第494話 ダンジョン内の依頼をすべて終えて戻る件



「紗良、悪いけど回収した遺品は別に仕分けておいてくれ。地上に戻ったら、すぐ自警団に提出出来るようにね。それじゃあ、休憩が終わったら出発しようか。

 ルルンバちゃん、一緒にもうひと頑張りするぞ」

「“戦艦ダンジョン”以来のフォーメーションだねっ……ルルンバちゃんが凄く張り切ってるけど、大丈夫かな? 変にヤル気が空回りしなきゃ良いけど。

 ハスキー達も、ここから先は無理しないようにね?」

「そんな不満そうな顔しないのっ、どうせあと2層分なんだからっ! 戦闘も叔父さんとルルンバちゃんに任せるんだよ、今日のお仕事はほぼ終わりだからね、ハスキー達っ」


 怖い顔をしてそう言う香多奈だが、やっぱりハスキー達は不満そう。頑張ったご褒美に休みを貰っても、ストレスに感じる頑張り屋さん達なのだ。

 そんなハスキー達に、苦戦したら加勢頼むよと口にする護人はやっぱり甘い性格かも。それで機嫌が戻るのだから、ハスキー達も大概だけど。


 そうして新たな陣形で、波乱の8層の探索を再開する来栖家チーム。ハスキー達は揃って第2列目で、やっぱり不満そうなのはアレだけど。

 8層目自体は、あの驚きのスポーン装置以降は何事もなく普通にクリア。突き当りの倉庫に9層目への階段を発見して、子供達の主張通りにもう少し下って行く事に。


 これ以降の探索に関しては、間引きとダンジョンの情報集めに終始すれば良いので。多少は気が楽になった一行は、引き続きの攻略に励む気満々である。

 敵は相変わらずの整備士の服を着たパペット兵士や、イタチ獣人や大ヤモリが出迎えて来て。それを返り討ちにしての車庫の家探しで、これまた変わったモノを発見した。

 一か所に固めて置かれていたのは、何とバンドの楽器セット。


「あれっ、これってギターとかドラムの楽器セットじゃない……何でこんなモノが、車庫の中に置かれてるんだろう?

 車庫の家主さんの、趣味とかだったのかなぁ?」

「う~ん、外国じゃあガレージロックとかガレージセールなんて言葉があるくらいだから。日本とは規模とか使い方とか、違ったりする車庫もあるのかもねぇ?

 ダンジョンってほら、歴史とか国籍を無視する事あるし」

「あ~っ、確かにダンジョンってそんな感じだよねぇ。じゃあこの車庫も、ひょっとしたら外国の奴なのかなぁ?

 でも車そのものが入ってる車庫は、まだ出て来ないね」


 そんなのがあったら、またひと悶着起こっていたかも知れないと護人はいらぬ想像を巡らしてしまう。例えば高級車とか発見したら、どうやって外へ持ち出そうかなんて言い出す者も出て来る可能性も。

 具体的には香多奈辺りが、大いにゴネて利益を上げようと張り切るかも。護人も車は嫌いでは無いのだが、それなりに常識はわきまえているつもり。


 車ほど大きくなると、当然ツグミの《空間倉庫》にも収納出来ないし困ったモノだ。物欲だけ刺激して持って帰れないと言うのは、確かにストレス以外の何物でもない。

 そんな事が起きませんようにと、護人はルルンバちゃんを従えて探索を再開する。幸いにも9層目は、変な仕掛けも無くて雑魚モンスターの数もそれなりで。


 久々に前衛に立ったルルンバちゃんは、アームを器用に捜査して自分より小さなアナグマ獣人やパペット整備士を片付けて行く。相変わらずパワー任せだが、その点は仕方が無い。

 そして3つ目に通った車庫で、火炎放射器装備のドローン兵器と遭遇して。地上からは、同時にチェーンソー持ちのパペット兵と言う、割とハードな敵との遭遇。


 後衛の子供達は騒いでいるのだが、その攻撃力も当たらなければ何て事は無い。護人の射撃スキルとルルンバちゃんの魔銃で、哀れなドローンは火を噴きながら墜落して行き。

 その炎に巻かれて、チェーンソー持ちのパペット兵も自滅の憂き目に。


「えっ、あんな怖い兵器を持って出て来たのに、ただの驚かし役なのっ!? もっとこう、ルルンバちゃんとの血沸き肉躍る肉弾戦とか無いのっ!?」

「無いわよ、バカね……そもそも飛んでたドローンも、バランスがおかしかったし墜落して然るべきだったわよね。チェーンソー兵士にしても、ちょっと与太ってたし。

 強い武器を持っても、扱う兵隊が弱いとどうしようも無いわよね」

「確かにそうだな……香多奈も真似して、家のチェーンソーとか持ち出すんじゃないぞ? 自分の足を切るのがオチだし、叱られて済む問題じゃなくなるからな?」


 そんな事しないよと、前科持ちの末妹の勢いのない返事はさて置いて。9層目の車庫に置かれたお宝もそれなりで、何と高価そうなロードバイクを2台も発見。

 それは壁に飾られていて、一緒に自転車の部品も幾つか置かれていた。楽器に続いて組み立て式のロードバイクとは、この9層は当たりの階層だったみたいである。


 もっとも、ダンジョンに物品の高価さとか判じれるかは不明だけど。ちゃっかりと収納に入る品は全て回収して行く子供達は、景気が良いねと終始にこやかである。

 そして10層の中ボス戦も見えて来て、次はどんな敵だろうねと話し合いながら突き当りに到着。分岐も無い、単純な道のりのダンジョンだけあって攻略も順調だ。


 10層の中ボスが終わったら、すぐ戻るからねとの護人の念押しに。は~いと元気に返事をする子供たち、既にインして3時間が経過している。

 地上に人を何人も待たせているので、これ以上は確かに不味い。そもそも9層と10層の探索は、おまけに近い道のりである。

 もしくは、単なる子供の我がままとも言うけど。



 そんな訳で、用心しつつもさっさと中ボスをクリアしたい護人なのだが。10層に配置された雑魚モンスターもそれなりの数で、中ボスの間に辿り着くまで10分少々かかってしまった。

 既にお馴染みのパペット整備士や、ドローン型のゴーレムを退治して行っての扉前の到着に。さて中ボスを拝むぞと、子供達は楽しみや好奇心が半分以上な感じみたい。


 5層の中ボスも確かに派手と言うか、変形シーンは凄かったけど。果たしてみんなで突入した中ボスの間の中央には、今度は一台の配送トラックが。

 荷台も金属製で、アレがどう変形するのかなと香多奈の呟きに。5層の奴より大きいのは間違い無いねと、姫香も妙な信頼をしている様子で。


 そして一行が部屋に入り終えると、やっぱり始まる中ボスの変形。待ってましたとの香多奈の掛け声と、やっぱり先制攻撃をしないチーム方針と言う。

 今回の配送トラックの変形も、やっぱり複雑でなかなかに楽しめた。格好良いねと興奮する末妹だけど、ハスキー達は何の感慨も受けなかったようで。

 コロ助など、白木のハンマーを持ち出して攻撃の準備は万端。


 茶々丸も同じく、これに突っ込んだら怒られるかなと、レイジーを気にしているのは進歩なのかはさて置いて。すっかりロボに変形の完了したゴーレムは、雄々しく一歩足を踏み出して。

 コロ助のハンマー攻撃を膝頭に受けて、あっという間にスッ転ぶ破目に。


「ああっ、コロ助……加減してあげなさいよ、容赦のない攻撃なんかしてっ! こう、もっと向こうも変形だけじゃ無くて強いぞって感じを、画面の向こうの皆さんにお届けして……」

「画面の向こうの皆さんって何よ、そう言う油断が怪我を招くんだよ、香多奈っ! いいよコロ助、アホな子の言う事なんて聞かないで。

 硬い敵の相手は、コロ助の出番だもんね」

「そうだな……ちょっと変身には見とれたけど、さっさと終わらそうか。これこれ茶々丸、お前の角じゃ不利だから止めておきなさい」


 そう言いながらシャベルを手に前へと出て行く護人、後ろでは派手に姉妹喧嘩が始まっているけど。敵に止めを刺すのが先だと、『掘削』スキルでコロ助のお手伝い。

 制止された茶々丸は不服そうだが、2度目のチャージは止めてくれて何より。そして向こうが完全に立ち上がる前に、変形ゴーレムの討伐は無事に完了の運びに。


 中ボスがいなくなって、改めてこの車庫の間取りを見渡す一同だけど。鉄板の近代的な壁製の広い車庫には、他の敵の気配は無いみたい。

 車庫の奥には、お決まりの宝箱と下へと続く階段が。どうやらこの“車庫ダンジョン”は、11層以上の大きさが確定みたいである。


 それは良いのだが、呆気無く終了した中ボス戦に何となく不服そうな末妹である。護人は先手を打って、宝箱を回収したらさっさと帰るよと手を叩きながら宣言して。

 それに反応して、紗良が宝箱の中身の回収を始める。まずは鑑定の書(上級)が4枚に魔結晶(小)が7個、それから魔玉(雷)が6個に強化の巻物が2枚。


 他にもポーションが900mlに上級ポーション500ml、硬化ポーションが600mlにMP回復ポーション700mlと薬品もたくさん入っていた。

 同じく液体括りで、赤と青のポリタンクに燃料系が2種数リットルずつ入っていた。臭いからして、片方は恐らくガソリンだろう。

 量はともかく、嬉しいドロップには違いは無い。


 ガソリン系も、もう少しすれば魔石エネルギーに取って代わられるかも知れないけど。まだまだ需要があるので、売る先には困らないだろう。

 他にはライダースーツやプラグを模したネックレスあたりが、妖精ちゃん的には当たりらしい。ついでにミニカーやら車や列車の模型的なおもちゃも、結構出て来て華やかである。


 香多奈も幾つか手に取って、その精巧な造りに感心などしているけど。欲しいとか、部屋に飾っておきたいって程でも無さそうで、そこは子供とは言え女の子の感性なのかも。

 それから変形中ボスの落とした魔石(小)と、スキル書が1枚ほど。途中の敵の方が強かったねとは、間違っても言わないけど魔石は正直である。


 それらを綺麗に回収して、さて後は来た道をまっすぐ帰るだけ。帰還用のワープ魔方陣の無いダンジョンは大変だねと、そんな愚痴も子供達はこぼしているけど。

 ハスキー達は元気に一行を先導してくれて、その歩みには全くよどみがない。程よいペースでみんなを導き、気付けば40分も掛からず地上へと戻って来られた。

 そこでようやく、全部終わったと一息つく一行である。



 律儀に待っていたメンバー達も、来栖家チームの無事な帰還には喜んでくれていた。それからどうだったと、せっかちな原因究明を求められ。

 その言葉に、黙って遺品とみられる品々を提出して行く護人である。猟銃を見た峰岸自治会長は、家探しでゲットしていた写真と提出されたそれを見較べて納得顔に。


 つまりは持ち主を特定出来て、これにて前野家族の失踪事件は幕を降ろす形に。遺品となってしまった靴とベルト、それから釘打ちバットやバール類は全て自警団の預かりに。

 それから録画データは、協会に渡してこれにて依頼は終了の運びに。


「いやしかし……今まで前野家族で、無事に間引き出来てたんだろう? それが何で、この時期にこんな形で事故が起きたのかねぇ?」

「いや、ダンジョンは養殖場ではありませんよ、峰岸自治会長。どっちかと言うと、山の管理に近いかな……いつ熊やら、野良犬の集団が住み着くか分かったモノじゃない感じとか。

 全く同じ敵が、同じパターンで出て来る保障なんてありませんからね」

「動画を観て貰ったら分かるけど、まさしくその通りのトラップ装置が途中に出来ていましたね。それが直接の原因かは分かりませんが、同じ階層の宝箱からそちらの意品は回収しました。

 恐らくですが、彼らの戦力ではキャパオーバーの敵に遭遇したのでしょうね。それで逃げ切れずに、敢え無く全滅した可能性が非常に高い……。

 毎回気楽に依頼を持ってきますが、探索者ってのはそんな商売ですよ」


 多少の皮肉を込めての護人の口調に、細見団長は苦笑いで応じていたけど。峰岸はウグッと言葉を失って、協会の仁志にしても返す言葉も無い様子。

 護人にしても、半分は冗談で言った言葉でしか無かったのだか。姫香などは、仕事は欲しいけど過酷な現場が多いよねとやっぱり憤慨している模様だ。


 今回の失踪事件の解明にしてもそうだけど、過去には水没ダンジョンや山深い場所やゴミ処理場だったりと。確かに厄介な案件を、度々背負わされてる来栖家ではある。

 香多奈などは、お金になるんだから依頼は積極的に受けるべきだよと荒ぶっているけど。紗良も同じく、地域の安全のためだもんねと末妹の発言に同意の構え。


 そんな感じで、家族内でも探索の意欲は割とバラバラの来栖家である。それでも今回の任務も無事に果たせし、あとは依頼料を貰いに行くだけだ。

 この敷地の家族には気の毒だったが、来栖家はそうならないように鍛錬に励むだけ。





 ――そして日々成長を遂げるは、ダンジョンもまた同じ。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る