第502話 廃坑ダンジョンの中ボス戦にド肝を抜かれる件



 4層の探索もその後は順調に進んで、突き当たりに階段を発見した一行は。そのままの勢いで5層へと到達して、いつもの布陣で“美川ムーダンジョン”の攻略の続きに勤しむ。

 ここの間引きだが、別に岩国の協会に強要された訳でも何でもない。ただ単に、子供達が岩国方面のダンジョンに幾つか潜ってみたいと、そんな感じでの提案が通って。


 それならばと、『ヘブンズドア』のヘンリー達や『シャドウ』の面々が付き添っての、今回の探索となった次第である。つまりは、気張って深く潜る必要は全く無い案件だったり。

 その点では気楽に探索に臨めるけど、子供達の我がままだけが気掛かりな護人である。またも15層などと言い出さないように、さり気なく手綱を締める心構えだけど。


 それがなかなか上手く行かないのは、この数年で嫌と言うほど分かっている。精々が、明日以降にダメージを残さないように、助言をしながら進むのみ。

 そして気付けば、5層の中ボスの部屋前へ。


「おっと、今回はあの厄介な獣人は出て来なかったな……お陰でスンナリ、中ボスの部屋に到着したのは良いけど。B級ランクのダンジョンだし、弱い敵が中ボスって事は無いだろうな。

 みんな、気を引き締めて臨もうか」

「そうだね、何か雰囲気的にはゴーレムとか、さっきの獣人が出迎えて来る感じかな……香多奈、アンタはどっちだと思う?」

「えっ、どっちかと言えばあの強い獣人かなぁ? 多分それがいっぱい出て来るんじゃないかな、紗良お姉ちゃんの魔法の先制とか有効だと思うけど。

 ミケさんは、今回は戦闘に参加する?」


 そんな末妹の問いに、ミアッと素っ気ない返事をするミケである。5層程度で私の手を借りようとするんじゃ無いわよと、そんな雰囲気がアリアリの鳴き声に。

 今日は戦闘気分じゃ無いみたいと、さほどガッカリもしていない香多奈の通訳に。それじゃあ私がフルパワーでと、久々の出番に気合いを入れつつ紗良の言葉。


 そうして作戦っぽい流れが決定して、待ち構えている敵がどんなタイプなのかに無頓着な子供達だったり。それでもまぁ、紗良の無慈悲な範囲魔法が無駄になる事は無い筈。

 姫香が代表して、それじゃあ扉を開けるよと前へと進み出た。それに合わせて、紗良の魔法の準備が始まる。他の面々も、魔法終わりに飛び出す準備を。


 そして開け放たれた扉の向こうでは、やっぱり巨体の地底獣人が5体も待ち構えていて。恐らくは、中央の一際大きな奴が中ボス認定なのだろうけれど。

 密集し過ぎていたのが災いして、敵の群れは揃って紗良の《氷雪》の範囲内へ。その一撃で倒れる者はいなかったけど、明らかに動きが悪くなる地底獣人たちである。

 そいつ等の止めは、特攻を仕掛けた前衛陣でそれぞれ担って。


 時間にすれば1分も掛からず、つまりは圧勝の結果となった。巨体と硬度を誇る獣人だったけど、魔法攻撃には強くは無かったようである。

 中ボスのドロップは魔石(中)が1個と魔石(小)が4個、それからスキル書が1枚と至って普通。それから宝箱は銅製で、中身も鑑定の書や薬品類や魔玉などと、これまた普通。


 当たりは強化の巻物が2枚と、小粒のダイヤのついた指輪くらいだろうか。後は採掘道具やら石炭がたくさんとか、貰っても嬉しくないモノばかり。

 何もこんなに忠実に鉱山のドロップ品に寄せなくてもと、香多奈はおカンムリだけど。手強い中ボス戦を、怪我無しで終えられて何よりである。


 宝箱の回収をこなして、それからお昼休憩を挟んで。改めて家族で、何層まで潜るかを決める会議に。このダンジョンは脱出用のワープ魔方陣が用意されていないので、戻るのに時間が掛かるのが確定してしまっている。

 それを含めて護人は、子供達と話し合って10層での帰還を何とか約束させる事に成功する。紗良と姫香は、協力してお昼ご飯の用意を始めている。

 中ボス部屋での休憩は、ある意味雑魚も湧かずに安心なので。


 もちろん結界装置は作動させてるし、ハスキー達も完全に気は抜いていない。とは言え、食いしん坊のハスキー達はご飯の匂いが漂って来ると気もそぞろになるのはいつもの事で。

 そして脇の甘い末妹の香多奈から、おこぼれを頂戴するのもいつもの行事。そんなお昼休憩を過ごして、それからしばしの食休みを過ごす。


 今日はまだ遠征初日なので、紗良がお弁当を用意して魔法の鞄に詰め込んで来れたけど。遠征も長くなると、お昼の用意も大変になって来る。

 キャンピングカーのキッチンは扱い辛いし、食材も段々と減って来るしで。来栖家の食卓を預かる紗良としては、なかなか頭の痛い問題ではある。


 妹達は、別に即席麺とかでも構わないよと言って来るのだが。育ち盛りの妹達に、そんな栄養があるんだか無いんだか分からないモノを、毎回食べさせる訳には行かないと。

 色々と工夫をこなしている紗良なのだが、さて今回の遠征はどうなる事やら。



「さて、それじゃあ探索の続きを始めようか。今日は外で岩国チームも待っているから、ズルズル探索延長はしないからね。

 ここは残念ながら、中ボスの間に帰還用の魔方陣も無いみたいだし。精々が10層かな、そこまで辿り着いたら真っ直ぐ戻るって事で」

「了解っ、洞窟型のダンジョンは華やかさも無いし面白く無いもんね。ちゃっちゃと片付けて、みんなでバーベキューで盛り上がろうっ!」

「まぁ、洞窟型ダンジョンがジメッとしてて楽しくないのは本当だけど。夕ご飯は、岩国チームが良いお店を市内に取っておいてくれてるんじゃないの?

 私は別に、バーベキューでも構わないけど」


 この前の川辺キャンプで、バーベキューはお隣さんと散々に盛り上がったので。お店でお米料理が良いかなと、そんな事を思っている姫香だったり。

 それに対して、アウトドア派の末妹はハスキー達が可哀想でしょと、姉の言葉に食って掛かる。姉妹喧嘩の気配に、仲良くしなさいと毎度の護人の仲裁と言うルーティーン。


 それに構わず、マイペースなハスキー軍団は早くも次の層を窺いに先行していて。相変わらずの洞窟タイプのエリアに、何だ同じかと言う表情。

 姉妹にはジメッとして楽しくないと不評だが、ハスキー達は活き活きと探索を楽しんでいるようだ。茶々丸も実はこの暗いエリアは苦手なのだが、前衛は譲りたくない様子。


 そんな探索再開の初っ端に、立ち塞がったのは石ゴーレムやストーンマンなどの硬い敵の群れで。ストーンマンは普段は岩の塊に擬態していて、獲物が近付いたら襲い掛かって来るガーゴイルの親戚モンスターだ。

 コイツも表皮は硬くて、ゴーレムよりよっぽど素早い動きで侮れない。とは言え、難易度からしたら先ほどの地底獣人とどっこい程度だろうか。


 ハスキー達からすれば、あまり関係なく対応しているみたい。スピードで翻弄して、前衛に出張って来た姫香やコロ助に止めを任せている感じで。

 それからルート上に定期的に設置されている台座には、ガーゴイルの石像が。コイツも当然襲って来るし、台座がイミテーターだったりと意地悪仕様。

 これに引っ掛かったのは、何と後衛の紗良だったり。


 秘密を暴くのが得意な茶々丸は、未だに前衛で戦闘中でこの場にはいない。硬い敵が多いだけに、短時間でサクッと倒すのはちょっと無理で。

 そして、台座イミテーターのご無体に激しく怒ったのは肩の上のミケだった。誰を襲ってるんじゃ的な制裁が、雷光と共に振る舞われて行き。


 哀れな脅かし役は、一瞬で退場する破目に。隣で見ていた末妹は、はちゃーってな表情で敢えて何もコメントせず。護人も同じく、無事でよかったねと一言のみ。

 何しろミケのする事だ、家族の中でも既に天災と一緒の扱いになっていると言う。それはともかく、6層もほぼ直線ルートで分岐の類いはほぼ無い感じ。


 とか思ってたら、突然に横道の支道が1本出現したよとの報告が前衛から。何か変な仕掛けがあるとの、姫香の言葉に何だろうねとついて行く後衛陣。

 そして目に入ったのは、壁に立てかけられたピッケルと掘りかけの土壁と言う。いかにも置いてあるピッケルで、この場所を掘って下さいと言わんげな仕掛けに。

 素直な末妹は、それじゃあ代表して土を掘るねとの発言。


「いや、危ないかも知れないから俺がやろう。香多奈は念の為に、ルルンバちゃんの所まで下がってなさい」

「気をつけてね、護人さん……割れた壁から、敵とか出て来るかも知れないから」

「そうだね、さっき紗良お姉ちゃんが台座に襲われてたし。岩に化けたモンスターとか、土を掘って出て来る奴とかいるかも知れないもんね」


 嫌な事を口にする末妹だが、確かにそんな事態が無いとも限らない。もっとも、香多奈の場合、変な予知能力でそんな未来を招き寄せる可能性もあるので。

 姉の姫香に頭をはたかれて、またもや姉妹喧嘩に発展しそうな気配に。それを制しながら、護人は適当に鉱山の労働者の真似事など。


 もっとも、ちっとも腰が入って無いピッケルさばきで、ポロッと出て来たのは当たりかどうかも分からない鉱石。明らかにドロップと言う感じの出現は、まるでミニゲームのよう。

 それが面白そうと思ったのか、結局は香多奈も何度か挑戦する事に。そんな事を家族で持ち回りで4度ほどこなすと、さすがに打ち止めで土しか掘れなくなって。


 これで終わりかなとの判断で、本道に戻って進む事数分余り。7層への階段を発見して、特に休憩も取らずにそのまま次の層へと進んで行く。

 次のエリアも同じく洞窟タイプで、ほぼ真っ直ぐの坑道が続いていた。トロッコの通る線路も設置されていて、所々ランタンが設置されていてちょっとお洒落。


 ここまで潜って来た一行には、何の感慨も無い風景ではあるけど。ハスキー達も敵にしか興味は無さそうで、先行しての殲滅に余念がない。

 この層から出現した闇ホタルは、お尻から光を放つ代わりに闇を発して周囲を真っ暗にすると言う特性が。お陰で狙いを定めにくくて、一緒に潜んでいた大ムカデの奇襲を受けそうに。

 大慌ての茶々丸を、レイジーが上手くサポートしてくれている。


「通路が少し広くなって来てるかな、何でだろうね? あれっ、通路も床が石畳になって来てない、叔父さんっ?」

「おやっ、本当だ……何かあるのかな?」

「護人さんっ、ここの覗き窓から何か凄いのが見えるんだけど!」


 ハスキー達と一緒に先行していた姫香が、何か凄い物を発見したらしい。と言うか、洞窟の中に覗き穴があるってシチュエーションが既に変なのだけど。

 何だろうねと、途端に張り切り始める呑気な末妹に手を引かれて。姫香が手を振る地点へと、小走りで駆けて行く護人&後衛陣である。


 その姿は、まるで遊園地のアトラクションを廻る親子って雰囲気そのもの。この“美川ムーダンジョン”は、かつてはそんな遊戯施設だったのであながち間違ってはいないのだが。

 まさか、その施設の仕掛けがこのダンジョン内に丸々残っていたとは完全に予想外。つまりは、洞窟の壁に設置された覗き穴の向こうには、巨大ロボの鎮座する空間が。


 先行してゴーレムやガーゴイルを倒し終わったハスキー達も、騒いでいる一行へと合流して。その中も攻略するのと、呑気にリーダーの指示を待っている。

 薄い光に照らされている巨大ロボは、さすがに動きはしないだろうけれど。何と言うか場違い感もはなはだしくて、ずっと見ていると笑い出しそうになってしまう。


 素直な紗良などは、立派だねぇと感心しているけれど。一番年少の香多奈は、子供騙しだよねと酷評こくひょうを口にしている。姫香に関しては、動いたら凄いけどと一番怖い感想を述べている。

 あんなのに動かれたら、ペチャンコにされちゃうよと常識的な香多奈の指摘に。確かに顔の大きさだけで5メートル近くある巨大ロボには、ミケやレイジーでも敵わないかも。

 それ以前に、アレが動き出したら洞窟が潰れてしまう可能性が。


「縁起でも無い事を言わないでくれよ、姫香。さすがに、あんな大物と喧嘩する気は……うおおっ!?」

「うわっ、何ナニっ!? 何が揺れてるの、コレっ!?」

「ええっ、まさか本当に巨大ロボが動き出したとかっ!?」


 慌てる来栖家チームだが、果たしてその大きな振動の正体は覗き窓の向こうにあった。そして壁によって隔てられていた、一行のいた通路と巨大ロボの間が唐突に繋がって。

 つまりは壁が急に消滅して、広い空間に放り出されてしまった来栖家チームの面々。慌てているのはハスキー達ペット勢も一緒で、敵の襲来に備えている。

 そして次なる仕掛けは、一行の度肝を抜く事に。





 ――元は娯楽施設のダンジョンだが、その仕掛けは決して侮れず。






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