第501話 改めて元鉱山ダンジョンにチームで挑む件



「さてっ、お昼まであと1時間くらいだね、護人さん……中途半端だけど、何とか5層まで進めるか頑張ってみようかっ!

 洞窟タイプだし、そんなに分岐も無い筈だもんね」

「でもB級クラスだし、そんなポンポンとは進めないと思うけど、姫香ちゃん。探索スピードより、やっぱり安全を重視すべきじゃ無いかな?」

「そうだよっ、情報はあったけど今はランク上がってるんでしょ? まぁ、ウチのチームも洞窟型ダンジョンには潜り慣れてるけどねっ!」


 良く分からない香多奈の言葉に、先頭を行く姉の姫香は笑いながら適当に進むよと進言して。そんな訳で、今回の探索もいつもの布陣で臨む来栖家チームである。

 つまりはハスキー達&茶々丸が先行して、その手綱は姫香が握って。後衛からは、護人とルルンバちゃんが遠距離支援に徹する感じ。


 洞窟タイプは道幅が狭いので、前衛が増え過ぎても武器を振るうスペースが無いので。まぁ、色々と試した結果ベストな布陣が、この現在のパターンとなった次第である。

 他の組み合わせも、前回の遠征では色々と試したのだけれど。ハスキー達が先頭でないとストレスに感じるらしく、いつの間にかこの陣形に落ち着く形に。


 そんな訳で、入ってさっそく真っ直ぐ続く洞窟内で、最初の遭遇戦が。出て来たのは巨大なゲジゲシ型の敵で、蟲型のモンスターの出現は予習済み。

 他にも地底獣人と言う、目が退化した土竜もぐらに似た大柄な人型のモンスターも出て来るらしい。洞窟の広さも思ったよりは広いし、これならルルンバちゃんも暴れられそう。

 その点では、探索に不便は無さそうな雰囲気かも。


 道もほぼ真っ直ぐだし、どことなく人工物な感じは確かにする。坑木が張り出している場所もあったり、たまに狭い脇道が見付かったりするのだが。

 大ムカデやらワーム型の敵が出て来る程度で、今の所はB級ランクの片鱗へんりんは窺えない。ハスキー達も物足りない感じで、出て来た敵を簡単にほふって行って。


 気がつけば次の層への階段を発見、姫香が提示した通りのスピード攻略である。10分程度しか掛かってないので、確かにこのペースだと5層突破でお昼に丁度かも。

 休憩もいらないよねと、自身もあまり戦闘していない姫香はそのまま2層へ向かう許可を護人に貰って。その返事を聞いて、ハスキー達は元気に階段へと殺到して行く。


 この辺はいつもの手順で、彼女達が勝手に階層を渡る事は絶対にない。ダンジョンの階層渡りは、時には別次元と思う場所に飛ばされる事もあったりして。

 その辺の危険を、ハスキー達も熟知しているようだ。


 そして2層に降りて、ようやく噂の地底獣人とご対面した一行である。なかなかのパワーと、恐らく嗅覚か聴覚に頼っての追跡能力はかなり強いかも。

 例えるならオーガやトロル級で、オーク兵よりは確実に強い感じ。皮膚も頑丈っぽくて、途中からほむらの魔剣に持ち替えて討伐に当たるレイジーであった。


 そのお陰で2体出現した地底獣人は、3分後には討伐完了。護人やルルンバちゃんも何発か遠隔攻撃を当てたのだが、なかなか倒れないタフネスさ。

 これは確かに、低ランクの探索者の手には負えないねとは姫香の発言。確かにそんな強敵が、2層目から複数体出て来るのは大変かも。


 来栖家チームにとっては、良い準備運動だったなって感じのハスキー達が、既に先へと進み始めており。姫香もそれを追いつつ、ギアを上げて行くよと奮起している。

 そして少し進んだ先に、ちょっと変わったオブジェを発見する先行組。歩みを止めて、線路とトロッコを何だこれはって顔付きで嗅ぎ回っている。


 洞窟内にトロッコは、日馬桜町駅の近くのダンジョンにもあったような。ただしこちらのトロッコは、線路に沿ってかなり先まで進んで行けそう。

 末妹はそれを見て、乗ってみようよとノリノリで提案して来るけれど。護人は当然の如く却下して、壁際に置かれたその乗り物をチェックする。


 ルルンバちゃんも手伝ってくれて、中に何も入っていないのは完璧に確認出来たけど。その箱状の乗り物をいじっている内に、トロッコの死角に隠された穴を発見。

 そこにあったズタ袋の中には、各種宝物が。


「やった、最初の宝物を見逃さずに済んだねっ! さすがルルンバちゃん、角っこの隅々にまで気配が行き届いてるよねっ!」

「まぁ、そう言う褒め方もあるか……そもそも重いトロッコを、こんな簡単に動かせるのが凄いけどな。良くやったぞ、ルルンバちゃん」

「あんまり褒めると、後が大変そうだけど……まぁルルンバちゃんなら、図に乗って変な事にはならないか」


 そんな勘繰りを入れる姫香だが、表情は至ってのんびりな感じ。紗良が中身を確認して、鑑定の書や薬品類や魔玉(土)を順当に回収して行く。

 他には良く分からない鉱石が幾つか、このダンジョンの当たりは砂金の袋らしいので、外れかなぁと香多奈。次は当てようねと、ルルンバちゃんと張り切る末妹ではあるけれど。


 この“美川ムーダンジョン”は、隠された宝箱の多さも人気の秘密だったらしく。ランクの低かった頃は、それ故に結構な人気だったそうである。

 そしてその仕掛けは、ランクが上がった今も変わっていない様子。次は私たちで見付けるよと、姫香は相棒のツグミに発破を掛けて末妹と競う構え。


 どうでも良いけど、喧嘩には発展して欲しくない護人は程々になと声を掛けるのみ。そうして2層の探索も、15分程度で終了の運びに。

 突き当たりに階段を発見して、本当に順調な洞窟探索である。



 そして3層目の構造も、さっきと同じ感じで特に戸惑う事も無く進行する一行。ハスキー達は順調に蟲型モンスターを退治して行き、茶々丸もシャドウ族の不意打ちを返り討ちにしている。

 そんなのも出て来るんだと、驚いた様子の姫香だが鼻高々の茶々丸の快進撃は止まらない。この層でも出て来た地底獣人にも突進をかまして、そして跳ね返される始末。


 慌ててフォローにと前へ出る護人だが、今回出て来た地底獣人は3体だったので丁度良いかも。姫香とレイジーで1体ずつ受け持って、ツグミとコロ助でそのフォローに。

 それで良い勝負なので、奴らの岩のような皮膚の硬さはさすがなレベル。護人も長剣で無理に斬りつけず、サブ武器のシャベルを使って対峙している。


 さすがに護人の『掘削』は、硬い敵にはピカ一の効力を発揮する。他の面々は苦労しつつも、敵のパワーと硬度に長期戦の様相を呈しており。

 レイジーなど特に、体格ではどうやっても敵わないので大変である。その点、コロ助のハンマー持ちでのフォローはなかなか堂に入っている。


 姫香もツグミとの毎度のペアで、安定の討伐戦を繰り広げており。この1年でかなり強化を繰り返して、愛用のくわはもはや原型も留めていない程。

 お陰で、少々硬い敵が現れても武器の持ち替えをしなくて済む姫香である。頭を使わずにゴリ押しとも言うけど、少女の性に合っているのも確かで。

 2度目の地底獣人との戦闘も、ほぼ圧勝と言う結果に。


「ふうっ、さすが高ランクのダンジョンだな……定期的にあの獣人モンスターが出現するなら、俺も素早く前に出る感じにした方がいいな」

「そうだね、タフな敵も多いみたいだし……エリアの構成は単純だけど、敵の数は結構多いかもね。まぁ、大半は弱っちい蟲型の奴らだけど」

「魔素濃度も割と高かったもんね、入る前のチェックでも。洞窟って言うより、廃坑って感じの通路は変わっててちょっと面白いかも?

 あっ、あそこにもトロッコ置かれてるよっ!」


 香多奈の見付けたトロッコは、さっきの層のと同じ形状で廃路線に廃棄された感じに見えた。動かないのはちょっと見ただけで分かるが、中身も土しか入っておらず。

 お宝はどこと騒がしい末妹に、ルルンバちゃんがまた褒めて貰おうとちょっかいを掛ける。そしてトロッコの後ろから現れた穴から、巨大な蛇が襲い掛かって来て。


 それに仰天して大騒ぎする香多奈と、大蛇に反応して討伐に武器を振るう姫香と言う構図に。ハスキー達もスキルを使ってお手伝いして、巨大な鎌首の大蛇は何とか仕留める事が出来た。

 嫌な仕掛けだったけど、引っくり返ったトロッコの土の中から再びズタ袋が出現して。実は宝物は、そっちに入っていたという見事なオチが。


 それを見て、叱られずに済んだと安堵するルルンバちゃんであった。中からは鑑定の書や薬品類、それから魔玉(光)や魔結晶(小)が6個など。

 それから待望の砂金袋が2つ、直に見た砂金はキラキラ光っていて綺麗。


 それに気を良くした香多奈は、ルルンバちゃんの件を不問に処す構え。そして騒がしくしていたせいで寄って来た、大コウモリ数匹をみんなで仲良く倒しての安全確保。

 そこから探索を再開して、すぐに階段を発見の流れに。これで4層へと到達したけど、お昼も近付いていて休憩をどのタイミングで取るべきか。


 ハスキー達は、リーダーの制止が無い限りはどんどん先へと進んでしまうし。そうして暗闇に潜んでいる、蟲型のモンスターや大コウモリをサクサク倒して行く。

 姫香も大物の出現に警戒しつつ、そのすぐ後に従う構え。そして4層の廃坑エリアを進む事10分余り、またしても地底獣人の群れが3体ほど出現して。

 巨体での通せんぼに、護人も素早く前へと出て対応する。


今度の対戦も割と熾烈だったが、戦闘は何とか3分少々で全て終了した。相変わらずワイルドな戦い振りの地底獣人は、硬い外皮も合わさって強敵だった。

 それから少しの休憩を挟んで、分岐まで歩を進める来栖家チーム。支道は段々と増えて来ており、まぁ突き当たりに何か用意されている訳でも無いのだが。


 それでも4層の最後の支道の突き当りは、何となく怪しい匂いがプンプンと漂っており。ツグミが周囲を嗅ぎ回っているのを察知して、姫香も何かあるかなと壁のチェック。

 そして見事に隠し扉の仕掛けを発見、さすが元アミューズメント施設である。そう喜んでその仕掛けを作動させると、壁がバカっと開いて小さな部屋が出現した。


 そしてそこに溜まっていた、大量のシャドウ族が一斉に襲い掛かって来て一同はパニック模様に。茶々丸の突進だけでは到底処理出来ない、終いにはミケも『雷槌』でのお手伝い。

 その余波で茶々丸がちょっと焦げてしまったけど、それ以外は何とか被害も無くシャドウ族は全て退治終了して。香多奈が拾った魔石によると、全部で11体もいたらしい。

 その仕掛けには、作動させた姫香もひえ~っと絶句。


「もうっ、お姉ちゃんったらもう少し罠とか色々疑ってよっ! ツグミも怪しんでたから、扉の前であれだけ躊躇ちゅうちょしてたんじゃないのさっ!」

「ごめんゴメン、仕掛けのスイッチを見付けてちょっと浮かれちゃったよ。ツグミもゴメンね、せっかく仕掛けを解こうと頑張ってくれてたのに」

「まぁ、みんな無事だったから良かったけど……今後は気をつけてくれよ、姫香」


 緩い性格の護人のたしなめで、この件は一応ケリがつく格好に。末妹の香多奈などは、叔父さんは甘過ぎるよねとブツブツ小声で呟いているけど。

 それより小部屋に宝物があるよと、紗良の言葉にすっかり不服は彼方へと吹っ飛んで行った模様。姉と一緒に覗き込んだ小部屋には、様々な鉱石のインゴットや武器装備品が幾つか。


 中でも重オーグ鉄製の剣や槍、それに装備品は久々に見たけどかなり質が良さそう。それなりの鑑定眼を持つ妖精ちゃんにそう言われ、盛り上がる子供達である。

 他にも属性石やら魔結晶(中)が10個以上、それから金の腕輪やネックレスが少々。腕輪は魔法アイテムらしく、当たりの部類だろうか。


 それらを嬉々として、力を合わせて鞄に詰め込む子供達であった。ペット達はそんなご主人たちの側で寛ぎながら、再出発の時まで休憩中。

 オンオフの切り替えが上手なのも、長丁場の探索ではとっても大事には違いなく。護人も茶々丸を大人しくさせるのに苦労しながら、時間を確認してどのタイミングで昼休憩にするか頭を悩ませる。

 それから巻貝の通信機で、外と連絡を取るのも忘れない様にしないと。





 ――あと1つ下れば中ボスの間、そうすれば探索も折り返しだ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る