第506話 岩国観光をして次の探索に備える件



 次の日は一応、休息日と言うか観光でもして英気を養ってくれとのお達しなのだが。実を言うと、子供達に観光でもさせたいと護人が出発日を早めた所。

 それなら近場のダンジョンに潜ろうと、姫香と香多奈が色々と計画をこねくり回して。こんな感じに、飛び飛びのスケジュールが出来上がった次第である。


 まぁ、確かに三原の時みたいに緊急事態でも無いので、連続で探索に赴く必要は全く無いのだ。間に休息日を挟みつつ、ゆっくりダンジョンの間引きを行えばよい。

 ちなみに今回の観光先は、錦帯橋を午前中に巡る予定となっている。それから午後は、何故か由宇の『広島カープ』の2軍練習場に行く手筈だとの事。


 良く分からないけど、その存在を知って姫香や香多奈のテンションが上がったのは確かで。岩国チームも野球好きが多いので、軽く試合でもしようかと言う話に。

 もちろん遊びでだけど、何と言うか既にカオスの匂いが漂って来ている気が。大丈夫かなと心配する護人だが、観光先くらいは子供達に決めさせてあげたい。

 そこがただの、球場跡地だったとしてもだ。


「新しい撮影器具はなかなか優秀だったね、ルルンバちゃんの方のも良く撮れてたけど……私の撮影位置とそんなに変わらないんだよね、そこがちょっと不満かな?

 どうせなら、コロ助とかにつけた方が良いのかも?」

「コロ助は馬鹿みたいに動き回るし、大きさも変わるから大変じゃない? 機材が壊れないか心配だよ、前衛バリバリのポジションだもんね。

 ルルンバちゃんなら、空撮とか出来て楽しそうだと思ううけどな」


 それはいいねと、今日も朝から撮影をしながらはしゃぐ香多奈である。何しろ岩国チームの依頼は、売り出す予定の『シャドウ』の好感度アップなので。

 一緒に観光しているシーンを撮影して、動画をアップするのが一番手っ取り早いと。そんな思惑で、この数日は行動を同じくする手筈となっていたり。


 そのせいか、紗良と舞戻まいもど朱里あかりはまずまず仲良くなって来ていた。無類の猫好きの朱里は、何とかミケを撫でようと事あらば挑戦しており。

 そんな四苦八苦している彼女を、手助けしようと紗良が語り掛けてから。年齢が近い事もあって、少しずつ打ち解けて行ってる最中の2人である。


 元々2人とも人見知りな所もあって、派手な性格でも無いって類似点もあって。他にも趣味は家事全般と言う朱里に、シンパシーを感じている紗良である。

 こんな地味な印象の朱里が、以前は闇の仕事を手掛けていたなど誰も信じないだろう。もっともそれも、“大変動”騒動で親を亡くしてからの経緯があっての流れらしいのだけど。


 協会の前身の組織が探索者を育てるのに、そう言う子供達を積極的に登用した結果。鬼島や三笠のような、特殊任務を担うチームが自然と出来上がった感じだろうか。

 もちろん任務をこなすのに、それなりのレベルが無いと返り討ちに遭ってしまう。そのために実力をつける訓練と、ダンジョン探索でのレベル上げの繰り返しはそれなりに過酷を極め。

 そうして出来上がったのがチーム『影忍』である。


 その闇のお仕事もある程度片付いて、今度は大幅に方針転換しての表舞台へとデビューの話に。チームからは、急な環境の変化に戸惑いの声もあったモノの。

 何しろ、裏方思考の強い面々の集まりのチーム『影忍』である。あまり目立ちたくないと言う思いも強かったのだが、先輩格の『ヘブンズドア』や『グレイス』の支援を受けて。


 現在の売り出し中に至るのだが、何となく面映ゆい思いもあったりして。それでもA級チームとの帯同は、大いに勉強になりそうで明日の合同探索は楽しみだ。

 もっとも、それには今日の1日観光を乗り越えないといけないけど。


「そんじゃ、ルルンバちゃんに空中撮影を頼もうか……怒る人いないよね、そもそも観光客もそんなにいないし。ついでに岩国城も撮って貰って、お昼を買い込んで球場に向かおうよ、叔父さんっ。

 お昼からは野球やるよ、ハスキー達!」

「また無茶な注文ばっかして……香多奈の我がままに付き合わなくて良いですよ、岩国チームの皆さんっ。ハスキー達なら、玉遊びを喜んで付き合ってくれるから」

「いや、我々も野球は好きだけど、試合となると久しくやって無いからね……球場でプレー出来るなら、是非ともお相手願いたいね」


 そう言うヘンリーの表情は、やや戸惑い気味ではあったモノの。それも当然だ、美味しい物を食べに行こうと誘っても、バーベキューの方が良いとか言われてるし。

 挙句の果てに、有名な観光スポットを巡るよりも、マイナーな野球場で玉遊びがしたいとのお達しである。ただまぁ、名所巡りが退屈と言う子供の言い分も何となく分かる。


 アクティブな年頃だと、特にそうだろう……橋やお城を見るより、犬達と野球を楽しむ。分からなくもないけど、それに付き合う身にもなって欲しいなとヘンリーはちょっと思う。

 岩国チームに関しては、相棒のギルはともかく他の面々も総じて戸惑い気味ではある。それでも良い動画をアップすると言う計画のため、午後も付き合う予定らしい。


 それでも料理の腕を振るえると知った紗良は、喜んで食材の買い足しに励んでいるし。結果的には、香多奈の計画は家族にとってもプラスなのかも。

 何より外食では、ペット達はお店に入れないし。それでもスイーツの買い込みは、きっちりと強請ねだるる妖精ちゃんは立派な気がする。

 そんな彼女も、昨日は魔法アイテムの鑑定を頑張ってくれた。



【金の腕輪】装備効果:筋力&耐性up・小

【ダイヤの指輪】装備効果:防御&魔法耐性up・大

【サファイアの指輪】装備効果:魔力&耐性up・中

【王者の王冠】装備効果:全ステup&光属性&威圧・大

【王者の剣】装備効果:不折&光属性&威圧・大

【重オーグ鉄製シャベル】装備効果:重オーグ鉄製のシャベル

【重オーグ鉄製ハンマー】装備効果:重オーグ鉄製のハンマー

【重オーグ鉄製ピッケル】装備効果:重オーグ鉄製のピッケル

【ダマスカス鋼鉱石】使用効果:希少鉱石・鉱石素材


その他:『強化の巻物』 (防御)×2、『強化の巻物』 (耐久度)×2




 重オーグ鉄製の武器……もとい、用具が結構出たけど使い道も無いと言う。家で野良作業に使うにも、高性能過ぎてなんだかなぁって感じである。

 王者シリーズも高性能だけど、王冠はコレクターの妖精ちゃんが自分の巣に加える予定みたい。素早くキープされて、家族もそれに文句は無さげ。


 今回の王冠は、装飾はほとんど無くて雄々しい感じの外見ではあるのだけれど。それでも、小さな淑女のコレクター魂にはヒットした模様である。

 それはともかく、今回も苦労した割には魔法アイテムの数はあまり多くなかった。そう文句を述べる末妹に、一緒に検分していた『グレイス』チームの伊澤は目を丸くして。


 10層潜れば中ボスの部屋×2で、取り敢えず宝箱2個は確定として。道中に2個見付けたとしても、魔法アイテムは4つあれば充分多いよと驚く素振り。

 そして改めて、来栖家チームの幸運度におののいて見たり。姫香はウチには幸運の招き猫がいるからねと、膝の上のミケを掲げて自慢している。


 ちなみに現在は、既に目的地の由宇球場に着いての昼食の準備中である。紗良と舞戻がバーベキュー用の鉄板の前に陣取って、大量の焼うどんを作成中で。

 場所は球場の1塁ベンチ前、ここまで機材を運ぶのは思ったより大変だった。それでも便利な車を停めた駐車場より、雰囲気を重視しての位置決めに。

 子供達も喜んでいるし、ハスキー達もグランドには感銘を受けた様子。


 周囲を軽く走り回って、この広場は何だろうとソワソワしている模様である。空間収納でキャンプ機材を運んでくれたツグミも、この後のボール遊びの気配にウキウキ。

 そんな感じで各々の思惑が交差する中、お昼の時間は意外とのんびりムードで進んで行く。何より広島お好みソースでの味付けの焼きうどんは、広島県民のソウルフードでもあるし。


 食が進まない訳が無い上に、岩国チームは大半が大食漢であるらしい。ヘンリーやギルも当然だけど、伊澤や鈴木も普通に2人前以上はぺろりと平らげてしまう。

 こうなると『シャドウ』の面々が少食に見えるが、しっかり食欲はあるようで。他の面々と談笑しながら、焼きうどんとお握りのセットを平らげている。


「そう言えば、関東から来た友達にこのお好みソースで驚かれた事があったなぁ。向こうでは、天ぷらにお好みソースじゃ無くて塩か天つゆなんだってさ。

 ソースの文化は、広島は独特だね」

「えっ、天ぷらに塩って……そんなの美味しいのっ!?」

「広島のソース愛は、確かに他と違うらしいね。他の県じゃ、一般家庭に2ℓのソース瓶なんて普通に置かれてないからねぇ」


 そうなんだと、かなり驚いている子供達……香多奈など、ソースで口の周りがべちゃぺちゃである。それを拭ってあげる護人は、保護者としてすっかり慣れている感じ。

 紗良と舞戻もようやく席について、山盛りの焼きうどんを食べ始める。とは言え、山盛りだったのもほんのしばらくの間で、大食いメンバーが平らげてくれて行って。


 その料理の好評さに、2人とも嬉しそうで食も進むと言うモノ。おこぼれの焼きソーセージを貰ったハスキー達も、満足して周囲の散策へと向かって行った。

 この由宇球場は、内野席も外野席も全て芝生で観客はそこに座って楽しむスタイル。今は雑草が目立っているけど、それをルルンバちゃんが率先して刈って整地している。


 グランド内の芝生も、料理の準備中に彼が全て終わらせてくれていて。何とも至れり尽くせりなAIロボ、その働き振りには皆が頭を下げて感謝し切りと言う。

 何しろ観客席はともかくとして、グランド部分は午後から使う予定なので。これも来栖家の末妹の我が儘と言うか、野球の試合は岩国チームも楽しみにしている様子。


 来栖家チームは人数が4人しかいないので、対戦は工夫しなくてはいけないかもだけど。ところが香多奈は、ハスキー達がいるじゃんとペット達も人数に入れるつもりみたい。

 それは無茶だろうと、鈴木やヘンリーは懐疑的でグランドを走る犬達を眺める。幾ら能力値の高いハスキー軍団でも、野球のルールに従ってのプレイは無理だと。

 その議論に、しかし姫香も参戦しての助け舟が。


「打ったり投げたりは無理でも、走ったり捕ったりは出来るでしょ。かなり変則になるけど、来栖家で1チーム作るとなるとハスキー達も頭数に入れなくちゃね。

 ボールもゴムの奴買ってあるし、ハスキー達の得意分野だよ」

「バットもオモチャの軽い奴だから、そんなに遠くまで飛ばないもんね。後は負けたチームの罰ゲームを考えて、ちゃんと撮影もしなきゃねっ!

 ルルンバちゃんのグランド整備も完璧だし、感謝しなくちゃね」


 そのルルンバちゃんだが、観客席も綺麗に整備し終わってとっても満足そう。彼の存在意義を満たす行為なので、もはやこの場の誰もツッコミはしないけど。

 こんな広いグランドを、この短時間で綺麗に整備し終わるとは凄い性能である。戦闘性能もそうだけど、そょっとしてお掃除性能も向上しているのかも。


 護人を含めて、思案気な表情なのは各チームのリーダー達のみ。それでも休日のコミュニケーションに目くじらを立てるのもアレだし、話の流れに乗っかるしか。

 姫香はキャンピングカーからカープのユニフォームを引っ張り出して、ヤル気充分の様子である。食事を終えた他の面々も、軽くキャッチボールを始める素振り。


 香多奈はハスキー達と茶々丸を呼び戻して、今から試合だからねと何やら言い含めている。運動音痴の紗良は、何とか迷惑を掛けないポジションを護人に申請中。

 いやしかし、ペット達をどのポジションに配置するべき?





 ――このお題は、或いはA級ダンジョン攻略より難しいかも。







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