第514話 好奇心が疼いて倉庫型エリアへも足を伸ばす件
護人の注意は、完全に敵の中ボスのオーガ大将に注がれていた。今までにいなかった、遠距離攻撃を逸らしてダメージを回避出来る敵の存在はかなり脅威で。
その上に戦闘力が高ければ、チームにとって不味い相手かも知れない。敵がこちらへと近付くなら、護人が前へと出て盾になる予定。
中ボス部屋の敵は他にもいて、ネズミ型の自爆ドローンは護人の指示の元に速攻で始末出来ていた。後は重装備のゴーレム兵士団が半ダースと、同じくオーク兵が半ダース。
それぞれ左右の通路から、銃を乱射しながら近付いて来ている。更には上空からは、何らかの装備を搭載した飛行型ドローンが飛んで来て。
被害が出る前に、それを射撃で撃ち落とす護人とルルンバちゃん。どうやらマシンガンを搭載していたようで、そんなのに近付かれなくて本当に良かった。
こんな室内での射撃戦など、全く望んでいない来栖家チームではあるけれど。さっさと戦いを終わらせようにも、正体不明のスキル持ちの中ボスの存在は不気味で。
思い切って突っ込んで行けずに、安全策を取っている次第である。
「やった、これで飛行ドローンは全部倒せたかなっ? 最初の攻撃が通じなかった時は、どうなるかなって思ってたけど……あの中ボスだけかな、特殊なのは」
「そう……だといいけど、思いっ切り私とルルンバちゃんの攻撃が弾かれちゃったもんね。あの中ボスが厄介なのは、防御だけだといいんだけど」
「敵のゴーレムがまるで重歩兵だな、動く要塞が銃を乱射してる感じだ。あれはハスキー達も
向こうはコロ助の近接ハンマーに任せて、こっちはボスを警戒していようか」
そんな護人の言葉に、オッケーと軽い調子の末妹の返答。実際に中ボスのオーガ大将は、最初の舞台上から戦況をじっと注視していて不気味ですらある。
あれに下手に動かれて、前衛陣のどちらかが被害を
なかなかの勢いで、1ダース近くいた敵の混成軍も既に半分に減らしている。さすが姫香は、来栖家のエース級アタッカーである。
もっとも香多奈に言わせれば、レイジーやミケに対して裏エースらしいけど。その剛腕振りは本物で、とうとうハスキー軍団&茶々丸の右辺より先に兵士団を突破しそう。
そのタイミングで、ようやく敵の中ボスも動き出した。どうやら姫形をタゲったようで、そちらへと武装した姿で向かい始めている。
バッチリ警戒していた護人は、それを確認してフォローに動き出す事に。さすがの姫香も、中ボス相手に連戦はキツイだろうし。
そうして斬り結ばれる、満を持しての大将戦。
それを察知した姫香と萌も、すかさず護人のフォローに入ってくれるけど。さっき遠隔攻撃を弾いたオーガ大将のバリアは、近接戦でも効果を発揮する事が判明。
コイツは右手に刀を、左手に自動車小銃を持っていて扱いも普通に上手い。アーミー服を装備しているが、その内側ははち切れそうな筋肉で。
威圧感も半端ないが、何より先程から攻撃が通らない透明な防御壁が超ウザい。姫香も萌も、隙を見て攻撃するのだがヒットは未だゼロである。
護人も“四腕”を発動して、更には『硬化』スキルでの防御での接近戦で。とにかく小銃での弾を浴びるのは承知で、敵と斬り結んでいるのだが。
“四腕”の剛腕でも、敵の防御スキルを打ち破れずに苦戦模様の有り様である。向こうの斬撃は何とか盾防御が出来ているけど、パワーの差は歴然で押され気味。
そうこうしている内に、反対側のレイジー組も部下を全て倒し終わってしまった。残るは手強い中ボスだけとなったが、レイジーは敢えて手出しはしない模様。
獲物を狩るのは誉れでもあるし、何より経験値を得る大切な機会でもある。それを横取りするのは、余程押され気味でない限りは行うべきではないと。
ある意味信頼の証でもあるが、護人も黙って押されている訳でも無かった。そして反撃のチャンスは、意外と早く訪れる事に。どうやら敵の防御スキルは、MPを大食いするタイプだったようで。
途端にこちらの攻撃が通るようになって、姫香もアレッと言う表情に。その隣の萌は、何の感情も示さずにオーガ大将の太ももに鋭い一撃を加えてすぐに離脱する。
彼のヒット&アウェイは、小柄な体躯も相まって敵を翻弄しまくりである。そして止めの一撃は、攻撃を弾かれまくっていた薔薇のマントによる打ち降ろしのチョッピングライト。
体格差を無視しての、伸び上がってのその一撃は見事と言う他なく。
正確に言うと、その後の《奥の手》の一撃が致命打となったようだけど。大いに
そして近付いて来た末妹も、その中ボスのドロップしたアイテムに大興奮。何と魔石(大)が1個と、それから宝珠が1個ドロップしていたのだ。
久々に出た大物ドロップに、子供達は興奮模様で騒いでいる。妖精ちゃんが近付いて来て、これはさっき中ボスが使っていた防御系のスキルだなと鑑定結果を報告してくれて。
どうやらコロ助の持っている《防御の陣》と、似たような性能のスキルの様で。来栖家としても、チーム防御力の上昇は大歓迎だ。ただまぁ、MPの消費は凄いみたい。
それでも嬉しいよねと、紗良も舞い上がって誰が覚えるべきか頭を悩ましている模様。これは宝箱も期待が持てるねと、香多奈はそっちに気を持って行かれている。
紗良は毎度の、お疲れ様とペット達を集めての怪我チェックを始めており。これにすっかり慣れた面々は、自然と自分達から集まってくれて紗良も大助かりだ。
そして茶々丸の怪我を発見して、まぁ大変と治療を始めている。当人は元気だよアピールをしているけど、周囲のハスキー達はやや心配そう。
やはり銃弾飛び交う戦場は、一瞬たりとも気が抜けなかったようだ。野生の血さえも絶滅に追い込む、現代兵器の力は全く侮れるモノではない。
幸いにも、紗良の『回復』スキルで、茶々丸の体内からポロッと弾丸が飛び出してくれて。流れていた血も治まって、何とか治療は無事に完了してくれた。
硬化ポーションの恩恵もあったのだろう、敵の弾もそこまで深くまで到達していなかったし。お世話係のレイジーが、良かったねと茶々丸の鼻先をペロッと舐めてあげて。
それに続いて、ツグミとコロ助も親愛のスキンシップ。
一方の香多奈とルルンバちゃんは、お待ちかねの宝箱チェックを始めていた。罠のチェックを終えてバカっと開いた迷彩色の宝箱の中身だけれど。
まずは鑑定の書(上級)が5枚に、薬品は浄化ポーションや中級エリクサーを中心に数種類。魔結晶(中)も5個入っていたし、魔玉も炎と雷の2種が10個ずつ。
他にも当然のように銃火器が入っていて、それらは後から覗き込んだ姫香が末妹に触らせないように没収してしまった。弾丸類も同じく、もっとも大半がそっち系だったけど。
それから軍用食の缶詰やらパック食が割と豊富に揃っていて楽しそう。後は軍用の迷彩ヘルメットや装備品も少々、さすがに大き目の箱の中身は違う。
豊富な回収品に、満足そうな笑みを浮かべる末妹。
「よしっ、それじゃあみんなは休憩していてくれ。姫香と萌には怪我は無いんだな、時間もまだたっぷりあるし、もう少しだけ進んでみるかな?
それなら岩国チームに、帰還が遅れるって連絡入れるけど」
「私たちに怪我は無いよ、護人さん……疲労もそんなに無いし、もう少し潜るのは賛成だよっ! どうせなら、まだ行ってない3つ目のエリアも見てみたいよね。
何だっけ、倉庫エリアとかそんなのだっけ?」
「複合ダンジョンの3つ目は、倉庫エリアで合ってるよ、姫香ちゃん。ここは倉庫の連なってる感じのダンジョンで、回収品は出て来た倉庫によるって感じかな?
意外と武器倉庫の遭遇率は少ないそうで、敵は前回の“車庫ダンジョン”と似た感じかも」
紗良の説明に、そうなんだと感心した表情の姫香と香多奈である。そしてそちらに向かう事は、何故か決まってしまっている様子で。
正直、再び密林を
そうと決まれば、続いての探索に闘志を燃やす来栖家チームである。子供達のヤル気は、当然の如くにペット達にも引火してテンションアップのハスキー達。
茶々丸も怪我した後だと言うのに、それに乗せられて元気一杯である。そして休憩が終わった一行は、ワープ魔方陣を潜り抜けて第11層へと向かう。
最初に出た地点は、当然ながら基地エリアのレンガ通りだった。パペット兵士とゴーレム兵が、待ち伏せ的に襲撃して来たのはまぁ良しとして。
張り切るハスキー軍団&茶々丸で、それらを駆逐している間に。ルルンバちゃんに飛行モードになって貰って、周囲をぐるりと観察のお願い。
それによって、倉庫エリアの位置が判明してくれた。ルルンバちゃんも良い感じに、こちらの言ってる事を理解してくれるので大助かりである。
今もその功績を末妹の香多奈に褒められて、大喜びのゼスチャーをしているけど。精神年齢は幼いようで、家族も彼が傷付かないように言動には気をつけている次第である。
彼も当然、立派に来栖家の一員なのだから。
「倉庫エリアの方向は向こうみたい、叔父さんっ……早く行こうっ、このエリアは銃弾がピュンピュン飛んで来て怖いからね。
ハスキー達、こっちの道に入ってまっすぐ進んで!」
「まぁ、確かにさっさと移動した方がいいかもね。それじゃあ私と萌も、ハスキー達に混じって先行しながら敵をやっつけて進んで行くよ。
香多奈も後衛だからって、油断しちゃ駄目だよ」
分かってるよと、姉の気遣いをムッとした表情で受け流す末妹である。護人ももちろん、離れた場所からの狙撃には充分に注意を払いつつ。
ルルンバちゃんにも、護衛をしっかりねと言い渡してレンガ通りの移動は続く。特に怖いのが自爆型ドローンや、バズーカ砲での遠隔攻撃なのだけれど。
幸いそんな熾烈な攻撃に
そこは基地エリアに較べると、薄暗くて閉塞感に満たされた空間ではあったモノの。さっそく出て来た敵は、大ゴキブリやゲジゲシ型と銃とは無縁の奴らばかりで。
何となく安心しながら、それらの駆逐をお手伝いする後衛陣。ハスキー達は蟲型との対戦も苦にはしないけど、やっぱり直接咬み付くのは嫌みたいで。
武器を取り出して使ったり、スキルに頼ったりとその辺の工夫は素晴らしい。そして11層にしてはスムーズに、1つ目の倉庫は制圧に至ってしまった。
落ちている魔石も極小ばかりで、ここまでエリアで難易度が違うのかなと不思議そうな面々だったり。それでも奥へと進むにつれて、まずはすばしこいネズミ獣人がお出迎え。
ついでにシャドウやイミテーターと、室内では定番のモンスターも奇襲して来て。前衛も後衛も、忙しくそれに対処しながら進む事15分余り。
4つ目の倉庫に、ようやく次の層への階段を発見した。
「ふうっ、銃の脅威からは逃れたけど、やっぱり深層は敵の強さも上がってて大変だねっ。室内タイプの敵は、奇襲好きが多いから油断も出来ないしね」
「室内は迷わなくていいから、時間の節約にはなってるよねっ。真っ直ぐにくっ付いた倉庫を、ただひたすら進めば良いだけだもんねっ!」
「そうだねぇ、つい最近そんな感じのダンジョンに潜ったばっかりだもんね。みんな慌てる事無く対処は出来てるよね、後ろからも安心して見ていられるけど。
それでも、姫香ちゃんの言う通り油断は出来ないよっ」
そんな言葉を掛け合いながら、階段前の小休憩を行っている来栖家チーム。道中の倉庫は、どうやら室内整備場的な扱いの奴が多かったようで。
途中でそっち関係の、機械の整備用の器具を少々回収出来た程度である。香多奈の待ち望む宝箱は、残念ながらお目見えとならずの結果に。
それに懲りず、次こそは絶対にゲットするよと息巻く末妹である。
――かくして一行は、12層目へと元気に突入するのだった。
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