮影する香多奈と言う。まぁ、今回の依頼内容には沿っているので、誰も何も言わないけど。絵面を見ると、かなり変で緊迫感の欠片も無い。

 それも来栖家クオリティ、慣れて貰うしかないなと達観する護人である。




 それから第2層へとワープ移動を経て、改めて周囲を見直す一行。1層と違ってどちらに向かうかの指標も無いので、迷子になりそうで怖いけど。

 ハスキー達はそうでも無さそうで、さっさと進むべき方向を定めた様子。出発するよと主に目で合図して、それからさっきと同じ配列で進み始める。


 レイジーの出発を見て、姫香もリーダーに声を掛けて前衛位置で出発する。『シャドウ』の面々も同じく、ただし今度は後衛も少し距離を空けてついて行くようだ。

 先ほどの戦闘の修正を経ての配置らしく、その点は護人も変に口出しをしない事に。チームにはそれぞれやり方はあるし、彼らの後方防御は自分達がすれば良い。


 そして2層のモンスターも、やっぱり恐竜タイプが多くてラプトルが高速で近付いて来る難関エリア。他にもアノマロカリスとか三葉虫とか、やたら大きな節足動物も茂みからワラワラと出て来て割と大変。

 さっきの大ゴキブリも酷かったが、コイツ等も見た目の衝撃は似たり寄ったりだ。ハスキー達はほぼ顔色を変えず、いっぱい出て来たなと殲滅に精を出している。


 その中でも、特に茶々丸のひづめアタックは地を這う連中には容赦のないレベル。さっきの大ゴキブリもそうだったけど、華麗なステップで次々と敵を魔石に変えて行く。

 その戦闘スピードは、茶々丸にしては上出来かも。


 少なくとも一緒に組んでるレイジーは満足そう、自身は『針衝撃』で敵を弱らせてのサポートに徹している。しばらくそんな感じて戦ってると、敵はいつの間にか全て消えていた。

 後方からも戦っている気配を感じるが、レイジーに特に焦った気配は無し。雑魚モンスターで崩れるようなチームでは無いし、家族の強さは信頼している。


 しばらくは気配を読んで歩みを止めていた前衛陣だったが、無事に戦闘音が止んだのを見計らって。再度出発を始めて、目的地の確定に勤しむレイジー達である。

 彼女たちの仕事は、そこまでの安全路の確保に他ならない。こんなに障害物が多いエリアだと、完全に敵の群れを排除するのは不可能だけど。


 なるべく大物は仕留めて行く予定だし、チームの安全には気を配っているレイジーである。ただし、経験値の総取りは良くないし、皆の活躍の場も欲しい所。

 そのバランスを取るのはとっても大変、まぁ彼女のあるじは優秀なのでその辺は任せて大丈夫とは思う。後はダンジョン探索だけど、宝箱の発見を含めて落ち度の無いようにしないと。

 でないと、群れに所属する小娘がギャーギャーうるさいので。


 こればっかりは、どう仕様も無いし主も半分諦めている案件のようだ。ダンジョンとは戦って力を得る場所に他ならないのに、つまらないドロップ品に心を奪われるとは。

 しかもさっきは、小さな魔石まで拾って歩けとのお達しである。娘のツグミはその辺を上手くこなすようだけど、レイジーはそう言った細かい作業は苦手である。


 最近貰った首に巻かれたペンダントは、とっても気に入っているのだけれど。まさかそれをちっこい魔石の回収に使うとは思ってもいなかった彼女である。

 などと考えていると、再びラプトルの群れと遭遇した。コイツ等はたまに少しだけマシな魔石を落とすので、それなりに強敵である。


 今ではすっかり、ドロップした魔石で敵の強さを確認する方法を身に着けたレイジーだったり。そしてダンジョン内の気配を読んで、階段やワープ装置の場所を確定するのにも慣れてしまった。

 宝箱を見付ける能力は、まだまだツグミの方が上だけど。主が喜ぶならともかく、娘っ子たちの機嫌取りのために、回収作業に力を入れる気なんて更々無いレイジーなのであった。

 そう、ダンジョンの本分は経験値稼ぎに他ならないのだ。





 ――来栖家のエースは、実は意外と体育会系だったり。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る